2016年03月18日

『どこかでベートーヴェン 第七話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.12』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第七話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.12』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

『このミステリーがすごい!』大賞受賞作家による書き下ろしミステリーブック!中山七里が描く、シリーズ累計81万部突破の大人気・音楽シリーズ最新話「どこかでベートーヴェン」第7話、鍼灸師資格をもつ乾緑郎が描く「鷹野鍼灸院の事件簿」最新話、シリーズ累計41万部突破の「オサキ」シリーズ最新話、シリーズ累計22万部突破「行動心理捜査官・楯岡絵麻」シリーズ最新話など、豪華作家競演の一冊。
(宝島社公式HPより)


<感想>

中山七里先生「岬洋介シリーズ」の最新作『どこかでベートーヴェン』の第7話が発表されました。
長編第3作である『いつまでもショパン』と同様に『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK』に掲載されています。

そんな「岬洋介シリーズ」は「難聴を抱える天才ピアニスト岬洋介が関わった事件を描く」シリーズ作品。
あくまで関わった事件なので、中心視点人物は各作品ごとに別の人物となっており、岬は事態解決やアドバイスなどを行う探偵役の立場となっています。
いつか岬自身が視点人物となる日がやって来るのでしょうか。

なお、今回の『どこかでベートーヴェン』は『いつまでもショパン』の後から始まる物語。
ただし、ある事柄(『いつまでもショパン』での出来事)により一躍有名になった岬を見かけた高校時代の同級生が当時(高校時代)に起こった事件について振り返るとの内容になっています。

そんな7話ですが、やはり前々回(5話)の推理通りか。
犯人は春菜で良さそう。
7話でも棚橋を通じて春菜の父である町長と「イワクラ建設」の不正に触れられていました。
おそらく、岩倉は不正を盾に春菜を脅迫していた可能性があるなぁ……。
其処で春菜が岩倉を殺害したものか。

アリバイについては前々回(5話)でも語っているが、殺害現場あるいは殺害時刻を誤認させるものか。
例えば、途中で下校したと思われていた岩倉が学校内に潜んでおり春菜とトラブルになり殺害された。
あるいは、下校したとされる時間の時点で既に春菜の手で殺害されていればアリバイは成立しません。
いずれにしても死体運搬がネックになって来ますが、それこそ学校前が急な坂であり、当時の状況を考えれば
遺体を放流することも可能な感じだし。
そもそも春菜がジャージを着用していたのも、制服が雨か返り血で濡れていたからだろうし。
春菜のアリバイ自体も岩倉の姿が見えなくなった時間から成立しているものですし割と容易に崩せます。

また、此処に来て予想通り本作のタイトル『どこかでベートーヴェン』が活かされて来るように。
岬の突発性難聴についてベートーヴェンに絡めて触れられました。
続く単行本では岬が如何にしてこれを乗り越えたかも描かれそうです。

そうです、遂に『どこかでベートーヴェン』の単行本化が明らかにされました。
何でも2016年5月刊行予定とのこと、見逃せません。

ちなみに、「岬洋介シリーズ」には長編が『さよならドビュッシー』、『おやすみラフマニノフ』、『いつまでもショパン』の3作(刊行順、作中時系列順)と短編が短編集『さよならドビュッシー前奏曲(文庫化に際し『要介護探偵の事件簿』を改題)』(『さよならドビュッシー』の前日譚を描いたスピンオフ)、『間奏曲(インテルメッツォ)』(『いつまでもショパン』と同時期に起こっていた事件を描くスピンオフ)の2作が存在しています。
記念すべきシリーズ第1作『さよならドビュッシー』は映画化もされています。
書籍版については、すべてネタバレ書評(レビュー)していますね。
興味のある方はネタバレあらすじ後の関連過去記事へどうぞ!!

ちなみに、ネタバレあらすじについては管理人によりかなり改変されています。
本作を楽しんで頂くには直接お読み頂くことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
岬洋介:シリーズ主人公、今回は高校時代が描かれる。
鷹村亮:『どこかでベートーヴェン』の視点人物。音楽科の学生。
岩倉:音楽科の学生の1人。イワクラ建設の息子。
板台:音楽科の学生の1人、バンドを組んでいる。
春菜:鷹村が憧れる同級生。町長の娘。
美加:音楽科の学生の1人。
棚橋:音楽教師。
佐久間:数学教師。
横屋:教師。

・6話はこちら。
『どこかでベートーヴェン 第六話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.11』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

岬が「犯人の自白が必要」と語ってから幾日が過ぎた。
やがて2学期が始まったが、岩倉殺害事件は解決の目途が付かない状態であった。

そんな中、事件前後で明らかに変化した出来事があった。
クラスメートの岬への態度である。

それまで岬の周囲は黄色い悲鳴で埋まっていたが、今では批判の言葉で埋もれていた。
彼ら、彼女たちは岬に対し後ろ指を差し続けた。

急先鋒に立ったのは板台だ。
彼はここぞとばかりに岬を攻撃した。

亮は叫び出したかった。
お前らに岬の何が分かるんだ、と。
お前らに岬を批判する資格があるのか、と。
だが、その言葉がどうしても口を出なかった。

暫く岬にとって針のむしろのような日々が続いた。
もっとも、当の岬はどこ吹く風であり、寧ろ亮がヤキモキする側であったが。

やがて、文化祭を数週間後に控え棚橋が意外な提案を口にした。
クラスの出し物として岬に代表を任せベートーヴェン「悲愴」をソロで演奏するようにと依頼したのだ。

これにクラス中が反発する。
彼らは岬の品位に問題があると揃って声を上げた。

亮は今度こそ爆発しそうになった。
そんな亮の暴発を止めたのは、奇しくも棚橋であった。

棚橋は音楽に求められるのは品位ではなく才覚だと断言した。
その上で、さらに努力が求められると加えた。
その努力を君たちはした上で岬を批判するのかと問うたのだ。

これにはクラス全員が沈黙せざるを得なかった。
亮は気付いた。
事態を憂慮した棚橋が敢えて仕掛けたのだ、と。
だが、これは逆効果であった。
亮と春菜を除くクラス全員が岬へより深い憎悪を抱いたのだ。
やがて、それは爆発することになる。

その日から岬は練習を続けた。
そんなある日、岬は棚橋が「イワクラ建設」の手抜き工事について抗議活動を行っている現場に遭遇する。
棚橋はこの疑惑について岩倉に尋ねたことがあるらしいが……。

そして文化祭当日、岬により「悲愴」が演奏された。
その力強くも物悲しい音色に魅了される聴衆たち。
それはクラスメートも同じであった。

ところが、岬を急変が見舞う。
突然、調子外れの音を繰り返したかと思うとそれが続いたのだ。
常の岬からは到底、考えられないことであった。
演奏を中断した岬は左耳を抑えながら困惑した表情で立ち尽くしていた……。

岬の急変は突発性難聴であった。
それはピアノの神に愛されていた筈の岬にとってあり得ない出来事。
岬はショックから塞ぎ込むようになってしまう。

そんな岬に、クラスメートたちはここぞとばかりに鬱憤をぶつけ始めた。
それは岬が居る、居ないに関わらず続いた。
板台は水を得た魚のように活き活きとしていた。
亮は全員がそれで溜飲を下げていることに気付いた。

遂に亮は爆発した。
板台を押し倒すと彼の指にハサミの刃を添えたのだ。
亮はどの指を落としてやろうかと凄んだ。
そして、岬にとっての難聴が如何に悲劇的な出来事であるかを叫んだ。
亮の剣幕に板台は震え上がって許しを請うた。

その姿にやっと亮は刃を収めた。
果たして板台に何処まで通じたか……。
だが、それでも亮は我慢出来なかったのである―――2016年5月刊行予定の『どこかでベートーヴェン』単行本に続く。

◆「中山七里先生」関連過去記事
【岬洋介シリーズ】
『さよならドビュッシー』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『おやすみラフマニノフ』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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『どこかでベートーヴェン 第五話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.10』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

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このミステリーがすごい! 2013年版



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ビジュアルPHOTOストーリー さよならドビュッシー 橋本愛



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【映画パンフレット】 『さよならドビュッシー』 出演:橋本愛 清塚信也

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