ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
1年に一度決まったルールの元で起こる殺人。今年のターゲットなのか、6月6日、44歳になる小田原静子に脅迫めいた手紙が届いた。探偵・保呂草は依頼を受け「阿漕荘」に住む面々と桜鳴六画邸(おうめいろっかくてい)を監視するが、衆人環視の密室で静子は殺されてしまう。 森博嗣の新境地を拓くVシリーズ第1作、待望の文庫化。
(講談社公式HPより)
<感想>
森博嗣先生「Vシリーズ」の第1作。
タイトル『黒猫の三角』は作中に出て来る「クロネッカーのデルタ」から。
内容的には、シリーズ第1弾だからこそ出来る大胆なトリックが特徴。
さらに「偽物尽くし」がテーマ。
何しろ、あの人も偽物だし、あの人の死も偽装だし。
此の点を楽しむべき作品かな。
でもって「あいうえおのマトリクス」も印象的。
「あいうえおのマトリクス」は50音順に5文字ずつ並べてそれを斜め読みすること。
例えば「あいうえお」だと「あきすての」となる。
そして、此処で名を挙げたところでネタバレにはならないので敢えて名を挙げるが、犯人・秋野秀和(あきのひでかず)の場合がスゴイ。
まず、「あきのひでかず」の「で」と「ず」から濁点を取り、「ひ」と「か」に濁点を加える。
「あきのびてがす」となったものを「あきすての」と「びが」に分ける。
「あきすての」を「あの素敵」に並べ替え、「びが」を「美が」と表記。
これにより「あの素敵、美が」となる。
この流れを紅子が作中で語るのだが、これが何とも言えず作品の雰囲気を表現していて良い。
しかも、この「あいうえのマトリクス」はシリーズ最終巻『赤緑黒白』でも秋野秀和と共に登場。
是非、本作を読んで欲しい。
ちなみに「Vシリーズ」には「S&Mシリーズ」とある繋がりが存在しています。
ポイントは「林の苗字」と「へっくんの正体」。
特に前者「林は何故、フルネームで表記されないのか?」に注目すると……。
此の点も楽しめるシリーズです。
なお、これらが気になる方は「四季シリーズ」の『四季 秋』も読むことをオススメする。
其処には両シリーズが交錯する他にも「ミチル」の死の理由が明かされているので。
そして、いろいろと楽しめる本作はフジテレビ系「赤と黒のゲキジョー(金曜21時枠)」にて2015年2月6日にスペシャルドラマが放送予定、注目せよ!!
なお、ネタバレあらすじはかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
瀬在丸紅子:「Vシリーズ」の主人公。
保呂草潤平:「阿漕荘」の住人、探偵事務所を営む男。
小鳥遊練無:「阿漕荘」の住人。
香具山紫子:「阿漕荘」の住人。
根来機千瑛:瀬在丸家に仕える執事。
へっくん:紅子の息子。実は「S&Mシリーズ」のあの人。
林:紅子の元夫。警部。
小田原静江:依頼人。
小田原政哉:静江の夫。
秋野秀和:連続ゾロ目殺人事件の犯人。
瀬在丸紅子は元令嬢。
今は1人息子の「へっくん」と、瀬在丸家に仕える執事・根来機千瑛と共に静かに暮らしている。
とはいえ、紅子は自身の境遇に憐憫を覚えない性格。
「阿漕荘」に出入りしては住人で麻雀仲間の保呂草潤平、小鳥遊練無、香具山紫子らと遊んでいる。
と、ある日の事である。
実は探偵業を営んでいる保呂草が小田原静江から警護依頼を受けた。
静江は6月6日に誕生日を迎える44歳。
其処で夫の政哉らと共に盛大な誕生日パーティーを行う予定であった。
ところが、このパーティーで1つだけ静江が危惧すべきことがあったのだ。
近隣では1年に1度だけ、ゾロ目の日にゾロ目の年齢の人物が殺されていたのである。
これまでは11歳、22歳、33歳と続いており、今年は44歳がターゲットになりうると思われていた。
矢先、静江のもとに連続殺人の犯人と思われる人物から脅迫状が届いたのだ。
其処で保呂草への依頼に繋がったワケである。
こうして、保呂草は練無や紫子と共に静江の誕生日パーティーを警護することとなった。
当日を迎えた保呂草たち。
車で張り込む練無と紫子に、別の場所で見張っている筈の保呂草から「バッテリーが上がるからライトを消せ」との連絡が入る。
姿の見えないながらも保呂草が自分たちまで見張っていることを知った練無たちは舌を巻く。
ところが、そんな保呂草たちの警戒を潜り抜け事件が起こる。
鍵のかかった密室で静江が殺害されてしまったのだ。
しかも、犯行方法はこれまでと同じだったのである。
どうやら同一犯のようだ。
事件発生の報を受け、警視庁捜査一課の警部である林が捜査を開始。
実は林は紅子の元夫で「へっくん」の父親であった。
こうして、紅子、保呂草、林がそれぞれ事件を追い始める。
夫である政哉が怪しいと考えた保呂草と紫子はこれを尾行することに。
すると、政哉は尾行を知ってか知らずか倉庫へと消えて行く。
その様子を窺う保呂草と紫子たちだが、突如、発砲音らしき音が響く。
保呂草たちが慌てて現場に駆け付けると、政哉が胸を真っ赤に染めて倒れ伏していた。
政哉に駆け寄ると首を横に振る保呂草。
その場に紫子を残し、助けを呼びに倉庫を離れる。
直後、紫子は何者かに襲撃を受けてしまう。
戻って来た保呂草の必死の救命措置により一命は取り留める紫子。
その隣で政哉の遺体が回収されて行く。
静江に続き、政哉までもが何者かに殺害されてしまった。
犯人は一体、誰なのか?
紅子はパーティーの日の警備状況を練無たちから聞き出すと犯人を突き止める。
保呂草に誘われデートへと向かう紅子。
紅子は其処で「連続殺人事件の犯人が保呂草である」と指摘する。
これにニヤリと頷いた保呂草は否定するでもなく、嬉々として事件の真相を語り出した。
幼少時から「殺すこと」に興味を抱いていた保呂草。
ある日、その衝動が抑えられなくなったのだと言う。
そして、少女を殺害したのだ。
後から分かったことだが、その日はゾロ目の日で少女は11歳であった。
これに何らかの天啓を感じ取ったらしい。
以降、ルールに沿って殺害を繰り返したのである。
ところが、保呂草にとっては捕まることが前提のゲームであったにも関わらず、一向に捕まらない。
遂に保呂草は自身に課したルールを破り、紅子を殺害しようと思い立つ。
保呂草はそれだけの魅力を紅子に感じていたのだ。
しかし、政哉が現れた。
政哉には愛人が居り、静江が邪魔であった。
其処で静江が6月6日に44歳になることを利用し、保呂草に連続ゾロ目殺人に偽装し静江を殺害するよう依頼したのだ。
当の保呂草が本当の犯人であるにも関わらず。
これに保呂草は運命を感じた。
保呂草は政哉の協力で屋敷内に侵入し静江を殺害。
内側から扉を施錠すると部屋の隅に隠れた。
静江の遺体発見後は、政哉の手引きで全員の隙を突き脱出したのだ。
ところが、静江殺害後に政哉が保呂草が本物の犯人であると気付いた。
其処で政哉は保呂草同様に殺人を行いたいと頼み込んだのだ。
しかも、政哉が目を付けた相手は紫子であった。
これに保呂草は内心でチャンスであると喜んだ。
協力する振りをして口を封じることにしたのだ。
同時に自身のアリバイも確保できる、一石二鳥であった。
敢えて紫子と共に政哉を尾行した保呂草。
政哉は保呂草の指示通りに倉庫内で爆竹と血糊を用いて射殺されたように装った。
これを保呂草が紫子と共に発見したのである。
その後、保呂草がその場を離れ、政哉が隙を突いて紫子を襲ったのである。
この際、保呂草は政哉に紫子を気絶させるよう指示していた。
紫子が倒れると、戻った保呂草が不意を突いて政哉を本当に射殺したのであった。
保呂草に言わせると、政哉が加減を知らなかった為に紫子の命が危険だったのは計算外だったそうだ。
此処まで保呂草が饒舌に語り終えた意味、それは1つしかない。
紅子も殺害するつもりなのだ。
銃を手にした保呂草は紅子が彼の犯行に気付いた理由を問う。
それは「車のバッテリー」であった。
練無たちからは見えない位置で見張っていた保呂草。
それは裏を返せば保呂草からも練無たちが見える筈がないのだ。
ところが、車のバッテリーの件を指摘した。
すなわち、保呂草が外ではなく屋敷内に居たことを示していたのである。
これを聞かされた保呂草は「それでこそ」と笑う。
あくまで余裕の保呂草だが……。
其処へ林が現れた。
これに「まだ早い」と狼狽える紅子。
実は紅子が保呂草を捕まえる為に林を呼んだのだ。
「相変わらずタイミングが悪い」ぼやく紅子に向けて保呂草が発砲。
紅子はこれを受けつつ、林を庇う。
庇われた林は咄嗟に保呂草へ銃で応戦する。
腕と脚に銃弾を受けた保呂草は戦意を喪失し逮捕された。
紅子はと言えば、事前に服の下をプレートで庇っていたことで無事であった。
事あるを予期していたのである。
さて、こうして事件は終わったかに見えたが……意外な真相が。
保呂草は保呂草では無かったのである。
保呂草を騙っていた男の名は「秋野秀和」。
本物の保呂草の友人であった。
実は本物の保呂草は数年来に渡り阿漕荘を離れていた。
その間、阿漕荘にて秋野が保呂草を名乗って生活していたのである。
事件から数日後、本物の保呂草が阿漕荘へと帰還した。
そして、紅子たちと共に事件を解決して行くのだが……それはまた別のお話である―――エンド。
◆関連過去記事
【四季シリーズ】
・『四季シリーズ(春 Green Spring、夏 Red Summer、秋 White Autumn、冬 Black Winter)』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【Vシリーズ】
・シリーズ第10弾にして最終話。
『赤緑黒白』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【S&Mシリーズ】
・シリーズ第1弾。
『すべてがFになる』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・シリーズ第2弾。
『冷たい密室と博士たち』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・シリーズ第3弾。
『笑わない数学者』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・シリーズ第4弾。
『詩的私的ジャック』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・シリーズ第5弾。
『封印再度』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・シリーズ第9弾。
『数奇にして模型』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・シリーズ第10弾にして最終話。
『有限と微小のパン』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【ドラマ版】
・「すべてがFになる」1話「冷たい密室と博士たち(前編)」(10月21日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・「すべてがFになる」2話「冷たい密室と博士たち(後編) 【暴かれる冷たい密室の謎と哀しき殺人者の記憶】」(10月28日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・「すべてがFになる」3話「封印再度(前編) 【呪われた仏画師一族と家宝が眠る密室の殺人】」(11月4日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・「すべてがFになる」4話「封印再度(後編) 【50年の時を超えた殺人と封印された真相】」(11月11日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・「すべてがFになる」5話「すべてがFになる(前編)【天才博士が仕組んだ孤島の謎】」(11月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・「すべてがFになる」6話「すべてがFになる(後編)【美しき狂気の殺人者】」(11月25日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・「すべてがFになる」7話「数奇にして模型(前編)【孤独な模型マニアの狂気】」(12月2日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・「すべてがFになる」8話「数奇にして模型(後編)【殺人者の異常な愛情】」(12月9日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・「すべてがFになる」9話「有限と微小のパン(前編)」(12月16日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・「すべてがFになる」最終話(10話)「有限と微小のパン(後編)【神に最も近い犯罪者】」(12月23日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・赤と黒のゲキジョー「スペシャルドラマ 瀬在丸紅子の事件簿〜黒猫の三角〜 檀れいによる新ヒロインが誕生!美貌の没落貴族が密室殺人の謎に挑む!」(2月6日放送)ネタバレ批評(レビュー)
【その他】
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・森ミステリィの名作「S&Mシリーズ」がフジテレビ系火曜21時枠にて連続ドラマ化!!タイトルは「すべてがFになる」に!!
・『すべてがFになる』がアニメ化とのこと!!
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