ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
●私はなぜ殺されそうなの? おしえて、おじいさん!――というわけで、『アリス殺し』の姉妹編が本号より連載開始です
(東京創元社公式HPより)
<感想>
小林泰三先生の新作長編。
一読するなり驚きました。
「クララ」は「クララ」でも「アルプスの少女」ではなく『くるみ割り人形』の「クララ」とは!!
読む前はてっきり「クララ」、「車椅子」、「おじいさん」の3つのキーワードで「アルプスの少女」を思い浮かべていたのですが、今作のモチーフはE.T.A.ホフマン作『くるみ割り人形とねずみの王様』だと思われます。
そう、あのピョートル・チャイコフスキーによるバレエ『くるみ割り人形』の原作です。
例えば……。
ホフマン宇宙→作者ホフマンの創作世界であることを示す。
クララ→チャイコフスキー『くるみ割り人形』の主人公。原作では「マリー」。
ドロッセルマイアー→原作、バレエ共に『くるみ割り人形』ではドロッセルマイヤー。時計職人や名付け親など立場が変わる。
シュタールバウム→原作、バレエ共に『くるみ割り人形』でもシュタールバウム。クララの父親。
フリッツ→原作、バレエ共に『くるみ割り人形』でもフリッツ。クララの兄。
鼠→原作、バレエ共に『くるみ割り人形』の敵役。
でもって、未登場のくるみ割り人形の代わりがビルとなるのか?
さて、此処で注目したいのは「実はくるみ割り人形にはさまざまなバージョンが存在する」こと。
チャイコフスキーが原作とした『くるみ割り人形』は『三銃士』で知られるアレクサンドル・デュマの翻訳版を基にしています。
なので、主役の名は「クララ」。
ところが、ホフマンの原作では主役は「マリー」なのです。
さらに「マーシャ」とする場合もあるとか。
いずれにしろ、ホフマン世界にも関わらず、何故か「クララ」が登場しています。
気になったので調べてみましたが、ホフマン原作ではクララは未登場。
マリーの兄弟も姉・ルイーゼと兄・フリッツのみ。
此処では敢えて「クララ」と「マリー」に注目。
ちなみにそれ以外の登場人物の名前はほぼ共通(くるみ割り人形の正体は原作とバレエ版で異なるが……)。
すなわち、原作とバレエ版通じて1人のキャラクターに2つの名前があるのはクララのみ。
これ、アーヴァタール世界ではかなり重要なことのような……。
なにしろ「くるみ割り人形」世界の主人公が2人居るようなもの。
此の時点で次のような大仕掛が疑われます。
例えば「ホフマン世界」の「クララ」が二重人格であり「クララ」と「マリー」2つの人格を所持。
これが地球世界で2つの人格を抱えることに繋がり「露天くらら」と「???」の2人に分かたれている場合。
其処で「ホフマン世界」にて「マリー」が身体の主導権を奪うべく「地球世界」の「露天くらら」殺害を目論んだ。
「露天くらら」が死亡すれば「クララ」ではなく「マリー」を名乗ることが出来るようになるから……とか。
個人的に前作『アリス殺し』の時点で二重人格でのアーヴァタールの扱いにかなり興味があったので、今回はこれではないかなぁ……と予測してます。
さて、管理人の推理は正しいのか……注目です!!
でもって、此処からさらにポイントになりそうなのが「クララ」が「アルプスの少女」のように車椅子で生活していること。
これにより、純粋に『くるみ割り人形』がモチーフとは言い切れなくなっているのも気になるところ。
どうも、これはかなり狙った意匠のような気がする。
当然、これも驚愕のトリックに繋がりそうな予感です。
さて、此処から他にも注目すべきであろうポイントを挙げておきましょう。
まず気になるのは前作からの時系列。
白兎はもちろん、蜥蜴のビルも健在であるし、井森が王子のみハンプティ・ダンプティと理解していることから、この作品は『アリス殺し』前の出来事なのか?
それとも『アリス殺し』ラストを引き継いだ新しい世界なのか?
あるいはあくまで『アリス殺し』とは並行世界となるのか?
ビルが世界を超えたことが何を意味するのか?
前作は冒頭に大きな手掛かりが隠されていたが、今回もそうなのか?
だとすると、ビルの世界移動にヒントが?
そして何と言っても、このシリーズは地球側登場人物とアーヴァタールの繋がりがメイン。
今回も此処にトリックが隠されているのか?
1話ラストのドロッセルマイアーの表情の意味は?
まさに謎ばかり。
また第二弾だけに、先述した地球とアーヴァタールの関係性を用いた「二重人格」での「1人2役」や「2人1役」の可能性も考慮しておくべきだろう。
他にも前作自体を大きなミスリードとする可能性も。
例えば、アーヴァタールに関しても前作とは異なるルールで動いているかも。
ああ、いろいろ気になる!!
2話も見逃せそうにありません!!
ちなみにネタバレあらすじは大幅に改変しています。
どちらかと言えば、かなりライトにしました。
本作はもっとヘヴィかつブラックです。
興味のある方は本作それ自体を読むことをオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
【地球】
井森:『アリス殺し』から再登場。大学院生。アーヴァタールは蜥蜴のビル。
露天くらら:アーヴァタールはクララらしいが……。
ドロッセルマイアー:工学部教授。本人曰く「アーヴァタールはドロッセルマイアー」。
鼠:車中で焼死していた鼠。くららを襲った車に乗っていた。
【ホフマン宇宙】
蜥蜴のビル:『アルス殺し』から再登場。相変わらず場を掻き乱すことに。
クララ:ビルが出会った車椅子の少女。
ドロッセルマイアー:判事。
シュタールバウム:クララの父親。
フリッツ:クララの兄。
鼠:クララ殺しを図ったとして処刑された。
その日、蜥蜴のビルは白兎宅へと遊びに出かけて……迷子になった。
ビルの家から白兎の家はすぐ隣、迷子になったことに呆れつつビルは能天気に迷子になった理由を探る。
それよりもまず元来た道を引き返すべきなのだが、ビルは自身が論理的と信じる分析に従いさらに迷い込んでしまう。
いつしか湿地帯を抜け泥沼に嵌り、泥水で溺れ死ぬ寸前となった。
どんどんと死の淵に迫って行くビル。
だが、ビルはそれでもひたすらに突き進んだ。
やがて、水に浮くことを思いつき実行に。
プカプカと漂っていたところで何やら見知らぬ世界に辿り着いた。
ふと見れば、車椅子の少女が居る。
彼女に声をかけたビル、蜥蜴が言葉を口にしたことに驚く少女は自身をクララと名乗った。
そんなクララの背後には判事を名乗るドロッセルマイアーが立っていた。
ドロッセルマイアーによれば、此処は「ホフマン世界」。
ビルの居た世界とは別の世界らしい。
ビルは、彼に興味を抱いたドロッセルマイアーによりシュタールバウムの家へ。
シュタールバウムはクララの父であった。
ドロッセルマイアーはビルに頼みごとがあると主張。
これに反対するシュタールバウムだが、ドロッセルマイアーに頭部を分解され元に戻されると賛成の意を示す。
どうやら、いろいろといじられたらしい。
ドロッセルマイアーは相手を分解し構成を変更することで、相手を意のままにすることが出来るようだ。
さらに、クララの兄であるフリッツにも紹介されるビルだが……。
一方、地球ではビルの経験を井森がフィードバックしていた。
奇妙な感覚を味わいながら井森が大学へ登校したところ、車椅子の少女と出会う。
その少女は自身を「露天くらら」と名乗った。
どうやら、クララのアーヴァタールのようだ。
井森は彼女に導かれ、ドロッセルマイアーのもとへ。
ドロッセルマイアーは井森が通う大学の工学部教授だったのだ。
此処でドロッセルマイアーは井森に協力を求める。
何でもくららが再三にわたり命を狙われており、彼女を助けて欲しいらしい。
ドロッセルマイアーによれば犯人は「ホフマン世界」でアーヴァタールのクララを殺害することで地球世界のくらら抹殺を狙っているようだ。
現に先頃は鼠がクララに襲い掛かる事件が起こったと言う。
此の為に、地球世界のくららも鼠が原因と思われる車の事故に巻き込まれたのだそうだ。
井森はくららを見捨てては置けず、彼としてビルとして彼女を助けるよう努力することを約束する。
その第一歩として「ホフマン世界」での相棒を求めるのだが……。
これにドロッセルマイアーは何やら意味深長な表情を浮かべる。
そして、くららは不安な素振りを隠そうともしないのであった―――2話に続く。
◆「小林泰三先生」関連過去記事
【書籍関連】
・『アリス殺し』(小林泰三著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『愛玩』(小林泰三著、新潮社刊『小説新潮 2015年3月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・「ドッキリチューブ(『完全・犯罪』収録)」(小林泰三著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
・【2014年】「啓文堂書店文芸書大賞」が決定!!栄冠は小林泰三先生『アリス殺し』(東京創元社刊)に輝く!!
【関連する記事】
- 『どこかでベートーヴェン』(中山七里著、宝島社刊)
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- 『クララ殺し』最終話、第6話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.7..
- 『自殺予定日』(秋吉理香子著、東京創元社刊)
- 『タルタルステーキの罠』(近藤史恵著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.76 ..
- 『歯と胴』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)
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- 『恋人たちの汀』(倉知淳著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRU..
- 『東京帝大叡古教授』(門井慶喜著、小学館刊)
- 『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『動機』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『動機』収録)
- 『愚行録』(貫井徳郎著、東京創元社刊)
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- 『声』(松本清張著、新潮社刊『張込み』収録)
- 『黒い線』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)
- 『図書館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社刊)
- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)
【この物語はもともと、作者ホフマンが友人ユーリウス・エドゥアルト・ヒッツィヒ(ドイツ語版)の子供のために即興で作ったものであった。ヒッツィヒにはクララ、フリッツ、マリーという名の子供たちがおり、自分の娘を幼くして亡くしていたホフマンはこの子供たち、特にマリーをよく可愛がっていた。この話はマリーのためのクリスマスプレゼントとして作られたものであったらしい。】
と書かれています。
クララは現実世界にのみ存在している娘ということになりますね。
露天は恐らくラッテン(ドイツ語で鼠)でしょうから、この辺りに伏線がありそうな気がしますが。
こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!
なるほど、クララとマリーの名前の由来にも注視すべきですね。
そして、地球でのクララの苗字である「露天」がドイツ語「鼠」を意味していたとは……この符号には強い意図を感じます。
此の点も考慮に入れて本作に挑むべきですね。
遂に連載開始された『クララ殺し』、冒頭から度胆を抜かれました。
続きがとても気になる!!
またまたお邪魔します。
まだまだ情報不足なので推理のしようがないですよね。
飽くまで現実世界の情報から小説の謎にアプローチするという観点の話になりますが、名前の差違と小説の露天という名字に着目するとこんな仮説が成立するかもなどと考えてみました。
現実世界(史実)
ホフマンの友人ヒッツィヒには子供が3人いて、名前はクララ、フリッツ、マリー。
くるみ割り人形とねずみの王様(物語)
シュタールバウム家にはルイーゼ、フリッツ、マリーという名前の子供がいる。※現実世界のクララに該当する子供がルイーゼに変更されている。
ホフマンは友人ヒッツィヒの子供たちをかわいがっていたようです。
マリーを特にかわいがっていた(物語もマリーのために創作した)とされているので平等ではなかったのかもしれませんが、多少の差はあっても3人ともかわいがってはいたのでしょう。
そしてくるみ割り人形とねずみの王様はホフマンが即興で作った物語だとされているので、わざわざクララの名前だけを変えるというのは不自然な気がします。
この点に着目すると、何らかの事情がありホフマンはクララの名前を変える必要があったという考え方もできるかと思います。
例えばクララに該当するルイーゼの役回りが悪役だったとしたら、可哀想だから名前を変えようなどと考えることもあるのではないでしょうか。
そしてクララの役がねずみの王様だと仮定した場合、物語の構図にはこのような背景があるのかもしれません。
現実世界のクララ(ねずみの王様)はマリーを虐げていて、マリーに怪我をさせたりお菓子や絵本を取り上げたりしていた。虐げていた理由はホフマンに特別扱いされているマリーが妬ましかったから?
困ったマリーは兄フリッツを頼り、協力を得てクララを無力化した。さすがに暴力で解決できるような問題ではないので和解か妥協案?
物語でルイーゼ(現実世界のクララ)の出番が無い理由は、ルイーゼの正体こそがねずみの王様だったから。実際に起きた揉め事をモチーフにした物語だからクララという名前を使うのが憚られてルイーゼに変えた?
この路線で小説の謎にアプローチすると。
露天という名字はドイツ語のratten(ラッテン=英語のratに該当するドイツ語ratteの複数形)に語呂が似ているため、ねずみの軍勢と関わりがありそう。
現実世界のクララはホフマンの物語では表舞台に名前が出てこない存在なので、地球の露天くららとホフマン宇宙のクララは恐らく別人。
別人だと仮定すると、露天くららは何らかの意図がありホフマンクララに成り済ましていることになる。ホフマン宇宙でマリーがクララに変わっているのはミスリード?
成り済ましを前提とした場合、地球には現実世界のマリーに該当する本物のホフマンクララ(露天くららの妹?)が存在することになり、露天くららは自身に注意を引き付けている隙に本懐を遂げようとしている可能性がある。
露天くららの現状がホフマンクララと同じ状況になっているのは、鼠に命令してホフマンクララを襲撃させた主犯が露天くらら(ねずみの王様)だから?
襲撃計画を立案した犯人なら詳細を知っているため地球でも似た状況を演出することができる。
露天くららが車椅子に乗っているのはクライマックスで『くららが立った!?』をやるため?
小説は冒頭が記されたばかりですからどんなに飛躍した発想でも今ならまだ許されるかなということで、かなり強引な理屈をこじつけてみました。
まあ、荒唐無稽な仮説だという自覚はありますが。所詮は素人の浅知恵ですからこの程度が限界です(苦笑)。
こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!
なるほど「敢えてホフマンが登場人物の名前を現実から変えた理由」と「露天が鼠を示す」ことを重視し「露天くらら=鼠」と導いた。
其処から「露天くらら」こそが主謀者であり、彼女以外に「地球世界でのクララ」が存在し、その人物こそが「露天くらら」のターゲットではないかとの説ですね。
印象としては確かにアリです!!
特に「くららが立った!?」は作中で描写されても違和感がないほどで、設定を重視すればむしろ自然なくらいだと思います。
これで、さらに『クララ殺し』の2話目が気にかかって仕方なくなって来ましたね。
果たしてどうなる!?