2015年12月05日

『平凡』(角田光代著、新潮社刊『平凡』収録)

『平凡』(角田光代著、新潮社刊『平凡』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

つい想像してしまう。もしかしたら、私の人生、ぜんぜん違ったんじゃないかって――。

もし、あの人と別れていなければ。結婚していなければ。子どもが出来ていなければ。仕事を辞めていなければ。仕事を辞めていれば……。もしかしたら私の「もう一つの人生」があったのかな。どこに行ったって絶対、選ばなかった方のことを想像してしまう。あなたもきっと思い当たるはず、6人の「もしかしたら」を描く作品集。
(新潮社公式HPより)


<感想>

本作『平凡』は同名短編集に収録された作品。
「平凡」との言葉を通じて「幸せ」の本当の意味を問いかけています。

「平凡」とは「その人にとって幸せ」であること。
其処には「ずば抜けて良いこと」も「ずば抜けて悪いこと」も無い代わりに「平穏」がある。

逆に「非日常」は「ずば抜けて良いこと」もあるが「ずば抜けて悪いこと」もある。
それが続くことは刺激的ではあるが「平凡」からも「平穏」からも遠くなるでしょう。

例えば「非日常」の代表には「冠婚葬祭」がある。
其処には「祝事(結婚)」もあるが「弔事(葬儀)」もある。
「非日常」とはかくも極端なのです。

また、誰しもが「ずば抜けて良いこと」が続くよう願いますが、これはかなり難しい。
だが、「平凡」な日々を続けることは決して不可能ではない。

本作では紀美子と春花を通じて此の点が描かれていました。

紀美子にとって春花は著名な料理研究家として「非日常」に生きる存在。
だが、松井のことを気にしつつもツイッターでファンと接していたように、春花にとってはそれこそが「普通」であり「平凡」であった。
また、そんな春花だからこそ、紀美子はラストで彼女のそんな日々が続くよう「平凡」を祈ることが出来た。

一方で、春花にとって紀美子は学生時代の恋を成就させるとの「非日常」を達成した存在でもあるワケで。
だが、紀美子にとってのそれは「平凡」に過ぎない。

こうして見ると互いに互いが「非日常」でありながら、本人にとっては「平凡」である。
いわゆる「隣の芝生は〜〜〜」というヤツですね。

そして、紀美子は春花を通じて自身が夫と共に生きる今の「平凡」の大切さを知った。
異なる道を歩もうとも、紀美子も春花も互いに互いの「平凡」を生きていたのです。

なお、ネタバレあらすじはかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
紀美子:主婦、春花の友人。
春花:料理研究家、紀美子の友人。
松井大介:焼死を遂げた人物。


紀美子にとって春花は非日常の象徴となっていた。
そんな春花が彼女を訪ねてやって来ると言う。
紀美子は大きな期待に胸を弾ませていた。

紀美子と春花は高校時代の同級生。
当時、多くの時間を共に過ごし、互いに夢について語り合いもした。
もちろん、恋もした。
その結果は意外な物となったが……。

それが今は片や平凡な主婦、片や著名な料理研究家として知られていた。
子供の居ない紀美子は日々、夫の世話に明け暮れパートに勤しんでは四苦八苦している。
一方、春花はテレビに出演し続け華やかな世界で脚光を浴びている。
共に郷里を出たにも関わらず、この差は何なのだろうか?

紀美子は春花にコンプレックスを抱かざるを得なかった。
だが、その反面で強く誇りにも思っていたのである。
春花は紀美子にとって感情を強く揺さぶる存在であり、平凡な日常を忘れさせてくれる存在だったのだ。

ところが、ようやく再会した春花は紀美子そっちのけで「松井大介」についてしか話そうとしない。

松井大介は数日前に火事で焼死を遂げた男性である。
妻子も巻き込まれたらしく、こちらは入院していた。
どうやら、春花は報道で松井の死を知り、彼女の知る人物と同じかどうか確認したいらしい。

紀美子に松井の妻子の入院先へ向かうよう依頼する春花。
そんな春花に不満を抱きつつも素直に従う紀美子。

さて、いざ病院に辿り着いたところで紀美子は「顔を知られている春花では不都合があるだろうから、代わり確認して来る」と提案する。
これに何やらスマホを触りつつ礼を述べる春花。

だが、紀美子の狙いは別にあった。
松井に拘る春花が面白くない紀美子、最初から調べるつもりはさらさらない。
少し売店で時間を潰して戻ると「違う人みたい」と嘘を吐く。

そんなこととは知らない春花は深く安堵の溜息を吐くと、ようやく事情を語り始めた。
春花は松井を呪ったのだと言う。

数年前、恋に破れ故郷を出た春花は新たな恋を見つけた。
それが松井であった。
しかし、結婚を望む春花に対し松井は拒否し続けた。
結果、春花が切り出して松井と別れた。

ところが、それから暫くして春花は松井が別の女性と結婚したとの報を耳にすることに。
春花は激怒した。
あれほど頑なに自身との結婚を拒否しておきながら、他の女性とはあっさり結婚したことが許せなかったのだ。

其処で春花は松井を「平凡であれ」と呪った。
しかし、彼の死までは望んでいなかったのだ。
だから、もしも松井が本当に死亡したとしたら……と気がかりになったのだと言う。

これを聞いて紀美子は春花も自分と同じだったのだと気付いた。
あれほど脚光を浴びている春花も1人の女性なのだ、と。
また、春花の呪いが、実は松井に「平凡ながらも生きて居て欲しい」との祈りであることも。

紀美子は春花と共に過ごした高校時代を改めて思い出した。
2人は同じ人物に恋をした、当時の教育実習性の男性だ。
2人は互いに抜け駆けしない約束を交わした。
だが、紀美子は先に相手に告白し交際することとなった。
教育実習生に恋人が出来たと知った春花は傷心し街を去った。

もしも、立場が逆であったならどうなっていたのだろうか?
紀美子は思う。
ちなみに、その教育実習生こそ今の紀美子の夫である。
2人の間には子供が出来ない。

春花に対しての様々な想いが氷解した紀美子。
そんな紀美子に対し、春花は「戻らなきゃ」と告げる。
春花には次の仕事が待っているらしい、その合間を縫っての行動だったのだ。

別れを惜しみ、改めての再会を約す2人。
紀美子はコンプレックスを克服し、素直に春花の「平凡」を祈り送り出す。

ふと、春花のツイッターで「旧友と再会なう」と呟かれていないか気になった紀美子。
覗いてみると春花らしくレシピが呟かれていた。
しかも、その時間はあの病院での待ち時間だったのである。
何やら嬉しくなった紀美子はツイートの内容を何度となく繰り返すのであった―――エンド。

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「平凡」です!!
平凡



キンドル版「平凡」です!!
平凡

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