2015年10月24日

『夢うつつ殺人事件』(麻耶雄嵩著、角川書店刊『小説野性時代』2015年10月号掲載)

『夢うつつ殺人事件』(麻耶雄嵩著、角川書店刊『小説野性時代』2015年10月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<感想>

「謎解きLIVE」から生まれた「ももあおコンビ」が遂にシリーズ化です。
シリーズとしては『伊賀の里殺人事件(忍びの里殺人事件のノベライズ版)』に続く第2弾となっています。

【未視聴ながらやっちゃいました】「謎解きLIVE 忍びの里殺人事件」雪月花ブログの謎にチャレンジしてみた!!

そんな今回は「原因」と「結果」が逆転する構図が美しいですね。
「愛宕殺害計画」が先にあって「相生が盗み聞きしてしまった」と思いきや「相生が盗み聞きしてしまった」からこそ「愛宕殺害計画」が生まれた。
ある意味、『メルカトルと美袋のための殺人』収録のある作品をアレンジした印象か。

そう言えば『伊賀の里殺人事件』もある状況を逆転させる必要がありましたが、このシリーズ「逆転」がテーマとなるのでしょうか。

そして相生が耳にした最初の会話の構成も秀逸です。
ちなみに、相生に悪戯(嫌がらせ)を仕掛けたのは車坂と伊予っぽいねぇ。

またまたちなみに、登場人物は全員が地名をもとにしていたりします。

ネタバレあらすじはまとめ易いように改変しています。
興味のある方は本作それ自体をご覧になられたし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
伊賀もも:「ももあおコンビ」の1人。直感的推理担当。
上野あお:「ももあおコンビ」の1人。論理的推理担当。
伊賀空:ももの兄、刑事。
顧問:美術部顧問。
部長:美術部部長。
相生:女子美術部員。
田端:相生の友人。
愛宕:男子美術部員。
徳居:女子美術部員。
車坂:女子美術部員。
伊予:女子美術部員。


高校生である伊賀ももと上野あおは「ももあお」として知られる名コンビ。
ももが直感的推理、あおが論理的推理を得意としており、ももの兄である刑事・伊賀空に協力して2人で幾つかの事件を解決して来た。

そんな2人のもとに同級生の女子生徒である田端が美術部員の相生を連れて相談に来た。
何でも相生がとんでもない話を耳にしてしまい、狙われているらしい。

話は1週間ほど前に遡る。
怖がりの相生は野外でデッサンを行っていた途中でうたた寝してしまった。
と、夢現のところに男女の声が届いて来た。
どうやら、美術室か隣室の準備室からの声のようだ。

声によれば「愛宕が二股をかけて」「殺す」などと不穏当な内容。
また「お堀の幽霊の仕業に偽装しよう」などとも聞こえて来た。

「お堀の幽霊」とは学校に伝わるまことしやかな伝説の1つ。
無念の死を遂げた女子生徒が血に濡れた赤い右手を翳して追って来るとの逸話である。

これに恐れ戦いた相生だが、気になってしまったのでその時間に美術室と準備室に居たメンバーを調べ始めた。

美術室に居たのは男子生徒が愛宕1人、女子生徒が徳居、車坂、伊予の3人。
準備室には部長と顧問の教師だけ次期部長について相談していたと言う、ちなみに2人とも男性である。

はて、此処でおかしなことになってしまった。
相生が耳にしたのは「男女の声」だ。
だが、準備室には男性2人のみ、美術室には男性は殺害計画の対象となった愛宕のみ。
到底、条件を満たす人物が居ないのだ。
其処で相生はもしかすると夢かもしれないと放置していた。

ところが、先日になって美術室に置いてあった相生の鞄に「お堀の幽霊」のエピソードにちなんだとみられる右手の手形が残されていたのだ。
それは美術室の「右手のヴィーナス」を用いて絵具で付けられたもの。
もしかして、話を盗み聞いてしまったことを知られ警告されたのだろうか?
怖くなった相生が田端に相談し「ももあお」を頼ったのである。

これを聞いた「ももあお」は取り敢えず様子を見ようと決めるのだが……。
その矢先、愛宕が相生が盗み聞きした状態通りに殺害されてしまう。

捜査に訪れた空に協力することとなった「ももあお」。
空によれば愛宕は徳居と美術室に残っていたが、別れた直後に殺害されたようだ。
愛宕の死を知った徳居は号泣して取調も出来ない状態のようだ。
また、愛宕の鞄には相生と同じく「お堀の幽霊」をモチーフにした手形が残されていた。
ただし、今回は愛宕の血を用いた左手のスタンプだ。
どうやら、今回も美術室に置いてあった「左手のヴィーナス」を使ったらしい。

其処にあおが口を挟みかけた途端、ももが「2人で一度に話されても分からないよ!!」と叫ぶ。
これに、あおは真相に気付く。

相生が盗み聞きした話は別々の2組の会話であった。
おそらく美術室と準備室での会話だろう。

美術室では「相生に対して行うお堀幽霊を模した悪戯についての会話」。
準備室では「部長と顧問が愛宕を次期部長にすべきか否かについての会話」。

美術室にて女子同士、準備室にて男子同士。
相生は意図せずそれぞれから女子と男子の言葉をピックアップしてしまったのだ。

つまり、その時点で愛宕殺害計画は存在しない。
ところが、実際に愛宕は相生の聞いた話通りに殺害されてしまった。
すなわち、犯人はこの計画が存在すると信じてしまった者である。

この存在しない計画について知っているのは相生、田端、もも、あおの4人。
もも、あおには動機が無い。残るは相生と田端だ。

此処で「何故、左手でスタンプされていたのか」がポイントとなる。
本来ならば「右手のヴィーナス」を用いるべきところ「左手のヴィーナス」を用いている。
犯人は「右手のヴィーナス」の存在を知らなかったのだろう。
それは美術部員ではない田端しか居ない。

おそらく田端は愛宕と交際していたのだ。
ところが田端は相生の話を耳にし、愛宕の浮気を疑った。
そして、徳居の狼狽えぶりを見る限り、愛宕は徳居とも交際していたに違いない。
この事実を田端が知ってしまったのだ。
其処で殺害に発展。
咄嗟に相生から聞いた計画を利用することを思いついたのだが、そもそも存在しないものだったのである―――エンド。

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