2015年07月08日

『ナイフを失われた思い出の中に』(米澤穂信著、東京創元社刊『街角で謎が待っている がまくら市事件』収録)

『ナイフを失われた思い出の中に』(米澤穂信著、東京創元社刊『街角で謎が待っている がまくら市事件』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

ここ蝦蟇倉(がまくら)市では、不可能犯罪がよく起こる。廃墟や神社に死体を隠す少女、互いに秘密を抱えたまま無人の球場で会話する高校生、そして事件を追って街を訪れるルポライター。高台にあるレストランで、古書マニアが住むアパートの一室で、森の中の美術館で──。この街で起こる事件は、仕掛けと遊び心に満ちている。架空の都市を舞台に同世代の人気作家が競演する「街」の物語。(『蝦蟇倉(がまくら)市事件2』を文庫化にあたり改題) 解説=福井健太
(東京創元社公式HPより)


<感想>

本作『ナイフを失われた思い出の中に』は「ベルーフシリーズ」の1作です。
「ベルーフシリーズ」は『さよなら妖精』(東京創元社刊)に登場した太刀洗万智を主人公とするシリーズ作品のこと。

『さよなら妖精』(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

これまでに発表されている作品は、長編が『さよなら妖精』の1作、短編が『失礼、お見苦しいところを』、『恋累心中』、『ナイフを失われた思い出の中に』、『名を刻む死』の4作品。
これに2015年7月発売予定のシリーズ最新作『王とサーカス』が続きます。

「名を刻む死(ミステリーズ!vol.47掲載)」(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

そんな本作ですが特に『さよなら妖精』との繋がりが深い作品となっています。
作中でも伏線が配されラストにて明かされますが、ヨヴァノヴィチはマーヤ(『さよなら妖精』の登場人物)の兄だったんですね。
つまり、『さよなら妖精』ラストで万智に手紙を出したその人と言うことになります。

おそらく、タイトル『ナイフを失われた思い出の中に』にも2つの意味があると思われます。

まず、良和がナイフを隠した場所のこと。
此の場合、「焼失した図書館跡」が「焼失した=失われた」と「図書館跡=頭=記憶=思い出」となりそうです。

そして、万智とヨヴァノヴィチによる「失われたマーヤの思い出」を偲ぶこと。
此の場合、ナイフとは「万智が切れ味鋭く良和の心情を看破したこと」あるいは「良和が起こしたとされる痛ましい事件そのもの」を指すことになりそうです。

ちなみに、本作の舞台は『さよなら妖精』から15年後。
2015年7月発売予定のシリーズ最新作『王とサーカス』は『さよなら妖精』から10年後。
つまり、『王とサーカス』よりも5年後の出来事となります。
此の点も注目すべきでしょう。

ちなみに、未収録短編もそろそろ短編集で単行本化されないかなぁ……とファンとしては切に願うところ。

ネタバレあらすじは大幅に改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

その日、ヨヴァノヴィチは蝦蟇倉の街にやって来た。
妹の友人・太刀洗万智と会う為だ。
万智もまた蝦蟇倉を仕事の為に訪れていたのである。

万智と出会ったヨヴァノヴィチは若く見える彼女に驚く。
そんなヨヴァノヴィチに万智はあれから15年が経過していることを告げた。
実に15年、それはヨヴァノヴィチと万智にとって非常に長い時間であった。

ヨヴァノヴィチは万智を良く知る為に彼女の仕事に同行したいと申し出た。
今度は万智が驚く番だったようだが、彼女はこれを了承した。

迂闊なことに万智の仕事を知らないヨヴァノヴィチは彼女の職業を問う。
万智によれば彼女はルポライターなのだそうだ。

これに過去を思い出すヨヴァノヴィチ。
彼の母国でソレは忌むべきものであった。
何故なら、ソレは正義を標榜して現れたにも関わらず、正義を行わなかったからである。
むしろ、国をボロボロにしたのだ。

そんなヨヴァノヴィチの反応に「ジャーナリストは目である」と伝える万智。
そして、万智がソレについてどう思っているかを彼女の仕事を見て考えて欲しいと述べたのだ。
こうして、ヨヴァノヴィチは観察者となった。

万智は何か目的があるのか蝦蟇倉の街を進んで行く。
市場があれば蝦蟇倉の胃袋と紹介し、主要道路は蝦蟇倉の動脈と紹介した。
近頃、焼失してしまった図書館は街の頭脳と紹介し、街の中心部は心臓と評した。

と、此処でようやく万智が仕事の内容について語り出した。

今、万智が蝦蟇倉の街で追っているのは16歳の良和による姪・花凛の殺害事件。
その遺体は惨たらしいほどに滅多刺しだったそうである。
良和自身は蝦蟇倉の街を逃走中に逮捕されていた。
だが、凶器は依然発見されていない。

さらに詳しく事件の概要について語る万智。
当時、花凛の母で良和の姉である良子は家を3時間も空けていた。
どうやら、酒を飲んでいたようだ。
その間に良和が犯行に及んだのである。

さらに良和は手記を残していた。
それによれば花凛を殺害後、凶器を頭に突き刺したとされていた。
この手記も公開され、センセーショナルな内容として注目を集めているのだそうだ。

此処まで聞いていたヨヴァノヴィチは万智の謎かけの意味に気付いた。
ヨヴァノヴィチは焼失した図書館へと万智を誘う。

ヨヴァノヴィチは其処に未だ発見されていない凶器があると考えたのだ。
そして、実際に其処には凶器が埋まっていた。

ヨヴァノヴィチは万智が良和の手記の意味を読み解いた上で、ヒントを与えていたと指摘する。
それが蝦蟇倉の街を人体に喩えたこと。
そして、良和の手記でも凶器を頭に刺したとしていた。
それは「その場所に凶器を隠した」との良和の表明である。

此処で万智は真意を明かす。

良和は花凛殺害犯ではないのだ。
誰かを庇っているのである。
だが、彼は庇い続けることに疲れ果てている。
其処で手記と言う形で真相を明かした。
もはや早晩、自らの口で真相を告白することになるだろう。

しかし、今回の騒動はそんな良和の想像を遥かに上回っている。
悪意ある報道も行われており、良和がたとえ無実だとしても傷は深く残ることになる。
だから、それを避ける為に万智は調べる必要があったのだ。

良和は花凛殺害犯が良子だと思い込んでいる。
だから、庇ったのだ。
だが、万智が見る限り良子は犯人ではない。
むしろ、状況から良和と良子の父親こそが犯人だと見ていた。
万智はこの事実を記事にすることで良和の負担を少しでも軽くしたいと考えていたのである。

これを聞いたヨヴァノヴィチは万智の本質が15年前と変わっていないと口にする。
ヨヴァノヴィチ自身は万智を知らないが、今は亡き妹から彼女のことを聞かされていたのだ。

ヨヴァノヴィチは万智の理想を知り、彼女を認めることとした。
その上で、改めて妹の思い出話をさせて欲しいと申し出るのであった―――エンド。

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posted by 俺 at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そういえば、こんな話でしたね
ベルーフの中でこの話だけは読んだことがあるのに、内容忘れていました……
その上、本もどこにやったかわからず「王とサーカス」の前に読んでおきたいと思っていたけどどうしようと考えていたところでした(笑)
(^_^;)
おかげで内容を思い出せました
ありがとうございました
m(_ _)m

ミステリーズの次号には「王とサーカス」についてのインタビューと最新短編が、ダ・ヴィンチの9月号には「王とサーカス」についてのインタビューを含む米澤穂信特集が掲載されるそうですね
「王とサーカス」と共にそちらも購入するか悩んでいます
Posted by パンプキン at 2015年07月09日 18:10
Re:パンプキンさん

こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!

お役に立てたなら嬉しいです!!

『王とサーカス』、いよいよ発売まで2週間となりましたね。
楽しみで、楽しみで……発売日が待ち遠しい!!

そして、情報ありがとうございます!!
『ミステリーズ!』に米澤穂信先生のインタビューと新作短編が掲載されて『ダ・ヴィンチ 9月号』にもインタビューが掲載されるのですね。特に新作短編はやっぱり「ベルーフシリーズ」でしょうか。
これは……チェックせずにはいられないようです。

教えて頂き感謝です(^O^)/!!
Posted by 俺 at 2015年07月14日 21:14
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