2015年08月31日

『邪魔』(奥田英朗著、講談社刊)

『邪魔』(奥田英朗著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

・上巻

及川恭子、34歳。サラリーマンの夫、子供2人と東京郊外の建売り住宅に住む。スーパーのパート歴1年。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先の放火事件を機に足元から揺らぎ始める。恭子の心に夫への疑惑が兆し、不信は波紋のように広がる。日常に潜む悪夢、やりきれない思いを疾走するドラマに織りこんだ傑作。(講談社文庫)

・下巻

もうどこにも、逃れる場所はない。2002年版「このミステリーがすごい!」第2位、第4回大藪春彦賞受賞。九野薫、36歳。本庁勤務を経て、現在警部補として所轄勤務。7年前に最愛の妻を事故でなくして以来、義母を心の支えとしている。不眠。同僚花村の素行調査を担当し、逆恨みされる。放火事件では、経理課長及川に疑念を抱く。わずかな契機で変貌していく人間たちを絶妙の筆致で描きあげる犯罪小説の白眉。(講談社文庫)
(角川書店公式HPより)


<感想>

及川恭子、九野薫、裕輔ら3人を中心にそれを取り巻く人々の人間模様を描いた群像作品。
タイトル『邪魔』の意味は「恭子の心に邪悪な魔が差した」ことを示すのでしょう。
同時に「恭子がそれまで縛られていた枷から解放された=恭子が考える邪魔者から解放された」ことも示すのかも。

もう凄いです、ドミノ倒しの如く続く怒涛の展開は読者のページをめくる手を止めさせようとしません。
読み始めたら上下巻が一息でした。

ごく普通の主婦・及川恭子は夫・茂則や2人の子供たちと共に平穏に暮らしている筈であった。
ところが、放火事件が発生し平穏な生活は崩壊して行く。

そんな恭子がどんどんと変貌して行く様は恐ろしい。
少しずつエゴを剥き出しにして行き、最後に彼女は自身の本性に気付く。
そして、それを肯定するやそれまでの大義名分となっていた筈の子供さえ捨ててしまうのである。

反面、常に閉塞感に包まれていた九野は事件により現実と向かい合う力を得ることに。

カタストロフに続く、対照的な2人の未来は衝撃的である。
特に恭子のソレは壮絶な物となるだろう。

これと共に、2人は「ある共通の物」を勝ち得る―――それは「満足」だ。
彼らは共に何処かで仮面を被り自身を偽り続けて居たのである。
その仮面が剥がれ落ち、現れ出でたもの……「それ」を彼らは手にした。
「それ」が果たして何であったのかは読者のみが知るのであろう。

例えば、此処に感想を記している読者は次のようにソレを見る。

恭子は家族を失ったが、追われる身ながらも自由を得た。
九野は失った家族に気付いたが、新たに仲間を得た。

言わば、本作は「家族を中心としつつも、それぞれ異なる再生の物語」だったのかもしれない。

なお、あらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
特に裕輔や花村関連はほぼ省略しています。
興味をお持ちの方は本作それ自体を読まれることをオススメ致します。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
及川恭子:スーパー「スマイル」にてパート勤務をする主婦、茂則との間に2人の子供が居る。
及川茂則:恭子の夫、「ハイテックス」の経理責任者。
九野薫:刑事。
井上:九野の後輩刑事。
九野の義母:???
花村:刑事。
大倉:暴力団の幹部。
洋平:弁当屋のバイト。
荻原、小室:市民運動家。


及川恭子は自身の性を善良だと信じていた。
恭子は地元のスーパー「スマイル」にてパートで働く主婦である。
夫・茂則は「ハイテックス」に勤務する経理責任者で、夫婦仲こそ良くも無く悪くもないものの2人の子宝に恵まれ満足していた。

矢先、恭子の思いも寄らない事件が起こる。
何と、ハイテックスで放火事件が発生したのだ。
しかも、これが連続したのである。
明らかにハイテックスを狙った事件であった。

当初はハイテックスと対立していた大倉らの仕業かと思われていたこの事件。
ところが、捜査担当となった刑事・九野薫や井上らにより次第に容疑は茂則自身に向かい始めた。

ハイテックスの経理に不透明な部分がある一方で、茂則の遊興費が明らかに給料を上回っていたのだ。
そう、茂則が会社の品や金に手を付けていた疑いが浮上したのだ。
放火事件が発生したのは会計監査の直前からとなっており、これから目を逸らさせる為に茂則が放火したと考えられたのである。

これを知った恭子は茂則の無実を信じ、周囲にそれを訴えて回る。
さらに、勤務先であるスーパー「スマイル」でのパートの待遇に不満を抱いた恭子は待遇改善を求めて上層部と交渉を開始した。
そんな恭子に同僚や主婦仲間は冷ややかな視線を浴びせる。

周囲からは些か浮いてしまったが、何時か理解して貰える……それが恭子の期待であった。
それを証明するかのように労働環境改善運動を行っている市民活動家の荻原や小室たちが恭子を応援する。
彼らの賛辞を受けて恭子は何処か誇らしかった。

一方、茂則の犯行を疑う刑事の九野は閉塞感を抱えていた。
7年前に妻・早苗を事故で亡くし、今は義母だけが心の支えとなって生活している。
そんな中、同僚の花村に大倉への情報漏洩と便宜供与の疑いが発覚し内偵を命じられることに。
私生活では孤独を抱え仕事でも同僚を疑わざるを得ない中で、九野は茂則を追いつつ亡き妻に似た恭子に少しずつ惹かれ始める。

その頃、当の恭子はどんどんと孤独を深めていた。
スーパーでの労働改善交渉が裏目に出て、周囲から完全に孤立してしまったのだ。
今や、同情的であった人々の目も冷たいソレに変わっている。
しかも、茂則が放火魔として疑われていることもこれに拍車をかけた。

焦りを募らせる恭子だが、さらに追い詰められる出来事が。
なんと、恭子を支援していた荻原や小室らが恭子の了解もなく「スマイル」側と和解してしまったのだ。
彼らは「スマイル」が提示した和解金を受け取るや要求を取り下げたのだ。
こうなってしまっては当事者の恭子が痛い目を見ただけである。

これに気付いた恭子は衝撃を受け、今更ながら「スマイル」側と和解を求める。
「スマイル」の社長はこれを上機嫌で受け入れるのだが……。

実は社長は恭子を愛人にしようと目論んでいた。
大金を手当として提示された恭子は家族を守る為と言い聞かせつつ、これに応じてしまう。

疲労が重なる恭子だが、現実はまだ彼女を休ませてはくれなかった。
なんと、疑惑に耐え兼ねた茂則が恭子に罪を認めたのである。
九野らの推測は全て正しかったのだ。

これを聞いた恭子は「死ね!!」と茂則に罵声を浴びせる。
どうしよう……周囲にあれほど茂則の無実を訴えていた手前、後には退けない。
さらに子供たちのこともある。
いっそ、茂則が死んでくれれば……そう考える恭子だが茂則にその度胸は無い。

膝を抱える茂則に、重ねて罵声を浴びせて行くうちに恭子は少しずつ自身の本性に気付いて行く。
そして、これまで善良だと信じていた性格が実は余裕から来るものだったことを悟った。
恭子は「自身の本性が決して善良では無く、寧ろ醜いものだった」と繰り返す。
「せめて子供たちは救わなければ」と考えた恭子はある計画を実行に移す。

一方、大倉はハイテックスと裏交渉を重ね大きな利権を得ていた。
それとは別に花村を経由して捜査情報を手に入れてもいた。
大倉はハイテックス側が不祥事を嫌い放火事件の早期解決を望んでいると知り、事務所に出入りしていた洋平を犯人として出頭させることにする。

洋平の出頭を受けて、捜査は終焉を迎えようとしていた。
どうやら、ハイテックスが天下り先を用意したこともこれを加速させたようだ。
しかし、九野はこれに反発し独自に捜査を続ける。

その一方で、内偵を続けていた花村の不正が露見。
花村は九野への恨みを募らせると姿を消す。

同じ頃、恭子は茂則と子供たちを連れ旅行に出かける。
恭子は自身で新たな放火事件を演出し、その間に茂則にアリバイを作ることで容疑を逸らすつもりであった。
恭子は知らなかったのだ―――洋平が身代わりで出頭していることに、何もしなくとも茂則が救われようとしていることに。
こうして、茂則と子供たちを残し、密かに宿を抜け出した恭子はガソリンを手に来た道を取って返す。

そんな恭子の動きに気付いた九野は彼女を止めようとするのだが……。
其処に九野への復讐を目論む花村が現れる。

必死に花村と戦う九野。
何とか花村を倒すが傷を負ってしまう。

この隙を突き、恭子は放火を敢行。
しかも、目撃者となった九野の口を塞ごうとこれを刺した。
深手を負った九野を残し、恭子は逃亡する。

死を覚悟した九野は義母のもとへ向かう。
しかし、其処には誰もいなかった。
そう、九野の義母もまた7年前の事故で妻と共に死亡していたのだ。
全ては九野が精神的な支えを求めて作り出した幻であった。
これに気付いた九野は力なく笑い始める。

だが、九野は彼自身も気付いていなかったが決して孤独では無かった。
井上たちは九野を常に気にかけていたのである。
意識を失いかけた九野であったが、その危機を察した井上たちによって救われる。
同時に九野は心までをも救われるのであった。
ちなみに、花村は気絶していたところを逮捕されたようである。

一方、恭子は必死の逃走を続けていた。
今や、彼女の脳裏に家族のことは無い。
どうやって逃げ切るかしか残されてはいなかった。
しかし、不思議なことに恭子はそれに爽快感を覚えるのであった。
恭子は胸の中で「何処までも逃げ切ってやる」と呟く―――その表情は活き活きとしていた。

皮肉なことに恭子の犯行がもとで拘留中であった洋平の無実が証明され、茂則の犯行が露見した。
連続放火事件は茂則と恭子夫婦による犯行とされたのである。
茂則は逮捕されたが恭子の行方は杳として知れない―――エンド。

2015年9月2日追記

水曜ミステリー9「奥田英朗クライムサスペンス 邪魔〜主婦が堕ちた破滅の道 傑作小説初ドラマ化!謎の放火事件!刑事が追う不審な第一発見者…犯人は夫?疑惑におびえる妻の無謀な決断とは!?」(9月2日放送)ネタバレ批評(レビュー)追加しました。

水曜ミステリー9「奥田英朗クライムサスペンス 邪魔〜主婦が堕ちた破滅の道 傑作小説初ドラマ化!謎の放火事件!刑事が追う不審な第一発見者…犯人は夫?疑惑におびえる妻の無謀な決断とは!?」(9月2日放送)ネタバレ批評(レビュー)

追記終わり


◆関連過去記事
『オリンピックの身代金』(奥田英朗著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

水曜ミステリー9「奥田英朗クライムサスペンス 邪魔〜主婦が堕ちた破滅の道 傑作小説初ドラマ化!謎の放火事件!刑事が追う不審な第一発見者…犯人は夫?疑惑におびえる妻の無謀な決断とは!?」(9月2日放送)ネタバレ批評(レビュー)

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