ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
1862年、王朝末期の朝鮮。人々は悪徳官僚や貴族の支配下に置かれ、自由を奪われた上に貧しい生活を強いられていた。極貧に苦しむも圧政に従って生きる屠畜(とちく)人のトルムチ(ハ・ジョンウ)は、人並み外れた剣の腕を持つ武官ユン(カン・ドンウォン)と出会い、ある仕事を依頼される。だが、それが原因となって思わぬ惨劇に直面する。絶望のふちに立たされる中、盗賊団に助けられた彼は名前を変え、仕事道具だった包丁を武器にして、圧政を打ち砕く義賊として活躍するようになり……。
(公式HPより)
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
トルムチ(トチ):主人公。後に盗賊団「チュソル」のメンバーに。
チョ・ユン:もう1人の主人公。悪逆非道な行いを続けるが……。
【チョ家】
チョ・ウォンスク:ユンの実父。
チョ・ソイン:ユンの異母弟。
ジョンシム:ソインの妻。
7人の武官:ユンの官吏時代の部下。
【盗賊団・チュソル】
お頭・デホ:チュソルの頭領。
生臭坊主・テンチュ:チュソルの参謀役。
お役者小僧・テギ:潜入役。朝廷の官僚への変装を得意とする。
弓撃手・マヒャン:チュソル一の弓の名手。紅一点。
怪力・チョンボ:チュソル一の怪力。鉄球を使う。
暗殺者・チャン:チュソル一の身軽さを誇る。
1862年、時の朝廷が腐敗し悪政が続いたことで、汚職官僚や悪徳商人が横行し国は大いに乱れた。
そんな被害に遭うのは民である。
全土に民の怨嗟の声が溢れる中、1つの盗賊団が頭角を現した。
その名は「チュソル」。
「チュソル」は汚職官僚や悪徳商人を誅殺し、彼らが不正に手にした富を民に再配分していた。
世に云う「義賊」である。
チュソルの主なメンバーは次の通りだ。
敵の懐に潜入し仲間を手引きする「お役者小僧・テギ」。
弓の名手で紅一点「弓撃手・マヒャン」。
類稀な怪力で相手を薙ぎ倒す「怪力・チョンボ」。
身軽さを活かし華麗に相手を倒す「暗殺者・チャン」。
参謀役である「生臭坊主・テンチュ」。
個性豊かなメンバーを取りまとめる「お頭・デホ」。
これに多数の部下が付き従っているのだ。
神出鬼没な上に凄腕でもあり、下手な官軍では歯が立たない勢いであった。
一方、大富豪で知られるチョ家に長らく家を離れていた長男のユンが戻って来た。
これに家長であるウォンスクは恐れ戦く。
チョ・ユン、彼はチョ家の長男であるが庶子である。
占い師はユンを見て「この子は帝王の家に生まれれば大成するが、それ以外ならば世に仇為すだろう」と予言した。
そんなユンはウォンスクが芸妓との間に産ませた子供で、当初は両親から疎まれていた。
しかし、ウォンスクが正妻との間に子供が出来なかったことから後継者として引き取られることとなった。
これが5歳の時の事である。
ところが、直後に事態が急変する。
危機感を抱いたウォンスクの正妻が怪しげな薬を試し、遂に子供を妊娠したのである。
しかも、この子は男の子であった。
名をソイン、待望の正妻との間の子の誕生にウォンスクはユンを忘れた。
また、正妻はユンを疎み虐待を行った。
こうして幼いユンは世を拗ねた。
耐え兼ねたユンは眠るソインの首に手をかけようとする。
しかし、どうしてもそれが出来なかった。
だが、この現場を正妻に目撃されウォンスクに告げ口されてしまった。
これによりユンの実母は処刑、ユンの守役も仕事を果たさなかったとして足をへし折られた。
もちろん、ユン自身にも激しい折檻が行われ、遂には忌み子として家を追い出されたのである。
この衝撃的な事件により、ユンは変わった。
もともと武門に興味を抱いていたユンはさらに武芸に没頭。
その天賦の才を開花させると、稀代の剣客に成長した。
また、様々な知識を蓄えることで経営の才をも育んだ。
まさに文武両道を地で行ったのである。
ユンは朝廷に出仕するとめきめきと頭角を現した。
しかし、此処でもその出自が壁となった。
庶子出身であるとの一事で彼は中枢への任官を拒否されたのである。
認められなかったユンは彼の腹心の武官7人にある命を下した。
矢先、ソインが不慮の死を遂げた。
暴漢に襲われたのである。
結局、犯人は捕まっていない。
これにより後継者が居なくなったチョ家へユンが帰還したのである。
その翌日、ユンはチョ家に出入りしている屠畜人のトルムチを呼び出し、ある人物の殺害を依頼する。
その日の食事にも困っていたトルムチは家族を養う為に自慢の包丁の腕を振るう時が来たと喜ぶ。
トルムチが向かった先は、とある寺。
其処に居たのはソインの妻・ジョンシム。
実はジョンシムはソインの子を妊娠しており、ユンを怖れたウォンスクが寺に逃がしたのだ。
事情を知らないトルムチはジョンシムを殺害しようとするが、その場に居合わせた「生臭坊主」ことテンチュに妨害される。
依頼に失敗したトルムチ、その口を封じるべくユンは家人に命じてトルムチ家を急襲させる。
こうして、トルムチ一家は皆殺しの憂き目に逢った。
しかし、一際頑丈であったトルムチだけは一命を取り留めた。
復讐に燃えるトルムチはソインの葬儀が行われているチョ家へと殴り込むや、たちまち家族を手にかけた下手人を殺害する。
だが、其処に現れたユンの前に赤子の手を捻るが如くあしらわれ捕まってしまう。
その夜、ユンと結託している官吏により処刑されることとなったトルムチ。
だが、其処へチュソルの面々が駆け付けトルムチを救出する。
「チュソル」では年に1回、新人の入団試験が行われていた。
その条件は「純粋な瞳を持つこと」、「腕が立つこと」、「死を恐れないこと」の3つ。
テンチュはトルムチにそれらを見たのだ。
こうして、トルムチはユンへの復讐を誓い「チュソル」に入団。
テンチュに匿われていたジョンシムと共に隠れ里へと赴く。
そして2年が経過した。
ジョンシムは元気な男児を生むとこの世を去った。
残された男児はチョ家の後継者として匿われることとなった。
一方、トルムチはこの間に技を磨き「チュソル」でも有数の腕利きに成長。
今や「髷狩りのトチ」として名を知られていた。
異名の由来は「トチが倒した相手から武官の名誉である髷を奪って行く」ことにあった。
その頃、ユンはと言えば官吏と結託し悪行の限りを尽くしていた。
腹心の武官7人を呼び寄せるや、土地を担保に民に米を貸し返却出来なければ容赦なく土地を奪ったのだ。
土地を奪われた民はチョ家の奴隷とする仕組みである。
こうして、チョ家はユンにより格段の飛躍を遂げた。
もはや、国に並ぶ者の無い富豪となったのだ。
その傍ら、ユンはウォンスクに後継者として認めて欲しいと嘆願。
だが、未だに聞き入れられず焦りを募らせていた。
ウォンスクは亡きソインの遺児に期待しているに違いない。
こうして、ユンはソインの遺児探しに血眼となった。
同じ頃、「チュソル」では次の標的について討議が交わされていた。
彼らが標的として挙げたのはユンだ。
だが、幹部の間でも意見は2つに割れていた。
怪力・チョンボが天誅を主張する中で、テギが「相手が悪い」と難色を示した。
此処で普段ならば「正義が行われるべき」と天誅を後押しするテンチュだが、今回ばかりはテギに近いらしく慎重な意見を唱えたことで議論は膠着していたのである。
そんな中、私怨を抱えたトチがユン抹殺を強行に押した。
これに押し切られる形でテンチュも同調し、「チュソル」は対ユンに向けて作戦を開始することに。
まず、テギが武官に変装しチョ家が「チュソル」に狙われていると通報。
「チョ家を護る為」との名目で「チュソル」をチョ家に引き入れたのである。
その夜、ユンの前に包丁を抱えたトチが現れる。
トチはユンの弱点であるソインの遺児を預かっていると告げ、彼を誘き出す。
狙いは1つ、ユンを山間の谷に誘い込み圧倒的多数で嬲り殺しにする為だ。
これにかかったユンだが、立ち込める霧にトチの姿を見失った。
暫く行くと行き着いたのは官軍の装束に身を包んだ一団である。
聞けばテギの命で応援に駆け付けたらしい。
不審に思うユンを、隠れたトチが弓矢で狙う。
いや、トチだけではないマヒャンら複数の射手が控えている。
弓を引き絞るトチは合図を待たずにユンへと射かける。
だが、早過ぎた。
ユンはこれに即座に反応するや叩き落とした。
しかも、遅れて飛来した矢を右に左に躱しつつ剣で弾くや、逆にマヒャンへ矢を投げつけるとのおまけつきである。
肩を負傷したマヒャンは谷底へ落下。
トチがこれを助けてユンと対峙する。
それに合わせて伏兵していたメンバーがユンを取り囲む。
もちろん、応援と称していた武官も抜刀する。
その正体はお頭・デホたちだ。
だが、彼らはユンを甘く見積もっていた。
ユンが駆けるや、あっという間に4、5人が地面に倒れ込む。
全員が絶命していた。
圧倒的多数で嬲り殺しなどとんでもない。
全くの逆であった。
ユン1人により、その場の面々は全滅。
マヒャンは深手を負ったトチを抱え脱出。
2人を逃がしてデホはユンの手にかかる。
一方、テンチュ、テギ、チョンボ、チャンは「鬼の居ぬ間の何とやら」でチョ家を蹂躙。
その間にユンの腹心7人を殺害し、蔵に収められていた米を民に分配する。
後は脱出するのみだ。
ところが、其処へ息も絶え絶えのマヒャンとトチが戻って来た。
仲間の全滅を伝え聞いたテンチュはデホが死亡したことを知らず、彼を救うべく現場へ。
しかし、其処でユンに捕まってしまう。
デホ、テンチュを失いながらも隠れ里へ戻ったトチたち。
トチの傷が深かったことからテギが付き添い別の寺で静養することに。
同じ頃、部下たちを殺されたユンは激怒。
民たちに「チュソル」から分け与えられた米の返却を求め、これを拒否した民を見せしめに殺害する。
さらに、テンチュを拷問し隠れ里の場所を聞き出すことに成功する。
テンチュは此処で絶命することに。
その日、隠れ里では子供たちが陽気に遊んでいた。
と、飛来した一本の矢が少年を貫く。
同時に、雨霰と矢が降り注いで来た。
ユンが手勢を連れて報復に出たのだ。
たちまちのうちに隠れ里は阿鼻叫喚の巷となった。
通りを歩く人々は老幼男女を問わず惨殺されて行く。
チャン、チョンボはそれぞれ抵抗するが、ユンに切り倒され死亡。
ソインの遺児を連れたマヒャンも捕まり、隠れ里は壊滅した。
急報を聞き駆け付けたトチとテギは死屍累々に愕然とする。
数日後、ユンと結ぶ官吏により捕まった「チュソル」の面々の公開処刑が行われていた。
沿道を埋め尽くすのは民の悲嘆の声である。
と、その中にテギの姿が……。
一方、正門から1人の男が荷車と共に現れる。
男は官吏と兵に荷車を向ける。
其処にはガドリングガンが積まれていた。
レバーを動かすや、飛び出した弾により兵たちは死傷して行く。
誤って市民にも当たっているようだがトチは手を止めない。
同時にテギが群衆を煽り謀叛を先導した。
これまで抑え付けられて来た民たちはその怒りを官吏へ向けて殺到する。
こうして、街はトチとテギの手に落ちた。
マヒャンは救出されたが、ソインの遺児はユンに連れ攫われたようだ。
その頃、当のユンはウォンスクを手にかけ呆然としていた。
ユンはウォンスクに息子として愛するよう迫ったが、ウォンスクはあくまでソインの遺児に拘り遂にはユンを殺そうとまでしたのである。
其処でユンはウォンスクを殺害した。
今はソインの遺児を抱いているユン。
遺児は無邪気な笑顔をユンへと浮かべ、ユンもまたぎこちなく微笑んでいた。
屋外に気配を感じたユンは遺児を抱き庭へと赴く。
其処には多数の民を背後にしたトチが立っていた。
その目は殺意に満ちている。
ユンは皮肉な笑いを口元へ浮かべるとトチを迎え撃つ。
もちろん、右手には遺児を抱えて。
それでも、ユンの強さは圧倒的であった。
追い詰められたトチは近くの竹林へと逃げ込む。
いや、これはトチの罠であった。
トチの獲物は包丁でありリーチが短い。
反面、ユンの獲物は剣でありリーチが長い。
竹に邪魔され、思うように振るえないのだ。
しかし、このハンデがあってなおユンは強かった。
リーチを補うべく刃を垂直に構え、切るのではなく削ぐように変えたのだ。
これにより、ユンはトチを追い込む。
遂に一撃を加えるユン。
だが、ユンは忘れていた―――トチが異常に頑丈であることを。
また、今のユンは遺児を抱えている上に構えを変えた為に力が入っていなかった。
肉を切らせて骨を断つ。
トチは剣の一撃を受けると同時にユンへ包丁を振り下ろす。
とはいえ、それでもユンは躱すことが出来る筈であった。
しかし、軌道上に遺児が居たのだ。
ユンは遺児を盾にするのではなく、彼を庇い包丁を受けた。
滝のような出血に驚くユン。
其処へ様子を見ていた民たちが止めを刺すべく殺到する。
こうして、ユンは絶命してしまった。
朝廷に反逆したことで土地に居られなくなった民たち。
そんな民たちを連れ荒野を駆けるトチ。
その傍らにはテギとマヒャンが居た。
こうして「チュソル」は復活した。
新星「チュソル」の頭領の名はトチ。
その懐には例の遺児が抱かれていたとのことである―――エンド。
<感想>
まさに韓国版「西部劇」、それに「水滸伝」を加えた印象かな。
それにしても、終盤のガトリングガンには驚愕しました。
あれがあれば中盤の時点でユンにも勝てただろうに。
そんな本作ですが2人の男の対決がテーマ。
まずはトチ。
ユンにより家族を殺され愛を奪われた男。
トチは「チュソル」で共同生活を営み、仲間を作る。
そして、仲間と民への博愛を知った。
続いてユン。
人一倍、愛情を求めるも誰にも愛を与えられなかった孤独な男。
それでも家族に愛を求め、実父であるウォンスクに縋るが彼は何処までもユンを拒否する。
ユンはウォンスクに認められるべくチョ家を隆盛へと導こうとする。
しかし、それでもウォンスクはユンを認めない。
結果、ユンはウォンスクすら手にかけることに。
ところが、そんなユンもあれほど拘った異母弟・ソインの遺児には手を下せない。
何故なら、その遺児こそが唯一ユンに残された血の繋がった家族だったから。
そして、彼だけは素のユンを見詰めてくれたから。
ユンは求めていた家族愛を、皮肉にもソインの遺児に見出したのでしょう。
だからこそ、彼を手に入れても命を奪うことが出来なかったし庇うこととなった。
もしも、ソインの遺児さえ居なければウォンスクとの決裂も無かったかもしれないのに。
ウォンスクとその愛情を一身に受けるソインを憎んだユン。
だが、そのソインの息子に心を救われることになるとは……彼自身も皮肉だったことでしょう。
言わば、トチは家族愛を失い博愛に目覚めた。
一方でユンは初めから失われていた家族愛を求め、最期の最期にソレを得た。
と言ったところでしょうか。
惜しむらくはユンは占い師の言葉にもあった通り「帝王の器」。
それを曲げてしまったのは家族であるウォンスクたちでした。
名士であるユンが博愛を行えば闇社会に生きるトチよりも大きなことが出来たのかもしれません。
そして、ユンもまたトチを曲げた。
そんなトチにより最期を迎えるユン、これまた皮肉な結末です。
とはいえ、ラストにてトチの一撃に沈むユンの表情は何処か安らかでしたが、それすら彼の意に沿うところだったのでしょうか。
そして、生き残ったトチ。
先述した通り、群盗としての彼を生み出したのはユンです。
だとすれば、ユンこそが新生「チュソル」の真の生みの親なのかもしれません。
トチは此の後も「チュソル」の活動を続けるのでしょう。
とはいえ、作中で描かれている通り群盗の博愛は一時しのぎの物。
その場で米を分け与えても、朝廷のシステムが変わらない限り根本的な解決には至りません。
真の博愛を目指すなら時の朝廷の改革が必要なのですが、トチはどうするのでしょうか。
何となくですが映画「雲を抜けた月のように」を思い出しました。
・「雲を抜けた月のように」(2010年、韓国)ネタバレ批評(レビュー)
さて、興味を持たれた方は是非、本作にチャレンジされたし!!
ちなみにネタバレあらすじはまとめ易いように改変を加えているので、詳しくは本作をご覧頂きたい。
ラベル:群盗
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