2015年01月26日

『草』(松本清張著、新潮社刊『松本清張傑作選 暗闇に嗤うドクター』収録)

『草』(松本清張著、新潮社刊『松本清張傑作選 暗闇に嗤うドクター』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

医療――。それは時に人を救い、時に人を殺す、魔物。「『医療小説』というパラダイム。それは松本清張によって確立された。」――海堂尊

「医療小説」は人のこころの深淵に根ざしている。松本清張はその分野の嚆矢であった──海堂尊。ときに人を救い、またときに人を殺す「医療」と「医学」。人が持つ根源的な聖性と魔性を浮き彫りにした名編は、現代社会に今なお警鐘を鳴らす。最前線の医療現場を描く編者が選んだ6つの作品、「死者の網膜犯人像」「皿倉学説」「誤差」「草」「繁昌するメス」「偽狂人の犯罪」を収録。

『死者の網膜犯人像』殺人者は死した眼球に宿る
『皿倉学説』老教授が見た「光」を覆う知の伏魔殿
『誤差』不確かな死亡推定時刻を生んだ、心理の迷路
『草』死を呼ぶ苗床と成り果てた病院の謎
『繁昌するメス』善意の医師を咎める偽者の烙印
『偽狂人の犯罪』秘めたる殺意は真実か、虚構か
(新潮社公式HPより)


<感想>

本作『草』は新潮社刊『松本清張傑作選 暗闇に嗤うドクター』に収録された短編。
他にも、双葉社刊『松本清張初文庫化作品集1 失踪』にも収録されています。

<あらすじ>

ある病院の院長と婦長が揃って失踪した。数日後、今度はその病院の薬剤師が首を吊り、事務長が屋上から飛びおりた。衰微から再び繁昌しはじめた病院の暗部に迫る叙述ミステリー「草」、スクープを連発する新聞記者の謎をとく「詩と電話」など、文庫版初登場の傑作短編ミステリーを4編収録。
(双葉社公式HPより)


双葉社版公式あらすじに記載があるのですが、トリックはあのトリックです。
とはいえ、それがメインというワケでもないのが本作の特徴。
何気ない日常に続く非日常の描写の中に織り込まれた事件の真相―――あなたは見抜けますか!?

ちなみに本作のタイトルである『草』は「忍者」を由来としているのでしょう。
「忍者」の中には「草」と言って「相手の懐深くに素性を偽り潜入する者」が居ました。
おそらく、本作での「あの人」の行動をこれに重ねているのでしょう。

なお、作中ラストで沼田が「ある作品(アガサ・クリスティーの有名叙述作品)」を引いて「あれでもあったし(叙述については)今回もアンフェアではない」と主張するんだけど「あの作品」と本作では「作中での嘘」の内容が違うんだよなぁ。
「あの作品」は「純然たる嘘」ではなくて「嘘でもないけど本当でも無い」記述によっている(真実ズバリを語らない)から成立しているのであって、本作は完全に嘘を吐いているからなぁ……。
此の点、叙述作品ではあっても同列にするべきではないと思う。

ちなみにネタバレあらすじはまとめ易いようにかなり改変を加えています。
本作の本質を楽しむ為には原典を読むことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
沼田一郎:朝島病院の入院患者。自称・出版社経営。
黒井章吉:沼田の部下。
金子京太:沼田の隣室の患者。自称・自動車販売業経営者。
タミ:沼田の付添婦。
朝島:病院院長。
雨宮順子:看護師長。
笠井:事務長。
堀村:薬室主任。


語り手が誰とも知らぬ者に彼の体験談を聞かせている。
語り手は自身の名を「出版社経営・沼田一郎」と名乗った。
そして、その内容は「沼田が体験したある病院での出来事」だ……。

沼田は肝臓を悪くして「朝島病院」に入院していた。
そんな沼田の世話を焼くのは付添婦のタミである。
沼田はタミをよく世間話を繰り返していた。
タミは沼田に病院の内情や噂話を運んで来る情報源だったからだ。

例えば、タミは「朝島病院」について語った。

「朝島病院」は先代の後を継いだ2代目・朝島院長により運営されていたが、2代目になった当初は評判があまり芳しくなく経営状態も苦しかった。
タミによれば先代が偉大過ぎたのが影響したのだろうと言う。
ところが、先頃になって経営状態が上向いて来ているらしい。

例えば、タミは沼田の隣室に入院する患者についても語った。

その名は金子京太。
タミによれば自動車販売業を経営しているらしい。
入院歴も相当長いようだが、本業が順調なのか特に仕事への復帰を急ぐ様子も無い。

そして、タミは「朝島病院」内のスタッフについての人物評も忌憚なく語った。

まず、看護師長の雨宮順子。
芯がしっかりしたタイプらしく曲がったことが大嫌い。
上司であろうと間違っていれば直言するそうだ。

続いて、薬室主任の堀村。
こちらは線が細いタイプで気が弱いらしい。

さらに、事務長の笠井。
病院の経理を一手に引き受けており、朝島院長の懐刀だそうだ。

沼田はこれらのタミからの噂話を聞くことをもっとも楽しみにしていた。
他には見舞いにやって来る部下・黒井章吉の顔を見ることぐらいか。
それくらい、当初の朝島病院は表向き平和だったのである。

ところが、平穏と思われた「朝島病院」に事件が発生する。
朝島院長と順子が共に姿を消したのだ。
タミによれば、どうやら不倫の恋に耐え兼ねた駆け落ちと思われたが……。

その数日後、今度は薬室主任の堀村が首吊り死体で発見される。
タミによれば、堀村は順子に恋しておりフラれたことを苦にしての自殺とされているようだ。

続く不祥事に動揺する院内。
そんな中で、金子が笠井事務長に対し何やら交渉を持ちかけ始める。
タミによれば「度重なる不祥事にも関わらず正当な入院費を支払うのはおかしい」として「入院費2割引き運動」を起こしているらしい。

たびたび金子は笠井事務長と交渉を続け、その度に笠井事務長は憔悴を重ねて行った。

それから数日後、今度は笠井事務長が転落死を遂げてしまう。
タミによれば、これまた心労から来る自殺らしい。

ほぼ時を同じくして、順子の遺体が発見された。
順子は何者かに絞殺されていた。
タミによれば、将来を悲観した朝島による無理心中が考えられているらしい。
当の朝島の行方は杳として知れなかった。

さらに数日後、管理者の居なくなった薬室に窃盗犯が入った。
薬室は荒らされ、多くの薬剤が盗み出されたそうである。

矢先、金子に退院話が持ち上がった。
上機嫌の金子は隣室の誼で沼田に挨拶に訪れた。
ところが、沼田から朝島病院に続く不祥事とそれについて彼の見解を聞かされるや顔色を変えた。

翌日、前日の金子とは対照的に不機嫌なタミが沼田に愚痴を洩らした。
なんでも、金子が急に退院を取り止めたらしい。
タミは「患者の勝手で入退院を決めるなんて」と憤っている。

その翌日、タミが沼田にご注進に現れた。
笠井が転落死を遂げた屋上にて、黒井が何やらコソコソしているところを目撃したらしい。
「へぇ〜〜〜不思議なこともあるもんだねぇ」と頷く沼田。
あまり興味を示さない様子の沼田に業を煮やしたのか、タミは金子について今日も不満を零していた。

タミの金子への不平不満はこれから連日続いた。

そして数日後、急にタミが「付添婦を辞めたい」と申し出て来た。
何やら理由がある様子だったので、沼田はこれを許した。

タミが沼田のもとを去った翌日、金子が沼田の病室を再訪した。
どうやら、今度こそ退院するのだそうだ。
あの日と同じく上機嫌な金子は沼田にウィスキーを振る舞う。

其処に沼田の部下が来訪。
仕方なく金子は席を外した。
去り際、金子はウィスキーを沼田に置いて行った。

同日夜半、人気のない廊下を歩く影があった。
影は沼田の病室を窺うと規則正しい寝息に安心したかのような表情を浮かべていた。
誰あろう金子である。
彼はそそくさと自室に荷物をまとめに戻った。

気配が消えたことを確認した沼田がそっと立ち上がった。
沼田は寝入ってなど居なかった。
あくまで寝入った振りをしていたに過ぎない。
沼田は部下が置いて行った書類を手に金子の部屋へ向かった。

沼田を名乗る語り手は此処までを聞き手に告げると、大きく息を吐いた。
そして続ける。
「朝島病院で何が起こっていたか分かりますか?」と。
これに聞き手は首を左右に振る。
語り手は真相を明かすべく口を開いた。

真相を明かすには語り手・沼田の正体から明かさねばならない。
出版社経営と名乗っていた沼田だが、その身分が偽りであった。
彼の職業は刑事だったのである。
沼田は「朝島病院」に潜入捜査を行っていた。
もちろん、見舞いに訪れていた部下の黒井章吉も刑事である。

彼らはある捜査を行っていた。
何の捜査か、それは麻薬事件の捜査であった。
沼田たちはある大きな組織を追っており、「朝島病院」にはその組織と結び麻薬の保管所の役割を果たしている疑いがあったのである。

そして、最終夜のこと。
沼田は「部下が置いて行った書類」を手に金子を追った。
これが意味するところは「逮捕状を入手し金子を逮捕したこと」である。
そう、金子こそは組織の人間であった。

では、これらを踏まえて順に追って行こう。

まず、朝島病院は院長が先代に比べられることで経営難に陥っていた。
其処で朝島は事務長の笠井や薬室主任の堀村と図り、組織から麻薬の保管所の役割を引き受けることで莫大な報酬を受け取ることにした。
なお、麻薬の保管場所は薬室である。
これは一時的に成功し、朝島病院の景気は上向いた。

この際、組織からの監視役として金子が派遣された。
金子は入院患者を演じ、朝島たちを見張っていた。
この情報を聞きつけた刑事の沼田が潜入捜査を開始することに。

ところが、此処で思わぬ事態が発生した。
曲がったことが大嫌いな順子が朝島たちの行為を知ったのだ。
順子は朝島たちを説き伏せ、組織と手を切らせようとした。
朝島たちは順子に従い、組織に手切れを申し込んだ。

これに激怒したのが組織である。
組織は見せしめのために朝島と順子を殺害した。

事情を知らされた堀村は前途に絶望し自殺してしまう。

残されたのは事務長の笠井だ。
金子はこれに引き続き保管役を行うよう詰め寄る。

笠井は悩んだ。
一方、交渉がたび重なり不審に思われることを避けたい金子は笠井との交渉を「入院費2割引き交渉」と偽装した。

こうして公然と圧力をかけだした金子に笠井は消耗して行く。
遂に笠井までもが自殺してしまうことに。
さらに順子の遺体が発見された。

もはや、朝島病院を保管場所とするメリットを失った組織は薬室への窃盗に見せかけ隠されていた麻薬を運び出した。
こうして、お役御免となった金子も撤退すべく退院しようとしたのだが……。

隣室の沼田の様子がどうもおかしい。
念の為、金子が接触してみたところ、沼田が潜入捜査官である可能性に気付いた。
タイミングを見計らうべきと判断した金子は退院を見合わせる。

その上で、以前から院内を探らせてたスパイに沼田の様子を探らせた。
そのスパイこそ院内の情報通であったタミだ。
タミは金子と通じていた。
だからこそ、金子に不満を抱いているように取り繕ったのだ。
一方で、タミは沼田の様子と彼の部下の黒井が何やら調べていることを金子に報せた。

此処に沼田が捜査員であると確信した金子。
まず、タミに付添婦を辞めるよう指示した。

続いて、頃合いを見て睡眠薬入りのウィスキーを沼田にプレゼントした。
寝入っている隙を突いて逃げ出すつもりだったのだ。

だが、これについては沼田の方が一枚上手であった。
狸寝入りを決め込み、金子を騙すと彼を逮捕したのである。

ちなみに沼田によれば、金子もタミも組織の末端に過ぎないらしい。
結局、組織自体は逃したのだそうだ。

「流石に、あの情報で此処まで推理するのはアンフェアじゃないか!?そもそも、語り手である君自身が嘘を吐いても良いのかね」
此処までをじっと聞いていた聞き手が訴える。

これに語り手・沼田はこう応えた。
「海外の有名作家にもそんな作品(『アクロイド殺し』のことと思われる)があっただろ」と―――エンド。

「テレビ東京開局50周年特別企画 松本清張ドラマSP『黒い画集−草−』 清張医療サスペンスの傑作!大病院の闇…不倫、失踪、医療ミス そして雨の夜に3件の連続殺人…白い巨塔に隠された驚愕の陰謀」(3月25日放送)ネタバレ批評(レビュー)

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