ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
愛の果ての、救いを求めて。40万部突破『きみはポラリス』に続く人生が愛おしくなる7つの物語。
現実に絶望し、道閉ざされたとき、人はどこを目指すのだろうか。すべてを捨てて行き着く果てに、救いはあるのだろうか。富士の樹海で出会った男の導き、命懸けで結ばれた相手へしたためた遺言、前世の縁を信じる女が囚われた黒い夢、一家心中で生き残った男の決意──。出口のない日々に閉じ込められた想いが、生と死の狭間で溶け出していく。すべての心に希望が灯る傑作短編集。
(新潮社公式HPより)
<感想>
本作『炎』は短編集『天国旅行』に収録された作品。
化粧オバケの中で唯一、亜利沙が認めた初音は「女王」でした。
そして「女王」は常に他者を従えるもの。
亜利沙は「女王」に声をかけられたことで高揚感を抱き、彼女に操られてしまいました。
結果、「女王」の罪を問うべく立木が起こした「炎」は、操られた亜利沙が風向きを変えてしまったことで、別の人物を焼くことに。
こうして2人の男が消え、亜利沙は存在を忘却され、焼け野原に残るのは超然と立つ「女王」のみ。
最終的な勝利者は「女王」でした。
もしかすると、木下が婚約したのもそんな「女王」を怖れて逃げようとした結果だったのかもしれません。
なお、ネタバレあらすじはかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
亜利沙:目立たないことを自覚している女子生徒。
初音:悔しいながらも亜利沙が認めている同級生。
立木:亜利沙が憧れる先輩。
木下:社会科教師。
亜利沙は目立たないことを自覚している女子高生。
自分自身で自身の限界を弁え、それに沿って穏やかに生きている。
だが、ただ1つだけ譲れないことがあった。
それは密かに想いを寄せる先輩・立木を見守ることだ。
もちろん、恋が叶うなどとは思っていない。
その証拠に立木には初音と言う恋人が居る。
初音は亜利沙が「化粧オバケ」と呼ぶ面々のリーダーである。
「化粧オバケ」とは、派手なメイクを施し常に集団で行動しているグループだ。
亜利沙ははこれを快く思っていない。
だが、初音だけは異なっていた。
明らかにその他の面々とは一線を画しており、悠然と微笑むその姿は「女王」を思い起こさせた。
亜利沙は悔しいながらも立木が初音を選ぶ理由が何となく理解出来た。
美男美女のカップルは傍目にもお似合いに見えたのだ。
ところがある日のこと、立木が部活中に油を被って焼身自殺を遂げてしまう。
噂によれば、初音と何かあったらしい。
憧れの立木の死に動揺する亜利沙。
そんな亜利沙に初音が声をかけて来た。
立木の死の真相を調べよう、と。
初音に声をかけられたことに高揚感を抱いた亜利沙は行動を共にする。
初音は立木の家庭環境について明かす。
立木は母子家庭で育っており、初音は其処に原因があるのではないかと考えているようだ。
立木の自宅へ亜利沙を案内する初音。
留守だったこともあって上り込むと、押入れから立木の遺書らしき手紙を見つけ出す。
それには社会科教師の木下と立木の母が交際しており、木下が別の女性と婚約したことが原因で母がショックを受けてしまったと書かれていた。
さらに、これに抗議するべく死を選ぶとも。
翌日、登校した亜利沙は木下の婚約を確認し遺書が本物であると結論付けた。
直後に、学校の屋上で騒動が勃発。
なんと、初音が屋上から飛び降りようとしていたのだ。
止めようとする周囲に対し、初音は亜利沙を名指しし共に来るように誘う。
これに応じた亜利沙は屋上から地面を覗き込むことに。
下には木下が顔面蒼白で立っていた。
そして、初音は叫ぶ。
「罪人の罪を問う」と。
まるでこれに応じるように木下は跪き土下座を始めた。
ざわめく生徒たちの中、教職員が木下を引き摺る様に連れて行く……。
後日、木下は別の学校へ異動することとなった。
さらに数日が経過し、初音が恋人・立木の仇を取ったとの噂が出回り始めた。
初音の校内での地位は一層向上することとなった。
だが、この一件で亜利沙は初音の本性を見抜いた。
初音との友情を裏切ることになると考えた亜利沙は、立木の遺書について誰にも明かさなかったのだ。
噂の出処は初音本人しかあり得ない。
此処で亜利沙は気付いた。
すべて初音に誘導されていたことに。
立木の家とされる場所も別の場所だったとしたら?
立木の遺書も別人の手による物だったとしたら?
初音が自身を守り木下を追いやる為の工作に手を貸してしまったのだとしたら?
木下と交際していたのは立木の母ではなく初音だったのだ。
一方で、初音は立木とも交際していた。
二股交際だ。
だが、初音は立木を捨てたのだろう。
捨てられた立木は初音の行為を批判すべく焼身自殺を遂げた。
これに初音はたじろいだ。
そんな折、木下が初音を捨てて婚約することになった。
初音は木下をスケープゴートにすることで復讐を果たしつつ、自身の評価を上げる計画を立てた。
それがあの一連の冒険だ。
計画はすべて上手く行った。
最後に亜利沙が証人として初音の素晴らしさを周囲に吹聴する筈であったが、何故か噂にならない。
其処で初音自身が噂を流したのだろう。
これが全てであった。
あれ以来、初音は亜利沙に声をかけようともしない。
周囲からは亜利沙の存在すら忘れられようとしている。
そんな中、初音は今日も「化粧オバケ」たちの中で悠然と微笑んでいる―――エンド。
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