2015年09月10日

『クリーピー』(前川裕著、光文社刊)

『クリーピー』(前川裕著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)です!!

ネタバレあります!!注意!!

<あらすじ>

大学で犯罪心理学を教える高倉は、妻と二人、一戸建てに暮らす。ある日、刑事・野上から一家失踪事件の分析を依頼されたのを契機として、周囲で事件が頻発する。野上の失踪、学生同士のトラブル、出火した向かいの家の焼死体。だがそれらも、本当の恐怖の発端でしかなかった。「奇妙な隣人」への疑惑と不安が押し寄せる、第15回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
(光文社公式HPより)


<感想>

光文社さん主催「第15回日本ミステリー文学大賞新人賞」の受賞作品。

タイトル『クリーピー』の意味は「ぞっとするさま、ぞくぞくするさま」を示す。
そんな本作は、まさにタイトル通り。
様々な登場人物が並行して描かれることで読者を困惑させ、作中の高倉と同じく不安に追いやります。
そして暴かれる意外な人間関係。
結果、背筋が凍るような衝撃を受けることに。

果たして「隣人の正体」とは!?
ジェットコースターのような展開に酔うべし!!

ちなみにネタバレあらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
高倉:大学で教鞭を執る犯罪心理学者。
園子:著名なピアニスト、高倉の同級生。
野上:刑事、高倉の同級生。
西野:高倉の隣人。
西野澪:西野の娘だそうだが……。
田中母娘:高倉家の向かいに暮らす母娘。
矢島:野上の異母兄。
燐子:高倉の教え子の1人。高倉に好意を寄せる。
大河原:高倉の教え子の1人。
谷本:野上について調べる刑事。
河合優:園子の養女。


大学で教鞭を執る犯罪心理学者・高倉。
妻との夫婦仲も良く、教え子からの信頼も厚い。

そんなある日、高倉は高校時代の同級生・野上からある依頼を受ける。
野上は刑事となっており、ある一家失踪事件を調べているらしい。
其処で分析を頼まれたのだ。

高倉は旧交を温めるうちに、野上が同じく同級生で著名なピアニストでもあった園子と離婚したことを知る。

同じ頃、高倉家の隣に西野一家が引っ越してきた。
西野家は親子3人家族、西野夫妻の間に娘・澪が居た。
何処か無表情な澪を気に掛ける高倉。

一方、大学では教え子の1人・燐子からストーカー被害について相談を受ける。
何でも同じ教え子の大河原から執拗に交際を迫られているらしい。

矢先、野上が姿を消した。
次いで、高倉の向かいに住む田中家が焼失する。
焼け跡からは3人の遺体が発見された。
田中家は母娘の2人暮らし、残る1人は謎とされたのだが……。

そんな中、高倉は西野家に不審な点を発見。
主人である西野は家族では無かったのだ。
西野は全く自身と無関係な母娘を支配し勝手に家族として暮らしていたのである。
しかも、用が無くなれば相手を殺す連続殺人犯であった。
野上が追っていたのも彼だったのだ。

直後、西野は澪を連れ去り逃亡。
その後、謎の焼死体が野上のものと判明する。

当初は野上が田中母娘を殺害し焼死したと思われたが、野上の死因が射殺であったこと。
また、野上のものとされる遺書が発見され状況は一変する。

それによると、西野を騙っていた男の正体は野上の異母兄・矢島らしい。
矢島はこれまでにも西野家と同様のことを繰り返していたのだそうだ。
高倉が分析依頼を受けた事件も矢島の犯行であった。
野上は異母兄の悪行を許せず、これを止める為に対決すると記されていた。

矢島が逃亡し野上が死亡していることから、野上は此の対決に敗れたものと思われた。
田中母娘はこの対決に巻き込まれたのだろう。

一方、燐子は大河原からのメール被害に頭を悩ませ高倉に対処を依頼する。
燐子は高倉に好意を寄せていた。
無下にも出来なかった高倉は大河原と対決するのだが……。

大河原はメールに覚えがないと主張する。
どうやら、何者かが大河原に成り済ましていたようだ。
心当たりを尋ねたところ、最近になって隣に引っ越してきた男性に燐子のメールアドレスを教えたと言う。

早速、男を問い詰めたのだが……その男こそ逃亡中の矢島であった。
矢島は高倉に意趣返しを目論んで居たのだ。
大河原は矢島に殺害されてしまう。

それから数年の月日が経過した。
大河原の死に責任を感じ大学を退職した高倉は別の大学に勤めていた。
燐子はあの事件の後も高倉を慕っていたが、高倉が妻一筋であったことで別の男性と結婚している。

と、園子の養女で新進気鋭の若手ピアニストである河合優を目にした高倉はある確信を抱く。
矢島と共に消えた澪が其処に居たのだ。
同時に矢島がどうして未だに逮捕されないかにも気付いた―――協力者が居たのだ。

当時、野上を調べていた谷本から得た情報を組み合わせ、高倉はある仮説を胸に園子のもとへ赴く。
その仮説とは野上のものとされた遺書が別の人物によって偽造された物であること。
ただし、その内容は正しいに違いない。
そう、野上の遺書を偽造したのは彼を良く知る元妻・園子だったのだ。

では何故、園子が遺書を偽造する必要があったか。
彼女こそが野上を殺したからである。
そして、それを知る矢島を匿っているのだ。
だから、澪を養女にし優としてピアニストにしたのだろう。

これを認める園子。
園子によれば、野上は女癖が悪く苦しんでいたらしい。
しかし、園子は野上を愛していた。
其処で野上が矢島と対決する為に拳銃を所持していると知り、これで野上を射殺してしまったのだ。

ところが、この事実を矢島に知られた。
取引をもちかけられ矢島を匿ったのだ。

もっとも、当の矢島だが既に此の世の人では無い。
園子が澪を救うべく毒殺したのである。
そして今では、園子は澪と共に仲睦まじい親子として暮らしているのだ。

これを知った高倉は真実を敢えて明かさない道を選ぶのであった―――エンド。

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