ネタバレあります、注意!!
<感想>
患者に共感できる研修医・諏訪野が主役となる短編シリーズの第2弾。
前作『彼女が瞳を閉じる理由』に続き『小説野性時代』(角川書店刊)に掲載されました。
前作『彼女が瞳を閉じる理由』については過去にネタバレ書評(レビュー)してますね。
・『彼女が瞳を閉じる理由』(知念実希人著、角川書店刊『小説野性時代 2014年2月号 vol.123』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
ちなみに、個人的にこのシリーズには「研修医・諏訪野シリーズ」と命名していたりします。
そんなシリーズの第2弾となる『悪性の境界線』。
今回の諏訪野は前回の精神科から外科へと研修先を異動。
其処で遭遇した「ある患者」が心変わりした理由を追うこととなります。
言わば「心変わりした理由(動機)を問うこと」すなわち「ホワイダニット」ですね。
これがなかなかに興味深い内容となっており、医療ミステリとしては見逃せない作品となっている。
「ホワイダニット」が解き明かされた際には「なるほど!!」と膝を打ったほどだ。
特にタイトルにこそ深い意味が隠されているのもポイントです。
本シリーズが今後も続くであろうことを考えれば、見逃せない回と言えるのではないでしょうか。
読むべし!!
そして、作者の知念実希人先生と言えば「天久鷹央の推理カルテシリーズ」第2弾『天久鷹央の推理カルテ2 ファントムの病棟』が発売!!
こちらも見逃すなかれ!!
・シリーズ第2弾!!知念実希人先生『天久鷹央の推理カルテ2 ファントムの病棟』が2015年2月28日発売予定とのこと!!
なお、「ネタバレあらすじ」はまとめ易いように大幅な改変を加えた上にかなり端折ってます。
特に、近藤関連でそれが大きいです。
本作を正確に味わうには、本作それ自体を読むべし!!
<ネタバレあらすじ>
諏訪野:研修医。
冴木:諏訪野の先輩。外科医。
近藤:冴木の担当患者。
幸子:近藤の娘。
謎の男:近藤の前に現れた男。
研修医の諏訪野は外科医の冴木のもとで研修を行っていた。
諏訪野の目前では、患者の近藤とその娘・幸子が神妙な面持ちで冴木の説明に耳を傾けている。
近藤の体内に悪性の腫瘍が発見され、これを腹腔鏡手術あるいは開腹手術により除去することへの説明がされていたのである。
執刀医である冴木は「腹腔鏡手術」を提案。
腹腔鏡手術ならば肉体への負担は軽くなる筈で、此の点では近藤はかなり見込みがあった。
これに幸子は不安そうな表情を浮かべるが、近藤自身は至って気楽な様子で同意を示す。
手術に関しては入念な準備が行われた上で、数週間後を目途にするとの結論が伝えられていた。
これに対しても近藤は「保険に入っているから入院費は大丈夫」と了承していたのである。
ところが……。
その日の内に近藤が「近日中の手術でなければ退院する」と言い出した。
しかも、肉体的な負担が大きくなる開腹手術を強く希望したのである。
これに、諏訪野と冴木は激しく困惑することに。
どうやら、近藤の考えを180度転換させるような何かが起こったようである。
諏訪野は理由がある筈と考えて、これを調べ始めた。
すると、近藤が心変わりする直前に謎の男が病室を訪れていたことを突き止めた。
どうも、此の男と会話したことが理由のようだ。
冴木は「怪しげな治療法を勧めに来たセールスマンではないか」や「手術自体を早めようとしていることから借金の取り立てではないか」と幾つか仮説を立ててみるが、諏訪野にとってそれはどうにもしっくり来ないものばかり。
実際、幸子に事情を尋ねてみても「分からない」と繰り返すのみである。
そんな中、謎の男が再び近藤を訪れた。
諏訪野は冴木の許可を得て、これに接触することに。
そして意外な事実を突き止める。
改めて、近藤と幸子の前に立つ冴木と諏訪野。
諏訪野は謎の男の正体が保険会社の営業マンであることを語り、其処に近藤の心変わりの理由があったことを明かす。
実は保険の支払条件に問題があったのだ。
今回、近藤が加入していた保険が支払われるには「悪性」と認められる必要があり「腫瘍が腹腔内に浸潤していなければならなかった」のである。
通常はこの場合だと開腹手術が一般的である。
ところが、冴木の説明では腹腔鏡手術で対処可能とのことであった。
つまり、腹腔内への浸潤は認められない可能性が高い。
だとすれば、保険は適用されなくなってしまうのだ。
まさに「保険適用上の悪性かどうかの境界線」が原因であった。
保険金額は3000万円。
近藤としてはどうしても欲しい。
其処で、近藤はこの条件を満たす為に近日中の開腹手術を強行に主張したのであった。
理由を知った冴木は近藤を緊急手術の対象にすると宣言。
本来、それは緊急性の高い患者にのみ適用されるもので近藤はこれに該当しない。
しかし、事情を知った冴木は敢えてこれを強行する。
だが、術式自体は近藤の意に反し腹腔鏡手術であった。
手術は無事成功し、冴木は近藤に告げる。
「手術後に行った病理検査の結果、僅かに腹腔内への浸潤が認められたが手術により根治した」と。
すなわち、近藤は完治し保険の適用条件は満たされたのである。
冴木に感謝する近藤。
そんな様子を見ていた諏訪野は「もしや……」と考える。
そう、冴木は敢えて保険の適用条件が整うように動いたのではないかと。
諏訪野は「外科も良いなぁ……」と微笑むのであった―――エンド。
◆関連過去記事
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・シリーズ第2弾!!知念実希人先生『天久鷹央の推理カルテ2 ファントムの病棟』が2015年2月28日発売予定とのこと!!
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