2015年08月29日

『私という名の変奏曲』(連城三紀彦著、文藝春秋社刊)

『私という名の変奏曲』(連城三紀彦著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)あります。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

十八歳の時に交通事故で顔に大怪我を負い、美容整形手術を受けて完璧な美貌を手に入れて世界的ファッションモデルにまでのし上がった美織レイ子が死んだ。整形後の人生の中でレイ子は七人の男女を憎んできたが、その七人もまた彼女を殺す動機を持っており、しかも全員が、「美織レイ子を殺したのは自分だ」と信じていた!? ミステリー史上でも出色のヒロインをめぐる目くるめく愛憎劇を描き切ったその超絶技巧は、帯にいただいた綾辻行人さんの言葉どおり、「まさに連城流、並ぶものなし」です。
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>

美織レイ子が何者かに殺害された。
彼女を殺した犯人は7人の男女。
だが、7人は7人ともに「自分こそが彼女を殺した」と確信している。
もちろん、レイ子はただ1人。
果たして、如何にしてレイ子はこれを成功させたのか!?

そんな不可能状況に真っ向から挑んだのが本作です。

何と言っても本作の特徴は先述の不可能状況。
その奇想と共に、これを成立させた構成の巧みさが素晴らしい。
情報の出し方が上手いのです!!

序盤に「誰か」の章で「謎とされた7人目」の正体が「あの人」であることが分かったかと思いきや、当の「あの人」すら思いも寄らぬ秘密が隠されていた。
読者は次々と明かされて行く事実と、それにより新たに生ずる謎に溺れて行くことに。
気付けば、どっぷり物語の世界に嵌っているとの寸法。
まさに技巧派と呼ぶ相応しい作品でしょう。

ただ、幾つか気になる点はありますね。
例えば、レイ子の目論見通りだと犯人だと思い込んでいる7人が7人ともにアリバイ工作の為に15日に留守電吹込をしてしまう。
だとすると、レイ子からの電話が7件も重なるから極めて不自然。
もちろん、レイ子としては7人には常に容疑が向かう必要があるワケでアリバイが偽装だと気付かれなければならないのだけど、この不自然な状況はマズイ筈。

他にも、笹原からレイ子宅への通話履歴を調べれば13日と14日で都合7回にも及ぶ電話があったこともマズイかなぁ。

此の点は無理があったかなと思うところ。
とはいえ、その無理を最小に抑えつつこれだけの大技を見事に決めているのが本作の魅力。
ある程度なら許せてしまうのも、この大胆なトリックが決まっているからでしょう。

もちろん、このトリックを成立させているのは本作の緻密な構成であることは先にも述べた通りです。

何より、複雑なレイ子の女心こそが最大のミステリー。
過去のレイ子はあの人よりも美しかったにも関わらず、どうしてあの人に似せようとしたのか?
そんなレイ子のミステリアスな心境と共に彼女に殉じようとする「あの人」の心情も見所でしょう。

流石は連城三紀彦先生です、読むべし!!

なお、ネタバレあらすじはアレンジを加えた上でかなり簡略化しています。
順番も意図的に入れ換えていますので、興味を持たれた方は本作を読んでみることをオススメします。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
美織レイ子:世界的なファッションモデル。謎の死を遂げる。
笹原信雄:レイ子の元婚約者。容疑者となる。

沢森英二郎:繊維会社の若社長。
間垣貴美子:有名デザイナー。
北川淳:カメラマン。
池島理沙:レイ子と並ぶトップモデル。
高木史子:音楽プロデューサー。
稲木洋平:新進デザイナー。

浜野康彦:笹原の部下である医師。

太田道子:レイ子宅の家政婦。
石上美子:レイ子の???。
川田清子:レイ子の???。

岡部計三:刑事。


世界的なファッションモデルである美織レイ子はある計画を実行に移した。
その夜、レイ子は呼び出した目の前の人物の前で隙を見せた。
その「誰か」にレイ子を殺害させる為だ。

まず、元婚約者でレイ子にこっぴどく振られた笹原医師が先程まで来ていたことを教えた。
その事実を証明するように、今も笹原からの電話が入っている。
しかし、やはりレイ子は笹原に対しにべもない態度であしらう。
これを目にした「誰か」は犯行に及んでも笹原に容疑が向かうと考える。

そして、レイ子は笹原が毒薬を残して行ったことも室内で飼っていた金魚を用いて教えた。
金魚は毒を注がれて水面に浮かんだ。
これを見て毒薬であることは疑うべくもない。
犯行方法も提供したのだ。

さらに、アリバイの作成方法すらも暗示した。
事前に録音して置いたレイ子の肉声テープで留守番電話に吹込むことで15日までの生存を偽装することが出来るのだ。
犯人は15日のアリバイを作っておけば良い。

そして、レイ子は離席した。
案の定、「誰か」はレイ子の思惑通りに犯行に及んだ。
レイ子の飲み物に笹原が残した毒薬を投じたのだ。

数分後、これに気付かない素振りを装ったレイ子は口にするやもがき苦しみつつ隣室に消えた。
一瞬、呆然とし慌ててこれを追った「誰か」はベッドの上に倒れ込んだレイ子を見つけ、その死を確認する。
間違いない、美織レイ子は死亡したのだ。
「誰か」は慌てたように、その場を逃げ出した。

それから半月後、レイ子に家政婦として雇われている太田道子が彼女の自宅を訪れ遺体を発見。
此処に事件は発覚した。

それから数日、医師の浜野康彦は笹原に呼び出され彼の潜伏先のホテルを訪れていた。
笹原はもうすぐ自身がレイ子殺害の容疑者として逮捕されるであろうことを告げ、無実を証明する為に真犯人を見つけて欲しいと依頼した。
笹原は以前にレイ子から聞かされていた彼女に恨みを持つ男女のリストを浜野に渡す。

1人目、繊維会社の若社長である沢森英二郎。
2人目、有名デザイナーの間垣貴美子。
3人目、有名カメラマンの北川淳。
4人目、レイ子と並ぶトップモデルの池島理沙。
5人目、音楽プロデューサーの高木史子。
6人目、新進気鋭のデザイナーである稲木洋平。
そして、7人目が謎の人物である。

この7人目だけは笹原も教えて貰えなかったらしい。
笹原は浜野へ、この容疑者たちに匿名で「お前のやったことを知っている」と電話を入れ反応を探るように指示する。
これを了承する浜野であったが……。

その翌日、笹原が警察に身柄を拘束された。
笹原は13日か14日のいずれかにレイ子宅を訪問したことは認めたが犯行は否認していた。
信じて貰う為にどう対処すべきか悩む笹原であったが、事態は意外な展開を迎える。
担当した岡部刑事によれば、何者かによるレイ子殺害の容疑者6人の名が記された告発文が届いたのだそうだ。
もちろん、笹原が浜野に依頼したあの6人である。
しかも、その中にあった1人・沢森が犯行を告白する遺書を残し自殺したのだと言う。

その日、沢森は謎の人物から「お前のやったことを知っている」との電話を受けて絶望した。
沢森は自身がレイ子に毒を盛ったことを自覚していた。
それだけに謎の人物からの脅迫電話に狼狽し死を選んだのだ。

沢森の遺書によれば、彼とレイ子は愛人関係にあったらしい。
沢森はレイ子を大金で買っていたのだ。
ところが、沢森が寝物語に会社の不正を語ったところ、レイ子に脅迫され始めた。
何時しか沢森は追い込まれ、遂に殺害したのだそうだ。

こうして、レイ子殺害は沢森の犯行とされ笹原が釈放された。
しかし、この事態に狼狽していた人物が居たのだ。
しかも、6人も!!
彼らは皆が皆、自分こそがレイ子を殺害したと思っていた。
それだけに沢森の自殺は不可解だったのである。

有名デザイナーの間垣貴美子もその1人であった。
貴美子はレイ子の為の衣装を用意し大成功を収めた。
だが、そのデザインは他者からの剽窃だったのだ。
この事実をレイ子に知られ脅迫されていた。
だからこそ、貴美子はレイ子を毒殺した。

有名カメラマンの北川淳もその1人であった。
北川はカメラマンとしてレイ子の売り出しに貢献し、肉体関係を持った。
しかし、レイ子と出かけた北欧の旅行先で水上バイクを運転中に事故を起こし相手を殺してしまったのだ。
この事実によりレイ子に脅迫されていた。
だからこそ、北川はレイ子を毒殺した。

レイ子と並ぶトップモデルの池島理沙もその1人であった。
理沙はモデルの先輩としてレイ子を応援し、これと肉体関係を持った。
しかし、レイ子に父親が放火殺人犯であると知られてしまった。
この事実によりレイ子に脅迫されていた。
もっとも、この放火殺人は父親に性的虐待を受けていた理沙自身の犯行であったのだが。
とはいえ、理沙はレイ子を毒殺した。

音楽プロデューサーの高木史子もその1人であった。
史子は嫌がるレイ子に歌手デビューを奨め、これを実行させた。
レイ子の歌は大ヒットすることとなった。
しかし、史子はライバル会社の男性と恋愛関係にあり機密情報を流していた。
この事実によりレイ子に脅迫されていた。
だからこそ、史子はレイ子を毒殺した。

新進デザイナーの稲木洋平もその1人であった。
稲木はレイ子をモデルとしてスカウトし、これに肉体で接待を行わせた。
しかし、実は稲木自身も男娼として接待させられていた過去があった。
この事実によりレイ子に脅迫されていた。
だからこそ、稲木はレイ子を毒殺した。

そして、7人目とされる謎の人物。
彼はレイ子がレイ子となる前に、彼女を車で轢いてしまった。
慌てた彼は自身が医師であったことから、伝手を頼って海外へ彼女を送り整形手術を行い事故を隠蔽した。
この際、レイ子は自身を石上美子と名乗り、ある似顔絵を持ち出して来た。
本来ならば似顔絵通りの顔に復元する筈であったが、担当した医師がより美しく整形したのである。
こうして生まれたのがレイ子であった。
その後、男はレイ子と距離を置いていたのだがモデルとして大成したレイ子の側から面会を求めて来た。
どうやら、レイ子は整形の事実を何者かに脅迫されているらしい。
レイ子によれば「その人物にだけは知られても仕方がない」のだそうだ。
慰めている内に、彼はレイ子と男女の仲になった。
この際に、彼は過去に犯した医療ミスについてレイ子に語った。
そして、この事実によりレイ子に脅迫されていた。
だからこそ、彼はレイ子を毒殺した。

いや、もはや「彼」ではないだろう。
その正体はご賢察の通り浜野康彦である。
浜野こそ、レイ子殺害の動機を持つ7番目の人物だったのだ。
笹原に疑われないようにと行動した浜野であったが、此処でおかしな点に気付いた。

電話を架けた相手が悉く怯えているのだ。
まるで、彼らが犯人のようではないか。
だが、浜野は自身が手を下したことを知っている。

ところが、遂に沢森は自殺までしてしまった。
これはどうしたことだろう?

此処で浜野は彼だけが知っている筈の秘密に注目した。
そう、レイ子が整形により作られた存在であること。
浜野は「もしかして……」とある可能性に行き当たる。

一方、岡部刑事は容疑者リストの面々にあたり、不思議な共通点に気付く。
彼らは13日か14日のアリバイは脆弱にも関わらず一様に15日のアリバイだけは完璧だったのだ。
しかも司法解剖の結果、レイ子が整形していたことも判明。
さらに、道子の証言でレイ子が金魚を7匹購入していたことを知るや浜野と同じ仮説に行き当たった。
それは……6度目まではレイ子の死が狂言であったとの事実である。

同じ頃、史子は沢森の死の意味を考え錯乱状態に陥っていた。
其処へ見知らぬ男が訪ねて来た。
憔悴し切った史子は相手の素性も知らずに助けを求める。
これに男は「お前がやったことを知っている」と電話と同じ言葉を告げた。
史子は男の言う通りにレイ子殺害について認める書面をしたため始めた。

岡部刑事は仮説を検証していた。
きっと、レイ子は沢森たちを相手にそれぞれ1人ずつに殺害される芝居を打ったに違いない。
だからこそ、1回1回金魚が必要となり7匹を購入したのだ。

だが、単なる芝居では死体を調べられでもしたらすぐにバレる。
其処で、おそらく替え玉を用いたのだろう。
レイ子の顔は整形であった。
だとすれば、同じ顔をした別人を用意しこれを殺害し死体役を演じさせれば問題は無くなる。
そして、この演技に及んだのは13日と14日の2日間だ。
それぞれの日に、それぞれの容疑者候補を呼び寄せ、彼らに殺害計画を実行させたのだ。

此処まで考えを進めて岡部はハタと気付いた。
これを実行するのには、ある人物の協力が必要不可欠であった。
そう、笹原である。

その頃、浜野もまたレイ子の仕掛けに辿り着いていた。
浜野は念の為にレイ子の過去を洗い上げた。
そして、彼自身も知らなかった驚愕の事実を突き止めたのだ。

なんと、レイ子は石上美子ではなかったのだ。
美子と同室の川田清子なる女性だったのである。
清子は美子を名乗り、美子の容姿をもとに整形しようとしたのであった。

だが、浜野は不可思議であった。
過去に残された写真を浜野が見る限り、美子よりも清子の方が美人だったのである。
それが何故、あの大事な時に美子の顔を望んだのだろうか!?

此処まで辿り着いた浜野だが、残念ながら彼は1つだけ大きなミスを犯していた。
彼はレイ子の仕掛けを見抜きながらも笹原を疑っていなかったのである。
浜野は訪ねて来た笹原に油断し、彼に殺害されてしまった。
そして、笹原に呼び出された貴美子もまた殺害されてしまった。
もちろん、既に史子も殺害されている。

笹原は全てを振り返る。
全てはレイ子が計画し、笹原がコレに協力したものであった。

レイ子は病により余命幾許も無い身体となっていた。
死を目前にしたレイ子は川田清子から彼女の一生を奪った面々へ復讐することを考えた。
レイ子は7人全員を恨んでいたのだ。
そして、もう1人・石上美子をも恨んでいた。

川田清子はある夜、浜野の運転する車に撥ねられ顔を失った。
整形する際に、憧れていた同室の美子を騙ってその顔を手に入れようとした。
ところが、担当医師は美子の顔をベースにさらに上質な顔を造形した。

その後、稲木によりモデルとしてデビューしたのだが、彼により肉体での接待を強要された。
その後、貴美子によりモデルの世界から逃げられないようにされてしまった。
その後、レイ子は理沙と寝ることでモデルの生き方を学ぼうとしたが肌に合わないことを知った。
その後、北川の写真によりさらに華々しくなったが余計に偽りの仮面から逃げられなくなった。
その後、沢森に金で買われて愛人となった。
その後、史子に勧められて歌手デビューしたところ、声から美子に正体を知られてしまった。

結果、美子はレイ子を脅迫するようになったのである。
その最中に、レイ子は病気を患っていることを知り絶望した。

レイ子は自身から川田清子の人生を奪った人々への復讐を実行に移す。
其処で浜野の上司であった笹原に近付き、これを籠絡したのだ。
レイ子は笹原に全てを打ち明け、協力するよう頼んだ。

レイ子を愛していた笹原はこれを引き受けた。
レイ子は全員が罪の意識に苦しむ方法を採用するとして、全員に殺害されるとの芝居を行ったのだ。

此の為に、レイ子は美子を自身ソックリに整形させた。
その上で、これを殺害し替え玉としたのである。

レイ子は13日から14日にかけて7人を順番に呼び出すと全く同じ芝居を繰り返した。
すなわち、毒を飲むなり苦しみながら隣室へ逃げ込むのだ。
予めベッドの上には美子の死体が残されているのである。
レイ子は物陰に隠れてやり過ごすことを6回繰り返した。
そして、最後の最後に7人目の手にかかり真実の死を遂げたのだ。

笹原はレイ子の遺体を人知れず山中に埋めると、美子の遺体をソレとして事件を発覚させた。
容疑者6人の名が書かれた匿名の告発状も笹原の仕業だ。
笹原は敢えて浜野に調べさせることで彼の冷静さを奪い追い詰めると共に、残る6人をも追い込んだ。

だが、此処で想定外の出来事が起こった。
沢森の自殺である。

レイ子の当初の計画では笹原も他の7人もあくまで永遠にグレーである筈だったのだ。
ところが、沢森の死により他の6人が罪の意識から解放される危機が生じた。
焦った笹原は釈放されるや次の手を打った。

まず、史子に告白文を書かせてこれをレイ子を殺した物と同じ毒で殺害した。
沢森と同じ遺書が見つかれば再度、残る面々がグレーの状態に戻ると考えたのだ。
ところが、此処でレイ子殺害と同じ毒薬を使ったことがミスだったと気付く。

そもそも、この毒薬を入手したのは笹原なのだ。
当然、笹原が疑われることになるからである。
これではグレーどころか真っ黒になってしまう。
もはや、取り繕いようもないミスであった。

其処で笹原は復讐を完遂させることにした。
史子に続き、浜野と貴美子を殺害したのだ。
残るは北川、理沙、稲木の3人である。
急がなければ時間が無い。

とはいえ、振り返ればこれこそが笹原がもっとも望むことであった。
何故なら、これでようやく笹原はレイ子と同じ場所に立てるのだ。
笹原はレイ子を愛するが故に彼女に殉じようと決めていた。
例え、その先に破滅しかなかろうとも―――エンド。

2015年10月3日追記

ドラマ版「私という名の変奏曲」追加しました。

金曜プレミアム「私という名の変奏曲 絶対にあなたを許さない!!完璧な美をほこるトップモデルが謎の死 殺したのは私です…自供する6人の犯人と不可能な美容整形の謎」(10月2日放送)ネタバレ批評(レビュー)

追記終わり


◆関連過去記事
『造花の蜜』(連城三紀彦著、角川春樹事務所刊)ネタバレ書評(レビュー)

「第18回日本ミステリー文学大賞、同特別賞、新人賞」発表。栄冠は船戸与一先生、連城三紀彦先生、直原冬明先生に!!

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