<あらすじ>
東京郊外の閑静な住宅街の一角で放火事件が起きた。帝都新聞社会部記者の長谷部章子(田中麗奈)は、新人の桂木結平(千葉雄大)と共に、現場に駆けつけ取材を開始する。
現場を担当していた警視庁捜査一課の刑事・梨山里衣子(原田美枝子)の姿を見つけた章子は、躊躇せずずかずかと近づいていく。そんな章子にあわてた桂木だったが、二人は良く知った仲らしい。
亡くなったのは川口トヨ・66歳、世話好きな老婦人で地域の町内会長を務めていたが、町内会役員の荒井智博(柏原収史)によると、近所に住む小林美枝子(寺島しのぶ)とトラブルを抱えていた。すぐに小林美枝子の家を訪ねる章子と桂木だが、家の外観に驚く。高いバリケードのような塀に有刺鉄線が張り巡らされ、庭には、転々と配置された大きな石…まるで要塞のような奇妙な家なのだ。インターホンを押した章子は、美枝子がしぶしぶ対応に出てきた隙に家の中をのぞき込む。すると、家の中は外の奇妙さとはかけ離れ、きれいに片づけられており、手の込んだタペストリーが飾られた住み心地のよさそうな家だった。
章子の取材によると、美枝子が近所の住人とトラブルを抱え始めたのはおよそ10年前。近所から孤立するに伴い、だんだんとバリケードは高くなっていき、そのころから、美枝子は外出する際に白い日傘を使うようになったらしい。また、丁度同じ時期、美枝子の夫の小林正文(林泰文)は私立高校の教師の職を辞し、塾の講師に転職していた。夫の転職と近所とのトラブル…章子と桂木は、美枝子についてさらに調べるために、美枝子の妹である江藤房江(板谷由夏)を訪ねる。姉の美枝子夫妻と同じく、子供がいないという房江とその夫・大志(宅間孝行)は、はたから見たら幸せすぎるほどの夫婦だ。しかしなぜか、章子はその夫婦の姿に違和感を覚えるのだった。
そんな時にまた放火事件が発生する。燃えさかる炎を前にして、狂ったように取り乱し泣き叫んでいたのは、小林美枝子だった。燃えていたのはあの美枝子と夫の要塞のような家だったのだ。そしてその焼け跡から、白骨化した遺体が発見される。
(公式HPより)
では、続きから……(一部、重複あり)。
閑静な住宅街の一角から火の手が上がった。
その火は僅かの間に燃え広がり住人の命を奪った。
後に判明したのだが、これは放火事件であった。
被害者は川口トヨ、66歳。
世話好きな老婦人で地域の町内会長を務めていた。
この事件を帝都新聞社会部記者の長谷部章子が取材し始めた。
その傍らには新人の桂木桔平がそっと寄り添う。
章子たちは、まず町内会役員の荒井智博からトヨ周辺について聞き込む。
すると、トヨは同じ町内会の小林美枝子と何やら揉めていたらしい。
これを受けて早速、小林家に赴いた章子たち。
小林家は周囲の風景にそぐわないまるで要塞であった。
何かの侵入を頑なに拒むかのような高い壁、其処には有刺鉄線が張り巡らされていた。
その威容に圧倒される桂木に対し、章子はと言えば住人への興味が増したようだ。
インターホンを押すと、中から現れたのは1人の女性。
家の外観に比べるとごくごく普通の主婦である。
家の中も特に変わった様子は無いようだ。
肩透かしを食らいつつ、章子は小林家に狙いを定め周辺住民に聞き込みを開始する。
小林家は美枝子と夫・正文の2人暮らし。子供はいないが特に揉めている様子もない。
さらに、要塞化を始めたのは今から10年前のことらしい。
同じ頃に、正文が高校教師の職を辞し塾講師に転じていた。
こうして今度は正文について調べることに。
正文の元の勤務先を訪問した章子は卒業アルバムに彼の姿を見出す。
写真の中の正文は柔和な表情を浮かべていた。
一方、桂木は同じ写真の右隅に女性が別枠で編集されていることに目を留める。
「居るんですよね、こういうときに休んでる人」
桂木は何気なく口にするが……。
小林家について、さらに詳しい情報を求めた章子。
桂木が止めるのも聞かず、美枝子の妹・房江のもとを訪ねる。
房江は桂木の予想に反し、快く章子たちの取材に応じてくれた。
房江は夫の大志と2人暮らし。子供も居ない。
奇しくも姉夫婦と同じ境遇だそうだ。
そんな房江によれば、美枝子は嫉妬深い性格なのだそうだ。
姉妹が子供の頃に、房江が着物の帯を母からプレゼントされたところ、これに気分を害した美枝子が捨ててしまったほどだそうだ。
と、其処へ大志が帰宅。
房江と大志は章子たちが居るにも関わらず仲睦まじい様子を見せる。
小林家に興味を抱く章子だが、一方でトヨ殺害が近隣で発生している連続放火による犯行ではないかと目星をつけ始めた。
周辺ではこれまでに既に3度同様の手口で放火が行われていたのである。
矢先、5件目の放火事件が発生する。
今度の被害は、なんと小林家であった。
燃え落ちた自宅を前に、美枝子は泣き叫び、正文は静かに立っていた。
なんとも、対照的な夫婦の姿に章子は不思議に思う。
同じ頃、桂木は章子が国原明子の娘であることを知る。
明子は夫の浮気に逆上しこれを刺殺していた。
娘の章子はこれにショックを受け、自身が明子のようになるのではないかと常に怯えているらしい。
そこで精神の均衡を保つために、日常と非日常の境を確かめるべく新聞記者として事件を見詰め続けて居たのだ。
小林家が放火された翌日、章子は前夜の冷静な正文の様子に不審を抱き、これをさらに調べ始めた。
まず、彼が退職した高校を再び訪ね、正文の退職と同時期に湯本美香なる女性教諭が失踪していることを突き止めた。
桂木が卒業アルバムに見出した欠席者こそ彼女だったのだ。
さらに正文が密かに金銭を手渡している現場も目撃。
相手はあの荒井であった。
荒井の過去を調べたところ、10年前に正文の教え子であったことが判明する。
どうやら、何かについて脅迫されているようである。
10年前に要塞化された家。
10年前に消えた女性教諭。
10年前の教え子に脅迫される正文。
章子はある仮説を思い浮かべ、小林家の焼け跡にスコップを突き立てる。
すると……地下から女性の骨が発見されるのであった。
この骨が失踪したとされていた湯本美香と確認された。
美香は殺害され、小林家の地下に埋められていたのだ。
正文はようやく肩の荷が下りるとばかりに10年前の事実を明かし出した。
10年前、正文は美香と不倫関係にあった。
ある日、美香が美枝子の留守に正文を訪ねて小林家にやって来た。
美香は妊娠したことを正文に告白した。
これに正文は美枝子と離婚し美香と再婚したいと切り出す。
ところが、美香は堕胎したいので金をくれと要求。
再婚についても考えていないことを告げた上で、正文を「気持ち悪い」と罵った。
正文は激怒した。
気付けば美香は死亡しており、慌ててこれを床下に埋めたのだと言う。
荒井の件は、最近になって荒井が正文と美香の関係に気付き金を要求して来たらしい。
何度か支払ったところで「もう払う意志はない」と告げたところ、トヨ宅が放火された。
この犯人が美枝子だと荒井に脅迫されたのでまた金を渡したのだと言う。
これを聞いた章子はトヨ宅の放火犯に気付いた。
数日後、連行されたのは荒井と学生の2人であった。
周辺の連続放火魔の正体はこの学生であった。
学生はこの事実を荒井に見咎められ、トヨ宅に放火するよう脅迫され従ったのだそうだ。
どうやら、荒井は正文を脅迫する新たなネタにしようと目論んでいたようである。
さらに、小林家への放火もこの学生の犯行と判明。
だが、こちらは見知らぬ女性に脅迫されてやったと主張しているようである。
これを聞いた章子はその特徴からある女性の顔を思い浮かべる。
その頃、その女性・房江は小林家の焼け跡に立っていた。
目の前には美枝子も居る。
美枝子はせっせと焼跡を片付け、新しい愛の巣を築くと歌っていた。
これに苛立った房江はすべてをぶちまける。
あの日、美枝子に呼び出された房江は彼女から大志の不倫の事実を教えられた。
丁寧に興信所の調査結果付きである。
其処には、大志が房江以外の女性と家庭を持ち子供まで居ることが記されていた。
美枝子は房江に「可哀想ねぇ」と告げた。
これに房江は激しく反発した。
自分の大切な家庭を美枝子が壊そうとしていると思ったのだ。
房江は何とかしなければと焦った。
その帰路、房江は川口家に放火していた犯人を目撃した。
これは使えると思った房江は犯人を脅迫し、小林家に放火させた。
小林家に放火させたのは、やはり房江だったのだ。
「あんた、なんてことを!!」
「死体が埋まってたんだよ!?分かって良かったじゃない」
憤る美枝子に、房江は笑う。
其処へ章子がやって来た。
「美枝子さんは知ってたんですよ」
美香の死体が埋まっていることを美枝子が知っていたと述べる章子に絶句する房江。
10年前、美枝子と正文は冷め切っていた。
だが、湯本美香の死体が現れたことで夫婦を繋ぎ止めたのだ。
「あなたには分からないでしょう?」
美枝子は房江に言ってのける。
「私は夫が何をしていたか知ってた。でも、あんたは知らない。可哀想な人!!」
さらに、房江を追い討つ美枝子。
10年前のあの夜、帰宅した美枝子が目にしたのは床下に死体を埋めるべく穴を掘る正文であった。
美枝子が躊躇したのは一瞬だった。
これで正文の心を繋ぎ止められると思ったのだ。
美枝子は正文と2人で美香の遺体を床下に埋めた。
それは夫婦にとって久しぶりの共同作業であった。
以来、美枝子は正文との愛の巣を守り続けて居たのだと言う。
これを聞いた章子は力いっぱいに叫ぶ。
「違う、それは偽りの幸せ。それは愛なんかじゃない」と。
「違うわ、此処は愛の巣なの!!」
「此処は愛の巣じゃない。此処は墓だよ!!」
反論する美枝子に章子はさらに続ける。
これに美枝子は項垂れるのであった。
警察が到着し、美枝子と房江は逮捕された。
着物の帯の件は房江の記憶違いであった。
あの日、母から房江に渡された帯は美枝子のおさがりであった。
これを房江が嫌がった為に、美枝子が帯を捨てたのだそうだ。
「あんたには一度たりとも嫉妬したことなんてなかった」
美枝子はそう言い切ると連れられて行った。
後日、大志は房江に離婚を切り出したとのことである。
桂木は思う、章子はいつも日常と非日常の境界線に立っているのだと。
章子は其処で自身を常に確認しているのだ―――エンド。
<感想>
ドラマ原作は角田光代先生『愛の巣』(文藝春秋社刊『三面記事小説』収録)。
過去にネタバレ書評(レビュー)してますね。
・『愛の巣』(角田光代著、文藝春秋社刊『三面記事小説』収録)ネタバレ書評(レビュー)
では、ドラマ感想を。
ドラマ版もそれ自体では悪くは無いのですが、原作を知っていると見劣りしますね。
特に原作の特徴を敢えて活かさなかった点が影響したように思います。
其処で、今回の感想では「原作と比較してのドラマ版感想」と「原作と切り離してのドラマ版感想」の2つで述べて行きたく思います。
まず、原作と比較してのドラマ版感想。
これを語る為に原作と比較し改変点を挙げて行きたく思います。
原作『愛の巣』に比較し改変された点は次の通り。
・章子や桂木らの追加。
・放火事件の追加。
・女性教諭殺害が26年から10年前の出来事に変更。
これらにより、次のような【メリット】と【デメリット】が生じていました。
【メリット】
・2時間の枠でドラマ化出来た。
【デメリット】
・派手な事件も無い中で淡々と驚愕の事実が明らかになる展開こそが原作の味だったが損なわれた。
・章子のエピソードが入って来たことで肝心の本編のインパクトが薄まった。
・登場キャラが増えたことにより、美枝子と房枝の物語である意義が薄れた。
何より原作では「日常に生きる房江(原作では房枝)が非日常に生きていた美枝子にソレと知りつつ、歪ながらも夫婦としての繋がりを保持していることに羨望の念を抱く」との異常な状況がポイントなのだが、美枝子が死体遺棄、房江が放火教唆を行ったことにより、どちらも非日常世界の住人になってしまったことでコレが失われた。
あの点こそが空恐ろしくも業の深さを感じさせただけに本当に勿体ない。
それと、これは映像化の宿命だと思うが台詞での説明が多過ぎたのも難だろう。
これだったら「三面記事小説」のタイトルで1時間ドラマ枠で原作通りにして、他の短編を含め連作シリーズにした方が良かったと思うけどなぁ。
それだったら、章子もシリーズを通じてのキーパーソンとして活きて来るだろうし。
今回一回限りでは正直、章子は扱い切れていない印象。
さて、此処までは原作と比較しての感想。
此処からはドラマ単体での感想を。
原作から切り離してドラマ単体として見れば、最初に述べた通り悪くない。
いろいろとポテンシャルを感じる出来であった。
まず、この場合のテーマは「罪の上に築き上げた幸せ」になるのだろう。
美枝子にとって美香は彼女たち夫婦にとっての人柱になっていたのだろう。
美枝子はまるでシャーマンのように振舞いつつ、美香殺害を盾に正文を拘束したのだ。
だからこそ、美香の遺体が見つかった正文は美枝子から解放されると肩の荷を下ろしたような表情を浮かべたのである。
だからこそ、章子は「美枝子の愛の巣」を「(美香の)墓だ」と断じ否定した。
なにしろ、何処まで行っても正文の目は美枝子に向いていないワケだから。
此の点ではアリだと思う。
だからこそ惜しい。
出来れば1時間の連作ドラマシリーズとして『三面記事小説』を実写化したら良さそうなのに。
<キャスト>
田中麗奈
原田美枝子
千葉雄大
林泰文
柏原収史
宅間孝行
西村雅彦
板谷由夏
寺島しのぶ ほか
(公式HPより、順不同、敬称略)
◆関連過去記事
・『愛の巣』(角田光代著、文藝春秋社刊『三面記事小説』収録)ネタバレ書評(レビュー)
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