ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員失踪事件を追う。心を揺さぶる、警察vs極道のプライドを賭けた闘い。
(角川書店公式HPより)
<感想>
2016年1月現在の第154回直木賞候補作。
・第154回芥川賞&直木賞候補作発表!!
そんな本作は「正義の在り方」を問う長編作品です。
正義と一口に言えど「悪を糺す正義」「弱者を救済する正義」「組織を守る正義」「大義名分を重んじる正義」など様々な正義が存在します。
それはそれぞれの立場により異なる。
とはいえ、1つだけ共通することがある。
たとえ其処に「正義」があろうとも行われなければ意味がないこと。
「手段を問うあまり行われない正義」と「手段を問わないものの行われる正義」。
果たしていずれが正しいのでしょうか?
いや、そもそも正否を定めることが出来るのか?
あるいは、問うことに意味があるのか?
読者は一読後に「正義」についていろいろと考えさせられるでしょう。
そして「正義」の所在についても悩まされる筈です。
その内にいつしか「大上の正義」を継いだ日岡の次なる物語を読んでみたいと思う筈です。
とはいえ、本作は本作で見事に完結しておりそれは望むべくもないのかもしれません。
そんな「正義」について描かれた一大叙事詩が本作です。
ちなみに後の日岡については佐方シリーズの短編『正義を質す』にて触れられています。
興味のある方はチェックすべし!!
・『正義を質す』(柚月裕子著、宝島社刊『このミステリーがすごい!2016年版』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
なお、ネタバレあらすじはまとめ易いように改変しています。
あくまで雰囲気を掴むに留めて下さい。
興味をお持ちの方は本編それ自体を読まれるようオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
日岡:新人刑事、大上の下に配属されるが実は……。
大上:捜査二課のベテラン刑事、様々な黒い噂を抱えている。
晶子:大上が出入りしている小料理屋の女将。
尾谷:尾谷組組長、服役中の身である。
一之瀬:尾谷組若頭。
五十子:仁正会系五十子会の会長。
瀧井:仁正会系瀧井組組長。
新人刑事の日岡は捜査二課の大上のもとに配属されることとなった。
型破りは当たり前、何かにつけて奔放な大上に反発する日岡。
そもそも大上には地元の暴力団と癒着しているとの黒い噂があったのだ。
にも関わらず大上が処分を受けないのは上層部の弱味を握っているからだとされていた。
この噂を証明するように大上はジッポーを手に尾谷組と親しげな様子を見せる。
尾谷組は県下きっての武闘派組織、少数精鋭で鳴らし組長の尾谷が服役中の今は若頭の一之瀬が切り盛りしていた。
大上はこの尾谷と一之瀬にも顔が効いたのだ。
一方、尾谷組と対立する仁正会系に所属する大組織・五十子会を牽制する大上。
大上は互いのバランスを保つことで流血を避けようとしていた。
当初こそ批判的な目で大上を見ていた日岡だが、そんな大上の姿を目の当たりにして考えを改め始めた。
大上が他の誰よりも本気で抗争阻止に動いており、それ故に地元の暴力団から絶大な信頼を受けていることを知ったからだ。
そんな日岡に目をかける大上。
大上とも親しい仁正会系瀧井組の組長・瀧井によれば、大上は過去に妻子を殺害されており、その子供の名が日岡と同じだったのだそうだ。
大上の過去を知るにつれ、彼への信頼感を深めて行く日岡。
大上は日岡に行きつけの小料理屋の女将・晶子を紹介する。
日岡は2人の間に存在する強い絆の正体に頭を悩ませる。
そんな中、五十子会と尾谷組の対立は深刻化。
これを重要視した大上は抗争阻止の為に仲裁に乗り出す。
数に優る五十子は尾谷の引退と多額の金銭に加えて尾谷組の解散を要求。
危機感を抱いた大上は尾谷の引退と多額の金銭は飲むものの、尾谷組を一之瀬に継がせることで手打ちに持ち込もうとする。
これを拒否する五十子であったが、大上は自身の知る情報をネタに五十子から譲歩を引き出す。
ところが、その数日後に大上が姿を消した。
日岡らが心配する中、大上が溺死体で発見された。
どうやら、五十子に殺害されたらしい。
大上に弱味を握られたことが許せなかったのだろう。
大上の葬儀が行われた夜、日岡は晶子から一冊のノートを渡される。
其処には噂されていた上層部のスキャンダルがびっしりと記されていた。
晶子によれば何かあった場合には日岡に渡すよう言づけられたらしい。
大上は日岡を後継者に選んだのだ。
これを受け入れるべきか躊躇する日岡。
実は日岡は大上の素行を調査し、このノートを奪うよう言い含められたスパイであった。
そんな日岡に晶子は彼女と大上の関係を明かす。
過去、晶子は夫の敵討を行い、これを大上に救われた過去があった。
言わば、2人は共犯者の間柄だったのだ。
晶子によれば大上が居たからこそ生きて居られたと言う。
これを知った日岡は自身も共犯者となることを約束する。
大上の後継者となる決意を固めた日岡。
そんな日岡から尾上が五十子に殺害されたと聞いた瀧井は深く頷くのであった。
大上の復讐がこうして始まった。
其処からは早かった。
まず、五十子が仁正会から破門処分を受けた。
同時に尾谷が引退を表明し一之瀬がその後を継いだ。
次いで、五十子配下が次々と検挙された。
検挙されなかった者は殺害された。
追い詰められた五十子は逃げようとしたところを殺害された。
これは尾谷組の仕業とされた。
当の尾谷組は瀧井の推挙で仁正会に加盟した。
後に一之瀬が仁正会の会長となる。
日岡はと言えば上の命令に反したことから地方の駐在所へ飛ばされることとなった。
しかし、2年後には捜査二課へ復帰した。
あのノートの力だ。
そして、いつしか日岡は大上と同じように後輩を持つ身となった。
今では日岡も地元の顔役である、その手には大上のジッポーが握られていた―――エンド。
◆関連過去記事
【佐方シリーズ】
・『最後の証人』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『検事の本懐』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『検事の死命』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『裁きを望む』(柚月裕子著、宝島社刊『このミステリーがすごい!2015年版』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『正義を質す』(柚月裕子著、宝島社刊『このミステリーがすごい!2016年版』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
・『臨床真理』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【ドラマ版】
・「最後の証人 ホテル密室殺人事件!目撃証言、物証…99%有罪確定の法廷に落ちこぼれ弁護士が挑む!!二転三転する真相、誰かが嘘の証言を!?開いたカーテンから見えた予期せぬ真犯人とは!?」(1月24日放送)ネタバレ批評(レビュー)
【「大藪春彦賞」関連記事】
・「第15回大藪春彦賞」受賞作は柚月裕子先生『検事の本懐』に!!
【関連する記事】
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