ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
臓器が奇麗にくり抜かれた遺体が発見された。やがてテレビ局に犯人から声明文が届く。いったい犯人の狙いは何か。さらに第二の事件が起こり・・・・・・。警視庁捜査一課の犬養が捜査に乗り出す!
(角川書店公式HPより)
<感想>
中山七里先生「犬養隼人シリーズ」第1弾。
2015年3月時点で同シリーズには第2弾『七色の毒』が書籍化、第3弾『ハーメルンの誘拐魔』が『小説野性時代』(角川書店刊)にて連載中。
ちなみに『七色の毒』は連作短編集、『ハーメルンの誘拐魔』は長編です。
そんな本作は「社会派サスペンス」と名付けるに相応しい作品。
特に「臓器移植問題」をテーマに、その光と影を描いている点が秀逸。
さらに、作品としてテーマと「切り裂きジャック」とを絡めた点も雰囲気を盛り上げるのに一役買っている。
また「ミステリ」としては意外性のある犯人の動機も目を惹くことだろう。
他に展開の妙味もある。
現代に甦った「切り裂きジャック」とこれを追う刑事。
その結末には手に汗握る筈だ。
さらに、どちらかと言えば『連続殺人鬼カエル男』のテイストに近いのも良い。
実際、『連続殺人鬼カエル男』の古手川も登場したりと他作品ともリンクしている。
・『連続殺人鬼カエル男』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
とはいえ、個人的には本作と比較すれば『連続殺人鬼カエル男』の方がより好みではある。
『連続殺人鬼カエル男』は「本格ミステリ」としての完成度も高いし、自信を持ってオススメ出来る傑作の1つだと思うからだ。
本作を読んで興味を持たれた方は「犬養隼人シリーズ」はもちろんのこと、『連続殺人鬼カエル男』も併せてお読み頂きたい。
なお、ネタバレあらすじについては、管理人によりかなり改変されています。
本作を楽しんで頂くには直接お読み頂くことをオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
犬養隼人:主人公の刑事、別れた妻との間に腎臓を患う沙耶香という娘が居る。
古手川和也:『連続殺人鬼カエル男』の登場人物、刑事。
六郷由美香:1番目の被害者。被害者間にはある秘密が……。
半崎桐子:2番目の被害者。被害者間にはある秘密が……。
具志堅悟:3番目の被害者。被害者間にはある秘密が……。
三田村敬介:鬼子母の臓器提供を受けたレシピエントの1人。
鬼子母:事故で死亡した涼子の息子、生前の意志により臓器提供される。
涼子:鬼子母の母、息子の臓器提供に反対していた。
高野千春:医療コーディネーター。臓器移植を推進している。
真境名:臓器移植推進派の医師、犬養の娘・沙耶香の担当医でもある。
陽子:真境名の妻にして弟子。手術時は麻酔担当。
榊原:真境名と並ぶと称される名医。臓器移植には否定的とされている。
沙耶香:犬養の娘、腎不全を患い真境名医師の治療を受けている。
臓器をくり抜かれた残酷な殺人事件が連続して発生していた。
第1の被害者は六郷由美香、第2の被害者は半崎桐子。
共に女性である上に、犯人は犯行声明を行い「ジャック」と名乗っていた。
此処で誰もが脳裏に思い浮かべたのは、あの「切り裂きジャック」だ。
こうして平成に甦った「切り裂きジャック」を追うべく刑事たちの捜査が開始された。
中でも特に犯人逮捕に執着を燃やすのは犬養隼人刑事である。
犬養は別れた妻との間に沙耶香という娘が居た。
この沙耶香が腎不全を患っており、主治医で世界的権威でもある真境名によれば臓器移植が必要とされていた。
犬養にとって臓器を弄ぶような犯人は絶対に許すことが出来なかったのである。
そんな犬養とコンビを組んだのは古手川刑事。
こちらは『連続殺人鬼カエル男』で読者にはお馴染みだろう。
犬養と古手川は被害者に犯人に狙われる何らかの共通項があると考えるが……。
そんな中、第3の被害者が発生。
その名は具志堅悟、今度は男性であった。
もはや、犯人は無差別に犯行に及んでいるのか?
それとも、同様の模倣犯なのか?
困惑する本部を他所に、犬養たちは被害者3人の共通項を突き止めた。
なんと、3人とも高野千春なる医療コーディネーターの仲介で臓器移植を受けたレシピエントだったのだ。
千春を訪ねたところ、3人に臓器を提供したのは同一人物と判明。
その人物は事故で死亡した鬼子母なる若い男性。
何でも生前に移植の意志を主張していたらしい。
しかも、この際の臓器摘出手術の執刀は真境名とその妻で麻酔を担当する陽子たちのチームだったそうだ。
だが、この移植に対し鬼子母の母である涼子は最後まで反対していたそうだ。
もしかして、移植に恨みを抱いた涼子が連続殺人に及んでいるのか!?
涼子について調べたところ、被害者たちの周辺を訪れていた形跡があることが分かり、古手川は涼子の犯行を疑い取調を強行する。
だが、これが誤りであったことを古手川自身がすぐに認めることとなった。
当初こそ移植に反対し、これが行われたことに恨みを抱いていた涼子。
だが、息子を失った辛さに耐え兼ねるうちに「息子は死んでいない。臓器移植された人々の間で生きている」との想いに至ったらしい。
その結果、千春に頼み込んでレシピエントの情報を得ると移植者の生活を陰ながら見守っていたのである。
だとすれば、犯人は別に居ることとなる。
此処で犬養は、犯人のターゲットを「鬼子母から臓器移植を受けた人々」だと絞り込み、同じく提供を受けた三田村敬介が狙われると目星を付けた。
その上で、敬介の協力を得て罠を張ることに。
案の定、犯人は敬介に接触して来た。
攪乱耕作があったものの、犬養たちはこれを乗り越えて犯人を思しき人物を逮捕することに成功する。
敬介に接触して来た人物の正体は……真境名であった。
逮捕された真境名は犯行は認めるが、動機は黙秘する。
これに対し、犬養は動機にも目星を付けていた。
殺人者として裁かれるよりも、秘密にしておきたいこと。
それは真境名の矜持を傷付ける「医療ミス」しかない。
古手川は真境名の性格から「患者の立場から問われれば事情を明かすだろう」と推測。
敢えて鬼子母涼子がレシピエントたちを子供のように思っていたエピソードを明かし、真境名から供述を引き出す。
それは犬養の予測通り「医療ミス」であった。
真境名は摘出手術時に使用した機材にピロリ菌を混入させてしまったのだそうだ。
これにより、臓器移植後のレシピエントの容態が急変しミスが発覚することを恐れた。
其処で移植した臓器を奪うべくレシピエントたちを殺害していたらしい。
レシピエントを突き止められたのは千春の情報管理の隙を突いたようだ。
こうして事件は解決したかに思われたが……。
その数日後、真境名に面会に訪れた陽子が逮捕された。
所持品から針が検出された為である。
どうやら、面会室で窓越しに針を用いて心中を企んだようだ。
だが、陽子が逮捕されたのはそれだけが理由では無い。
陽子こそが3件にも渡る連続殺人の真犯人だったからである。
真境名は敬介を襲撃し逮捕されることで陽子を庇っていたのだ。
後に犯行を認めた陽子は動機を明かしている。
その理由はやはり「医療ミス」であった。
ただし、ピロリ菌の混入ではなく麻酔薬の取り違えにあった。
陽子が用いた麻酔薬は臓器不全を誘発しかねないものだったのだ。
とはいえ、100パーセント発生するものでもない。
それでも、何時ミスが露見するかを考えると怖くて溜まらず犯行に及んだのであった。
こうして今度こそ事件は解決した。
後日、敬介のもとを見知らぬ女性が訪れていた。
だが、不思議と敬介は相手の女性に親近感を覚えていた。
もしかして……敬介はある理由を思い浮かべつつ、その女性と語り合う。
その光景を遠くから眺める犬養と古手川。
彼らの前には敬介と涼子が居た。
そう、敬介が抱いた親近感は臓器の提供者である鬼子母の感情なのだろう。
そして、涼子も敬介に息子を見出しているのだ―――エンド。
・土曜ワイド劇場「切り裂きジャックの告白 〜刑事 犬養隼人〜 嘘を見抜く刑事VS甦る連続殺人鬼!?テレビ局を巻き込む劇場型犯罪!どんでん返しの帝王が挑む衝撃のラストとは!?」(4月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)
◆「中山七里先生」関連過去記事
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【その他】
・『連続殺人鬼カエル男』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『静おばあちゃんにおまかせ』(中山七里著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『残されたセンリツ』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 四つの謎』収録)ネタバレ書評(レビュー)
【ドラマ版】
・土曜ワイド劇場「切り裂きジャックの告白 〜刑事 犬養隼人〜 嘘を見抜く刑事VS甦る連続殺人鬼!?テレビ局を巻き込む劇場型犯罪!どんでん返しの帝王が挑む衝撃のラストとは!?」(4月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)
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