2015年02月18日

『萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ』(吉永南央著、文藝春秋社刊)

『萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ』(吉永南央著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

粋なおばあちゃん探偵が解く、「日常の謎」

北関東のとある街で、コーヒー豆と和食器の店を営むおばあちゃんが、店で聞いた話から、街で起こった小さな謎を解決するミステリー

宮部みゆきさんら、選考委員が絶賛してオール讀物推理小説新人賞を受賞した吉永南央さんのデビュー作が待望の文庫化。主人公は、観音さまが見下ろす街で、コーヒー豆と和食器の店を営む気丈なおばあさん、杉浦草。無料のコーヒーを目当てに訪れる常連たちとの会話がきっかけで、街で起きた小さな事件の存在に気づく「日常の謎」系ミステリ。「老い」と「家族」を正面に据えたその筆は、淹れ立てのコーヒーのように深みと滋味を湛えています。(YI)
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>

「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ第1弾です。
2015年1月現在時点で、同シリーズには他に『その日まで』『名もなき花の』『糸切り』の3作が存在する。
すなわち、本作『萩を揺らす雨』を加えた4作が既刊というワケだ。

そんな本シリーズは「和食器と珈琲の店・小蔵屋」を営む老婦人・杉浦草を中心とした日常の謎もの。
過去に辛い経験を負ったことで痛みを知る草の視点から綴られる物語は、時に悲哀、時に励まし、時に驚きとして読者に向けられます。
また、端正な文章に支えられた静かな物語は読む者の心を癒すかもしれません。

ただ、個人的に「琴線に触れるには些か訴求力に欠ける」との印象が拭えませんでした。
もう1つ何かあればなぁ……。
なので、手放しでオススメとは言えないかも。
しかし、これは読み手の嗜好の差でしょう。
きっと、読み手によって心動かされる方も居る筈です。
その力は秘めていると思います。

今回は中でも『紅雲町のお草』、『クワバラ、クワバラ』、表題作『萩を揺らす雨』の3編をネタバレ書評(レビュー)。
但し、ネタバレあらすじはかなり改変しています。
特に『萩を揺らす雨』は設定こそ原作通りですが、展開をまとめ易いように構成を大幅に変えました。
興味を持たれた方は本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

・『紅雲町のお草』

杉浦草は紅雲町に住む76歳の老婦人である。
彼女は「小蔵屋」という名の「和食器」と「珈琲専門店」を兼ねた店を営んでいる。
草の人柄と「コーヒーの試飲一杯まで」とのサービスにより、ちょっとした町の憩いの場になっている。

当然、紅雲町のさまざまな噂が草の耳に入る。
それは突拍子もないことだったり、何でも無さそうな些細なことだったりする。
だが、たまに草はその中に重大な情報を見出すことがある。

この日もそうであった。
2人連れの女子高生がお化けについて話をしていたのである。
それによると、ある団地で助けを求めるように窓に差し出された手を目撃したらしい。

これを聞いた草は咄嗟に「助けなければ」と思った。
草は彼女たちが話をしていた団地へ向かう。

該当する窓を調べたところ、住人は小宮山と言うらしい。
それから、草の小宮山家に関する噂話の収集が始まった。

小宮山家には4人が生活しているらしい。
まず、主である小宮山。彼は医者だそうだ。
続いて、小宮山の後妻。
そして、小宮山の後妻の連れ子。
最後に、小宮山の実母。

草は小宮山の実母が虐待を受けているのではないかと考える。

ところが、小宮山家の隣家の住人によれば虐待を受けているのは後妻の連れ子の方らしい。
噂はあくまで噂に過ぎない。
事実とは異なるかもしれないし、仮に事実でも既に解決した問題かもしれない。
だが、草は傍観者になることだけは出来なかった。

実は彼女は20代の折に夫と離婚しており、その際に夫に預けた息子・良一を彼が3歳の時に事故で亡くしていたのだ。
もしも、夫に預けずに自分が育てて居たら……こんなことにはならなかったのではないか。
以来、草は良一の冥福を祈る毎日を送っていたのである。

そんな草にとって「かもしれない」で小宮山の息子を見捨てることは出来なかった。
草は夜中にも関わらず団地へ向かい、小宮山の息子を助けようと決意した。

こっそりと窓を割り、中の様子を確認しようとする草。
だが、素人の草には人知れず窓を割ることすら一苦労だ。

ところが、其処で怪しげな男と出くわす。
どうやら、下見をしていた泥棒のようだ。
草は意を決し男を2万円で買収、彼に部屋の中を確認して貰うことに。

男は流石、プロである。
草があれほど苦労した窓をあっさりと破ると中へ侵入する。

それから数分ほど経過したであろうか。
この間、草にとっては何十分と感じられた。

やがて、男が侵入した窓からではなく玄関から戻って来た。
しかも、肩にはぐったりとした少年を抱えている。
小宮山の息子である。虐待は事実だったのだ。

翌日、草はちょっとしたヒーローとなった。
なにしろ、小宮山の息子を救ったのだから。

草の予想通り小宮山の息子は小宮山から虐待を受けていた。
母親は夫を怖れ黙認、その姑も血の繋がりの無い孫である為に見て見ぬフリを決め込んでいたのだ。
小宮山の息子はもう少しで死にかねないほど衰弱していたと言う。

あの後、草は小宮山の息子を保護すると通報した。
駆け付けた警官に、草は「泥棒と出くわしたのだが、相手が此の坊主を助けてやれと渡して来た」と小宮山の息子について供述した。
泥棒については「暗くて良く分からなかった」としか述べていない。

それから1ヶ月が経過した。
草の前にはあのときの男が居た。
実はあの時、報酬の2万円を1ヶ月後に手渡す約束をしていたのだ。

男は「あれで助けたことになるのかなぁ……」とぼやく。
もちろん、小宮山の息子のことだ。

小宮山の息子は保護されると入院、少しずつだが回復していると言う。
だが、虐待の件により家族に波乱が巻き起こっているようだ。
今後、彼がどうなるかは不透明である。

これに草は「それでも……」と断ずる。
草の目には亡き良一が映っていた―――エンド。

・『クワバラ、クワバラ』

今日も「小蔵屋」にて伝票を整理していた草は未だ支払が行われていないものを発見した。
それは宮内なる男性の還暦祝い、贈り主は桑原秀子となっていた。
これを目にした草は「クワバラ、クワバラ」と心の中で呟く。

秀子と草は小学校の同級生であった。
だが、秀子は草の何が気に喰わないのか徹底的に嫌がらせを繰り返した。
草はこれに秀子の姓である桑原をもじり「クワバラ、クワバラ」といつも呟いていた。

そして、草が「小蔵屋」を改装しようと古民家を買い取った際のことである。
草は秀子と数十年ぶりに再会した。
秀子は相変わらずで草は此処でも大変に手を焼かされた。
秀子の姉・松子の執成しがなければ古民家を買い取ることは出来なかったであろう。

だが、この際の騒動で草は秀子が父親からの愛情を求めていたにも関わらず得られなかったことを知った。
草は少し秀子に同情した。

其処から、さらに数年経過しての今度の未払いである。
秀子は資産家の家に嫁いでおり、夫を亡くしたものの裕福な生活を送っている筈だった。

草は桑原家へと電話を入れてみた。
応対に出たのは秀子の嫁・エミである。

エミによれば、秀子は宮内と交際しており、これに反対した息子と衝突し家を出てしまったと言う。
草は秀子の立ち回り先として、古民家が元あった場所を思い浮かべるが……。

数時間後、草は自身の推測が当たっていたことを確認出来た。
其処に秀子が居たのである。
彼女にとって、此処は思い出の地だったのだろう。

草を目にした秀子は皮肉に笑う。
実は秀子の居場所の心当たりを彼女の息子と宮内に伝えたのだが、両方から断られてしまったのである。

秀子の息子は「放っておけばよい」と断言。
宮内は「周囲に反対されてまで付き合いたくはないし、そもそも其処までの間柄ではない」と言い切っていた。

秀子は宮内への恋に破れたにも関わらず気丈に振る舞う。
これに草は昔馴染みとして支えるのであった―――エンド。

・『萩を揺らす雨』

その日、草は何時に無くめかし込んでいた。
これから会う相手が草にとっては些か特別な相手だった為である。

その名は―――大谷。
草の幼馴染にして高名な代議士に婿入りし自身も代議士となった男。
そして……草の初恋の人である。

もちろん、大谷は草のそんな気持ちを知らない。
だから、大谷はこれまでにも彼の愛人・鈴子への対応を草に依頼して来ていた。

草が大谷と鈴子の間に立ってもう数十年経つ。
だが、未だにこの関係に慣れない草なのであった。

大谷のもとを訪れた草。
大谷は「鈴子が死んだ」と告げる。
どうやら、病死らしい。

十数年前、鈴子は大谷との間に子供を為した。
鈴子はこれに狼狽した。
大谷には正式な妻子が居る、そして社会的地位もある。
彼を脅かしてはならないと決断した鈴子は大谷の子供を抱えた状態で染谷のもとへ嫁に行った。

当時、大谷はこれを嫌がり、母子2人で生きて行けるよう世話を見るからと何度となく鈴子に翻意を迫った。
しかし、鈴子はこれを頑として受け入れなかった。

次いで、大谷は鈴子の倫理観に訴えた。
染谷はお腹の子供が大谷の子であることを知らない。
自身の子だと思い込んでいるのである。
そんな不義理が許されるのか、と。

だが、それを言うならそもそも妻子ある大谷との不倫の果ての子である。
出発点からして不義理であった。

この間、草は大谷と鈴子との仲を飛び回った。
だが結局、鈴子は初志を貫徹し染谷と結婚し清史という男の子を産んだ。

それから十年後、染谷は病死。
最後まで大谷の子供だとは知らなかったそうだ。

以来、鈴子は清史を2人で生きていた。
そんな鈴子が病死した。
其処で、大谷は清史を引き取りたいと草に依頼したのだ。
草から清史に打診して欲しいらしい。

惚れた弱味でこれを引き受けた草は清史のもとへ。
途中に立ち寄った喫茶店近くの川原で携帯電話を拾うことに。
これは草が交番に届けるべく預かることとなった。

さらに、若者同士の殴り合いの喧嘩に遭遇する。
この片方の当事者こそが清史であった。
相手は草の姿を目にするや脱兎の如く逃亡する。

清史は今時の若者に成長していた。
喧嘩の相手は「タカヒロ」らしいが詳しいことを明かそうとしない。

これを家へ連れて行ったところ、其処には小田なる男が待っていた。
と、草が拾った携帯が鳴り始めた。
この音を耳にした途端に小田の態度が急変。
草から鞄を奪い去ってしまう……。

清史によれば小田の狙いは携帯だったらしい。
奇しくも、清史が捨てた携帯を草が拾ってしまったのだ。
だが、草は携帯を肌身離さず持っており無事であった。

とりあえず、草に帰るよう促す清史。
そんな清史のもとを厳つい男が2人訪ねて来る。

何やら、清史が想像を絶する事態に巻き込まれているのではないかと考えた草。
今更、帰ることは出来ないと真相を清史に問い詰める。

その翌日、草は小田をホテルのロビーに呼び出した。
鞄を取り戻す為である。

これに小田は素直に応じ、代わりに草は携帯を手渡す。
同時にタカヒロも駆け付けて来た。

直後のことだ。
ロビー内に例の厳つい男を筆頭に集団が現れた。
彼らは小田とタカヒロを拘束すると連れて行く。
彼らは刑事だったのだ……。

実は、小田とタカヒロは薬物のバイヤーであった。
あの携帯は顧客リストが登録されたまさに金の卵。

ある日、金に困ったタカヒロは小田を裏切り携帯を持ち去った。
おそらく金に換えるつもりだったのだろう。
その途中、逃亡先に清史のもとへ立ち寄ったのだそうだ。
タカヒロは清史の高校時代の陸上部の先輩だったのだ。

清史はタカヒロの行動を聞き反対したが、聞き入れられなかった。
其処で携帯を川原に捨てたのた。
ところが、これを草が拾い、タカヒロを追って来た小田と遭遇したのであった。

清史はタカヒロを救う為に警察に通報したのである。
だが、連行されるタカヒロの姿に清史は大粒の涙を流す。
実は、清史とタカヒロは同性愛の相手だったのだ。
愛する相手を告発せざるを得なかった清史に、草は深い同情を寄せると共にしっかりと育ったと感心するのであった。

結局、清史は大谷の提案には乗らなかった。
これを報告された大谷は、ただ「そうか……」とだけ呟いた。
さらに、草が持ち返った鈴子の骨を口に含み呑み込むのであった。
これでずっと一緒だとでも言うように―――エンド。

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特集ドラマ「紅雲町珈琲屋こよみ ヒロインは76歳!優しく、甘く、ほろ苦く〜人生はコーヒーのように」(4月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)

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