2015年08月26日

『真実の10メートル手前』(米澤穂信著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.72 AUGUST 2015』掲載)

『真実の10メートル手前』(米澤穂信著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.72 AUGUST 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

失踪したIT企業の広報の行方を追う、太刀洗たちが目にしたものとは。シリーズ最新作
(東京創元社公式HPより)


<感想>

2015年8月時点での「ベルーフシリーズ」最新短編です。
「ベルーフシリーズ」は『さよなら妖精』(東京創元社刊)に登場した太刀洗万智を主人公とするシリーズ作品のこと。

これまでに発表されている作品は、長編が『さよなら妖精』、『王とサーカス』の2作、短編が『失礼、お見苦しいところを』、『恋累心中』、『ナイフを失われた思い出の中に』、『名を刻む死』の4作品となっていました。
これに、本作『真実の10メートル手前』が加わることとなります。
また、この5編により連作短編集が刊行予定であることも明かされています。

さて、そんな本作ですが『王とサーカス』と同じく「報道の在り方」が描かれました。

『王とサーカス』(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

ラストが重いですね、報道では何よりも重い筈の人1人の命が失われたことが僅か数行で軽く語り尽くされてしまう。
しかも、其処に真理の直接的な死因はあっても彼女を死に追いやった真の死因が述べられることは無い。
つまり、事実が淡々と報じられるも真実には届かない。
だからこそ、タイトルは『真実の10メートル手前』なのか。
同時に、真理を追い詰めたのはその報道でもあることが諧謔的です。

また、指呼の間で失われた命を指す物でもあるのでしょう。
万智たちは真理を目前にして彼女の死を止めることが出来なかった。
万智たちが真理を発見した際の距離こそが、真実から万智たちが隔てられた距離でもある。
だから「手前」なのではないでしょうか。

さらに、レンズ越しに真実に迫った藤沢がある物を見たとの描写も秀逸です。
時系列的に後となる『王とサーカス』に繋がる点でしょう。

なお、あらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
興味をお持ちの方は本作それ自体を読まれることをオススメ致します。

<ネタバレあらすじ>

当時、新聞社に勤務していた太刀洗万智はインターネット通販会社「フューチャーステア」の名物広報・早坂真理の行方を追っていた。

「フューチャーステア」は真理の兄・早坂一太が起業した新興の会社で、時流に乗り事業を拡大し遂には一部上場を果たしていた。
此処までは成功していたと言えるだろう。

ところが、出資者を募り新規事業に乗り出したところで自転車操業であることが露見し株価が下落、遂には倒産を余儀なくされてしまったのだ。
この倒産はその手際の良さから計画倒産ではないかとさえ囁かれていた。

これにより、社長である一太はもちろんのこと広報として前面に立っていた真理があらぬ誹謗中傷を受けることに。
それは真理の精神を追い詰め、一太が失踪するや続いて姿を消すとの結論に至ってしまった。

真理の妹・真弓は姉の安否を気に掛けていたのだが、本人から連絡を受けてその様子から万智に助けて欲しいと懇願した。
真弓が見たところ、真理はかなり精神的に参ってしまっており自殺を仄めかしていたのである。

そして、真弓が万智を選んだ理由―――それは真理が唯一取材記者として誠実に感じた相手が万智だったと聞いていたからである。
この人ならば何とかしてくれるのではないか……真弓は縋る想いで万智を頼ったのだ。
これを捨て置ける万智ではなかった。

其処で、支社勤務の万智では本来ありえないことなのだが無理を押して本社勤務のカメラマン・藤沢に協力を求め真理を追うことに。
手掛かりはただ1つ、真理が真弓に話した内容のみ。

例えば、移動に用いている車のタイヤのこと。
例えば、今いる土地で「うどんのようなものを食べた」こと。
例えば、言葉が上手い男性に介抱されたこと。

1つ1つは些細なことである。
だが、万智は其処にある手応えを感じていた。

例えば、タイヤのこと。
それはノーマルタイヤとスタッドレスタイヤのことを指す。
真理は降雪地域の境界に居るのだ。

例えば、「うどんのようなものを食べた」こと。
これはおそらく「ほうとう」であろう。

例えば、「言葉が上手い男性に介抱された」こと。
「言葉が上手い」との表現は「日本語が上手い」ことを意味しているのだろう。
だとすれば、相手は日本人では無い。

これらのことから万智は地元の飲食店で働く男性・フェルナンドを突き止めた。
そして、彼から真理の居る場所を聞き出したのだ。

万智たちが向かった先では、真理が車を停め何やら横たわっていた。
その距離は数十メートル、藤沢はカメラのズーム越しに真理の状態に気付いた。
全ては遅かったのだ……。

翌日、真理の自殺が大々的に報道された。
死因は排ガスによる中毒死。
だが、其処には真理を死に追いやった真の原因は述べられていない。
また、一太の行方は依然として知れず、やがて騒動は忘れ去られてしまった―――エンド。

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野性時代 第56号 62331-57 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)





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小説 野性時代 第105号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐08 (KADOKAWA文芸MOOK 107)





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