ネタバレあります、注意!!
<感想>
「伊織の死の真相」を語り手である川島芳美の口から描いた短編作品。
果たして、その死の真相とは!?
また、本作は同時に「伊織を巡る2人の女の戦い」を「操りの構図」を通じて描いた作品でもあります。
すなわち、序盤から中盤にかけては「芳美が操り手」であり、中盤から後半にかけては「真令子が操り手」となっています。
とはいえ、あの結末は「真令子の狙い通り」と言うよりは我を忘れた芳美が「真令子」にかこつけての犯行と思えなくもない。
だからこそ、より深く業を感じるのでしょう。
そんな川島芳美は川島芳子の名をモチーフとしているのでしょうか。
ちなみに、ネタバレあらすじはまとめ易いように改変しています。
あくまで雰囲気を掴むに留めて下さい。
興味をお持ちの方は本編それ自体を読まれるようオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
川島芳美:伊織の幼馴染
真令子:伊織の妻
伊織:医者
冬司:伊織と真令子の長男
加瀬:冬司の家庭教師
公的には事故とされている伊織の死、それは他殺であった。
殺したのは伊織の妻・真令子だ。
伊織の幼馴染で真令子の親友であった川島芳美は伊織の死について語り始めた。
若かりし日からこれまで芳美は伊織をずっと愛していた。
伊織は眉目秀麗な医師であった。
周囲からは大きな期待と共に、多くの尊敬を集めていた。
芳美は何時か伊織が振り返ってくれればと願っていた。
だが、芳美の願いも虚しく伊織が選んだのは彼女の友人・真令子であった。
伊織と真令子は夫婦仲も良く、ほどなく長男の冬司が生まれた。
その頃である真令子から伊織について相談を受けたのは。
伊織の真令子への想いは激しく偏執的なものだったのだ。
伊織は真令子の一挙手一投足を監視し、真令子の行動に細かく制限を設けた。
それだけ真令子を愛しているのだ。
相談を受けた芳美は真令子に激しく嫉妬した。
それから数年が経過し冬司が成長した頃、芳美は真令子から別の相談を受けた。
なんでも冬司の家庭教師・加瀬に好意を寄せられて困っているらしい。
さらに数日後、真令子が泣きながら芳美を訪ねて来た。
なんと加瀬に押し切られ関係を持ってしまったのだそうだ。
芳美は伊織には絶対に隠すようにと真令子に口止めした。
ところが、その翌日には真令子が泣き付いて来た。
伊織にカマをかけられ真実を明かしてしまったらしい。
芳美は真令子を励ますと共に、密かに伊織に連絡を取った。
そして、傷心の伊織に求められるに応じて関係を持った。
其処からさらに数日後、真令子が伊織の浮気について相談を持ちかけて来た。
伊織が自ら浮気について明かしたようだ。
だが、真令子は相手が誰かまでは知らされていないらしい。
芳美は自分が伊織の復讐に利用されたことに気付いた。
それから数年が経過した。
真令子が病の床につき、これを見舞った芳美。
真令子には死の影が付きまとっていた。
口では励ます芳美だが「これで伊織が手に入る」と内心ではほくそ笑んでいた。
しかし、真令子の次の一言に我を失うことに。
なんと、真令子は芳美の行為を全て知っていたのだ。
加瀬を煽って真令子と関係を持たせたのは芳美の仕業であった。
さらに、真令子は伊織から浮気相手が芳美であることも聞かされていたと言う。
これを知りつつ、その様子をずっと窺っていたのである。
真令子は言う、伊織の心が何処にあるのか……と。
そして、真令子は此の世を去った。
晴れて独身となった伊織を芳美は山へ誘った。
もちろん、今度こそ伊織を手に入れる為だ。
だが、途中でふと真令子の言葉を思い出した。
そう、伊織の心が何処にあるのか……。
その後のことは、よく覚えていない。
気付けば、伊織は転落死を遂げていた。
だが、芳美の手には間違いなく「そのとき」の感触が残されていた。
芳美は思うのだ。
伊織を殺したのは真令子だ。
真令子はすべてを予期して芳美を操ったのに違いない。
そして今、80代となった芳美は病床に伏している。
芳美は老いた身体に囚われてしまった自身を嘆いていた。
自由を求める芳美だが、それが叶うことはない―――エンド。
◆関連過去記事
・『無痛』(久坂部羊著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『第五番 無痛2』(久坂部羊著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)
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