ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
女の妖怪(サナキ)が呼び起こす80年前の猟奇密室殺人。平成ひきこもり系女子にその謎が解けるか!?
帯留めを探して欲しい――小説家の祖父が遺した手紙に従って遠野を訪れた私は、旧家の屋敷で起きた難事件の解決に乗り出す。旧字体を駆使した昭和怪奇譚的テイストとラノベ的文体を併せもった新鮮な表現力に、選考委員の伊坂幸太郎、貴志祐介、道尾秀介も脱帽。第一回新潮ミステリー大賞を受賞した、25歳の新鋭登場!
(新潮社公式HPより)
<感想>
第1回新潮ミステリー大賞受賞作。
著者は受賞に伴い「手羽崎ささみ」先生から「彩藤アザミ」先生へとペンネームを変更している。
・第1回「新潮ミステリー大賞」受賞作決定!!栄冠は手羽崎ささみ先生『サナキの森』に!!
本作のテーマとしては「悲しい行き違いを発端とする女性の業」を描いた作品。
また「冥婚」と呼ばれる風習を設定に活かした点も特筆すべきだろう。
それと、「あの人」の置かれた状況から「派手な着物」に繋がり「サナキ」を利用せざるを得なかった結論に辿り着くロジックは見事。
これらの点がなかなか高いレベルで成立していると思われる。
そして、文章力も高い。
ただ、管理人好みの作品では無かったかな。
管理人は「ロジック」と「サプライズ」を兼ね備えた作品、あるいは「激しく感情を揺さぶる作品」が好み。
その点を本作が満たさなかったからだと思う。
本作は「ロジック」はあるが「サプライズ」に欠ける。
また「犯人の動機」には「業」を感じさせるが、少なくとも管理人の感情を揺さぶるほどの物では無かった。
ただ、本作はあくまで彩藤アザミ先生の第1作。
その文章力は評価すべきもの、今後も注目すべき方だと思います。
なお、この評についてはあくまで個人の主観によるものなので絶対では有り得ません。
興味のある方は本作に是非チャレンジすべし!!
ちなみにネタバレあらすじはまとめ易いようにかなり改変を加えています。
例えば、泪の存在をばっさりカットしてたり。
本作の本質を楽しむ為には原典を読むことをオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
荊庭紅:主人公、陣野に想いを寄せている。
陣野:紅の憧れの人。
荊庭零:紅の祖父。作中作『サナキの森』の著者でペンネームは在庭冷奴。
小野:冷奴の親友。
龍子:お勢の嫁。
お勢:龍子の姑。被害者。
荊庭紅には零と言う名の祖父が居た。
居た―――と過去形なのは零が既に故人だからである。
零は「在庭冷奴」のペンネームで遠野に伝わる女性の妖怪・サナキを題材にした『サナキの森』など怪異小説を多数著した。
紅からすれば、なかなかに変わったセンスの持ち主だったと思う。
そんな祖父から紅はある遺言を受けていた。
遠野にて帯留めを探して欲しい、それが祖父の最後の頼みであった。
これに従い遠野の旧家を訪れた紅は成り行きで80年前に発生した密室殺人事件の謎に挑むことに。
当時、遠野には冥婚なる風習が残っていた。
早くに死んだ子供を想った親が、その子の為に生きた結婚相手を用意するのである。
この殺人が起こった家でもソレが行われており、姑となるお勢により龍子なる女性がコレに選ばれていた。
ところが、龍子は若かった。
当時、彼の地を訪れた2人の青年―――若かりし日の零とその親友・小野と出会うや小野に対して恋に落ちた。
2人は関係を結び、やがて零が妊娠した。
これに気付いたお勢は激怒した。
死亡しているとはいえ、息子の嫁が他者と情を通じ妊娠してしまったのだ。
龍子は監視下に置かれるようになった。
小野はこの状況を悲観し、零の助けを得て龍子との駆け落ちを試みた。
ところが、駆け落ちに失敗し自殺してしまう。
軟禁状態に置かれ、愛する人を失った龍子は絶望に追いやられた。
そんな中、錠前で施錠された部屋でお勢が殺害されてしまった。
血に染まった女物の着物が置かれていたこともあり、遠野に伝わるサナキの犯行とされた。
紅はこの密室殺人の謎に挑むことに。
悩む紅だが、彼女の長年の想い人である陣野はあっさりと謎を解く。
錠と鍵のスペアを用意し、これを本物と摩り替えることで密室を成立させたのだ。
さらにお勢の遺体に掛けられた着物にも意味があった。
あれは返り血を防ぐ為のものだったのだ。
着物には他にも意味があった。
なにしろ、龍子は家の外には出られない。
当然、殺害に使ったものは出来るだけその場で処理したい。
其処で着物を用い、サナキの犯行を見立てることでこれをクリアしたのだ。
そして、紅は気付く。
彼女の祖父である零がこの真相に気付きつつも沈黙を守ったことに。
そう、彼の著作『サナキの森』はこの秘密を託した作品だったのだ。
零は何故、この秘密を守ったのか。
それは贖罪の為である―――小野と龍子の駆け落ちを邪魔してしまったことへの。
零も龍子のことが好きだったのだ。
だから、帯留めを龍子に贈ったのである。
紅に回収を依頼した帯留めとはこのことであった。
だが、この贈り物の際に零は名前を書き忘れた。
帯留めを受け取った龍子は好意を抱いていた小野からのプレゼントと思い込み、交際を開始したのである。
これに零は忸怩たる想いを抱き、駆け落ちを妨害してしまったのだ。
親友に裏切られた小野はショックのあまり自殺してしまう。
残された龍子は今後のことを考え戦慄した。
お勢が健在である限り、彼女は一生肩身の狭い思いを強いられることとなる。
そして、お勢殺害へと繋がるのだ。
龍子はそもそも駆け落ちの邪魔をした零を強く恨んだ。
これに対し零は「どうしても許せなければ帯留めを返却するよう」龍子に伝えた。
そして、零は龍子の前から姿を消した。
龍子は零を憎み続けたが、帯留めを返すまでには至らなかった。
やがて、駆け落ちが邪魔されたのも零が自身を愛する故と思い直した。
少し彼を許せるようになった。
さらに時が経過し、龍子は『サナキの森』を目にすることとなった。
彼が秘密を守ろうとしていると知るや、これを許した。
だから、零が死去してもなお帯留めは返却されなかったのである。
この事実を知った紅は零、小野、龍子の激しい恋に想いを馳せた。
そして、思い切って秘めていた恋心を陣野に告白することに。
しかし、敢え無く玉砕。
だが、それすらも心地よく思うのであった。
何故なら、祖父から与えられた機会が無ければ想いを伝えることさえ出来なかったであろうから―――エンド。
◆関連過去記事
・第1回「新潮ミステリー大賞」受賞作決定!!栄冠は手羽崎ささみ先生『サナキの森』に!!
【関連する記事】
- 『どこかでベートーヴェン』(中山七里著、宝島社刊)
- 『通いの軍隊』(筒井康隆著、新潮社刊『おれに関する噂』収録)
- 『クララ殺し』最終話、第6話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.7..
- 『自殺予定日』(秋吉理香子著、東京創元社刊)
- 『タルタルステーキの罠』(近藤史恵著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.76 ..
- 『歯と胴』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)
- 『迷い箱』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)
- 『追憶の轍(わだち)』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.69 F..
- 『コーイチは、高く飛んだ』(辻堂ゆめ著、宝島社刊)
- 『恋人たちの汀』(倉知淳著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRU..
- 『東京帝大叡古教授』(門井慶喜著、小学館刊)
- 『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『動機』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『動機』収録)
- 『愚行録』(貫井徳郎著、東京創元社刊)
- 『転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿』(笠井潔著、講談社刊『メフィスト 2016v..
- 『声』(松本清張著、新潮社刊『張込み』収録)
- 『黒い線』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)
- 『図書館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社刊)
- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)