ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
KY(空気読めない)キャリア刑事が非常識捜査で真相を暴く新・警察小説
杉並(すぎなみ)中央署生活安全課に突如(とつじょ)誕生した「何でも相談室」。通称0(ゼロ)係。署内の役立たずが集まる島流し部署だ。そこへ科警研から異動してきたキャリアの小早川冬彦(こばやかわふゆひこ)警部。マイペースで、無礼千万な男だが知識と観察眼で人の心を次々と読みとっていく。そんな彼がボヤ事件で興味を示した手掛かり、ファイヤーボールとは? KY(空気が読めない)刑事の非常識捜査が真相を暴くシリーズ第1弾!
(祥伝社公式HPより)
<感想>
富樫倫太郎先生による警察小説の新シリーズです。
2016年1月時点でシリーズには本作の他に『生活安全課0係 ヘッドゲーム』が存在しています。
そんな本作ですが、基本「SROシリーズ」の雰囲気が受け継がれており小早川冬彦は新九郎と重なる人物造形となっています。
いや、冬彦の毒舌ぶりを考えると……違うかな!?
ともかく冬彦の毒舌は凄いです。
これだけでも一読の価値あり。
また、冬彦の急な異動にはどうやら彼が書いた「報告書」が関わっている様子。
これがシリーズに影響を与えるのか!?
さらに、プロローグとエピローグでは「SROシリーズ」でもお馴染みのあの人の名が!?
きっと「SROシリーズ」ファンの方も満足出来るのでは!?
ドラマ版と比較してもいろいろと差異がありますね。
特に原作だと男性だった寺田がドラマ版では女性に変更されています。
こういった比較もまた本作を楽しむ要素ではないでしょうか。
ちなみにネタバレあらすじは大幅に改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むことをオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
小早川冬彦:キャリア警視。
寺田高虎:ノンキャリアのベテラン刑事。
安智:格闘好きな刑事
樋村:昇進試験を目指す刑事
杉内:生活安全課長、あだ名は「コバンザメ」
南郷:組長、違法カジノ運営の疑惑がある
中曽根:南郷の部下だが……
崎山:連続放火犯
近藤房子:ご存知「キラークィーン」。
警視庁杉並中央署生活安全課に、副署長こと「ダルマ」とその側近で「コバンザメ」と呼ばれる生活安全課長・杉内により新設部署が設立された。
その名は「なんでも相談室」。
メンバーは異例の科捜研から異動となったキャリア警視・小早川冬彦。
そんな冬彦とコンビを組むノンキャリアのベテラン刑事・寺田高虎。
さらに格闘大好きな安智刑事や、昇進試験を目指す樋村刑事などが所属している。
この「なんでも相談室」、表向きは「市民の声に迅速に対応する為に新設された部署」との触れ込みであったが、その実態は「各部署で持て余した人材を集めただけ」であった。
例えば、高虎の場合は出世に興味がなく上司への無礼な言動が原因である。
しかし、新設には真の理由が存在したのだ。
それはキャリア警視・小早川冬彦を飼い殺しにする為であった。
冬彦はある報告書を作成したことで上層部の反発を買ってしまい、警戒されることとなったのだ。
とはいえ、この真の理由を知る者は数少ない……。
左遷されたことで不貞腐れる相談室の面々。
ところが、冬彦だけは勝手が違っていた。
彼はこの異動を現場を体験する良い機会と大喜びし、率先して事件解決に挑んで行く。
矢先、連続放火事件が発生し冬彦は犯人を追うことに。
実はこの犯人、ストレス発散を目的とした崎山による犯行であった。
冬彦は高虎と共に崎山を追う中で、南郷が部下の中曽根と共に違法カジノを経営している疑いがあると知らされる。
ところが、高虎によれば南郷たちはいつも踏み込む直前に知っているかのように撤収してしまい証拠が掴めないらしい。
そんな中、冬彦は中曽根がカジノ会場を用意した現場に遭遇する。
結局、摘発にまでは発展しなかったのだが、驚き慌てる中曽根はパニックに陥り南郷に相談を……。
その夜、南郷は何者かと連絡を取り合い善後策について協議する。
翌朝、中曽根が焼死体で発見されてしまった。
この容疑が崎山へと向かう。
だが、冬彦はこれに疑惑を抱くことに。
南郷が崎山の犯行に偽装し中曽根を口封じしたと考えたのだ。
さらに、これを可能にする為に崎山も南郷に拘束されていると考える。
しかし、これを実現するには1つだけ問題があった。
冬彦たちの動きを南郷に報せた内通者が居るのだ。
冬彦は「相談室」のメンバーを疑うことに。
とはいえ、急がなければ拘束されている崎山の命も危ない。
冬彦は囮となって南郷を揺さぶり、これにワザと捕まる。
冬彦と崎山を殺害しようとした南郷であったが、駆け付けた高虎や安智らにより現行犯逮捕された。
翌朝、冬彦は杉内や高虎らを前に内通者を告発する。
まず、冬彦は内通者を突き止めた推理の経緯を語り出す。
冬彦は内通者にとってのメリットを考えた。
南郷が内通者に用意できる物は金しかない。
つまり、金に弱い者が内通者である。
高虎は出世に興味が無い以上、金にも興味が無いから違う。
安智は格闘大好きで、金よりも暴力を好むから違う。
そして樋村だが……昇進を狙っているものの、冬彦が見る限りでは試験合格はあり得ない。
昇進を諦め自分を見つめ直した方が良いのだが、それに気付かないぐらいなので南郷にとってどれだけ価値がある情報を流せるかも怪しいものだ。
従って南郷が買収の対象に選ぶとは思えない。
此処で考えて欲しい。
そもそも、今回の事件では生活安全課が担当する「違法カジノ摘発」情報以外に刑事課が担当する「連続放火事件」の情報も必要であった。
すなわち、生活安全課と刑事課の情報を知ることが出来なければならないのだ。
これが可能なのは両課の上に立つ副署長しかあり得ない。
では、副署長なのか?
いやいや、もう1人居たではないか。
それこそ、副署長の「コバンザメ」が!!
そう、内通者の正体は「コバンザメ」こと杉内であった。
こうして杉内が逮捕され事件は真の解決を見たのであった。
今回の事件を機に冬彦に一目置くこととなった副署長。
その数日後、当の冬彦から「キラークィーン」こと近藤房子が管轄内に潜伏中であるとの報を受けてローラー作戦を実施することに。
ところが、これが空振りに終わってしまう。
首を傾げる冬彦であったが、こうして折角築いた信頼を早々に失ってしまうのであった―――エンド。
◆関連過去記事
・『SROシリーズ 1巻(警視庁広域捜査専任特別調査室)から5巻(ボディーファーム)まで』(富樫倫太郎著、中央公論新社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『SROY 四重人格』(富樫倫太郎著、中央公論新社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『房子という女 SRO episode0』(富樫倫太郎著、中央公論新社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・月曜ゴールデン「特別企画 SRO〜警視庁広域捜査専任特別調査室〜ベストセラーついにドラマ化!警察をあざ笑う“最凶の連続殺人鬼”登場…女刑事が見た衝撃のラスト」(12月9日放送)ネタバレ批評(レビュー)
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