2015年07月01日

『ミステリー・アリーナ』(深水黎一郎著、原書房刊)

『ミステリー・アリーナ』(深水黎一郎著、原書房刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、未読の方は注意!!

<あらすじ>

『最後のトリック』の著者による、多重解決の極北!
ある屋敷で起こった不可解な殺人事件、これに挑むのはいずれも腕に覚えのあるミステリ読みのプロ≠スち。
勝てば一攫千金のバトルロワイヤル、結末は真実≠ゥ!
(原書房公式HPより)


<感想>

管理人が2015年に読んだミステリの中でも間違いなく上位に位置する1冊。
また、2015年における本格ミステリシーンを代表する作品の1つと断言出来るだろう。
それくらい面白い!!

多重解決と言えば『毒入りチョコレート事件』が有名だが、本作はその正当後継者であり深化させたもの。
また、作中終盤に登場人物の言葉を借りて主張されているがテキストをリセットすることなく複数の解決を提示しながらも最終的に1つの解に辿り着くさまは素晴らしい。

それと何より、本作と作中作による入れ子構造が「叙述トリック」を補強している点がポイント。
「叙述トリック」は読者が気付かなければ効果を発揮しない。
その伏線部分を作中作に巡らせ、後に本文中で登場人物自身に指摘させることによりトリックを強調する効果を果たしているのだ。

ちなみに、本作では「叙述トリック」だと分かったところで楽しむことに差し支えは無い。
むしろ、「叙述トリック」が二転三転することにこそ妙味がある。
安心して「叙述トリックである」と声高に主張出来るのも嬉しいところだろう。

同時に本作では、登場人物たちに読者であり批評家の視点を肩代わりさせている点も特記すべきだろう。
これにより、本作は作者が注目して貰いたい点を作中でアピールすることに成功しているのである。
ある意味、本作は本作それ自体で完結していると言えよう。

読了して思い浮かべたのは同じく深水黎一郎先生による短編『ある音楽評論家の、註釈の多い死(※1)』であった。
あれも作者の意志を作中で語らせたものであったが、本作はこれをさらに発展させたとも言える。

『ある音楽評論家の、註釈の多い死(※1)』(深水黎一郎著、光文社刊『宝石 ザ ミステリー 2014冬』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

ちなみにネタバレあらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
それと意図的にですが、ある程度だけ叙述トリックについても避けてます。
とはいえ、本作をきちんと読まれた方が楽しめる筈なのでご注意ください。

<ネタバレあらすじ>

「ミステリー・アリーナ」。
それはテレビ局とミステリマニアによる殺し合いの場である。

とあるテレビ局が1年に1回だけ、10数名のミステリマニアを招聘し彼らとゲームを繰り広げる。
集められた参加者たちは局が用意したテキストを熟読し犯人当てに挑むのだ。

勝者には多額の報酬。
しかし、敗者には臓器を抜かれる死が待っている。
そして、その臓器はスポンサーとなった特権階級のもとに届けられるのだ。
しかも、その様子はリアルタイムでお茶の間に流される。
それもこれもこれが特権階級の支持により合法となったことが大きい。

これにより、テレビ局は視聴率を。
視聴者は好奇心を。
特権階級は臓器を。
それぞれ手に入れることが出来る。

それはもちろん、参加者も同じ。
勝者となった参加者には栄光と報酬が待っている筈なのだ。
しかし、これまでに勝者となった人間は1人していない。
そのすべてが敗者として屍を曝すこととなっていた……。

その数、実に100人強。
優勝賞金は繰り越されて行くばかり。
そして、今年もソレが開催された。

司会者・樺山桃太郎とアシスタント・玲華の前にはミステリマニアを名乗る精鋭14人が集結していた。
樺山は例年のように今年もテキストを提示する。
それはある館で発生した殺人事件であった。
参加者はこの犯人を指摘しなければ、生きてこの場を出ることは無いのだ。

平三郎や鞠子など登場人物が紹介される中、早くも事件が発生。
そして、早くも参加者の1人が解答権を用いて解答する……だが、誤答とみなされ画面の外へと消えて行った。
その末路は……もはや、想像するべくもない。

さらにテキストが続く中、1人、また1人と参加者たちが説得力のある解答を述べては誤答とされ退場して行く。
何故、テキストの最後まで待てないのか?
それもこれも、早押しで解答権を得られる為なのだ。
真相を看破したとみなしたマニアたちは他の参加者を出し抜こうとするが出題者のひっかけの前に消えるしかない。

遂には14人が全滅し、今年も「勝者なし」でエンディングかと思われたが……。

なんと、此処で大逆転が。
誤答の為に退場していた14人が生きてスタジオに戻って来たのだ。

これには驚く樺山桃太郎。
そんな樺山に参加者たちは主催者のルール違反を告発する。
なんと、主催者側が「参加者の人数+1通り」の解答を用意(今回の場合は15通り)し、解答を言い当てられた段階で別のシナリオにシフトしていたのである。
つまり、参加者が絶対に解答に辿り着くことはない。
初めから参加者を生きて返すつもりは無かったのだ。

例えば「鞠子」を女性の名前と思わせておく。
その後、テキストで「男性の苗字」と解釈出来るような表現を加える。
これを参加者から指摘されれば、その段階で「鞠子=男性の苗字説」のシナリオは破棄。
「鞠子は女性の名前である」としている別のシナリオが優先されるのだ。
此の時点で「男性の苗字説」を唱えた解答者は退場させられる。
もしも、最後まで指摘が無ければ「鞠子は男性の苗字でした〜〜〜」とするシナリオが正解として残るのだ。

他にも「平三郎」が「平 三郎(たいら さぶろう)」と「鈴木 平三郎(すずき へいさぶろう)」のダブルミーニングだったり、それ以外にも人とも猫ともとれる人物名を用いることでそれぞれが別のシナリオとして存在していたのである。
もちろん、これらも参加者から指摘を受けた段階で誤答として破棄される。
残れば、それが正解となる。

そして、人物関係もシナリオごとで大きく異なるようにしていたが、それぞれに伏線が配されることで「そう説明されれば納得出来ないこともない」ようなシナリオが貫かれていたのである。
まさに、シナリオ担当者の力量が問われた「悪魔のようなテキスト」だったのだ。

こうして参加者たちから思わぬ反撃を受けてたじろぐ主催者たち。
実は今回の参加者は主催者側の不正を摘発すべく送り込まれた警視庁のエリートと有志の仲間たちであった。
彼らは皆、傭兵やシステムのプロ、薬品専門家などであり、この不正を知りつつ早々に誤答し退場することで主催者側の隙を突いて局内を制圧していたのだ。

ただし、彼らには1つだけ共通点があった。
それは本当にミステリを愛していること。
だからこそ、主催者側の不正が許せずこの場に集ったのである。
そして、15人全員が協力して主催者側撲滅を図ったのだ。

だが……未だ笑いを浮かべる樺山桃太郎。
雇われ司会者に見えた彼こそ、この狂気の企画の主催者にしてシナリオ担当者その人であった。
当然、樺山には切り札が残されていたのである。

樺山は真の主催者だけが知る毒ガスのスイッチを手に参加者たちを牽制する。
此の場で彼らを殺害してしまえば、主催者の不正が明かされることは無い。

しかし、樺山は油断していた。
彼自身の告白も含めた全てが、15人によって秘密裏に運び込まれた放送機器によって外部に中継されていたのである。

逃げ道を断たれた樺山だが、それでも毒ガスのスイッチに手をかける。

……と、此処で読者諸氏は疑問に思われなかったであろうか。
参加者は14人だが、15人が協力して主催者側撲滅を図ったのだ。
残る1人は誰なのだろうか?

樺山が毒ガスのスイッチを押そうとしたその時。
まさに最後の協力者が樺山に飛び掛かった。
彼女こそ、樺山のアシスタントであった玲華だったのだ。
こうして、樺山たちは不正を暴かれ逮捕されることになった―――エンド。

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