2015年11月18日

『リケジョ探偵の謎解きラボ』(喜多喜久著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 三つの迷宮』収録)

『リケジョ探偵の謎解きラボ』(喜多喜久著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 三つの迷宮』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

密室で突然死した大学教授、海上で起きた殺人事件、父親の連れ子に隠された秘密――『このミス』大賞作家による豪華書き下ろし3編!

密室で大学教授が突然死を遂げた。果たして単なる病死なのか(喜多喜久「リケジョ探偵の謎解きラボ」)。海上で殺害されたデベロッパー企業の社長は、周囲の誰からも恨まれていた(中山七里「ポセイドンの罰」)。父親が連れ帰ってきた少年が、“冬”のない温かな家庭に影を落とす(降田天「冬、来たる」)。人気『このミステリーがすごい!』大賞作家3名の手による、書き下ろしミステリー・アンソロジー!
(宝島社公式HPより)


<感想>

なかなかの「倒叙物」ですね。
序盤にて読者には犯人が既に美鈴だと明かされています。
だが、その犯行方法が読者には明かされない。
つまり、本作では「どのようにして美鈴が鷹野を殺害したか」、すなわち「ハウダニット」が問われています。

そのトリックは、まさに真船一雄先生のコミック「スーパードクターK」に登場した真田武志のソレを彷彿とさせる物。
とはいえ、そこから現代医療ならではの「アレ」を加えたところが新しいと言えるでしょう。

また、このトリックの内容が明かされた後に「如何にして久里子がこれを証明するのか」もポイントと言えるでしょう。
これまた「倒叙物」の醍醐味と言えるでしょうが、これについて「目には目を、歯には歯を、アレにはアレを……」となったところも面白かった。
すなわち、あの証拠は「偶然の産物」ではなく久里子による「故意の産物」なワケです。

この行動自体が久里子というキャラクターを示しており、此の点も良し。

また「美鈴と鷹野」、「美鈴と宮尾」のカップルに対し「江崎と久里子」を対比させることで浮かぶ江崎の誠実さ、久里子の不器用な正直さも見所でした。

なお、ネタバレあらすじはまとめ易いようにかなり改変を加えています。
興味のある方は本作それ自体をご覧になるべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
江崎:保険会社の調査員。
友永久里子:駆け出し中の天才研究者。
花塚:久里子が担当する学生の1人。
鷹野隆三:高名な研究者。
鷹野美鈴:隆三の年下の妻で同じく研究者。
宮尾憲史:美鈴の不倫相手。
魚住:「開錠キング」の社員。


その夜、美鈴は完全犯罪を実行に移した。
不倫相手の宮尾の為に、夫である鷹野隆三をある方法を用いて殺害したのだ。

鷹野は壁の向こうで死に絶えている。
美鈴と鷹野の間には完璧に施錠された扉が横たわっており、美鈴自身でも開錠は不可能。
完全な密室だ。
すなわち、これで美鈴には鷹野を殺害することが出来ないワケだ。
後は「鷹野が室内で急死した」と主張すれば美鈴の計画通りだ。

美鈴は施錠された鍵を開ける為の業者を手配すべく「開錠キング」へ連絡を入れた。
やって来たのは魚住なる社員、美鈴は彼を見て証人として相応しいと計画成功を確信する。
魚住はそんな美鈴の心情も知らず、彼女に言われる通り鍵をこじ開けた。
すると中には……変わり果てた鷹野の姿があったのである。

こうして鷹野の急死が明らかとなった。
鷹野には多額の保険金がかけられており、受取人は妻の美鈴とされていた。
保険会社の調査員・江崎はこの急死に疑問を抱く。
特に根拠があるワケではない、だが何処か釈然としないのだ。
だが、仮に美鈴の犯行としてもその方法が分からない。

其処で美鈴が研究者であったことから、江崎が懇意にしている……いや、あわよくばもう一歩踏み込んだ関係になりたいと思っている研究者・友永久里子の出馬を願うこととなった。
久里子は江崎の話を聞くなり「方法はまだ分からないが合理性を追求するならば江崎の疑問は正しい」と断ずる。

こうして、江崎は久里子の助力を得て美鈴の犯行方法を追及することとなった。
矢先、久里子と彼女の教え子・花塚がハグしている光景を目撃し肩を落とす。
花塚は江崎が見ても中性的な美貌の持ち主で、到底、彼が敵うとは思えなかったからだ。

とはいえ、しょげ返っている場合ではない。
江崎は久里子のことを思いつつ、美鈴周辺を調査し彼女に宮尾なる不倫相手が居ることを突き止めた。
どうやら久里子は研究者としては優秀だが、その分だけ異性に免疫がなく、プレイボーイの宮尾に騙されて貢いでいるらしい。
研究費の横領さえ噂されていた。
だとすれば、美鈴が宮尾に唆されて保険金目的で鷹野を殺害することはあり得ることだ。
さらに美鈴の研究分野がウイルスであることも調べ上げた。

だが、肝心の美鈴が用いた鷹野殺害方法が分からない。
鷹野の死亡現場は完全な密室。
到底、誰かが出入り出来た痕跡はない。
また、鷹野自身に目立った外傷はない。

困り果てていた江崎。
しかし、これについては久里子が殺害方法を突き止めていた。
美鈴の論文に目を通し、その思考プロセスを辿った結果だと言う。

その方法とは「蚊」であった。
美鈴は専門であるウイルスを「蚊」を媒介に鷹野に注入し病死に偽装し殺害したのだ。
その後、魚住を呼ぶ前に外の隙間を通じて室内に殺虫剤を散布し証拠を隠滅した。
だが、久里子によればこれを証明する術が今のところないらしい。
確かに蚊を媒介にウイルスが用いられたことが立証出来ても、それが美鈴の犯行とは結び付かないからだ。

「今のところ?」
久里子の言葉にふと疑問を覚える江崎。

そう、あくまで「今のところ」なのだ。
久里子は江崎に「目には目、歯には歯、蚊には蚊」と謎めいた言葉を呟くが……。

数日後、美鈴の前に江崎と久里子が立ち塞がっていた。
江崎は美鈴に「保険金は支払えない」と宣言する。
続けて、蚊を用いた犯行を指摘する江崎。

だが、美鈴は証拠がないと言いかけて……久里子の表情に愕然とする。
久里子の顔には勝利の2文字が躍っていた。

久里子は語り出す。
昨日、美鈴の研究室から見つかった蚊から鷹野殺害に用いられたウイルスの抗体が検出されたのである。
その蚊が吸血した相手は美鈴。
つまり、美鈴の身体には鷹野殺害に用いられたウイルスの抗体が存在していることになる。

久里子は美鈴が研究者である以上は至急の折に対応すべく必ず自身の安全は確保すると見越していた。
其処で誤ってウイルスを接種しても問題が無いように、美鈴が事前に抗体を注射していること自体を証拠としたのだ。

これに美鈴は罪を認めることに。

さて、こうして事件は解決。
とはいえ、江崎の気持ちは晴れない。
何しろ、久里子には花塚が居るのだ。
それでもイチかバチか久里子に告白する江崎だが……。

なんと衝撃の事実が判明する。
てっきり男性だと思っていた花塚は女性だったのだ。
だからこそ、久里子も同性として親しくしていたのである。

これを知った江崎は大喜び。
さらに、久里子から「研究第一で良ければ……」と交際OKの返事までも得ることに。
実は江崎にとって今回の事件で一番の成果はコレだったのかもしれない―――エンド。

・ドラマ版はこちら。
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posted by 俺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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