ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
あいつを消さねば――。完全犯罪をもくろんだ男のつまずきとは。スリリングな短篇10篇。
銀行を襲い、仲間と山わけにした金で商売をはじめた内堀彦介は、事業に成功した今、真相露顕の恐怖から5年前に別れた共犯者の監視を開始するが……。疑心暗鬼から自滅していく男を描く「共犯者」。妻の病気、借金、愛人とのもめごと、仕事の失敗――たび重なる欲求不満と緊張の連続が生み出す衝動的な殺意を捉えた「発作」。ほかに、「恐喝者」「愛と空白の共謀」など全10編を収める。
(新潮社公式HPより)
<感想>
短編集の表題作です。
内堀の行ったことはまさに藪蛇でした。
とはいえ、それでも内堀はソレを止められなかった。
それこそ、彼に後ろめたいところがあったから。
そして、疑心暗鬼により破滅を招くことに。
内堀が町田に抱いた懸念。
それは場合が場合ならば内堀自身が町田に行ったことに他なりません。
もしも、立場が逆で町田が成功を収めていれば町田が同様の懸念に襲われていたのでしょう。
内堀と町田は「共犯関係」であり「鏡写しの関係」でもありました。
それでも、此の世に内堀と町田の2人きりならば起こり得なかったであろう結末。
また、途中で竹岡を外していれば……。
なんとも皮肉なこととなりました。
ちなみにネタバレあらすじはかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
内堀彦介:福岡に住む大実業家、実はある秘密が。
竹岡良一:内堀が雇った男。
町田武治:内堀が恐れる男。
福岡に住む大実業家の内堀彦介にはある秘密があった。
今でこそ大実業家として名を成している内堀だが、過去にある犯罪を行っていたのだ。
その犯罪とは銀行強盗。
内堀は町田武治と共謀し銀行を襲撃し住込みであった支店長を負傷させ大金を奪ったのだ。
そして、内堀と町田はそれぞれ事業を起こすこととなった。
この際、慎重な内堀は足がつかないように2度と連絡を取り合わないと町田に約束させていた。
それから数年が経過し、内堀の事業は順調に拡大し大実業家にまでなっていた。
ところが、此処最近になって内堀の表情は優れない。
内堀は町田を気にかけていたのだ。
成功するまでは町田が逮捕され自白することを怖れた。
しかし、成功してからは町田が脅迫しに来るのではないかとの懸念に襲われたのだ。
そんな内堀の様子を目にした細君は事情を知らないおおらかさで彼に温泉旅行を奨めた。
これに従った内堀は温泉に入浴中にある閃きを得た。
町田の近況を確認しようと思いついたのだ。
まず、内堀は町田に聞いていた彼の故郷を調べ所在を突き止めた。
どうやら、町田は約束通り事業家となっているようだ。
だが、内堀に比べると如何にも規模が小さい。
此の点、内堀の方が商才に恵まれていたようだ。
とはいえ、内堀が懸念していた事態にすぐに直結する状態でも無さそうだ。
ひとまず胸を撫で下ろした内堀であったが、それがあくまで今の時点でのことであると気付くや不安に駆られた。
監視の必要性に思い至った内堀は「業界紙の通信記者募集の広告」を出した。
もちろん、架空の業界紙である。
これに応募者が殺到したのだが、その中から内堀は竹岡良一を雇い入れた。
内堀は真意を悟られないよう慎重に、竹岡へ提示した地元の商家を調べ定期報告を上げるよう指示した。
すなわち、複数の調査対象の中に町田を混ぜておいたのだ。
この狙いは図に当たり、竹岡は熱心に商家についての情報を寄越すようになった。
もちろん、内堀が必要なのは町田だけではあるが仕方ない。
また、竹岡の報告によれば町田は細君一筋で特に経営上の問題も抱えていないようだ。
この際、竹岡からは「自分の仕事を形にして目にしたいので業界紙を送ってくれ」との依頼があったが、丁重に断っておいた。
そして数ヶ月ほど経過した。
相変わらず竹岡からの報告は順風満帆であった。
ところが、直後に急変する。
なんと、町田に愛人が居ることが発覚したのだ。
しかも、竹岡がこれまで報告して来た内容と異なり町田の事業内容は火の車だそうである。
苦虫を噛み潰さざるを得ない内堀。
其処へさらなる報告が届く。
何でも町田は今の事業を止め、愛人と共に千葉へ引越しし改めて事業を起こしたらしい。
状況は芳しくない。
さらに内堀にとって不都合があった。
竹岡の処遇だ。
竹岡は内堀の狙いが町田にあることを知らない。
にも関わらず町田を追わせれば不審を抱かせることになるだろう。
新しい人を雇うべきかどうか、決断に迫られたのだ。
此処で内堀は竹岡の続投を選んだ。
手際の分からない相手に任せる気にならなかったのだ。
竹岡には没落した商家の追跡調査と説明しておいた。
ところが、此処から状況はさらに悪化の一途を辿る。
町田が愛人に捨てられ千葉から姿を消したのだ。
さらに竹岡からの続報によれば町田は西へ向かっているらしい。
何でも町田は従兄弟に定期的に手紙を送っているのだそうで、其処に居場所が書かれているのだそうだ。
これを知った内堀は町田が自身を脅迫しようとしていると確信した。
内堀は町田の故郷を知っているが、町田は内堀が西に住んでいることしか知らなかったからだ。
おそらく、町田は西へ移動しつつ内堀を探しているに違いない。
そんな中、遂に決定的な出来事が起こる。
なんと、町田が福岡に到着したらしいのだ。
だが、無理が祟って病床に臥せっているそうだ。
竹岡からの報告書にはご丁寧に住所も記載されていた。
やるしかない……内堀は覚悟を決めた。
雑貨屋でナイフを購入すると報告書にあった住所へ赴いたのだ。
ナイフを振りかぶり住人に襲い掛かるのだが。
其処に居たのは町田ではなく竹岡であった。
竹岡は自身の雇い主の様子から後ろ暗い事情を察し罠にかけたのだ。
町田は今も千葉に居り、千葉以降の行動は全て竹岡の捏造であった。
竹岡によれば業界紙を届けてくれなかったこと、千葉以降も町田を追わせたことが疑念を抱かせることとなったようだ。
「さて、詳しい事情を聴きたいのですが後は任せるしかなさそうです」
そんな竹岡の言葉と共に警官の足音が近付いて来た―――エンド。
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