2016年04月30日

『恋人たちの汀』(倉知淳著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRUARY 2016』掲載)

『恋人たちの汀』(倉知淳著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRUARY 2016』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

叔父を殺した劇団の演出家。恋人と企てたアリバイ工作は上手く行ったように見えたが、死神めいた風貌の刑事が現れ……
(東京創元社公式HPより)


<感想>

「乙姫警部シリーズ」の1作。
シリーズには『運命の銀輪』や『皇帝と拳銃と』があり、本作『恋人たちの汀』はその第3弾となります。

本シリーズの特徴は「倒叙ミステリ」であること。 
「倒叙ミステリ」とは「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」などで知られる「先に犯人による完璧と思われる犯行が描かれ、これに刑事や探偵が挑み、その瑕疵を暴く」もの。
最近だと、深水黎一郎先生『秋は刺殺。夕陽のさして血の端いと近うなりたるに』などがありますね。

『秋は刺殺。夕陽のさして血の端いと近うなりたるに』(深水黎一郎著、講談社刊『メフィスト 2015vol2』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『恋人たちの汀』では劇団演出家の間宮が黒瀬を殺害。
その後、恋人・美凪と共にアリバイを作ることに。
これに乙姫警部が挑みます。

ポイントは「どうやって乙姫警部が間宮が犯行現場に居たことを証明した」か。
さて、乙姫警部は如何にしてこれを証明したのか!?
キーワードは「消臭剤」と「劇団チラシ」。
此の伏線が凝っていて再読にも耐えうる作品だと感じました。

正直、下記のあらすじでは明らかに本作を表現し切れていません。
興味を持たれた方は倉知先生の緩急自在ぶりを味わう為に本作それ自体を読むべし!!
こうなると、猫丸先輩の新作も読みたいぞ!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
乙姫警部:死神のような容貌の警部
間宮:劇団の演出家
美凪:劇団が誇る女優
黒瀬:間宮の伯父、金貸しをしている


劇団の演出家である間宮は母方の伯父・黒瀬に呼び出され、彼の家を訪れていた。
とはいえ、黒瀬は間宮を呼び出しておいてスプレー式の消臭剤を噴霧することに忙しない。
これは黒瀬の癖であった。
来客の前だろうと何だろうと黒瀬は徹底的に消臭剤を撒き散らすのだ。
四角い部屋であれば中央から四隅まで余すところなく散布しなければ気が済まないらしい。

応接間のテーブルの前でひとしきりそんな黒瀬を眺めていた間宮。
暫くして、ようやく思い出したように黒瀬が戻って来た。
その手には、何故か間宮の劇団の新規公演のチラシが握られている。
チラシ自体は間宮が黒瀬に届けたもので不思議はない。
確か20枚ほど渡した筈だが手にしているのは1枚きりだ、残りは何処かに放置しているのだろう。
不思議なのは黒瀬がそれを持ち出して来たことだ。
以前、間宮は黒瀬を公演に招待したことがあったが黒瀬は全く理解を示さなかった。
どうやら興味が無いようだ。
そんな黒瀬がどうしてチラシを持って来るのだろうか。

黒瀬はそんな間宮の疑問を意に介さず、テーブルの上にチラシを置いた。
そして、次に発した黒瀬の言葉は間宮を驚かせるに充分であった。

「この女を寄越せ」

黒瀬はそう口にしたのだ。
その視線の先にはチラシの中央で微笑む劇団の看板女優・美凪が居た。
黒瀬は美凪を愛人にしたいと言い出したのだ。
演出家である間宮の口添えがあれば美凪も断り切れないだろうと考えているようだ。

黒瀬の要求は間宮にとって言語道断であった。
もちろん、本人の意志を無視していることもそうだが、美凪は間宮の恋人だったからである。

やんわりと拒否した間宮。
しかし、黒瀬は強引であった。
もしも、要求が通らなければこれまでに貸した金を返せと主張したのである。

これまた間宮にとっては青天の霹靂であった。
確かに黒瀬には資金面で世話になっていた。
だが、それは伯父と甥の仲で返さなくともよいと約束していたからである。
しかし、黒瀬は借用書まで持ち出し間宮に迫った。

もはや、間宮に出来ることは限られていた。
気付けば間宮は黒瀬を殺害していた。

凶器は黒瀬のコレクションの短刀だ。
前方から刺し、後方へ回り込むと改めて深々と貫いた。
おかげで返り血を浴びずには済んだが、テーブルは血塗れになってしまった。

我に返った間宮は事態への対処を迫られることとなった。
間宮が訪問した事実を知る者はいない。
痕跡を消せば逃げ切れる筈であった。

まず、借用書を処分することにした。
次いで、間宮はテーブルの上のチラシに気付いた。
これを残しておけば劇団関係者の犯行だと分かってしまう。
間宮は血に濡れたソレをそっと回収した。
残るはアリバイだ。
間宮は美凪に連絡を入れることにした。

そして、事件が発覚した―――。
捜査に乗り出したのは死神の容貌を持つ男・乙姫警部である。

乙姫警部は黒瀬の唯一の親族であった間宮に目を付ける。
しかし、間宮には死亡推定時刻に美凪と共にレストランで食事をしていたとの鉄壁のアリバイがあったのだ。

このアリバイ、もちろん間宮のトリックだ。
あの後、間宮は美凪に連絡を入れるや誤って黒瀬を殺害してしまったと説明すると適当な男を誘ってレストランで食事をするように指示をした。
この際、従業員が男性ばかりの店を選ぶように指定した。

これは図に当たった。
美凪の美貌に目を惹かれた従業員は同行していた男性には目も留めなかったのだ。
結果、美凪が男性と食事をしたとの事実が残されたのである。
美凪が相手を間宮だと主張する限り、これを覆せる事実はない。

一方、乙姫警部は黒瀬の奇妙な癖を聞き込んでいた。
さらに、犯行現場のテーブルに出来たA4サイズのスペースに注目した。
そう、間宮がチラシを持ち去った為にそのスペースが生じてしまったのである。

乙姫警部は間宮の周辺を調べ、美凪と恋仲であると突き止めた。
しかも、レストランの従業員に面通しを行い、美凪についての記憶はあるが同行していた男性については確認されていない事実も突き止めた。

そして、乙姫警部は現場である検査を行う。
これにより自身の推測と合致する証拠を手にした乙姫警部は間宮を呼び出した。

呼び出された間宮に対し、乙姫警部は「あなたが犯人です」と指摘する。

まず、テーブルにはA4サイズの何かが置かれていたことが分かっている。
だが、捜査が始まった時点でこの何かは消えていた。
つまり、犯人が持ち去ったことになる。
それは犯人にとって不都合な物だったに違いない。

これは何だったのか?
その正体を乙姫警部は突き止めたのだ。

検査の内容について語り出す乙姫警部。
それは消臭剤の痕跡を見出す検査であった。

黒瀬には消臭剤を撒く癖があった。
あの日も撒いていたことは床やテーブルから確認が取れている。
それは万遍なく撒かれていたが、ただ一箇所だけ検出されない箇所があった。

乙姫警部が指差した先にあったのは劇団のチラシの束である。
チラシは20枚を束でまとめて渡していた。
黒瀬は消臭剤を撒いた後で、その1番上にあった1枚を無造作に掴んでテーブルに持って来たのだ。
これにより其処だけ消臭剤が付着しなかったのである。

残されたチラシのサイズはA4であった。
すなわち、その1番上に置かれていた筈のチラシも同じくA4である。
テーブルから消えた物の正体はコレしかない。

犯人が持ち去った品の正体は劇団のチラシであった。
そして、これに繋がる関係者は間宮しか居ないのである。

乙姫警部は間宮に告げる。
間宮が犯人だとすればアリバイを証言した美凪も共犯者になる、と。

この瞬間、間宮は罪を認めざるを得ないことを悟った。
乙姫警部の言葉は「間宮が此の場で犯行を認めない限り、事態が長引けば美凪にも嫌疑が向かうぞ」と暗に示していた。
間宮にとって美凪だけは巻き込むワケには行かない。
何しろ、彼女を守る為の犯行である。
間宮は美凪を守るべく乙姫警部に首を垂れるのであった―――エンド。

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