<あらすじ>
北関東の町・紅雲町(こううんちょう)で、和食器と珈琲豆の販売を営む小蔵屋(こくらや)。店はその品揃えと、店主である杉浦 草(そう)、通称「お草さん」を慕う客で、今日も賑わっている。ある時、店の周りで待ち伏せしていた怪しい男が常連の寺田に近づいてくるが、それは15年前に周囲から大金を借りて姿をくらませた同級生・大竹だった。はじめは仲間を裏切った大竹を拒否する寺田だが、お草さんによって、その裏側にやむにやまれぬ思いがあったことに気づかされて行く。さらに別の謎に、店に居座る謎の客・松井も絡んで――。
(公式HPより)
では、続きから……(一部、重複アリ)。
北関東にある紅雲町には和食器と珈琲豆の販売を営む瀟洒なお店・小蔵屋がある。
その店主は杉浦草、76歳。
常連客から通称・お草さんとして慕われる看板店主だ。
また、草はその経験を活かし様々な相談事に応じている。
結婚式の引き出物に困るお客が居れば、在庫商品同士を組み合わせた咄嗟の創意工夫でこれを助けるなどと言った具合だ。
そんなある日、草は常連客から近所のマンション「クオリティ・ライフ」についての噂を聞かされる。
何でも血塗れの幽霊が窓際に立っているのだそうだが……。
この噂を耳にした草の胸に奇妙な違和感が残った。
一方、草にとっては他にも気になることが幾つかあった。
まずは最近になって小蔵屋に出入りするようになった謎の客・松井。
他には小蔵屋の常連客の1人で運送屋の寺田と、彼の高校時代の野球部メンバーだったらしい大竹のこと。
さらに、紅雲町が生んだ著名ピアニスト・清瀬小枝子のこと。
そんな中、「クオリティ・ライフ」の住人・須賀の言葉が草の胸をざわつかせた。
須賀の下にある201号室から、何やら奇妙な音が聞こえて来るのだそうだ。
須賀によれば201号室の住人は最近になって祖母を引き取って暮らしているそうだが。
これを聞いた草は「老人虐待」との言葉を思い浮かべる。
例の幽霊も血塗れになった祖母のことだとしたら……。
居ても立っても居られなくなった草は「クオリティ・ライフ」の様子を窺うことに。
201号室の住人は小宮山というらしい。
それから草は連日の如く小宮山家を見守り始めた。
しかし、この行為が仇となり通報されてしまう。
これは瞬く間に街の噂になってしまった。
高齢の草だけに口さがない噂が飛び交う。
曰く、徘徊が始まったのではないか。
曰く、前々からその兆候はあった。
曰く、どうやら入院も近いようだ。
いや、既に入院してしまったらしい。
当然、小蔵屋の常連客もこれを耳にする。
草のもとには物見遊山と心配の客が足繁く通って来ることとなった。
とはいえ、根も葉もない噂に過ぎない。
誰しもが草の姿を確認するや、安堵の息か期待外れの溜息を吐くこととなった。
もちろん、寺田は前者である。
元気そうな草の姿にほっとした寺田はある悩みを持ち出す。
なんと、大竹が近隣で続く窃盗の容疑者として逮捕されたらしい。
だが、寺田にはどうにも信じられない。
しかも、寺田によれば大竹がある女性と密会する現場を目撃したのだそうだが……。
これを小蔵屋の隅で聞いていた松井。
「真犯人は別に居る!!」と叫ぶや店を飛び出して行ってしまう。
その翌日、大竹が小蔵屋にやって来た。
なんでも真犯人が逮捕された為に大竹は釈放されたらしい。
大竹は寺田を呼び出すと50万円を手渡す、過去に借りていた金の返済のつもりのようだ。
だが、寺田は金を受け取ろうとしない。
寺田は大竹が密会していた女性を脅迫し金を作ったと考えたのだ。
これに大竹は頭を下げると小蔵屋を後にする。
50万円入りの封筒がその場に残された。
この封筒を拾った草は小首を傾げる。
中には50万円の他に小枝子のコンサートチケットが入っていたのだ。
脅迫された人間がコンサートチケットを同封するだろうか。
ふと、大竹が岩崎楽器で働いていたことを思い出した寺田。
そう言えば、小枝子も岩崎楽器でバイトしていたと聞いたことがあった。
もしかして……と考えた草は寺田に小枝子の写真を確認させる。
すると、ドンピシャであった。
岩崎楽器に滞在中の小枝子を訪問した草と寺田。
岩崎楽器のオーナーによれば「確かに大竹も働いていたが、店の金に手を出した疑いがあり辞めて貰ったことがあった」そうだ。
どうやら、大竹はあちこちで疑われているようだ。
これを聞いた寺田は「あなたも大竹の被害者なんでしょ」と小枝子に迫る。
だが、小枝子は力強く首を横に振った。
小枝子の母は素行が悪く、小枝子は苦労して大きくなった。
そんな中、小枝子は岩崎楽器のピアノ教室の教師の計らいで海外留学が決定。
ところが、小枝子の母が岩崎楽器から売上を盗み出してしまった。
この容疑が小枝子に向かい、困った小枝子は大竹に相談。
大竹が小枝子を庇うと決意し、寺田たちから金を用意したのであった。
寺田が目撃した大竹と小枝子の密会風景は脅迫の現場ではなく、小枝子が当時を大竹に謝罪し金を返している現場だったのだ。
「無口で真面目な奴だったのに……」
真相を知り、今更ながら大竹の性格を思い出した寺田。
そう言えば、そういう奴だったのだ……大竹は。
にも拘らず大竹を疑ってしまった寺田は後悔する。
寺田は大竹を探し、彼との友情を復活させることに。
一方、謎の客・松井はそれからもたびたび小蔵屋を訪れていた。
ふと、草は自ら松井に声をかけた。
突然のことにも気さくに応じる松井。
話し込みつつ草は、店頭に並べていた「金継ぎのカップ」に松井が興味を抱いていることに気付いた。
どうやら、その「傷を持ちながらも生まれ変わった」との在り方に好感を抱いているようだ。
そんな松井の様子に何かを感じ取った草は「傷があるからこそ出来ることがある」と彼に語って聞かせる。
それから数日後、草はひょんなことから小宮山の妻・真知子と出会う。
真知子を小蔵屋に誘う草、何かに疲れた表情の真知子は縋るように付いて来た。
ところが、小蔵屋で小学生の男の子を見るなりそそくさと真知子は逃げ去ってしまう。
その男の子にそっと尋ねてみた草。
少年によれば真知子の息子と同級生なのだが、3週間も休んでいるそうだ。
連絡がつかないので心配しているらしい。
これを聞き何かを決意する草、そんな草に今度は松井が声をかける。
松井は彼が知るある女性について語り出す。
その女性は嫁ぎ先に子供を残し離婚した。
ところが、後にその子供は事故死してしまった。
これを知った女性は後悔の念に駆られながら今も生きているのだそうだ。
そう、この女性こそ草だった。
草は「やれば良かったではすまされない。今度こそ過ちは繰り返さない」と宣言する。
さらに「あなたを雇います!!」と松井に告げる草……その意味とは!?
その夜、松井を連れた草が小宮山家の前に立っていた。
草は松井に頼み込み小宮山家に忍び込んで貰うことに。
松井は慣れた様子でスルスルと小宮山家に侵入して行く。
そして、中へ消えた。
草にとって長い長い時間が過ぎた。
いや、実際はものの数分だったのだろうか。
やがて、何かを胸に抱えた松井が戻って来た。
よく見れば抱えられているのは衰弱し切った少年であった。
彼こそ、3週間も学校を休んでいる小宮山家の子供だ。
小宮山は息子に虐待を行っていたのである。
草と松井の配慮により、小宮山少年は無事に保護された。
小宮山の虐待行為は保護された小宮山少年と苦しんでいた真知子の告発により明らかとなった。
だが、この影に草と松井が居たことは誰も知らない。
松井に礼を述べ、報酬を渡そうとする草。
だが、松井はこれを固辞するや背中を向けて歩き去る。
「報酬は貰ったから」
そう、草に言い残して……。
後日、店頭でカップを確認していた草の顔が不意に綻ぶ。
あの「金継ぎのカップ」が消えて居たのだ。
なるほど、松井は確かに報酬を受け取っていたようだ―――エンド。
<感想>
文藝春秋社より刊行されている吉永南央先生「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズのドラマ化です。
シリーズには2015年4月現在時点で第1弾『萩を揺らす雨』、第2弾『その日まで』、第3弾『名もなき花の』、第4弾『糸切り』の4作が存在してます。
今回の原作は第1弾『萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ』と第2弾『その日まで』。
とはいえ、共に短編集なので実際はその中に収録された短編『紅雲町のお草』などが原作となっています。
ちなみに第1弾『萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ』はネタバレ書評(レビュー)ありますね。
・『萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ』(吉永南央著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
さて、そのドラマ版。
当初こそ些か足早にエピソードを展開し過ぎたかとも思いましたが、後半で巻き返せていたかな。
特に『紅雲町のお草』を原作とする終盤の展開は良かった。
ちなみに小宮山家の虐待事件こそ、この『紅雲町のお草』で語られたエピソード。
とはいえ、『紅雲町のお草』では泥棒の名前は明かされず、報酬の点も異なっており、此の点はアレンジが加えられていました。
このアレンジがドラマ版で上手く活かされており、今回は奏功した印象です。
まず、お分かりの通り松井は泥棒でした。
原作だと盗みの最中に草と遭遇したことから現役のようですが、ドラマ版だと引退している感じですね。
そして、此処で「金継ぎ」のエピソードが絡む。
「傷があるからこそ出来ることがある」
劇中にて松井に草が語った台詞ですが、この傷とはもちろん松井が元泥棒であること。
また、草が息子・良一を引き取らなかった為に死なせてしまったことを指します。
2人にとって、この傷があるからこそ「2度と同じ間違いを犯さない」為に「小宮山少年を救う」との挙に出ることに。
此処での間違いとは「草が良一を救えなかったこと」であり「松井が盗みに手を染めていたこと」。
だから2人は、看過することが出来ず強引とも言える手法を用いたワケです。
そして、小宮山少年を救ったことで2人が共にこれからについて自信を抱くことが出来た。
それが「松井が金継ぎを報酬として盗み出した」ことに繋がる。
いや、「盗み出した」と言うと松井が罪を反省していないことになるので「持ち出した」と評すべきか。
また、これにより松井が「金継ぎ」を持ち出したことで「小蔵屋」を再訪するつもりがない(劇中にて草が小蔵屋に来さえすれば金継ぎでコーヒーが飲めると勧めている)ことも示しています。
きっと、松井はこの小宮山少年を救った想い出を胸に街を流れて行くことになるのでしょう。
それは松井の心を強く励まし温かくするものに違いありません。
そう、草は小宮山少年を救い、真知子の苦しみを取り除き、自身の後悔についても乗り越えた上で、松井の罪をも償わせたのです。
此の点が原作よりもドラマ版の方が奏功しているとした由縁。
詳しくは原作をご覧頂きドラマ版と比較して頂きたい。
ただ、前半の寺田たちのエピソードがこの後半部分に貢献していないことで完全に独立した話になっちゃってるのが些か不満かなぁ。
出来れば小宮山家のエピソード単独で、難しいならばかなりのアレンジとなりますが寺田たちも加えた上で小宮山家のエピソードを描いて欲しかった。
とはいえ、これはこれでかなり難しくなりそうだけど。
さて、総評。
全体的に原作もかなり尊重しつつ、このレベルにまとめ上げた手法は評価すべき。
『紅雲町のお草』既読者としては、ドラマ版はかなり完成度の高い作品だったと思います。
原作はかなりストックあるし、是非、連続ドラマ化して欲しい!!
◆関連過去記事
・『萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ』(吉永南央著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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