2016年05月07日

『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)

『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

男たちを虜にしながらのし上がってゆく“毒婦”ミユキ。愛と欲望のエンタテインメント!

「侮(あなど)ったら、それが恐ろしい女で」。高校までは、ごく地味。短大時代に潜在能力を開花させる。手練手管と肉体を使い、事務員を振り出しに玉の輿婚をなしとげ、高級クラブのママにまでのし上がった、糸井美幸。彼女の道行きにはいつも黒い噂がつきまとい――。その街では毎夜、男女の愛と欲望が渦巻いていた。ダークネスと悲哀、笑いが弾ける、ノンストップ・エンタテインメント!
(新潮社公式HPより)


<感想>

1人の毒婦・美幸のサクセスストーリーを複数の視点人物から描いた長編作品です。
『中古車販売店の女』、『麻雀荘の女』、『料理教室の女』、『マンションの女』、『パチンコの女』、『柳ケ瀬の女』、『和服の女』、『檀家の女』、『内偵の女』、『スカイツリーの女』の10章からなる。

各章の語り手から見た美幸は何処までも噂の域を出ない存在。
その存在自体を間接的な伝聞でしか知らない視点人物の章(『スカイツリーの女』など)もあれば、直接知って居ながら美幸の行動の真意については憶測を出ない視点人物の章(『料理教室の女』)もある。

いずれにしても、美幸は視点人物にとって「噂の女」となるワケで。
そして、読者もまた視点人物から美幸についての噂を聞かされるうちに知らず知らず「美幸の噂話」に巻き込まれているワケです。
言わば、読者は視点人物から「美幸の噂話」を聞き続けている立場。
だからこそ、タイトルもまた『噂の女』となる。

また、本作は美幸自身ではなく第三者を通じて語られる故に、結ばれて行く彼女の像は行動に比して軽やか。
同時に鮮烈なインパクトを読者に与えることとなる。
これについては社会倫理や上下関係に囚われる各視点人物に対して、常に自由である美幸の立場も大きいだろう。
さぁ、あなたが聞いた「美幸の噂」はどのようなものでしょうか?

なお、あらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
興味をお持ちの方は本作それ自体を読まれることをオススメ致します。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
美幸:謎の女性。
鹿島:刑事、『内偵の女』と『スカイツリーの女』に登場。
稲越:代議士、『スカイツリーの女』に登場。
美里:稲越の秘書、『スカイツリーの女』に登場。


町は美幸の噂話で持ち切りである。
美幸は中古車販売店の事務員を皮切りに、その容姿と才覚でどんどんとのし上がっていく。
その手腕は時に恐ろしく、時に痛快だ。

例えば、料理教室では講師が出入りのスーパーと共謀し材料費の不正を行っていることを突き止めた。
これを抗議しつつ、裏取引を行い利益を得たと専らの噂だ。

また、ある時は数十歳以上の年の差を物ともせず玉の輿に乗った。
遂には夫が死亡し、多額の遺産を手に入れた。

そして、美幸は高級クラブのママになっている。
今は代議士の稲越の愛人として権勢を奮っていた。

人々はそんな美幸を嫌う者も居れば、その自由な生き方に憧れる者も居る。

刑事の鹿島は美幸の噂を聞き付け、その素行を追い彼女の周囲で元夫以外にも2人の人物が不審死を遂げていることを突き止めた。
さらに鹿島は美幸を逮捕しようと動き出す。

一方、稲越の秘書・美里は稲越とその周辺の横暴ぶりに振り回され嫌気がさしていた。
そんな中、飄々と男たちの中を生き抜く美幸に憧れを抱くことに。
矢先、美幸が姿を消した。
同時に稲越が表沙汰に出来ない2億円が消えた。
美里は美幸の仕業だと確信し溜飲を下げるのであった―――エンド。

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