ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
明治維新後の京都、 六角獄舎で起きた毒殺事件。 処刑執行の日、 なぜ囚人は殺されたのか。 第12回ミステリーズ!新人賞受賞作
(東京創元社公式HPより)
<感想>
本作は「第12回ミステリーズ!新人賞」受賞作です。
第12回は応募総数503編、本作の他に佳作として榊林銘先生『十五秒』も栄冠に輝いています。
・「第12回ミステリーズ!新人賞」受賞作発表!!栄冠は伊吹亜門先生『監獄舎の殺人』に!!
そんな本作は「処刑が迫った囚人を何故、毒殺する必要があったのか?」との「ホワイダニット」がテーマ。
また、かなり特徴的な作品で一読して山田風太郎先生『明治断頭台』(筑摩書房刊)や物集高音先生『大東京三十五区 冥都七事件』(祥伝社刊)を思い出しました。
他にも先述の「ホワイダニット」からラストのサプライズに繋がる構成も見事。
司法省の江藤と言えば「佐賀の乱」の江藤新平、作中の平針と重ね合わせて後の事を思わせる作風も印象的でした。
ちなみにネタバレあらすじは大幅に改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むことをオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
師光:司法省の役人、江藤の部下。
円理:師光の部下。
平針:円理の父を殺害した下手人。
江藤:司法省の司法卿。
時は明治維新を迎えた日本、場所は京都にある六角獄舎でのこと。
司法省の役人・師光は司法卿である江藤の命で彼の地を訪れていた。
目的は獄に繋がれている平針へ刑の執行を伝えること、その刑とは死刑である。
平針は剣鬼として名高い人物、幕末を舞台に薩長閥の指示で暗殺者として行動していた。
だが、維新を迎えて待遇に不満を抱き弟子を連れて決起したのだ。
しかし、この反乱はあっさりと鎮圧され逮捕されるに至っていた。
江藤は平針が知る過去の暗殺事件についてこれを機に明かしたいと願っていたが、薩長閥の圧力により処刑執行が決められたのだ。
江戸の流れが未だ色濃い当時、処刑は斬首と定められていた。
この処刑の実行役として看守の円理が選ばれた。
円理の父は平針により暗殺されており仇の間柄だったからである。
若手の円理は斬首と聞き緊張の面持ちを見せる。
矢先、師光と円理が監視する中で粥を口にした平針が毒殺されてしまう。
どうやら、粥に石見銀山が混入されていたようだ。
犯人は誰なのか?
何故、斬首を控えた平針をわざわざ毒殺せねばならなかったのか?
師光はさまざまに考えを巡らせる。
平針は薩長の汚れ仕事の実行役であり生き証人。
だからこそ、口を封じられたのか?
だが、そもそも処刑を実行するよう指示したのも薩長なのだ。
思い悩む師光は「毒薬が平針を殺す為のもの」ではなく「平針を生かす為のもの」だったのではと考えるように。
そして、犯人を突き止める。
犯人は円理であった。
若い円理は斬首を失敗することを恐れたのだ。
其処で鍛錬する時間を欲した。
平針が毒により体調を崩せば処刑は延期される。
それが狙いだったのだ。
円理はこれを認め、罪に服することとなった。
だが、師光は何処か納得がいかなかった。
そして、ふと気付いた。
もう1人、平針の延命を願った人物がいたことに。
他でもない司法卿の江藤だ。
江藤は取調の時間を欲していた。
円理と同じように考えても不思議ではない。
円理も江藤も致死量に満たない石見銀山を用いた筈だ。
だが、これが重なったことで奇しくも平針を死に導いたのであった―――エンド。
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