2016年02月03日

『火の粉』(雫井脩介著、幻冬舎刊)

『火の粉』(雫井脩介著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

元裁判官・梶間勲の隣家に、かつて無罪判決を下した男・武内が引っ越してきた。溢れんばかりの善意で、梶間家の人々の心を掴む武内に隠された本性とは? 怪作『虚貌』を凌ぐサスペンス巨篇。
(公式HPより)


<感想>

「人は我が身に火の粉が降りかかったときにどうすべきか」
本作は元裁判官である梶間が彼が無罪にした被疑者・武内と相対するサイコサスペンスです。

既にお分かりのことと思いますが、武内は無実の人ではありませんでした。
すなわち、梶間は自身の手で狂気を野に放ってしまった。
そして、その狂気に追われることに。

同時に本作では「人が人を裁くことの是非」についても触れています。
まずは梶間が武内に行った裁き。
そして今度は梶間が受けることとなった裁き。
立場を変えたことで梶間はその本質の一端を掴みます。
それはおそらく「殺意の有無や動機などで刑が左右されるが、その人間の心情はその人間自身にしか分からない。にも関わらず、それを他者が斟酌して良いのか」と言った問題提起にも繋がることでしょう。

ネタバレあらすじはまとめ易いように改変しています。
興味のある方は本作それ自体をご覧頂くべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
梶間勲:元裁判官
梶間俊郎:勲の息子
梶間雪見:俊郎の妻
武内真伍:梶間が無罪にした被疑者

梶間勲は元裁判官。
今は妻や息子である俊郎、雪見夫婦と共に暮らしている。

そんなある日、かつて無罪判決を下した武内真伍が隣家に引っ越して来た。
自身の判決に揺るぎない自信を抱いていた梶間であったが、武内の挙動を目にするうちにそれが危うくなって行く。
武内は善良な仮面で梶間家へと近付いたものの、内に凶暴性を秘めていたのだ。

これに逸早く気付いた雪見は武内を警戒。
だが、俊郎は武内を信頼し切っており雪見の忠告に耳を貸そうとしない。

そんな中、武内の転居先で不審な失踪が相次いでいることが明らかに。
それでも武内を信じている俊郎は彼に誘われるに応じてその別荘へ。

一方、雪見の言葉に真実を見出した梶間は無罪とした判決が誤りであったことを認める。
しかも、武内は今も罪を重ねているのだ。

俊郎を救うべく梶間と雪見は別荘へ。
雪見が警察と合流する中、一足先に梶間は別荘内へ。
すると、其処では俊郎が武内に滅多打ちにされていた。
武内は何度となく梶間が制止しても手を止めようとしない。

手に灰皿を握り締め武内の背後に立つ梶間。
だが、過剰防衛を怖れて躊躇することに。

その間にも俊郎は打ち据えられ続けて虫の息だ。
武内はと言えば熱心に一撃、一撃を加えている。
これに梶間がキレた。

「死ね〜〜〜!!」
梶間は手にした灰皿を勢いよく武内の頭部に振り下ろす。
一回では止まらない、それは警察が飛び込んで来るまで続いた。

武内は梶間の手により死亡した。

こうして、梶間は武内殺害の罪で裁かれることとなった。
殺意の有無が争点となったが、梶間が「死ね」と叫んだことや何度も灰皿を打ち付けたことから殺意が認定された。
一方で、武内のこれまでの犯行も明らかになり、梶間が法律家であったことからも大幅に減刑が為された。

しかし、梶間は知っている。
あのとき、自身に殺意が無かったことを。
梶間は最後まで罪に手を染めることを怖れ躊躇していたのだ。
あの言葉はそれを踏み切らせる為の合図に過ぎなかった。
其処には殺意は存在していなかったのだ。

ところが、殺意が認定されてしまった。
あの高台に居ては此処は見えないのだ……梶間はそれを痛感した。

梶間の罪は殺人にしては軽い1年程度となった。
だが、俊郎は一命を取り留めたものの一生続く麻痺に苦しんでいる―――エンド。

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