2015年08月21日

昔話法廷「“三匹のこぶた”裁判」(8月10日放送)ネタバレ批評(レビュー)

昔話法廷「“三匹のこぶた”裁判」(8月10日放送)ネタバレ批評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

「三匹のこぶた」「カチカチ山」そして「白雪姫」。昔話の登場人物を裁判にかける前代未聞の法廷ドラマ!第1話は「三匹のこぶた」。三男こぶたが、煙突から侵入したオオカミを、お湯が煮えたぎる大鍋に閉じ込め殺害した。それは、自分の身を守るための正当防衛だったのか?それとも用意周到に準備をした上の計画的犯行だったのか?証人には、殺されたオオカミの母親や長男こぶたが登場。
出演:木南晴夏、加藤虎ノ介、小芝風花ほか
(公式HPより)


では、続きから……(一部、重複あり)

「三匹のこぶた裁判」が開廷された。
この裁判で扱うのは「こぶた三兄弟によるオオカミ殺害事件」。
そして、争われるのは「率先した殺意の有無」―――すなわち「正当防衛か否か」である。
被害者はオオカミ、被告人はこぶた三兄弟の三男・トン三郎だ。

検察側の冒頭陳述によれば「トン三郎宅にオオカミが煙突から侵入。ところが、これをトン三郎たちが待ち構えており真下に用意してあったお湯が煮えたぎった大鍋に閉じ込め煮殺した」らしい。
検察側は「計画的犯行」を主張。
これに対し、弁護側は「あくまで緊急避難的な正当防衛」を唱え真っ向から対立する。

この裁判では検察側と弁護側は以下の立証に奔走した。
検察側は「トン三郎によるオオカミへの殺意の有無。また、その犯行が計画的であること」。
弁護側は「トン三郎にオオカミへの殺意が無かったこと。また、その犯行は身を守る為に仕方が無かったこと」。

まず、証言台に立ったのは被害者遺族であるオオカミの母親だ。
オオカミの母は涙ながらに息子の無念を訴え、トン三郎の非道を叫ぶ。

犯行当日、オオカミのカレンダーに「3時 豚肉パーティー トン三郎の家」とのメモを見つけたオオカミ母。
不安になってトン三郎宅へ様子を見に行ったところ、あろうことか息子が煮詰められている現場を目撃してしまったと言う。
しかも、この際にトン三郎は「オオカミの正しい殺し方」なる本を手にしていたのだそうだ。

これが事実ならば次のようなことが考えられる。

1.カレンダーのメモから、トン三郎がオオカミを呼び出した。
2.トン三郎が手にしていた本から、彼には初めから殺意があったことが証明出来る。

と、此処で弁護側が反対尋問を行う。
論じるポイントは先の2点だ。

まず、弁護人はオオカミ母が目撃した本のタイトルは「オオカミの正しい殺し方」ではなく「折り紙の楽しい折り方」であると指摘。
次いで、カレンダーのメモも「オオカミがトン三郎に呼び出された」のではなく「オオカミがトン三郎を食い殺すべく予定をメモしていたこと」の証拠だと述べた。

これが事実ならば、オオカミのトン三郎への害意は明らかでトン三郎が身を守る為に抵抗しなければならなかったことの有力な証拠となるだろう。

此処でトン三郎の兄であるトン一郎とトン二郎が証言台に。
2人はオオカミに受けた被害について語り、もしもトン三郎がオオカミを鍋で煮殺さなければ酷い目に遭っただろうと述べる。

これに検察側の反対尋問が行われる。
大鍋の蓋の重石に使った漬物石を持ち出した検察側は「これは到底、1人では扱えないもの」と主張。
すなわち、三兄弟で連携の必要があり計画的な犯行でなければ殺害は不可能だったと断じる。
実際の犯行方法から疑問点を指摘したのである。

そして、遂に被告人であるトン三郎が証言台へ。
トン三郎はオオカミに襲われた際の恐怖を赤裸々に述べ「やらなければやられていた」と主張。
あくまで「正当防衛」を訴えた。

これに対し、検察側はトン三郎が犯行の数日前に凶器となった大鍋を購入していた点を指摘。
さらに、都合よくお湯を沸かしていたことと併せて「計画的犯行」と結論付けた。

さて、あなたはトン三郎の犯行は「正当防衛」か「否」か、どう思いますか―――エンド。

<感想>

おとぎ話世界をモチーフにしながらも裁判の本質をリアルに描いたドラマでした。

誰もが知る『三匹のこぶた』の物語。
それ故に視聴者はオオカミの暴虐と、これに対抗しようとした子豚の殺意を知っています。
オオカミは子豚を食い殺すつもりでしたし、子豚はこれを返り討ちにするつもりでした。
「正当防衛か否か」の結論で言えば……明らかでしょう。

言わば視聴者は「神」の視点に立っており、真相を全て見通している状態。
ところが、その状態ですら次々と出て来る新証拠や新証言に翻弄されました。

そう、真相を知っている視聴者でさえも困惑してしまうのです。
これが実際に何も知らずに裁判員の席に座っていたとしたら……。

現実は物語と異なり結末を先に知ることは出来ません。
それこそ、本作の結末が曖昧であるように。
結果、もしかするとあなたは「真実とは違う事実」を「真実」だと認めてしまうかもしれません。
そんな「裁判員の難しさ」や「責任の重さ」を痛感する番組でした。

また、「裁判員の難しさ」を説明する上で「イチから設定を説明する必要がないように、誰もが知る童話を設定に据えたのも特筆すべき点」でしょう。
此の点、とても分かりやすく為になるドラマだと言えそうです。

同時に、本作は上質な「リドル・ストーリー」でもある。
「リドル・ストーリー」とは芥川龍之介『藪の中』やストックトン『女か虎か』のように「敢えて結末を明かさずに読者(視聴者)に結末を委ねる物語」ですが、本作がまさにソレ。

可能性を純粋に物語として楽しむことも出来る、それが「リドル・ストーリー」。
「リドル・ストーリー」に興味がある方は山口雅也先生による『謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル)』(早川書房刊)がオススメです。
中でも『異版 女か虎か』が面白いので読んでみてください。

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