ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
あの日々のきらめきを閉じ込めた、笑って泣ける青春ミステリ!!
清水南高校、文化祭間近。晴の舞台を前に、吹奏楽部の元気少女・穂村チカと、残念系美少年の上条ハルタも、練習に力が入る。そんな中、チカとハルタの憧れのひと、草壁先生に女性の来客が。奇抜な格好だが音楽センスは抜群な彼女と、先生が共有する謎とは?(「エデンの谷」)ほか、文化祭で巻き起こる、笑って泣ける事件の数々。頭脳派ハルタと行動派チカは謎を解けるのか? 青春ミステリの必読書、“ハルチカ”シリーズ第4弾!
(角川書店公式HPより)
<感想>
「ハルチカシリーズ」第4弾。
シリーズには他に『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』『空想オルガン』『惑星カロン』がある。
なお、いずれも連作短編集であり、タイトルは表題作となっている。
そんな『千年ジュリエット』の収録作は表題作の他に『エデンの谷』『失踪ヘビーロッカー』『決闘戯曲』の4作。
本作では文化祭を舞台に様々な事件が発生。
それをお馴染みのハルタとチカが解決して行く。
そして、本作の表紙はマレン。
それもその筈、『千年ジュリエット』では彼がキーキャラに。
他にも個性的な新キャラが続々登場しストーリーを盛り上げます。
『失踪ヘビーロッカー』から登場した甲田は『千年ジュリエット』にて失恋を体験することに。
『エデンの谷』から登場した真琴は吹奏楽部の指導を手伝いつつ『千年ジュリエット』で弾き語りとして登場。
また、「ブラックリスト十傑」もたびたび登場し大活躍!!
そんな本作の白眉は『決闘戯曲』。
何と言っても、あの結論には驚かされた。
まさかの「蒲田行進曲」が活きて来るのだものなぁ……。
これについては『決闘戯曲』ネタバレあらすじ後の補足をご覧になられたし。
そして、表題作である『千年ジュリエット』もなかなかに凄い。
トモの秘密に繋がる伏線がかなり巧みに配されている。
例えば「マフラー」や「マヤの態度」、他には「甲田が一目惚れしたこと」も挙げられるか。
甲田の恋は破れるものと決まっているのです。
そして、トモと心を通わせるハルタ。
同じ立場として感じるものがあったのだろうか。
其処にあの花火の黒玉エピソードが重ねられることでマイノリティの切なさが胸に来る。
同時に、ポップな中にも重く深い想いを込める作風も健在。
これは『エデンの谷』と『千年ジュリエット』に顕著ですね。
それにしても、山辺の弟子は草壁、真琴、遠野も何等かの事情を抱えてしまうなぁ……。
それほど、その世界が厳しいということか。
読後、なかなかに考えさせられることでしょう。
ちなみに、ネタバレあらすじはまとめ易いように改変しています。
あくまで雰囲気を掴むに留めて下さい。
興味をお持ちの方は本編それ自体を読まれるようオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
穂村千夏:通称・チカ。吹奏楽部に所属しフルートを担当する。
上条春太:通称・ハルタ。吹奏楽部に所属しホルンを担当する。
草壁信二郎:吹奏楽部顧問。生徒から慕われている。
片桐圭介:吹奏楽部部長。
成島美代子:オーボエ奏者。『クロスキューブ』より登場。
マレン・セイ:サックス奏者。『退出ゲーム』より登場。
後藤朱里:バストロンボーン奏者。『エレファンツ・ブレス』より登場。
芹澤直子:クラリネット奏者。『スプリングラフィ』より登場。
檜山界雄:通称・カイユ。打楽器奏者。『周波数は77.4MHz』より登場。
日野原秀一:生徒会長。『エレファンツ・ブレス』より登場。
名越俊也:演劇部部長。日野原のブラックリスト十傑の1人。
マヤ:演劇部を代表する看板女優……らしい。
萩本兄弟:発明部の兄弟。日野原のブラックリスト十傑の1人。
麻生美里:地学研究会代表。日野原のブラックリスト十傑の1人。
朝霧享:初恋研究会代表。日野原のブラックリスト十傑の1人。
堺:藤ヶ咲高校吹奏楽部の顧問、あだ名はゴリラ。
大河原:藤ヶ咲高校にやって来た教育実習生、堺の元教え子。
渡邊:草壁の過去を知るジャーナリストと思われていたが……。『ジャバウォックの鑑札』に登場。
上条南風:ハルタの姉、上条家の長女。『ヴァナキュラー・モダニズム』に登場。
上条つぐみ:ハルタの姉、上条家の次女。『ヴァナキュラー・モダニズム』に名前だけ登場。
上条冬菜:ハルタの姉、上条家の三女。『ヴァナキュラー・モダニズム』に名前だけ登場。
天野:大家の孫娘。『ヴァナキュラー・モダニズム』に登場。
ナナコ:清新女子高校吹奏楽部のメンバー。『十の秘密』に登場。
遠野:清新女子高校吹奏楽部のメンバー。アルコール中毒、『十の秘密』に登場。
孝志:オルガンおじさんの親友。『空想オルガン』に登場。
マンボウ:振込詐欺グループの黒幕。『空想オルガン』に登場。
ガクシャ:振込詐欺グループの一員。『空想オルガン』に登場。
ボーボ:振込詐欺グループの一員。あまり向いていないようだ。『空想オルガン』に登場。
・新キャラたち。
山辺真琴:草壁の師・山辺の孫娘。天才ピアニストとして将来を嘱望されていたが……。『エデンの谷』より登場。
甲田:アメリカ民謡研究会のメンバー。『失踪ヘビーロッカー』より登場。
清春:アメリカ民謡研究会のメンバー。『失踪ヘビーロッカー』より登場。
大塚:演劇部のメンバー。『決闘戯曲』より登場。
新垣智子:ジュリエットの秘書・はごろも支部のメンバー。『千年ジュリエット』に登場。
柏原智之:???
・『エデンの谷』
芹澤直子を仲間に加え再始動した吹奏楽部。
そんな吹奏楽部に来客が。
現れたのは女性スナフキン。
彼女は直子のピアノに挑戦的な態度を取り、これと対決。
ピアニカを用いてあっさりと降してしまう。
ピアノが直子の専門では無いとはいえ、只者ではない。
それもその筈、彼女こそ草壁の師である故・山辺の孫娘の真琴であった。
真琴はピアノの天才少女と称されていたが、草壁と同じく突然姿を消してしまっていた。
真琴が吹奏楽部にやって来たのは草壁に会う為らしいが……。
そんな真琴を追って生徒会長の日野原も登場。
日野原によれば、真琴は町内でピアニカの買取を行ったとのことで来る文化祭に寄付を求めたのだ。
真琴に興味を抱く日野原により、ハルタとチカは真琴の事情を調べることに。
すると、山辺家の金銭問題が判明する。
どうやら、真琴の父には放蕩癖があり金策の為に山辺が所持していた遺産のピアノを売却したいらしい。
ところが、ピアノの権利は草壁と真琴の2人が管理しており許可を取ろうとしていたようだ。
さらに、ピアノの鍵盤を施錠した鍵が見つからず、この在処を真琴に尋ねたがっていたのである。
其処で草壁が間に立って進めていたのだ。
しかし、真琴は鍵の在処を知らないと主張。
だが、山辺は鍵を真琴に預けたと遺言していたと言う。
これは一体、どうしたことか?
真琴はあり得るとすれば……と1台のピアニカを差し出す。
それは山辺からの唯一の贈り物らしい。
だが、分解してみたところで鍵は見当たらない。
巻き込まれ、この謎に挑むこととなったハルタとチカ。
ハルタは天才ピアノ少女であった真琴がピアニストを辞めた理由を「視力を失いつつあるため」と看破。
スナフキン姿も相手から遠目でも確認し易いように配慮されたものであった。
だとすれば……と、ハルタはピアニカに仕掛けられた点字を解読する。
すると、其処には「鍵、無くした」と書かれていたのだ。
絶句するハルタたち、大笑いする真琴。
さらに後日、当のピアノの鍵盤がピアニカに移植されていたことが判明し山辺が不器用なりに真琴を愛していたことが明らかとなるのであった。
この騒動を経て、真琴は吹奏楽部の指導を引き受けることに。
また、ハルタの姉たちと飲み屋で出会った真琴は上条家に居候を始めるのだが……別の話である―――エンド。
・『失踪ヘビーロッカー』
文化祭当日、吹奏楽部の演奏を前に出番を控えたアメリカ民謡研究会で大騒動が勃発。
実はアメリカ民謡研究会はその名に反してヘビーロッカーを好むサークルだったのだが、ボーカルの甲田が何時まで経っても現れないのだ。
不思議なことにタクシーで正門まで来たにも関わらず、降りることなく何処かへ行ってしまったらしい。
困り果てるアメリカ民謡研究会のメンバー・清春。
これに手を貸すことにしたハルタとチカは甲田が演奏に来られない理由を突き止める。
実は甲田は玩具の蛇を先輩に借りて舞台で使用するつもりだったのだが、その中に本物が混ざっていたのだ。
しかも、これをタクシー内で当の先輩から電話で知らされた。
おそるおそる見てみると、蛇が居ない。
どうやら、タクシー内で逃げられてしまったようだ。
学校に着いても大騒ぎになりかねない。
かといって放置するワケにもいかない。
其処で甲田は対応策を練るべく時間を稼ごうとタクシーを延々と走らせていたのである。
これに気付いたハルタらは甲田に助言を施した。
こうして、罠により蛇は無事に確保することができ、甲田は無事に出番を迎えることとなったのだ―――エンド。
・『決闘戯曲』
文化祭当日、演劇部長の名越から特別部員のハルタとチカにSOSが届く。
別段、特別部員になった覚えはないハルタとチカだが巻き込まれることに。
名越によれば当日の出し物の脚本を担当していた大塚が逃げ出してしまい困っていると言う。
実は大塚の脚本には結末が無く上演出来ないのだ。
その演目は時を超えた大塚一族3代による決闘戯曲らしい。
大塚一族は時代時代に決闘を挑まれ、それに生き残ったのだ。
だが、大塚一族は片目と片手にハンデを負っていた。
そして、相手はその時々に名を売った凄腕たち。
それでも、大塚一族が生き残った理由は何か!?
そんな舞台なのだそうだ。
以前に大塚が語っていたところによれば「驚天動地」の結末なのだそうだが……。
困り果てた名越の提案でハルタとチカが結末を推理することとなった。
こうして、演劇部のメンバーを交え推理を開始する。
どの時代でも、決闘は銃によるもので背中合わせに立ち、号令と共に数歩進んで振り返りながら撃つとのルールである。
ハルタは大塚の脚本から次の3つのポイントを指摘する。
それが大塚一族を生き残らせたものなのだ。
1.決闘の勝敗は「相手を殺す」ことではなく「大塚が生き残る」こと。
2.何故か、背中合わせに立つ際の方角が定められていた。
3.場所の指定も大塚が行った。
これからハルタは大塚が予定していた結末を見抜く。
だが、大塚が思い描いた結末を演じるにはある道具が不足しておりその調達に姿を消したのだろう。
ほぼ同じ頃、当の大塚がトラックで学園に戻って来た。
荷台には「演劇用の階段」が積まれていた―――エンド。
管理人による補足:つまり、大塚一族は階段上を舞台に指定し敵対者と背中合わせで決闘を開始。
この際に方角を定めたことで大塚一族は数歩進むうちに階段を下りることになる。
相手が如何に凄腕であろうとも振り返ったときには、標的は階段の角度により視界の外なのだ。
当然、直線で飛ぶ弾丸は当たらないのである。
大塚の勝利条件は「生き残ること」なので、これで勝利できる。
また、あらすじからは省略したが、本作では「蒲田行進曲」の名が登場していた。
「蒲田行進曲」は「階段落ち」で有名、これを示唆することで「舞台用の階段を利用する」ことを示していた。
・『千年ジュリエット』
文化祭当日、女子用制服に身を包んだトモが学園を訪れた。
トモの目的は初恋の相手・マレンに逢うことであった。
恋愛相談に乗る「ジュリエットの秘書 はごろも支部」をトモたちが開設したのは少し前のことだ。
トモたちは難病を患い余命幾許もない状態であった。
だから、少しでも生きた痕跡を残そうとしたのだ。
初期メンバーは5人。
だが、時間と共に1人、また1人とメンバーは退席して行った……。
ふと、恐怖を覚え首に巻いたマフラーを掴むトモ。
それでも勇気を出して、見知らぬ学園に飛び込んで行く。
マレンを求めるトモだが学園は広い。
ブラックリスト十傑や海賊のコスプレをした男性と遭遇し、初日に会うことは叶わなかった。
その一方、トモを目にした甲田は一目惚れし彼女に懸賞金をかける。
意を決して2日目。
校内を歩き回るトモは甲田の懸賞金がきっかけでハルタとチカに捕まってしまう。
ところが、ハルタは此処で甲田の恋があっさりと破れたことに気付いた。
トモは男性だったのだ。
だからこそ、マフラーで咽喉仏を隠していたのである。
トモの本名は柏原智之。
智之は男性の身体に女性の心を持っていた。
好奇の視線に耐え兼ねた智之は引き籠りになってしまう。
そんな智之は新垣智子と親友関係にあった。
この智子こそが「ジュリエットの秘書 はごろも支部」のメンバー。
そして智子の初恋の相手こそマレンだったのだ。
智子は病気と戦ったが儚く世を去った。
其処で残った智之が智子に代わりトモとしてマレンに会いに来たのであった。
そして、智之は既に目的を達していたのだ。
海賊のコスプレをしていた男性こそ、マレンだったのだ。
そんな中、文化祭は終わりを告げる。
日野原は文化祭の売上を用い、花火を決行。
空に散る花火を目にしつつ、ハルタは何処か自身に通じる智之に微笑むのであった―――エンド。
◆関連過去記事
・『退出ゲーム』(初野晴著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『初恋ソムリエ』(初野晴著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『空想オルガン』(初野晴著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
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