ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
思いがけず与えられた人生最期の「十五秒」の使い道とは!? 第12回ミステリーズ!新人賞佳作
(東京創元社公式HPより)
<感想>
本作は「第12回ミステリーズ!新人賞」佳作です。
第12回は応募総数503編、本作の他に受賞作として伊吹亜門先生『監獄舎の殺人』も栄冠に輝いています。
・『監獄舎の殺人』(伊吹亜門著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.73 OCTOBER 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・「第12回ミステリーズ!新人賞」受賞作発表!!栄冠は伊吹亜門先生『監獄舎の殺人』に!!
そんな本作は「佐奈に殺害された私が、与えられた15秒の間に如何にして反撃するか」または「真相を伝えようとするか」がメイン。
つまり「わずか15秒の刹那の攻防を描く作品」で緊迫感に溢れる一作となっています。
そしてポイントは「時は誰にも平等である」こと。
もちろん「15秒」についても。
「私」と「佐奈」の一人称で描かれている為に「私」に感情移入しているとこの事実に気付きにくく、気付かされたときのサプライズは効果抜群!!
この時系列については次の通り。
本作には存在していなかった【私@】や【佐奈@】のナンバリングをあらすじ内で便宜上振ったのはこの仕掛けを説明する為だったりします。
まず、【私@】→【佐奈@】→【私A】→【私B】→【佐奈A】→【佐奈B】が時系列順。
【私@】【佐奈@】で私が狙撃を受け薬剤の瓶を投擲。
【私A】の間に佐奈が回り込む。
【私B】で私が佐奈の第2射を受ける。
【佐奈A】【佐奈B】は私の死亡後の出来事となっています。
つまり、同作中であっても「私」と「佐奈」に流れる時間が異なっているワケです。
また、私が中盤で報復の手を緩めることとなった「良心の呵責」が佐奈への最大の攻撃になった点も特筆すべきでしょう。
特殊状況下を描いた短編としてかなり面白かった。
ちなみにネタバレあらすじは大幅に改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むことをオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
私:佐奈に殺害された被害者
黒猫:死を具現化した存在
佐奈:私を殺した犯人
頼子:佐奈の母
【私@】
此処はとある地方の診療所、私は薬剤師として働いている。
いや、「いた」。
何故なら、つい先ほど私は何者かから銃撃を受け瀕死の重傷を負っているからだ。
もはや、「働いていた」と言って差し支えは無いだろう。
今、目の前には人語を解する黒猫が立っている。
彼(いや、彼女かもしれないが……)は自身を「死」と呼んでいた。
どうやら、死が具現化したものらしい。
黒猫によれば私にはあと「15秒08」ほど時間が残されているらしい。
私は黒猫に、この「15秒08」について任意で時間を進められるように頼み込んだ。
何やら考え込んでいた黒猫であったが、嫌らしい笑みを浮かべるとこれを許した。
こうして、私は「15秒08」を用いて「犯人を確認し、その人物を告発、あるいは復讐する」こととなった。
最初の数秒を用いて振り返った私は相手が佐奈であることに気付いた。
同時にその動機にも見当が付いた。
佐奈は彼女の母・頼子が私に殺されたと勘違いしているのだ。
佐奈と頼子は診療所の患者である。
頼子が長く病床に臥し、佐奈がこれを介護していた。
ところが、頼子が服毒自殺を遂げた。
佐奈はアレを目にして、私の犯行と誤解してしまったのだろう。
私は時を止めると佐奈の様子をじっくりと観察した。
手には猟銃が握られ、その足元にはゴム長靴が履かれている。
さて、どうすべきか……私は周囲を探ると「薬剤棚の瓶」、「花瓶に活けられた水仙」、「資料の置かれたテーブル」、「テーブルに並ぶマジックペン」に目を留めた。
これならなんとかなりそうだ。
私は再び時間を進めると「薬剤棚の瓶」を佐奈の足元へと投げつけた。
瓶はあっけなく割れ、中の粉が床へと撒かれた。
上手く道を塞ぐこととなったことを確認すると、私は佐奈の第二射を警戒しつつテーブルへと駆け寄った。
【佐奈@】
佐奈は目の前の光景に愕然としていた。
弾丸が当たった筈のあいつが振り返るなり、何か薬剤の瓶を投げつけて来たのだ。
もしかして、弾が当たらなかったのだろうか?
些か不安になりつつも、佐奈は未だ優位を確信していた。
何しろ、反撃らしき一投を回避できたのだ。
とはいえ、足元には割れた瓶から溢れだした粉がばら撒かれている。
追撃をかけようと足を出しかけて、ハタと気付いた。
迂闊に踏み込めば足跡を残してしまうことに。
なるほど、これが狙いだったのだろう。
だとすれば、対応は簡単だ。
此処は診療所、外来患者用のスリッパが備え付けられている。
この長靴を脱いで履き替えれば良いだけだ。
あいつには何としても復讐を果たさなければならない。
佐奈は見ていた、あの女が頼子の薬を摩り替えるところを。
頼子はあの女に殺されたのだ。
復讐心を燃やす佐奈は玄関へと急いだ。
【私A】
一方、私は痛む身体を引き摺りつつも次の作業に移っていた。
まずは資料を手荒く払いのけると、マジックペンを手にテーブルに線を引いて行く。
横に一本、次いで縦に三本。
すなわち「サナ」だ。
だが、これで終わりではない。
私はさらに時間を使うと、花瓶の水をテーブルに撒き散らし抜いた水仙を2本ほど近くのコンセントに突き刺した。
水仙が導線となり、テーブル上に電気を這わせる仕掛けだ。
私の行動を疑問に感じたのか黒猫が問いかけて来る。
私は時を止めてこれに応じた。
先の「サナ」との「ダイイングメッセージ」は罠なのだ。
あれを目にした佐奈はメッセージを消そうとテーブルに近付くだろう。
其処でテーブルに流れる電流により感電するのだ。
先の「薬剤の瓶」も、この布石であった。
あれにより佐奈は長靴を脱ぎ、来客用のスリッパに履き替えている筈だ。
通電の条件を満たすこととなる。
私の狙いは「佐奈の犯行の告発」ではない「佐奈の死」であった。
私の命を奪った相手なのだ、これは適性な報復だろう。
【佐奈A】
暫くして佐奈は診察室へと足を踏み入れた。
もちろん、長靴からスリッパへと履き替えている。
息絶えたあいつの死体を眺めつつも、その位置が不自然なことに気付いた。
次いでテーブルの上へと視線が動く。
やはり……佐奈は其処に「サナ」との文字を見出していた。
あの薬剤の瓶を投げた理由は1つ、時間稼ぎだったのだ。
だとすれば犯人である佐奈の告発に違いない……そう考えた佐奈の読みは当たっていたようだ。
危なかったが、これで大丈夫だ。
佐奈はテーブルに転がるマジックペンを手に取ろうとして感電した。
【私B】
佐奈の死を確信していた私に黒猫が語りかけて来た。
それで良いのか、と。
黒猫は私までもが殺人を犯す必要はないと言う。
被害者として加害者を告発するに留めておくべきではないか、と。
復讐は遺された私の家族が悲しむ行為ではないか、と。
正直、それは私の良心の呵責であった。
的確に痛いところを突いてくる黒猫に、私は妥協点を提案した。
水仙の数を2本から1本に変えることで死亡確率を下げたのだ。
これならばショックを与えることは出来るが、死亡にまでは至らないだろう。
こうなれば次の方法を模索すべきだろう。
テーブルの上の「ダイイングメッセージ」は佐奈により消されてしまうに違いない。
だが、払いのけた書類の裏に「サナ」と書き、書類の束に隠してしまえば見つけられないだろう。
残りは5秒、充分であった。
私は再びペンを取るべく時間を進めようとして胸に強い衝撃を受けた。
真正面から窓越しに銃で撃たれたのだ。
慌てて時を止めると、黒猫の笑顔が目に付いた。
それはこれまでにないほどの満面の笑みだ。
意味が分からない私に、先程とは逆に黒猫が説明を始めた。
私が怖れていた第二射を受けたのだ。
私が時間を進めていた間、佐奈にも同じだけ時間があった。
その時間は10秒、玄関を抜けて窓越しに第二撃を喰らわすには十分な時間だ。
佐奈は私に止めを刺すべく回り込んでいたのだ。
黒猫はコレを知りつつ放置していたのだ。
そして、私の復讐の邪魔をした。
先程の一撃により残るは1秒を切っている。
もはや「ダイイングメッセージ」は不可能だ。
だが、何か、何かしなければ……。
焦る私の目に書類に紛れた茶色い封筒が見えた。
アレは確か……。
【佐奈B】
ただただ驚いた。
一瞬の気絶から立ち直った佐奈はあいつの仕掛けに気付き愕然としていた。
なんて奴だ、あの瞬間に罠を仕掛け報復を目論んだのだ。
だが、幸いなことにこうして命はある。
佐奈の復讐心があの女の復讐心に勝ったと言うことだろうか。
とはいえ、あまりに時間をかけ過ぎた。
人がやって来る恐れがある。
佐奈はテーブルの上の文字をマジックペンで消した。
これで此の場の痕跡は大丈夫だろう。
と、あの女が手にした封筒に目が留まる。
佐奈は封筒を回収するとその場を逃げ出した。
翌日のこと、感電の影響から立ち直りつつあった佐奈は封筒の中を目にして驚愕していた。
それは頼子の遺書だったのだ。
しかも、佐奈を連れて心中すると記されていた。
其処で佐奈は気付いた。
あいつは頼子が用意した毒薬を別の薬と摩り替え、遺書を持ち去ったのだ。
これを察した頼子が自殺したに違いない。
だとすれば、命の恩人を仇と狙い殺してしまったことになる。
衝撃を受ける佐奈のもとを警察が訪ねて来た。
犯行現場から佐奈の毛髪が検出されたのだ。
とはいえ、佐奈には既に反論する気力は失われていた。
佐奈は静かに罪を認めるのであった―――エンド。
◆関連過去記事
・『監獄舎の殺人』(伊吹亜門著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.73 OCTOBER 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
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