ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
推理小説の第1集。殺人犯を張込み中の刑事の眼に映った平凡な主婦の秘められた過去と、刑事の主婦に対する思いやりを描いて、著者の推理小説の出発点と目される「張込み」。判決が確定した者に対しては、後に不利な事実が出ても裁判のやり直しはしない“一事不再理”という刑法の条文にヒントを得た「一年半待て」。ほかに「声」「鬼畜」「カルネアデスの舟板」など、全8編を収録する。
(新潮社公式HPより)
<感想>
短編集『張込み』に収録された一編です。
まさに「天網恢恢疎にして漏らさず」。
完全犯罪かと思われた強盗犯たちでしたが、思わぬ繋がりに足元を掬われることに。
とはいえ、其処には犠牲が伴うこととなりました。
そんな本作のテーマは「思わぬ人と人との繋がり」か。
世間は広いようで狭いのかもしれません。
また「場所誤認トリック」もなかなかに奏功しています。
ちなみにネタバレあらすじはかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
朝子:新聞社の電話交換手
小谷:朝子の夫
川井:小谷の上司
浜崎:小谷の同僚
ヤス:???
赤星:強盗事件の被害者
畠中:刑事
朝子は新聞社の電話交換手である。
ある夜のこと、記者から急な取材の必要があるとの要請を受けて大学教授の赤星に電話を入れた。
すると、電話口の相手に「此処は葬儀場さ」とあしらわれてしまった。
さらに、電話の先に居たもう1人により一方的に電話を切られてしまう。
どうやら別の赤星さんに間違い電話をしてしまったようだが、朝子は不快な想いを抱くこととなった。
ところが、その翌日になり誤って電話を架けた先の住人が強盗犯に殺害されていたことを知り驚く。
つまり、電話口に出た相手こそ強盗犯だったのだ。
こうして朝子は警察へ情報提供を行った。
この事実は当時の新聞を賑わせた、朝子の証言が事件解決に繋がると期待されたのだ。
新聞にはお手柄として朝子の名前が載せられるほどであったが、朝子は犯人が2人組であること以外は上手く伝えられないのであった。
結局、犯人は捕まらず数年の歳月が流れた。
数年後、朝子は小谷と結婚し人妻となっていた。
長く就職から縁遠かった小谷だが、ようやく定職に着き朝子もようやく一息吐きつつあった。
そんなある晩のこと、小谷の仕事先の上司である川井が家を訪れた。
川井をもてなす朝子を電話のベルが呼び出す。
こちらは小谷の同僚の浜崎だ。
と、朝子は電話越しの声を聴いて強盗犯を思い出す。
まさか……様子のおかしくなった朝子を小谷と川井が不審がるのだが。
それから数日後、朝子は他殺体で発見されることとなった。
遺体から石炭屑が検出されており、炭鉱で殺害されたと思われた。
容疑は小谷や周辺の川井や浜崎にも向かった。
しかし、川井には鉄壁のアリバイがあった。
時間的に炭鉱では殺害不可能なのだ。
この事件の捜査に畠中刑事が乗り出した。
畠中刑事は朝子の殺害場所の特定が石炭屑に頼ったことであることに注目する。
つまり、朝子を別の場所で殺害後に石炭屑を残せば同様の状況が完成するのだ。
其処から畠中刑事は川井と浜崎へと容疑を向ける。
犯行場所が異なれば彼らにも犯行が可能だからだ。
取調が行われ、遂に川井と浜崎が犯行を自供した。
朝子殺害は畠中の推測通り「場所誤認」を利用した殺害。
そして、その動機は数年前の赤星殺害の犯人だと浜崎が疑われたことにあった。
朝子は電話の声を通じて、あのときの声が浜崎だと見抜いたのだ。
そんな浜崎の共犯者こそ川井であった。
小谷を通じ、朝子と川井らが結び付けられてしまったのである。
「まさか、こんな偶然があるなんて信じられなかった」
逮捕された川井は畠中に呟くのであった―――エンド。
◆松本清張先生関連過去記事
【小説】
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