2016年03月09日

『クララ殺し』第5話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRUARY 2016』掲載)

『クララ殺し』第5話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRUARY 2016』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

スキュデリは推理を誤ったのか? マリーの死を受けてドロッセルマイヤーは井森の責任を追及するが……
(東京創元社公式HPより)


<感想>

小林泰三先生の新作長編『クララ殺し』が『ミステリーズ!』にて連載中です。
今回はその第5話。

ラストにて「マリー=くらら」であることがスキュデリの口から語られました。
此処までは前回も予測した範囲。

「クララ=くらら」「マリー=?」ではなく「マリー=くらら」であるとすれば、これまでの構図はかなり異なって来ます。
まず「地球でくらら」が「ホフマン宇宙でマリー」が遺体で発見されたことから被害者は2人と思われていましたが、実際の被害者は1人になります。
さらに「ホフマン宇宙のクララ」が生存している可能性も浮上。

それどころか4話で明かされた「くららのメモ」を考えれば「クララこそが犯人」の可能性も。
だとすると、タイトル『クララ殺し』の意味も「クララが被害者=クララ殺し」ではなく「クララが加害者=クララ殺し」なのかも。

作中でのスキュデリの言葉によれば「マリーの死は誤算」であり「真犯人を論理的に理解しなければ同情や便乗犯が生まれかねないもの」らしい。
これから考え得るのは「マリーこそがクララを殺害しようとし返り討ちにあった可能性」だ。

さらに、ドロッセルマイアーについて新事実が判明。
「ホフマン宇宙のドロッセルマイアー」と「地球世界のドロッセルマイアー」が別人であることが判明。
登場人物一覧に『本人曰く「アーヴァタールはドロッセルマイアー」』と記載し続けた甲斐がありました。

こうなると気になるのは「ホフマン宇宙のドロッセルマイアーは地球の誰か」なのですが「ホフマン宇宙のドロッセルマイアー」がDNA鑑定の件とその結果を知っていたことを考えると「礼津こそがホフマン宇宙のドロッセルマイアーのリンク先」の可能性が高そうか。

さらに、どうやらスキュデリも地球に存在しており井森を見知っている様子。
考えられるのは岡崎徳三郎ぐらいだが……。
こちらで気になるのは前作のようなどんでん返しがあるかどうか。
前作『アリス殺し』では犯人告発後に意外な展開が探偵役を待ち構えていました。
今作にて探偵役に当たるのはスキュデリですが、彼女は大丈夫なのか?
そもそも、今更ながら「スキュデリを信用しても良いものなのだろうか」、「真の探偵役は別にいるのか」も気になります。

ちなみにネタバレあらすじは大幅に改変しています。
どちらかと言えば、かなりライトにしました。
本作はもっとヘヴィかつブラックです。
興味のある方は本作それ自体を読むことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
【地球】
井森:『アリス殺し』から再登場。大学院生。アーヴァタールは蜥蜴のビル。
露天くらら:アーヴァタールはクララらしいが……。
ドロッセルマイアー:工学部教授。本人曰く「アーヴァタールはドロッセルマイアー」。
鼠:車中で焼死していた鼠。くららを襲った車に乗っていた。
諸星:くららの知人。千秋の父。
諸星の家内:諸星の妻。諸星とは別居中。
千秋:諸星の娘。くららの教え子。
新藤礼津:謎の女性。
岡崎徳三郎:謎の男性。

【ホフマン宇宙】
蜥蜴のビル:『アリス殺し』から再登場。相変わらず場を掻き乱すことに。
クララ:ビルが出会った車椅子の少女。
ドロッセルマイアー:判事。
シュタールバウム:クララの父親。
フリッツ:クララの兄。
鼠:クララ殺しを図ったとして処刑された。
スパンツァーニ:ナターナエルの師匠。
ナターナエル:スパンツァーニの弟子。
オリンピア:スパンツァーニが作った自動人形。
コッペリウス:ドロッセルマイアーと犬猿の仲の弁護士。
マリー:クララの友人の1人。クララ宅の自動人形。
ピルリパート:クララの友人の1人。姫。
若ドロッセルマイアー:判事と同姓同名の別人。ピルリパートの恋人。
ゼルペンティーナ:クララの友人の1人。正体は蛇。
トゥルーテ:クララ宅の自動人形。
パンタローン:スキュデリの部下。
スキュデリ:ビルに協力を申し出る。
ロータル:クララの兄……の記憶を植え付けられている。

・前回はこちら。
『クララ殺し』第4話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.74 DECEMBER 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

此処は地球世界、井森の前にはドロッセルマイアーと礼津が居た。
マリーが死体で発見されたことで井森の責任を追及するドロッセルマイアー。
そんなドロッセルマイアーに井森はスキュデリから頼まれた依頼を伝える。
それは「落とし穴の血をDNA鑑定し、くららの物か確認して欲しい」とのものであった。

これを「自分でやれ」と嫌がるドロッセルマイアー。
しかし、井森は時間が無いと彼を説得。
結局、ドロッセルマイアーから依頼を受けた礼津が動くことに。

部屋を去った礼津。
残ったドロッセルマイアーに井森は「スキュデリから頼まれた件は進んでいますか」と尋ねることに。
一瞬、戸惑う様子を見せたドロッセルマイアー。
そんな彼に井森は「車椅子でくららが移動した範囲を調べると約束した筈ですよ」と促す。
これを聞いたドロッセルマイアーは「ああ、その件ならば少し時間がかかっている」と応じるのだが……。

数時間後、ホフマン宇宙。
スキュデリとビルの前にはドロッセルマイアーが居た。
依頼の結果を尋ねるスキュデリにドロッセルマイアーは「落とし穴の血はくららのものだった」と語る。
ところが、スキュデリは依頼はそれだけでは無かったとドロッセルマイアーを問い詰める。
そう、「車椅子でくららが移動した範囲を調べる」との依頼である。

狼狽するドロッセルマイアーにスキュデリは全てが彼女の罠であったことを明かす。
実は「車椅子でくららが移動した範囲を調べる」との依頼は存在していなかった。
にも関わらず「地球世界のドロッセルマイアー」は「スキュデリから聞いた」と認めていた。
しかし「ホフマン宇宙のドロッセルマイアー」はそれを聞いても居なかった。

つまり「地球のドロッセルマイアー」と「ホフマン宇宙のドロッセルマイアー」はリンクしていないのだ。
にも関わらず、2人は互いにリンクしていると言い張っていた。
これが何を意味するか!?
これについて、それぞれが別人であることは認めたドロッセルマイアーだが「単なる悪戯の為に地球のドロッセルマイアーを用意した」と弁明し始めた。

再び地球世界。
井森はドロッセルマイアーには内密に礼津に接触し、彼がドロッセルマイアーを騙る偽物であることを伝え協力を求めた。

これに応じたかに見えた礼津。
しかし、あっさりと裏切りドロッセルマイアーに偽物であることがバレたと教えてしまう。

開き直った偽ドロッセルマイアーは「伝えたいことがある」と例の落とし穴へ井森を連れ出した。
相変わらず落とし穴の底には血に染まった杭が突き立っている。
ドロッセルマイアーはその血液の付着の仕方を指摘。
くららが突き刺さって死亡したのならば、落とし穴の底に血が溜まる筈でどちらかと言えば引き抜かれたように見えないかと語る。
これに頷く井森だが、気付けばドロッセルマイアーに逃げられてしまっていた。
しかも、直後に何者かに殺害されてしまう。

ホフマン宇宙ではビルが井森の死をスキュデリに告げていた。
一方、スキュデリはそんなビルに同情しつつも全てが明らかになったと関係者を呼び集める。

集まった一同を前に謎解きを始めるスキュデリ。
「マリーの死こそ誤算だった」と前置きしつつ、スキュデリはドロッセルマイアーが地球世界に偽物を用意した理由が悪戯以外にある筈と詰め寄る。

これにドロッセルマイアーは彼が唱える「アーヴァタール仮説」を実証する為に必要だったと主張する。
リンクがあると提唱するドロッセルマイアー自身にリンクがないとなれば説得力が欠けるとの理屈だ。

此処でスキュデリは井森の身長を取り上げた。
2メートルほどの大きさだったとするスキュデリに対し「170程度だろう」と一笑に付すドロッセルマイアー。

しかし、これこそスキュデリの狙いであった。
スキュデリはドロッセルマイアーが井森の正確な身長を知っていたことから実際に彼を目撃したことがあると指摘。
つまり、ドロッセルマイアーのリンク先は地球に存在しているのだ。

だとすると、先程のドロッセルマイアーの言葉は嘘になる。
実在する以上、偽物をでっち上げる必要は無い。

続いてスキュデリは「そもそもドロッセルマイアーが誰を騙そうとしていたのか?」について触れる。
ドロッセルマイアーが騙そうとしたのは事件前に彼と接触した人物だ。
地球のドロッセルマイアーが接触したのはくららと井森の2人。

このうち、くららは標的では無い。
何故なら、くらら死亡後もドロッセルマイアーは芝居を続けたからである。

だとすれば、ドロッセルマイアーは井森を騙そうと考えたのだ。
いや、正確には井森を通じていずれ現れる探偵役を騙そうと目論んだ。

何故か?
ドロッセルマイアーはくららが殺害されることを事前に知っていたからである。

そして、スキュデリはクララ殺害時のアリバイが工作されたものだと指摘する。
何故なら「マリー=くらら」だったのだ―――6話に続く。

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