2015年11月19日

『ポセイドンの罰』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 三つの迷宮』収録)

『ポセイドンの罰』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 三つの迷宮』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

密室で突然死した大学教授、海上で起きた殺人事件、父親の連れ子に隠された秘密――『このミス』大賞作家による豪華書き下ろし3編!

密室で大学教授が突然死を遂げた。果たして単なる病死なのか(喜多喜久「リケジョ探偵の謎解きラボ」)。海上で殺害されたデベロッパー企業の社長は、周囲の誰からも恨まれていた(中山七里「ポセイドンの罰」)。父親が連れ帰ってきた少年が、“冬”のない温かな家庭に影を落とす(降田天「冬、来たる」)。人気『このミステリーがすごい!』大賞作家3名の手による、書き下ろしミステリー・アンソロジー!
(宝島社公式HPより)


<感想>

本作は「海上のクルーザー」内で発生した殺人事件の顛末を描いた作品。
犯行現場はクローズドサークルとなっており、容疑者は限られる。
そんな中で誰が被害者を殺害したか、すなわち「フーダニット」がポイントです。

一読した限りでは中山先生版『オリエント急行の殺人』と『カーテン』(共にアガサ・クリスティー著)か。
終盤までが『オリエント急行の殺人』で終盤以降が『カーテン』の「犯人X」になってますね。
その意味はネタバレあらすじをご覧頂ければ分かる筈。
ただ、こうなると「ポセイドンの罰」と言うよりは「あの人による人為的な罰」な気がしないでもない。

『オリエント急行の殺人』(アガサ・クリスティー著・山本やよい訳 、早川書房刊)ネタバレ書評(レビュー)

『カーテン』(アガサ・クリスティー著・中村能三訳 、ハヤカワ書房刊)ネタバレ書評(レビュー)

ちなみに、ネタバレあらすじは管理人によりかなり改変されています。
本作を楽しんで頂くには直接お読み頂くことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
響子:刑事。
鏑木:響子の後輩刑事。
工藤:大手不動産会社社長、被害者。
美波:慰安会に招かれた4人の1人。
成田:慰安会に招かれた4人の1人。
斉藤雪菜:人事部の担当者。


洋上で殺人事件が発生した、被害者は大手不動産会社社長の工藤である。

その日、工藤は人事部の担当社員・斉藤雪菜に選ばせた成績優秀者4人をクルーザーに招き慰安会を行っていた。
集められたのは美波や成田ら4人。
ところが、彼ら4人は揃いも揃って工藤に対して殺意を滾らせていた。

工藤は普段から素行が悪く学生時代も親の権威を嵩に、気に入った女子学生に乱暴を働き続けていたが誰も彼を罰することが出来なかった。
その素行は社会人となってからも改められることはなく、部下の妻や恋人にまで手を出す漁色家として知られていた。
挙句に、部下の手柄は自分の栄誉、自分のミスは部下の責任となるのだから性質が悪い。

当然、過去に工藤に弄ばれ強制的に堕胎を強いられた美波や意見具申しただけで降格処分の憂き目に遭った成田らの恨みは骨髄であった。
そんな彼らが集まったのだから何かが起きない筈が無い。

港を出発したクルーザーが帰港したところ、手足を拘束された工藤の刺殺体と泥酔した4人が発見されたのである。
どうやら、飲み物に睡眠薬が混ぜられていたようだが……。

海上での殺人事件だけに、容疑者は限られる。
すなわち、慰安会の参加者4人だ。
ところが、誰も誰が犯人かは分からないと言う。

こうして、事件の捜査に響子と後輩刑事の鏑木が乗り出した。
響子は工藤が海上への不法投棄を行っていたことを知るや「ポセイドンの罰だ」と呟くが……。

美波らへの取調べを開始した響子。
だが、彼らは一様に犯行を否認する。

矢先、美波が投身自殺してしまう。
目撃者も存在しており、彼女が自ら死を選んだことも明らかであった。
すなわち、工藤殺害の罪を悔いての自殺と思われたのだが……。

雪菜によれば「工藤を殺して罪を後悔する者など居ない」らしい。

直後、工藤の司法解剖の結果から意外な事実が明らかになり事件は急展開を見せることに。

響子は成田ら3人を呼び出すと、美波も含めた4人全員の共謀であることを告発する。
工藤はアイスピックで刺殺されていたのだが、刺し傷が4段階に分かれていたのだ。
すなわち、成田ら4人が順番に工藤を刺したのである。
4人はこの機会を天佑と思ったのだそうだ。
結果は無事成功し工藤は死亡した。
しかし、美波だけは嫌疑を向けられることに耐えられず自殺してしまったのだ。

響子から「美波と同じように3人共が罰を受けるべきだ」と諭された成田たちは罪を認めることに。
だが、まだ事件は解決していなかった。

そもそも、4人がどうして一同に会することとなったのか?
響子は雪菜の作為を問い詰める。
雪菜の妹も工藤の毒牙にかかり自殺していたのである。
雪菜もまた工藤を恨んでいた。
其処で雪菜は工藤に恨みを持つ美波たちを選び出すことで事件を起こすことを狙ったのであった。

とはいえ、これを立証する術は無い。
憤然とする響子は素直な鏑木に癒しを求めるのであった―――エンド。

・ドラマ版はこちら。
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