2015年09月15日

『デザイナーベイビー』(岡井崇著、早川書房刊)

『デザイナーベイビー』(岡井崇著、早川書房刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

NHKドラマ化決定! 現役医師が描く、生殖医療最前線の闇!

【NHKドラマ化】 城南大学病院は衝撃に震えた。生後三日の女児が、新生児室から連れ去られたのだ。誰が、なぜ、どうやって、産まれたばかりの児を? しかも誘拐された児は病気を持っている。救出は一刻を争う。やがて院長あてに身代金要求の電話が入るが……狡猾な犯人に翻弄され、焦慮に駆られる警察。医師たちも動揺を隠せない。だが、事件はまだほんの序の口だった。さらなる衝撃が、城南大学病院を襲ったのだ! 産科医不足問題の実態を描き、社会に大きな波紋を投げかけた『ノーフォールト』、医療改革の闇をえぐった『トライアングル』の著者が、医療最前線のさらに一歩先にある危機を描いた話題作を全面改稿。
(早川書房公式HPより)


<感想>

海外ミステリのような怒涛の展開がポイントの作品。
そして、かなり深い「テーマ」を扱っている点もポイントです。

特に此処では「テーマ」に注目。

タイトルにもなっている「デザイナーベイビー(此処からはデザイナーベビーと表記)」。
その意味は「生まれて来る前に遺伝子に調整を施し両親が望む子供を手に入れる方法」のこと。
此処での調整は「健康」であったり「身体能力の向上」であったりします。
この方法ならば両親が望む子供が得られることに。

この手法は既にSF世界やアニメなどでは一般的となっており、例えば森岡浩之先生「星界シリーズ」(早川書房刊)に登場するアーヴや「機動戦士ガンダムSEED」のコーディネーターなどが挙げられます。

「機動戦士ガンダムSEED」(2002年、日本)

ディスティニープラン発動!!

その作中でも取り上げられていますが「優れた存在ゆえの優越」や「作られた存在ゆえの悲哀」などが問題視されているようです。
言わば「SF世界」では「デザイナーベビー」は「ロボット」や「アンドロイド」に近い存在とされています。

そして、現実でも「デザイナーベビー」には同様の問題定義が為されています。

まず、其処に子供自身の意志は存在するのか?
また、これではまるで両親の目的の為に子供が存在していることになるのではないか?

すなわち「遺伝子調整」が「誰の為に行われるのか」の問題。
「生まれてくる子供の為」ではなく「親の為」ではないかとの倫理的な問題が指摘されているワケです。
まるで「SF世界」のロボットやアンドロイドと創造主の関係のように。

此処では親こそが創造主となることに。
だからこそ倫理面が問題とされる。

ですが、そもそも親たる者が子供に何かを望まずに居られるでしょうか?
出来れば子供には大人物になって欲しい、大成して欲しいと望むのは当然のことではないでしょうか。

その一方で両親から望まれない子供の存在もあります。
それは「意図せず出来てしまった子供」や「両親の望みに叶わなかった子供」たち。
後者は両親からの愛情が注がれていないワケではありません。
しかし、より多くを望んだ場合に望まれないとされるようです。

両親から望まれた「デザイナーベビー」と「望まれない子供」。
果たして、いずれがより幸せなのでしょうか。
これこそが、本作のテーマ。

本作ラストで登場した少女は誘拐された近森望美なのでしょう。
だとすれば、共に居た両親こそは「あの人たち」となるのか。

近森家ではその存在が夫婦の間で問題視された望美。
だが、あの人たちの間ではその遺伝子ゆえに大きな期待がかけられていました。

まさに近森家では望まれず、あの人たちの間では望まれた子。
そして、あの人たちにとって望美は遺伝子調整が施されているワケではありませんが、疑似的なデザイナーベビーとなっています。

他にも遺産相続の条件をクリアする為に子供を望む「あの人」や、その当人自身が実は「アレ」であったり。
そして、自然と子供を得ることとなった「あの人」など。

様々な親と子の形が描かれた本作。
子はいずれ成長し親になります。
読者諸氏は本作を読んで是非、想いを馳せられたし。

ちなみに、ネタバレあらすじについてはかなり改変されています。
本作を楽しんで頂くには本作それ自体をお読み頂くことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
須佐見誠二郎:城南大学病院産婦人科教授。
柊奈智:城南大学産科病棟医長。
山原あけみ:城南大学病院の看護師。
下地浩介:刑事。後に悠里と……。
速水悠里:刑事。後に下地と……。
江嶋敏幸:資産家の息子、不妊治療により生まれた経緯がある。
江嶋英恵:敏幸の妻、不妊治療を受けて妊娠した主婦。
近森博:情報通信工学の教授でノーベル賞受賞の噂も囁かれている。
近森優子:博の妻、不妊治療を受け望美を出産する。
近森望美:近森博、優子夫妻の生まれたばかりの娘。障害を抱えている。
河窪悟:由佳の恋人、子供を欲しがっている。
槙居由佳:河窪の恋人、子供を欲しがっている。


須佐見誠二郎と柊奈智が所属する城南大学病院にて大事件が勃発した。

情報通信工学の教授でノーベル賞受賞の噂もある近森博とその妻・優子の間に生まれた娘・望美が誘拐されたのだ。
望美は夫妻が不妊治療の末にようやく授かった子供であったが、傷害を抱えていた。
近森は望美に対して不満を抱えていたらしいが……。

こうして、下地浩介刑事や速水悠里刑事が捜査に乗り出すことに。
そんな中、犯人から5000万円の身代金が要求され奪われてしまう。

矢先、同じ城南大学病院で妊婦の江嶋英恵が急死したのだ。
担当看護師・山原あけみによれば投薬すべき薬を投薬し忘れたとのことであったが……。

調べたところ、むしろ山原あけみが指示を受けていない薬物を投薬したことが原因で英恵が死亡したことが明らかになった。
英恵の死は殺人だったのだ。

直後、今度は山原あけみが不審な死を遂げる。
罪が明らかになったが故の自殺と思われたのだが……。
その死がチューブで胃に直接薬品を注ぎ込んだ殺人と判明する。

山原あけみが英恵の夫・江嶋敏幸と愛人関係にあったことが分かった。
しかも、英恵の胎児が障害を抱えていたことも判明。

資産家の息子であった敏幸が父から30億もの遺産相続に当たって条件を提示されていたことも分かる。
それは「丈夫な孫を作ること」だった。
敏幸にとって英恵と胎児が邪魔になっていたのだ。
其処で敏幸が愛人である山原あけみを使って英恵を殺害したと思われた。

そんな折、当の敏幸が姿を消してしまう。
どうやら、海外へ逃げたようだ。

この捜査を続けるうちに、下地と悠里は愛を確かめ合うように。
悠里は下地の子供を妊娠する。

一方、山原あけみ殺害に新展開が。
犯人の遺留品と思われる手袋からDNAが検出されたのだが、これと敏幸の両親のDNAが合致しなかったのだ。
犯人が敏幸ならばその両親のDNAと犯人とが家族であることが証明される筈だったのだが……。

これに対し、須佐見は敏幸もまた不妊治療の末に生まれた子供であることに注目。
当時、受精卵の入違い事件が多発していたことを挙げ、敏幸の受精卵も別の誰かと間違われたのではないかと指摘する。

調べたところ、これが事実であることが判明。
敏幸は江嶋家とは血の繋がりの無い息子だったのだ。

下地たちは敏幸を拘束し、山原あけみ殺害犯のDNAと鑑定しようと考える。
敏幸が遺産相続の為に次なる子供を求めるだろうと予測し、海外で罠を張ることに。

これに敏幸がかかり身柄が確保された。
敏幸のDNAを鑑定したところ、山原あけみ殺害犯と合致する。

敏幸は全てを告白する。
30億の遺産を相続する為に条件をクリアしようとした敏幸。
ところが、英恵の子供には障害があった。
敏幸は英恵に堕胎を迫るが彼女はこれを拒否。
其処で山原あけみに命じて英恵を殺害したのだ。
しかし、捜査の手が山原あけみに向いたことで口封じしたのであった。

また、敏幸は近森望美誘拐事件にも関与していた。
その実行犯は敏幸の友人・河窪悟と槙居由佳だそうだ。
何でも河窪と由佳は非情に優秀な子供を欲しがっていた。
其処でノベール賞受賞を噂される近森の娘に目を付けたのだ。

どうやら敏幸が手引きし誘拐させる代わりに身代金を貰っていたらしい。
敏幸は身代金で自身の血を引く丈夫な子供を手に入れようとしていたようだ。

敏幸は逮捕されたが、河窪たちの行方は杳として知れなかった。

近森家では望美に次ぐ新しい子供をもうけるべくさらなる不妊治療を開始することに。

下地と悠里は結婚した。

それから数年が経過した。
2人の男女が1人の少女を連れている。
少女は障害を抱えながらピアニストとして将来を嘱望されるようになっていた。
両親はそんな少女に大きな期待をかける。
と、其処に下地たちがそっと近付く。
下地は両親を拘束すると少女の名を問う。
少女の名は「望美」であった―――エンド。

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