ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
静岡県浜松市で、人間が生きたまま次々と焼き殺される、残虐な連続放火殺人事件が起こる。その捜査本部に県警から25歳の美人刑事・黒井マヤがやってきた。サディスティックでワガママ放題なマヤは、相棒の代官山脩助を罵倒し、殺人現場で「死体に萌える」ばかりで、本気で真犯人を見つけようとしない。さらに、事件の被害者は、元ヤクザ、詐欺師、OL、主婦、歯科医など様々で、何の共通点もなく、捜査は難航する。そんな中、代官山はマヤの奇行に振り回されながらも、被害者の間で受け渡される「悪意のバトン」の存在に気づくが──。緻密に計算されたどんでん返しに驚愕必至のユーモアミステリー。
(幻冬舎公式HPより)
<感想>
「ドS刑事シリーズ」第1弾。
2015年3月時点にて、シリーズには他に第2弾『ドS刑事 朱に交われば赤くなる殺人事件』と第3弾『ドS刑事 三つ子の魂百まで殺人事件』がある。
そんな本作は一筋縄ではいかない作品である。
何故、本作が一筋縄ではいかないのか―――その理由は次の2つ。
1.キャラクターにインパクトがあり、それを活かした独自の展開が可能。
2.伏線の配し方が巧みであり、思わぬところで回収される。
この1と2の非常に高いバランスにより、読み進めるうちに強いサプライズが待ち受けることとなっている。
特に何と言っても1が良い。
この代表的なキャラクターはマヤである。
マヤの「ある特徴」により通常通りの事件解決は望めない。
これにより通常通りの推理ではなく、あくまで先行するマヤの思考を代官山が追う形式となっている。
つまり、読者は代官山とほぼ同じ立場になってマヤの推理を追うこととなる。
これが楽しい。
さらに、2により意外なところで意外な繋がりが生じる。
これにより緊張感が維持出来る点も見逃せないだろう。
そして1と2により、キャラ独特な行動の結果が生み出すサプライズに繋がるのだ。
本作を読んで興味を持たれた方は、是非シリーズ続編にもチャレンジされたし。
なお、本作のサブタイトル『風が吹けば桶屋が儲かる殺人事件』。
これにも深い意味がある。
「風が吹けば桶屋が儲かる」とは「ある事柄の発生により、ソレと関係ないように思われた事柄が発生すること」を指す。
これには諸説あるようだが、具体的に次の流れを示す。
風が吹くと埃が舞う。
埃が舞うと目に入る。
目に入ると失明する人が出る。
失明すると三味線弾きが増える(琵琶法師みたいなもの)。
三味線弾きが増えれば三味線の需要が増加する。
需要に対応すべく原材料の猫の皮が必要となり、猫が乱獲される。
猫が減れば天敵が居なくなった鼠が増える。
増えた鼠が各家庭で桶を食い荒らす。
結果、桶の需要が高まり桶屋が儲かる。
ざっとこんな流れだ。
言わば「原因と思わぬ結果」となるのだが、多少強引にまとめれば「バタフライ効果」とも言えよう。
そして、この「風が吹けば桶屋が儲かる」が本作中では次の2つの意味を持つ。
まず「遊真の死に起因する連続復讐殺人」。
そして、その「遊真の死」すらも実は過程に過ぎなかった「真犯人の息子の死に起因する連続復讐殺人」。
いずれも原因とそれによる結果を示すものだが、終盤にて前者から後者の意味に転じることがサプライズを生んでいる。
さらに、本作ラストにて登場する「ルパン三世 カリオストロの城」。
こう言った遊び心も忘れてはならない点かもしれない。
そんな本作ですが日本テレビ系によるドラマ化が明らかに。
ドラマ版「ドS刑事」は2015年4月より毎週土曜日21時枠にて放送開始とのこと。
・七尾与史先生『ドS刑事』が日本テレビ系にて2015年4月よりドラマ化!!
ちなみにネタバレあらすじは大幅に改変しています。
特に本作の方がマヤのキャラが強烈です。
興味のある方は本作それ自体を読むことをオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
静岡県浜松市にて連続放火殺人事件が発生。
被害者は詐欺師、OL、主婦と続き、今では歯科医の岩波哲夫から歯科技工士・鳥海尚義へと続いていた。
都合9人の被害者が既に出ている。
しかし、彼ら全員を繋ぐ共通点はない……。
この捜査に携わったのは刑事の代官山脩助たち。
と、其処に鳴り物入りで黒井マヤ刑事が加わることとなった。
マヤは父が警察庁次長で美人刑事という「天は二物も三物も与える」ことを実証したかのような女性。
ところが、マヤにはある奇癖があった。
殺人現場や死体に「萌え」を感じるのだ。
しかも、マニアがグッズを収集するように遺体や遺品の一部を持ち去るのだ。
明らかに傍迷惑である。
さらにマヤは自身の趣味を優先し酸鼻な状況を再現した「暗黒人形展」を開催する前園時枝に興味を抱き始めた。
当初はシラケ気味にマヤを眺めていた代官山。
だが、少しずつではあるがマヤの特異な才に気付くように。
マヤの行動は一見すると単なる悪趣味だが、どうも真相を追っているようなのだ。
だが、マニア故の悪癖か敢えて犯人を見逃している節があった。
代官山はこっそりとマヤの行動を監視し、彼女の思考パターンに迫ることに。
そして、前園時枝の存在に意味を見出した。
時枝が開催していた「暗黒人形展」に展示されていた人形の数が連続放火殺人に伴い減っていたのだ。
つまり、時枝は犯行声明を其処で行っていたのである。
そう、連続放火殺人事件の犯人は前園時枝であった。
時枝は娘・凜子の復讐を実行していたのだ。
凜子は焼身自殺していた。
凜子には1人息子の遊真が居たが、ある日、何者かが手鏡の光で目を射たことにより滑り台上でバランスを崩し転倒。
元看護師であった凜子は応急手当てをしながら救急車を呼んだ。
ところが、救急車は到着寸前に起こった車両事故で立ち往生となり遊真のもとには届かなかった。
結果、遊真は治療が間に合わず死亡してしまったのである。
凜子は遊真の死の原因を突き止めようと奔走した。
まずは手鏡の光を用いて事故を仕組んだ犯人、そして救急車到着を妨害した者たちである。
そして、凜子はソレを彼女の手帳に遺し自殺した。
救急車の到着を妨げた最大の要因は車両事故。
飲酒運転していた西川英俊の営業車と村越早苗の車が交差点で衝突し、これにより道が塞がれ救急車は到着出来なかったのだ。
事故自体は酔っ払っていた西川に非があるとされていた。
この西川の飲酒の理由が9番目の被害者である歯科技工士・鳥海尚義。
西川と鳥海は友人同士、鳥海はあるストレスを抱えており酒の席に西川を誘い愚痴を零したのだ。
此処で西川は多量に飲酒してしまった。
言わば、西川に飲酒運転を行わせたのは鳥海である。
その鳥海のストレスとなった原因が歯科医の岩波哲夫。
取引先の立場を利用し岩波が鳥海をイジメていたのだ。
だとすれば、西川に鳥海が飲酒させた原因は岩波となる。
そんな岩波にもストレスがあり、それはその前の被害者で……といった感じで被害者間を「悪意」が繋いでいたのである。
まさに、それは「悪意のバトン」。
凜子はこれを丁寧に遡り、事の発端を突き止めた。
そして、ソレこそが救急車を妨害した原因だと憎んだ。
時枝はこの凜子の憎悪を引き継ぎ復讐を行ったのである。
そして時枝は最後の標的を手にかけようとしていた。
すなわち、事故を起こし救急車を止めてしまった西川である。
これに気付いた代官山は嫌がるマヤを無理矢理連れ出し時枝のもとへ。
しかし、既に遅かった。
時枝は西川を道連れに焼身自殺してしまう。
だが、最後に時枝はマヤにある疑問を投げかける。
何故、凜子は対象を突き止めながら復讐せずに自殺してしまったのか?
そもそも、手鏡で遊真を殺害した犯人は誰なのか?
時枝の疑問はもっともである。
こうして、代官山は時枝の投げかけた謎に挑むこととなった。
ところが、これすらもマヤは既に見抜いていたのである。
何故、凜子は対象を突き止めながら復讐せずに自殺してしまったのか?
それは凜子自身に非があったことに気付いたからだ。
事の発端は遊真の死亡よりさらに数年前に遡る。
当時の凜子は看護師として病院に勤務していた。
其処に1人の子供が運ばれて来た。
この治療に当たったのは当時の凜子の交際相手であった高梨清彦医師。
ところが、高梨は此処でミスを犯し患者を死亡させてしまう。
この高梨のミスを凜子は黙認していたのだ。
やがて凜子は高梨と別れた後に、別の男性と結婚し遊真をもうけた。
だが、死亡した子供の母親は高梨と凜子を深く恨んでいたのである。
ある日のこと、その母親は公園で遊ぶ凜子と遊真を見かけ激怒した。
自分は子供を奪われたにも関わらず、凜子は子どもと楽しそうに笑っていたのだ。
母親は何かに誘われるように手鏡を取り出し、遊真へと狙いを定めて光で射た。
そして、狙い違わず遊真は事故に遭ったのだ。
慌てふためく凜子は救急車を呼んだ。
だが、救急車は到着することなく遊真は死亡した。
直後、凜子は復讐の鬼になった。
時枝が述べていた通り救急車到着を妨害した原因を追いつつ、手鏡の主も追ったのだ。
其処で過去の自身の行いに原因があることを突き止めた。
遊真を殺したのは自分だと考えた凜子は、その母親に贖罪すべく高梨を事故に偽装し殺害。
その後、自殺したのである。
時枝はこの事実を知らずに、凜子の復讐を行ってしまったのだ。
そう言えば、凜子が自身に原因があると気付けた理由は何か?
それこそ「手鏡の犯人」に気付いたからである。
「手鏡の犯人」は既に登場していたのだ。
遊真転落事故直後に遡る。
慌てふためく凜子は救急車を呼んだ。
これを見ていた「手鏡の犯人」は「それは許せない!!」と阻止すべく公園の外へ。
停めてあった車に飛び乗ると、これを走らせ近くの交差点で事故を起こした。
結果、救急車は遊真のもとに辿り着けなかった。
だが、この事故は飲酒していた西川に非があるとされていた。
そう、医療ミスにより子供をころされた「手鏡の犯人」は……村越早苗だったのである。
マヤは早々にこの真相に気付きつつも、自分好みの展開を求めて放置していたのである。
これに唖然とする代官山。
ところが、代官山にとってマヤは他人事の存在では無かったのである。
代官山をデートに誘うマヤ。
マヤはどうやら代官山を気に入ってしまったようだ。
マヤの容姿は一流である。
さらに、その父も有力者だ。
だが、だが……肝心のマヤの性格が。
苦悩する代官山。
しかし、そもそも彼に選択権はあるのか?
そんな代官山にマヤは無邪気に微笑みかける―――エンド。
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