日本で100番目に早い(たぶん)、「相棒season14」第7話「キモノ綺譚」(12月2日放送)ネタバレ批評(レビュー)。
<ネタバレあらすじ>
うららかな昼下がり、周囲の景色に似合わず何やら険しい表情を浮かべた2人組が早足で歩いていた。
右京(水谷豊)と冠城(反町隆史)だ。
向かった先は所轄署、厳かに扉が開かれると中に居たのは―――幸子(鈴木杏樹)と駐在の加藤だ。
マンション付近でうろうろしていた幸子が不審者として連行されたらしい。
其処で身元引受人として右京が呼ばれたのだ、冠城は付添である。
何処か呆れた様子の右京に幸子は頭を下げつつ、身元を照会されたことが原因だと語って聞かせる。
不審者として通報された幸子は「マンションを気に入ったので見ていただけ」と説明したが、過去の罪を重要視され大事になったようだ。
「罪は償ったのに」と憤慨気味の幸子であったが、右京が自ら出迎えたことでお咎めなしで解放となった。
一方、大人しそうな幸子に前科があると知らされた冠城は目を白黒させることに。
その帰路、右京は幸子がマンション前をうろうろしていたことに他の理由がある筈と目を光らせる。
流石の右京の指摘にあっさりと屈した幸子は事情を語り始めた。
発端は古着屋で購入した一着の着物にあった。
一目見て気に入った幸子はコレを「花の里」へ持ち帰り、胴裏を張り替えようとしたらしい。
すると生地に「いつかおまえがそうしたように、あたしもおまえを殺したい。でも、できない。もどかしい…。幸子」と口紅で書かれていたのだと言う。
文意通りならば、これを書いた幸子なる女性は既に死亡している。
だが、死亡していれば幸子がこれを書ける筈もない。
同じ名前であったこともあり、気になって仕方が無くなった幸子は密かに着物の前の持ち主を突き止めマンションに足を運んだらしい。
とはいえ、其処から先をどうすべきかが思い浮かばず、うろうろしていたところを不審者にされてしまったのだ。
まさに、この手の謎が大好物な右京は「安眠の為」として捜査に乗り出した。
もちろん、冠城も乗り気である。
翌日、着物の元の持ち主である上條愛(西原亜希)を訪ねた右京。
すると愛は双子の姉妹である幸子(西原亜希・二役)が書いた物と証言する。
戸籍上、上條家は4人家族。
高級クラブ「アルヘナ」を営む母「エミ」。
その娘で双子の姉妹である「愛」と「幸子」。
そして、歳の離れた弟「陸」が居る。
愛によれば、幸子は今夜も「アルヘナ」に出勤する予定らしい。
念の為、愛の筆跡を採取した上で、幸子の安否を確かめるべく「アルヘナ」へ。
その頃、上條家では帰宅した愛が幸子を呼んでいた。
だが、幸子の返事はない。
これを眺める子供が1人、彼こそ陸である。
一方、姉妹の母・エミと出会った右京たち。
だが、エミによれば幸子は欠勤してしまったらしい。
なかなかやり手らしいエミと意気投合する冠城は付近の中華料理店について地図を書いて貰う。
もちろん、筆跡を鑑定することが狙いだ。
翌朝、上條家から長髪の女性が陸の手を引いて出て来た。
待ち構えていた右京と冠城は彼女に声をかける―――幸子さんですね、と。
女性はこれに頷くと着物に書かれていた一文について事情を明かす。
なんでも、あれは単なるポエムなのだそうだ。
そんな中、冠城は幸子にも筆跡鑑定への協力を求め、サンプルを採取する。
と、右京が幸子の髪の毛がウィッグであることに気付く。
何やら目を細める右京だが……。
帰宅した幸子はと言えば、愛との交換日記に自身の想いを綴っていた。
その日の午後、米沢から着物の胴裏に書かれた文字と幸子の筆跡が一致したと報告が届いた。
もちろん、愛と幸子の筆跡は合致していない。
つまり、幸子の供述通りなワケだ。
冠城は「これで終わり」と結論付けるが、右京は何やら納得していない様子だが……。
その夜、「花の里」に幸子を訪ねた右京は彼女から双子の入替りを示唆される。
これを聞いた右京は自身の引っ掛かりの正体に気付いた。
「ねぇ、愛。ジュン君、今度何時来る?」
翌朝、今日も陸の手を引く愛に何やら尋ねる陸。
これに上手く答えられず口ごもる愛。
一方、右京は自身らが出会った幸子が「幸子ではなく、愛ではなかったか」との疑問を冠城に語っていた。
其処へ米沢が右京に指示された新たな鑑定結果を伝えにやって来る。
なんと、愛と幸子の筆跡サンプルから同じ指紋が検出されたと言うのだ。
つまり、同一人物が別人同然に筆跡を書き分けたことになる。
米沢によれば珍しいことだが不可能ではないらしい。
とはいえ、愛はどうしてそのようなことをしたのか?
数時間後、下校中の陸の前に右京と冠城が現れる。
冠城に背中を押された右京は渋々ながら陸に声をかける。
どうやら、右京は未だに苦手を克服出来ていないようである。
だが、陸は人見知りしない子供であった。
特に大人に動じることなく、話に応じる。
だが、肝心の「昨日の朝の女性が愛か幸子か」については語ろうとしない。
これに、右京は利益誘導を以て対抗する。
つまり、駄菓子屋でお菓子を奢ったのだ。
再び、昨日の女性が「愛か、幸子か」確認する右京たち。
今度は陸の口も軽くなる、しかし、右京の期待に反し「あの朝の女性は幸子である」と断言されてしまった。
しかも、陸は「ジュン君が来るかもしれない」と走って帰宅してしまう。
特命係に帰還した右京たち、すると伊丹たちが待ち構えていた。
どうやら、陸に接触したことからエミがクレームを入れたらしい。
結果、冠城の経歴に傷が付くことを怖れ、監視役が付くことになったようだ。
事情を察した右京は冠城を残し、単独捜査を開始。
残された冠城は不貞腐れながら名札作りに勤しむことに。
どうやら特命係を気に入ったようである。
だが、名札のサイズは主である右京を上回るものであった。
冠城の胆力に感心する伊丹たち。
其処へ幸子から冠城に連絡が入った。
18時にロイヤルタワーホテルのラウンジで右京が待っているらしい。
冠城は伊丹たちの監視を撒いて、右京と合流する。
やって来た冠城に右京はある計画を聞かせる。
それは「同時刻強襲」であった。
時間を計って右京が上條家、冠城が「アルヘナ」を同時に訪問し「愛」と「幸子」の所在を確認するのだ。
早速、上條家を訪れた右京。
だが、愛は留守であった。
「今は幸子だから、何処に居るか知らない」と語る陸。
同じ頃、「アルヘナ」の冠城はエミと幸子相手に戦々恐々としていた。
陸の許しを得て上條家へ上り込んだ右京。
それとなく家内の状況を確認しながら情報を引き出す。
ジュン君について尋ねる右京だが、陸は母親からジュンについては他言無用と念を押されているようだ。
だが、右京にとってはこれで十分であった。
事情を察した右京は結果報告を入れた冠城に「君が会ったのは愛さんです。とはいえ、今は幸子さんなのでしょう」と語る。
同日深夜、マンションへ帰宅したエミと愛の前に右京が立ちはだかる。
右京は愛が「多重人格(解離性同一性障害)」であると指摘する、幸子は愛の人格の1つなのだ。
陸にとって愛も幸子もごくごく普通のこと、だからこそ自然に受け入れていたのだ。
「それが何の罪になるんですか!?」
語気を荒くするエミに「放置してはおけない」と右京。
双子の姉妹は戸籍上、存在している。
だが、実在しているのは愛1人だ。
つまり、1人消えているのだ。
此処から右京は着物に書かれた通り「幸子が何者かに殺害された」と主張する。
これに応じるように幸子は意識を失い、愛が彼らの前に姿を現す。
「いつかおまえがそうしたように、あたしもおまえを殺したい」
着物に書かれた一文である、此処での「おまえ」が「愛」だとする右京。
つまり、愛が幸子を殺した後に幸子の人格を育んだことになる。
そんな右京にエミは「あれは事故だった」と語り出す。
互いに風呂場で水遊びをしていたところ、愛が幸子を誤って殺害してしまったのだそうだ。
エミは愛に姉妹殺しの罪を着せないように事実を隠蔽したらしい。
愛はそんなエミの態度に事実を知りつつ口をつぐんだ。
だが、抑圧された愛の精神は彼女の中に幸子を生み出した。
エミは幸子が消えたことを隠すべく、引越しを行った。
さらに驚くべきことに愛と幸子をそれぞれ別の学校に進学させ、生存を装ったのだ。
今では「愛」が主人格として他の人格を上手くコントロールしているとのことだが……。
「花の里」にて、右京から事情を教えられた幸子はあのメッセージが「幸子自身」ではなく愛の中で育った幸子が残した物だったことに衝撃を受ける。
翌日、改めて愛を訪ねた右京たち。
愛の幸子殺害とエミの隠蔽は時効が成立している。
だが、エミが未だに幸子の生存を偽装している点は罪になりかねない。
早めに真実を明かすようにと警告する右京。
また、冠城は愛の治療が必要だと訴えるが、それを聞いた「彼女」は拒否する。
立ち去ろうとする「彼女」、その背中に右京はジュン君について問う。
「ジュン君のことは話せません、ママに話さないように言われているんで」
まるで陸と同じように無邪気に応じる「彼女」に、右京はそっと目を伏せる。
多重人格の場合、2つだけではなく主人格を含む「3つの人格」が形成されることが一般的なのだ。
つまり、今こうして右京が話している「彼女」いや「彼」の正体は……。
翌朝、出勤した冠城は自身の名札のサイズが右京と同様に変更されていることに気付き憤慨する。
そんな冠城にニッコリと微笑む右京。
こうして、特命係に冠城の名が掲げられることとなったのだ―――7話了。
<感想>
シーズン14第7話。
脚本は輿水泰弘さん。
サブタイトルは「キモノ綺譚」。
構図としては「双子の2人1役」に「多重人格」を組み合わせた物。
とはいえ、本作のポイントはラストにこそあると感じました。
一見すると、愛が治療を拒否することで「幸子殺害の罪の重さを感じ、幸子と共に生きて行こう」との決意を固めているように見えます。
ですが、其処に第三の人格「ジュン」の存在が明かされることで些か異なって来る。
此処からは、あくまで管理人の私見となりますが……。
ラストにて「愛」とされた人物は「ジュン」でしょう。
それは「ジュン」について問われた際に、エミの事を「ママ」と呼び、陸と同じような応答に終始したことに表れています。
また、あのとき右京たちに対したのが「ジュン」だったからこそ、治療による消滅を免れるべく冠城の提案を拒否したのでしょう。
これはかなり重大な事です。
エミによれば「愛」が主人格として他の人格を抑えているとのことでしたが、これが覆りかねない。
これが覆るとはどういうことか?
すなわち、「幸子」や「ジュン」が「愛」に成り済ましていることも考えられうるのです。
その証拠に、3つの人格のうち「愛」と「幸子」の生活感は室内に見受けられたが「ジュン」のそれはない。
これは「ジュン」が「ジュン」としてだけではなく、時に「愛」や「幸子」としてエミや陸と接している可能性を示唆しているのではないでしょうか。
そもそも、エミの言葉が事実ならば「幸子」が着物に「愛」への恨み言を書き連ねる必要がない。
つまり、「愛」は他の人格をコントロールし切れていないことを示しています。
また、陸に「ジュン」は何時来るのかと問われた際の「愛」の表情。
あれは純粋に「ジュンをコントロールできないから分からない」ことを示していたのか?
あるいは、あの時点で「愛」を演じる「ジュン」の可能性は無かったか?
だとすれば、何時から「ジュン」だったのか?
もしかすると最初からだったのではないか……。
こう考えて行くと、相当に根が深いことになります。
また、「愛」の中の「幸子」は「愛」を憎んでいる。
場合によっては暴走し宿主である「愛」を滅ぼしかねない。
そもそも、あのメッセージが殆ど平仮名なのは何故か?
それこそ、幼い時分に愛が殺した幸子を示しているのではないでしょうか。
すなわち、「愛」の中の「幸子」は愛自身の罪の意識が生み出した存在。
それが独自に育つことが如何なる結果を生むのかは自明の理です。
もしかすると「ジュン」は「愛」と「幸子」のバランスを取りつつ、時に陸の良き友達として一家のバランスを取っているのかもしれません。
さらに、右京は「ジュン」の存在を口にしましたが、もしかすると第4、第5の人格の存在も疑われるのです。
さらにさらに、エミは「愛」の多重人格が「幸子」殺害後に発症したとしていましたが、その幸子殺害自体が「愛」に宿る別人格(愛が生んだ幸子)によるものの可能性も残る。
こうなると尚更、根深いことに。
作中だけに収まらず、強い余韻を残す。
まさに「綺譚」に相応しい作品と言えるでしょう。
また、愛と幸子の「1人2役」を成立させながら陸を生んだエミ。
その胸中には如何なる想いがあったのか?
陸の父親もまたこの事実を知っていたのだろうか?
此の点も気にかかるところ。
一方で、いよいよ「特命の人」と化して来た冠城。
冠城が自ら名札を作ったのは良かったですね。
また、右京が名札を許した上に自身と同じサイズに変えたということは、対等の「相棒」として冠城を認めていることに他なりません。
これで冠城も本格的な右京の「相棒」です。
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相棒と言うのは捻りが効いているからこそって展開があるだけに、視聴者として期待が大きくなりすぎているのでしょうかと思うこの頃
ジュンの存在ですが、リクと同レベルの対応をしている事から、若い、と言うか幼い人格の可能性があり、つまり最近産まれた可能性があります
そのため、部屋に生活感が生じてないのはそのため(極端に外に出るのが限定されている可能性もあるが)
でも、そうなると新たな「ジュン」を産み出すほどに彼女になんらかの負担やストレスが生じている可能性もあるので、逆に治療しないのは恐ろしくも感じます
こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!
確かに、長く続いているドラマだからこそ大きな期待を寄せてしまうところはありますね。
また、それを受け止めてくれるのも「相棒」ならではでしょう。
そしてジュンについてですが、なるほど最近になって生まれた可能性もありますね。
いや、むしろ生活感から考えればその可能性が高いか。
だとすると、仰る通り愛にジュンを生じさせる要因があったことになり、最初が最初だけに余程のことがあったことになる。
これは相当に恐るべき事態です。
指摘を受けて改めて振り返ってみると、本作についてはいろいろな解釈が成立しそうな気がします。
あくまで管理人の感想も一説に過ぎない。
視聴者によってまた別の物語が生じうるのだとしたら……この懐の深さも「相棒」の魅力なのかもしれません!!