2015年09月04日

『赤い部屋異聞』(法月綸太郎著、角川書店刊『小説野性時代 2015年9月号』掲載)

『赤い部屋異聞』(法月綸太郎著、角川書店刊『小説野性時代 2015年9月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<感想>

江戸川乱歩『赤い部屋』をモチーフに法月先生がアレンジを加えた短編。
原典が持つ「不安」や「恐怖」に対し、そのエッセンスを引き継いだ上でさらに濃厚にした作品です。

真相としてはおおよそKの推測が正しいのでしょう。
しかし、最終的な結論について明言されない結末だからこそ、その「不安」と「恐怖」が際立たされています。
これにより「おおよそKの推測が正しいと思われる中でそれでも最後の1点に残る危うさ」や「Kの推測が正しいとすれば生じる(過去のK自身も含めた)彼らの業の深さが垣間見える点」が恐ろしい。
この辺り、まさに江戸川乱歩の神髄と言えるのではないでしょうか。

特に「Kの推測が正しいとすれば生じる(過去のK自身も含めた)彼らの業の深さが垣間見える点」。
これについては「恐ろしきは好事家の性」と言えるでしょう。

彼らにとってKの悲劇は他人事に過ぎなかった。
だからこそ、更なる欲望をKに強いた。
これについて、過去のKもまた彼らの仲間であったことが悲劇をより強調しています。
だからこそ、Kには彼らの考えが分かり彼らの計画が見えて来る。
すなわち、Kも決して彼らとかけ離れた存在ではなく、むしろ彼ら寄りの人間なのです。
だとすれば、場合によってはKも彼らと同じ行動を取っていたかもしれないことに……。

この事実こそが読者を「何とも言えない」読後感へと運び去るのです。

ちなみに、ネタバレあらすじはまとめ易いように大幅に改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

滅多に自分について話をしないKさんが、その日に限って身の上話を始めたのは何か思うところがあったからだろうか。
Kさんは過去に出入りしていた「赤い部屋」について語り出した。

「赤い部屋」は料理屋アカシャ亭の2階にある一室に集った有志により催されていた密かなイベントであった。
当時、アカシャ亭の主人を中心に奇妙な話や殺伐とした話を持ち寄っては内輪でワイワイと遣り取りしていたのだそうだ。

しかし、不謹慎なことを続けていたバチが当たったのだろうか。
ある日のことKさんの奥さんが鉄道事故に遭ってしまった。
何でも架線に落石があったらしく、それを踏んだ列車が脱線したのだ。
多数の死傷者が出て、Kさんの奥さんもその中に居た。
奥さんは子供を妊娠しており、母子ともに即死であったと言う。

Kさんは一度に妻子を失ったことにショックを受けて「赤い部屋」から遠ざかることとなった。
到底、そんな気持ちにはなれなかったのだ。

そして1年半ほどが経過したある日、Kさんはアカシャ亭の主人に再会した。
無沙汰を謝罪するKさんを、主人は再び「赤い部屋」へ誘った。

最初は断ろうと考えていたKさんも、やはり好事家の血が騒いだのであろうか。
結局、「赤い部屋」に参加することに。

すると「赤い部屋」には新規会員が参加していた。
その名はT、主人によれば気鋭の新会員だそうだ。
Tは彼が行った完全犯罪について語り出した。

それは「プロバビリティの殺人」である。

例えば、落雷が激しい日に子供に対して避雷針に向かって小便するように誘導し感電死させたりといった具合だ。
他にも、その先が危険であると知りつつも敢えて誤った誘導を行うなどもコレである。
言わば「確実に相手を殺害出来るかどうかが曖昧な反面、成功しても犯行を立証しづらい殺害方法」のことだ。

当初は「そんなことも出来るのか……」とぼんやり聞いていたKさんだったが、次のTの話を聞いて顔色を変えた。

続いて、Tが語り出したのは数十人を殺害した列車事故。
Tは都合の良い崖地に目を付けると何度となく石を蹴落とし線路上にそれが残るよう練習を重ねた。
そして、これを可能にしたところで決行に及ぶ。
崖上から石を線路上に蹴り落とすと「過失で石を線路に落としてしまった。取り去りたいのだが崖の上では手が出ない。危ないから早く列車を止めてくれ」と近くの駅に駆け込んだのだ。
もちろん、間に合わないのは承知である。

Tの狙いは的中し事故が発生してしまった。
そして、多数の死傷者が出た。
ところが、Tは過失ということで謝罪だけで済んだのだと言う。

これを聞いていたKさんの胸中に黒い感情が沸き起こった。
と、そんなKさんの気も知らずTは自身の完全犯罪に酔いしれるように自慢を続けていた。

すると、此処にアカシャ亭の女給が飛び込んで来た。
女給は何処で手に入れたものやら握り締めていた拳銃を発砲する。
Tは胸元から血を流し倒れ込んだ。

唖然とする一同。
しかし、Kさんだけは快哉を叫んでいた。
だが、そんな気分もすぐに吹き飛んだ。

撃たれた筈のTがむっくりと立ち上がったのだ。
胸元の出血も血糊であった、全てはTの仕掛けた芝居だったのだ。
Tはしてやったりとの表情を浮かべ、血糊を落とすべく階下へと歩み出た。

そのときである。
Kは叫んだ「危ない!!」と。
アカシャ亭の階段は3段目が腐っていて体重のかけ方を誤ると転落する恐れがあったのだ。
ところが、Kの声に驚いたTはバランスを崩して階下へと転落して行った。

これにより、Tは首の骨を折って死亡してしまった。
そんな中、主人を始め「赤い部屋」の面々はKに奇妙な視線を向けていた……。

Tの死は事故として処理された。
Kさんはそれ以来「赤い部屋」に一度も参加したことはない。

あの日、KさんはTに殺意を抱いた。
Kさんは確信したのだ、Tが妻子を殺したと。
そして、Tが階下に降りようとしたところでワザと驚くように声をかけた。
結果、TはKさんの狙い通りに転落死を遂げたのだ。

しかし、近頃になってKさんは思うのだ。
ひょっとすると、すべてKさんを殺人者にする為に「赤い部屋」の面々が仕組んだことではなかったか。

まず、あのTが本当にKさんの仇だったのかが分からない。
もしかすると、売れない役者を「赤い部屋」の面々が雇ったのかもしれない。
そして、Kさんに対しT自身の口から「プロバビリティの殺人」を吹き込んだ。
そもそも、Tが誇らしげに自慢していた計画がそんなに上手く行くとはどうしても思えなかった。
さらに、例のTと女給の芝居を見せることで「Tの命を奪うことへの抵抗感」をKさんから奪った。
最後に、階段の不具合を残しておくことでKに犯行に踏み切らせた。

そう、物語に飽きた「赤い部屋」の面々が新たな刺激を求めて仕組んだのではないか。
Tの死亡直後の奇妙な視線は殺人を成功させた男を目の前にした好奇の視線では無かったか。
そう言えば、彼らの表情には何処か微笑みが浮かんでいなかったか―――エンド。

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