ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
犯人はまさか、あの人!? 常識破りの結末に絶句する「探偵のいない」本格ミステリ!
四方を山と海に囲まれ、因習が残る霧ヶ町で次々と発生する奇妙な殺人事件。その謎に挑む高校生の俺は、寺の離れで何でも屋を営む人畜無害な叔父さんに相談する。毎度名推理を働かせ、穏やかに真相を解き明かす叔父さんが最後に口にする「ありえない」犯人とは! 本格ミステリ界の奇才が放つ抱腹と脱力の連作集。
(新潮社公式HPより)
<感想>
『小説新潮』にて不定期に掲載されていたシリーズ5作に書下ろし1作を加えた連作短編集。
収録作は『失くした御守』、『転校生と放火魔』、『最後の海』、『旧友』、『開かずの扉』、書下ろし『藁をも掴む』の6作品。
『失くした御守』、『転校生と放火魔』、『最後の海』、『旧友』、『開かずの扉』については過去にネタバレ書評(レビュー)しているので、今回は『藁をも掴む』の書評(レビュー)となります。
ちなみに、本シリーズは主人公である優斗とその叔父さんの活躍を描く作品。
この叔父と甥が共になかなかの非道っぷり。
叔父さんはどの短編でも暗躍。
関わり方の度合いこそ異なれど、多くの事件の原因となっていることが多い。
優斗はそんな叔父を尊敬しその後継者となりかねない資質を見せている。
そして、どの短編でも最後は微笑ましそうに終わるのだが、実はかなりの鬼畜っぷりを発揮しているのだ。
これこそが本シリーズのポイント。
でもって、やっぱり『藁をも掴む』もなかなかにスゴかった!!
まず、このタイトルの意味。
あれだったと知ったときはかなり驚愕した。
そして、なかなかに非道な叔父さんの健在ぶり。
さらに、その甥である優斗の非道っぷりときたら!!
果たして優斗は真紀と明美のどちらを屋上に呼び出していたのか?
このときに優斗に呼び出された相手こそ彼が邪魔だと思い殺害を目論んだ相手になります。
ところが、彼は事後も特に反省する素振りは無い。
つまり、彼は殺そうとした相手とも2股交際を続けるつもりだと言うことに。
果たして、彼が選んだのはどちらだったのか……この謎も気になりますね。
充分に続編も出来そうな作りだけに、続編も期待です!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
俺(優斗):主人公の男子学生。
叔父:優斗の叔父。何でも屋を営む。
武嶋陽介:優斗の幼馴染。
美雲真紀:優斗のガールフレンド。
明美:優斗の元彼女。両親の都合で都会に出ていたが『転校生と放火魔』で帰郷した。
永岡:被害者の1人。
樫原:被害者の1人。
優斗は選択を迫られていた。
真紀を選ぶのか、明美を選ぶのか―――を。
とはいえ、2人を共に愛する優斗としてはこのまま2人と並行して交際して行きたい。
だが、現実が……いや、真紀と明美本人たちがそれを許してくれそうにもない雲行きになりつつあった。
それでも、優斗自身には選ぶことなど出来そうにもない。
優斗は真紀と明美からアプローチを受けつつ、頭を抱えて日々を過ごしていた。
そんなある日のことである。
優斗は2人の女子生徒の墜死体を発見する。
どうやら、屋上から転落したらしい。
死亡したのは永岡と樫原、共にある男子生徒を巡って反目し合っていたと言う。
なんでも、樫原の彼氏を永岡が奪ったのだ。
言わば、恋敵同士である。
何故、そんな2人が転落死を遂げたのか?
屋上で争いになって転落した?
いやいや、不思議なことに屋上には1人分の足跡しか残されていなかったのである。
転落したのは2人だが屋上に居たのは1人とは、これまた不可思議だ。
この答えとして学校に伝わる七不思議の1つ、屋上の幽霊の仕業がまことしやかに囁かれるようになった。
そして、いつしか優斗の通う学校ではこの噂で持ちきりになった。
優斗はこれを耳にする内に真紀と明美に対してどう行動するかを決意した。
優斗は一方を屋上に呼び出した。
その背後に近付くとこれを突き落とそうと手を伸ばし……何者かに遮られた。
「優斗、しっかりしろ!!」
妨害者の声にハッと我に返る優斗。
目の前に立っていたのは彼が敬愛する叔父さんであった。
そして気付けば優斗は屋上へと身を乗り出しかけていたのだ。
優斗が屋上から突き落とそうとした相手は其処には居ない。
もしも、優斗が続けて居れば彼自身が転落死を遂げていただろう。
叔父さんが止めたからこそ助かったのだ。
其処に優斗が呼び出した相手がやって来た。
優斗は「急用が出来た」と相手と別れると叔父さんと帰路に就いた。
途中、優斗は叔父さんにすべてを打ち明けた。
叔父さんは笑いながらこれを聞くと「危なかったねぇ」と呟いた。
どうやら、優斗は七不思議として語られていた屋上の幽霊に騙されたようだ。
そして、叔父さんもまた驚愕の真相を語り出す。
叔父さんは永岡と樫原の死の真相を知っていたのだ。
叔父さんによれば、真相は次のようなものであった。
永岡に彼氏を奪われた樫原は報復すべく永岡の弱味を握り脅迫した。
これに危機感を募らせた永岡は樫原殺害を決意し、屋上の真下の教室に樫原を呼び出すとこれを気絶させた。
そして、屋上に1人で上がり足跡を残すとロープで真下に降りて来た。
その後、樫原を窓から突き落とそうとしたのだ。
永岡は樫原を自殺に偽装し殺害するつもりだったのだ。
其処で足跡を誤魔化す為にこのようなトリックを用いたのだろう。
ところが、此処に叔父さんが居合わせた。
叔父さんは永岡を止めようと駆け寄る。
その姿を目にした永岡は七不思議の幽霊だと誤解し恐慌状態に陥った。
結果、叔父さんの手を振り払うと自らバランスを崩し転落してしまう。
しかも、この際に藁をも掴むべく樫原にしがみつこうとして道連れにしてしまったのだ。
残されたのは叔父さん1人だけ。
叔父さんは永岡の罪を明白にすることに耐えられず、沈黙を貫くことにしたらしい。
「まったく〜〜〜叔父さんったら優しいねぇ」
自身が何を計画していたのかも忘れて、優斗は叔父と共に高らかに笑うのであった―――エンド。
【おじさんシリーズ】
・『失くした御守』(麻耶雄嵩著、新潮社『Mystery Seller(ミステリーセラー)』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『転校性と放火魔』(麻耶雄嵩著、新潮社『小説新潮 2012年02月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『最後の海』(麻耶雄嵩著、新潮社刊『小説新潮』2013年02月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『旧友』(麻耶雄嵩著、新潮社刊『小説新潮』2013年09月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『あかずの扉』(麻耶雄嵩著、新潮社刊『小説新潮』2014年2月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
◆関連過去記事
【メルカトル鮎シリーズ】
・「メルカトルかく語りき」(麻耶雄嵩著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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・「メフィスト 2010 VOL.3」より「メルカトルかく語りき 最終篇 収束」(麻耶雄嵩著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『メルカトル鮎 悪人狩り「第1話 囁くもの(メフィスト2011 vol.3掲載)」』(麻耶雄嵩著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『氷山の一角』(麻耶雄嵩著、角川書店刊『赤に捧げる殺意』収録)ネタバレ書評(レビュー)
【木更津シリーズ】
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第1話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2012年10月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第2話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2013年1月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第3話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2013年4月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第4話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2013年9月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第5話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2013年11月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第6話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2014年2月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第7話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2014年7月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第8話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2014年10月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第9話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2015年4月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
【神様シリーズ】
・『さよなら神様』(麻耶雄嵩著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【化石少女シリーズ】
・『化石少女』最終話『赤と黒』(麻耶雄嵩著、徳間書店刊『読楽』2014年1月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
【貴族探偵シリーズ】
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・『貴族探偵対女探偵』(麻耶雄嵩著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
・「隻眼の少女」(麻耶雄嵩著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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