2015年08月14日

『初恋ソムリエ』(初野晴著、角川書店刊)

『初恋ソムリエ』(初野晴著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

『退出ゲーム』に続く“ハルチカ”シリーズ第2弾!
40年の時を越えた、初恋の“謎”とは?
「ダ・ヴィンチ」(2011年4月号)NEXTブレイクミステリー作家特集で大注目

廃部寸前の弱小吹奏楽部を立て直し、普門館を目指す高校2年生の穂村チカと上条ハルタ。吹奏楽経験者たちに起きた謎を解決し入部させることに成功していた2人だったが、音楽エリートの芹澤直子には断られ続けていた。ある時、芹澤の伯母が高校にやって来た。「初恋研究会」なる部に招待されたのだという。やがて伯母の初恋に秘められた、40年前のある事件が浮かび上がり……。(表題作より)
“ハルチカ”シリーズ第2弾!
(角川書店公式HPより)


<感想>

「ハルチカシリーズ」第2弾。
シリーズには他に『退出ゲーム』『空想オルガン』『千年ジュリエット』がある。
なお、いずれも連作短編集であり、タイトルは表題作となっている。

そんな『初恋ソムリエ』の収録作は表題作の他に『スプリングラフィ』『周波数は77.4MHz』『アスモデウスの視線』の4作。

ハルタ、チカなど既存のキャラクターも大活躍。
さらに前作に引き続き、新たな「ブラックリスト十傑」も登場。
躍動感溢れるキャラクターにグイグイと惹き込まれるだろう。

同時に、ポップな中にも重く深い想いを込める作風も健在。

例えば『スプリングラフィ』は「あの人の挫折」を描いており、『周波数は77.4MHz』は「大きな社会問題」、『アスモデウスの視線』は「若気の至りの重さ」を取り上げている。
そして何より『初恋ソムリエ』は当時の世相を思い起こさせる一篇。
直子の伯母と「ベンジャント」が参加していたのは「学生運動」なのでしょう。
当時はかなり激しい闘争が行われたらしいので、その中で「ベンジャント」の親しい人が巻き込まれ死亡することになり、その復讐だったものと思われます。

読後、なかなかに考えさせられることでしょう。

ちなみに、ネタバレあらすじはまとめ易いように改変しています。
あくまで雰囲気を掴むに留めて下さい。
興味をお持ちの方は本編それ自体を読まれるようオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
穂村千夏:通称・チカ。吹奏楽部に所属しフルートを担当する。
上条春太:通称・ハルタ。吹奏楽部に所属しホルンを担当する。
草壁信二郎:吹奏楽部顧問。生徒から慕われている。
片桐圭介:吹奏楽部部長。
成島美代子:オーボエ奏者。『クロスキューブ』より登場。
マレン・セイ:サックス奏者。『退出ゲーム』より登場。
後藤朱里:バストロンボーン奏者。『エレファンツ・ブレス』より登場。
芹澤直子:クラリネット奏者。『スプリングラフィ』より登場。
檜山界雄:通称・カイユ。打楽器奏者。『周波数は77.4MHz』より登場。

日野原秀一:生徒会長。『エレファンツ・ブレス』より登場。
名越俊也:演劇部部長。日野原のブラックリスト十傑の1人。
マヤ:演劇部を代表する看板女優……らしい。
萩本兄弟:発明部の兄弟。日野原のブラックリスト十傑の1人。
麻生美里:地学研究会代表。日野原のブラックリスト十傑の1人。
朝霧享:初恋研究会代表。日野原のブラックリスト十傑の1人。

堺:藤ヶ咲高校吹奏楽部の顧問、あだ名はゴリラ。
大河原:藤ヶ咲高校にやって来た教育実習生、堺の元教え子。

・『スプリングラフィ』

吹奏楽部で不審な事件が発生した。
何者かが早朝を狙って密かに部室内に出入りしているようなのだ。
チカとハルタは成り行きから犯人探しに乗り出すことに。

この犯人はあっさり判明。
なんと、代議士の娘・芹澤直子であった。
直子は資産家としても有名でプロのクラリネット奏者を目指していると専らの評判であった。
そんな、直子がどうして吹奏楽部の部室に出入りしているのか?
犯人は判明したものの、新たな謎に頭を悩ませるチカたち。

そんな中、ハルタは直子の様子からその理由に気付く。
実は直子は難聴になっており演奏家生命の危機に立たされていたのだ。
プロを望めなくなった直子だが、楽器からは離れがたく吹奏楽部に忍び込んでいた。
ところが、其処で補聴器を紛失してしまっていたのである。

つまり、前半は音楽への想いから。
後半は失くした補聴器を探す為に吹奏楽部を訪れていたのである。
これを知ったチカは補聴器を探すことで直子に恩を売り仲間にしようと目論むのだが……。

当の補聴器は誰かに踏まれたのか無惨な姿で発見。
しかも、直子自身はプロ志望であったことから吹奏楽部入りを拒否することに。

それでも諦めないチカは草壁から糸電話のヒントを貰う。
これならば補聴器が無くとも意思疎通が可能なのだ。

チカの姿に心を動かされた直子は自身ではなく在野のある人物のスカウトを奨めるのだが―――エンド。

・『周波数は77.4MHz』

成島やマレン、後藤らを加え急成長を果たした吹奏楽部。
だが、その歪が意外な形でやって来た。
成島、マレンらのレベルに折り合う打楽器奏者が必要になったのだ。
悩むチカたちだが……。

一方、生徒会長の日野原から予算増額を条件に地学研究会について調べるように依頼を受けることに。
なんでも、地学研究会の代表・麻生美里はトパーズの鉱石を発見しながら何処かに隠しているようなのだ。
美里は行動力の塊のような人柄で、過去には学内の引き籠りをスカウトし「地学研究会」を結成。
活躍の場を与えることで登校させることに成功するなど一目置かれる人物であった。
そんな彼女が隠しているのならば何か理由があるに違いない―――常の彼女ならば考えにくいその行動に日野原が興味を抱いたらしい。
こうして、チカはハルタと共に美里を追う。

一方、町内では謎のFM局「FMはごろも」が提供するラジオ番組が密かに流行していた。
若いMC・カイユと「七賢人」なる老人たちが運営する番組にはある秘密があったのだが……。

ハルタは美里が何か大きな問題を抱えているが故にトパーズの在処を明かせないと察し、それとなく打ち明けるように勧める。
これに美里が応じた。
美里がトパーズの在処を隠した理由とは驚くべきものだった。

翌日、チカとハルタは「FMはごろも」を突き止めカイユを訪ねていた。
なんと、その所在は寺であった。
そして、此処にトパーズの鉱石も眠っていたのだ。

実は「七賢人」は寺に捨てられた老人たちだった。
カイユは老人たちを密かに世話しており、家から離れられなくなっていたのである。
そして、ラジオ番組は老人たちのリハビリを兼ねたものだったのだ。

美里が珍しい鉱石を発見しながら手柄を主張できなかった理由も此処にあった。
鉱石は寺に存在したのだ。
存在を主張すれば寺に目が向き、老人たちと彼らを保護しているカイユたちの存在が明るみに出てしまう。
美里なりの配慮だったのである。

今の状態が不自然であることは当の老人たちがもっとも理解していた。
彼らはカイユと訣別し、施設に入所することに。
カイユは自身の道を歩き出す。

そして、カイユこそ直子が奨めた打楽器奏者・檜山界雄であった。
これを機にカイユは吹奏楽部入りを果たすことに―――エンド。

・『アスモデウスの視線』

カイユを加えたことで層を厚くした吹奏楽部。
順風満帆かと思いきや、顧問の草壁が体調を崩してしまった。
原因は自身が担当する教え子たちだけでなく、ライバルである藤ヶ咲高校吹奏楽部の顧問の代わりを務めたことで疲労が蓄積した為であった。

草壁を愛するハルタとチカは彼を激務から解放すべく動き出した。
その原因を取り除こうと決めたのだ。
これにカイユも加わり3人は藤ヶ崎高校へ。

そもそも草壁が駆り出されたのは藤ヶ咲高校吹奏楽部の顧問でゴリラとあだ名される堺の為。
堺が自宅謹慎との処分を受け、草壁に指導を依頼したのだ。
其処でハルタたちは堺が謹慎処分を受けた理由について探り始めた。

これに教育実習生で元堺の教え子である大河原も助勢することに。
大河原は学生時代に不良として知られており中途退学を余儀なくされていた。
この際に、最後まで大河原を庇おうとしたのが堺だったのである。
大河原は今度は自分が堺を助けようと考えたのだ。

そんな中、堺が担任するクラスで短期間に3度も席替えが行われたことが判明。
どうやらクラス委員長が席替えを提唱し、これを堺が支持したらしい。

3度に渡る座席表の変遷を目にしたハルタは何が起こっていたかを気付く。
その座席表はクラス委員長を中心に考えられたものだったのだ。
どうやら、クラス委員長は赤外線による盗撮被害を受けていたらしい。
しかも、座席の配置から考えると盗撮魔は女子生徒のようだ。

此処までは大河原も承知していた。
ところが、此処から大河原にも不可思議なことが起こる。
なんと、堺がこの犯人を庇い、その為に堺は謹慎処分を受けたのだ。
何故、堺は卑劣な犯人を庇ったのか?

当初は堺も憤りを感じており犯人宅を訪れてまで謝罪を要求したそうなのだが、その日以来、犯人を庇うような素振りを見せ始めたそうだ。
これを知らされたハルタは堺が犯人に屈するような何かを突き付けられたと考える。

教え子たちから聞かされた堺の印象として彼が原因とは思えない。
恐らく誰かを助ける為に犯人に屈したのだ。
だとすれば……ハルタがある人物に目を向ける。

その人物は大河原であった。
実は大河原の身体には不良時代の名残で刺青が残っていた。
これが盗撮時に撮影され、堺は犯人から「庇わなければ大河原の刺青をばらすぞ」と脅迫されたのだ。
真っ当に生きようとする大河原の将来を慮った堺がこの条件を呑んだ為に謹慎処分となっていたのである。

事実を知った大河原は堺を救うべく教職を諦める。
大河原の夢を奪う結果に苦い想いを抱くハルタ。

だが数日後、大河原のもとに堺から一通の手紙が届く。
其処には堺が大河原の為に実習生の席を空けていることが記されていた―――エンド。

・『初恋ソムリエ』

直子がハルタとチカに協力を求めて来た。
片桐の知人で、日野原からブラックリスト十傑に指定されている朝霧享を止めて欲しいらしい。
なんでも、直子の敬愛する伯母が今まさに朝霧に食い物にされようとしているのだそうだ。

事情の呑み込めないチカたちに直子は必死に説明を始めた。

朝霧の実家は調査会社を経営しており、中でも最近になって始めた「初恋調査」を売りにしていた。
これは「あなたの初恋の相手の近況を教えてあげますよ」とのサービスで、依頼人の初恋相手の現状を調べることが出来るのだ。

これに直子の伯母が依頼した。
ある結果を知らされた伯母であったが、その数日後に「初恋ソムリエ」を名乗る朝霧が接触して来たらしい。
朝霧は「あなたの初恋を鑑定します」と甘言を囁きつつ、直子の伯母に何やら吹き込んだのだ。
以来、直子の伯母は何かをずっと考えているのだそうだ。

そして、今日もまた朝霧と伯母が接触しているようなのだ。
直子に引き摺られるように協力することとなったチカとハルタ。

早速、朝霧のもとへ向かってみると直子の伯母がおにぎりを食べて「これは違う……」と愕然としていた。
直子の伯母によれば、朝霧からある可能性を伝えられた為に確認しているらしい。
朝霧は「塩が違う」と洩らすが……。

直子の伯母によれば、彼女の初恋は大学生時代のこと。
当時の彼女は森を守る仲間と共に戦っており、その中に初恋の相手が居たのである。

初恋の人は「エスペラント語」で仲間を呼んでおり、自身を「ベンジャント」、伯母を「ポウラステロ」と名付けていた。
仲間たちは武闘派であったが、温厚であった伯母と「ベンジャント」は共に食料係となっておにぎりを差し入れていたと言う。
中でも「ベンジャント」が握るおにぎりは「士気が高まる」として好評であったが、伯母が握るおにぎりは不評であった。

そんなある日のこと、直子の伯母はその秘訣を探るべく「ベンジャント」が握ったおにぎりを口にした。
ところが、その現場を「ベンジャント」に見咎められてしまった。
彼は悪鬼のように伯母を怒鳴り付け、挙句に首まで絞めた。
遂には仲間にあらぬことを言い付け、グループから追放してしまったのだそうだ。

それは伯母にとって辛い初恋であった。
そして現在、朝霧は「ベンジャント」が作ったと思われる当時のおにぎりを再現した。
しかし、直子は口にするなり「違う」と断言していた。
その原因は朝霧によれば「塩」にあるらしい。
果たして、その意味とは!?

その翌日、チカたちはまたも直子に呼び出された。
直子の伯母が動き出したのだ。
直子は「伯母がベンジャントに会いに行ったに違いない。伯母を助けなければ」と朝霧を加えてこれを追うことに。

ところが、伯母が向かった先は墓所であった。
「ベンジャント」は既に故人となっていたのである。

此処で朝霧から驚くべき事実が明かされた。
ベンジャントだけではなく、当時のメンバーは皆同じ病気で死亡していたのだ。
そして、その原因こそが「塩」にあった。

グループ内で「士気が高まる」とされていたベンジャントのおにぎり。
その「士気」は「死期」に通ずる。
ベンジャントは彼のおにぎりに「工業塩」を用い、後年に死病を患うように仕組んでいた。
つまり、ベンジャントがグループに毒を盛っていたのだ。

そして「ポウラステロ」こと伯母がそれを口にした途端に激怒し首を絞めた。
これは伯母に食べさせないようにした為。
遂には伯母をグループから遠ざけるべく追放したのだ。

此処でハルタが「エスペラント語」について語り出した。
「ベンジャント」は「復讐者」を意味し、当時「ベンジャント」が名付けた他のメンバーは「殺人者」や「裏切者」など忌むべき名で呼ばれていた。
「ベンジャント」は復讐の為にグループに入り込み、毒を盛り続けたのだ。
おそらく「ベンジャント」の過去と無関係ではないだろう。

そんな中、「ポウラステロ」は「汚れなき星」との意味であった。
「ベンジャント」は伯母を愛し、汚れたグループの活動から伯母を守ろうと追放したのだ。

「ベンジャント」の真意を知った直子の伯母は涙する。
そんな伯母の姿を目にした直子は、チカたちの恩に報いるべく遂に吹奏楽部入りを決意することに―――エンド。

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