2016年02月20日

『光る崖』(夏樹静子著、光文社刊)

『光る崖』(夏樹静子著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

名古屋地検の検事・千鳥朱子は、秘めた関係にある服飾MD・郷原の誘いを断れず、飛騨へ旅に出かけた。旅行後、名古屋市内で傷害致死事件が発生。朱子の前に現れた参考人は、旅先で知り合った女性・北沢昌代だった。事件の調べを進めると、背後に女子高生売春グループの存在が浮かび上がってきた。――初めて女性検事を主人公に配した「記念碑的作品」が新装版で登場。
(光文社公式HPより)


<感想>

北沢昌代宅の事件(中尾の死)から始まり、豊松祥子の病死、富士川の毒殺事件と続く中で意外な真相が浮かび上がる作品。
実は、この3つの事件が密接に繋がっている。
さらに、朱子と郷原の不義などが結び付き男女の関係やモラルが問われている点が特徴だろう。

また、劇中では様々な愛の形が描かれます。

此処からは本作の内容のネタバレになっています、注意!!

朱子と郷原の「不義の愛」。
昌代から瑞枝の兄への愛は妄執を生みました。
久仁子から祥子への「娘を想う母の愛」。
祥子から奥平への愛は「純粋な愛」でしたが、奥平から祥子へは「偽りの愛」でした。
また、祥子の愛は「純粋過ぎた愛」とも言えそうです。

人は愛ゆえに強くなり、愛ゆえに妄執に陥る。
祥子は奥平の為に売春に走り、それ故に身の破滅を招いた。
昌代は瑞枝兄を失った為に、妄執に囚われ復讐に走った。
朱子もまた不義と知りつつ、郷原を追うのでしょう。
その先には何が待つのでしょうか!?

これらの様々な愛の形こそが本作のテーマ。
すなわち、「愛の強さ」や「愛ゆえの恐ろしさ」を示しているのかもしれません。

とはいえ、読後には何と言っても「昌代の恐ろしさ」が印象に残る。
なるほど、あの2人に対しては確かに許せないのは分かるがだからと言ってやり方がかなりエグイ。
しかも、きっちり自身は罪に問われないように謀っている点もエグイ。
それでいて周囲に最大限の被害が及ぶように狙っている点もエグイ。
正直、「男女の仲」や「モラル」よりも昌代の恐ろしさが何より心に残った。
幾ら相手が相手とはいえ、保身を行いつつ復讐に走るのはあまりにも虫が良過ぎるのではなかろうか……昌代よ。
さらに、無関係な祥子を巻き込み久仁子を悲嘆の淵に陥れたのは相当に罪深いぞ。
しかも、その久仁子にさらに罪を着せようとするし。
もちろん、その陰で動いていた奥平も十分に罪深い。

此の点、彼らは愛は愛でも「自己愛」なのかもしれないなぁ……。

そう言えば、ラスト以降も朱子と郷原の仲は続くようですし「社会的な倫理観」と「個人の感情」とは平時には守られても事有れば相容れないことを描いているのかもしれません。
何しろ、ラストでは法の番人である朱子を以てしても……なのですから。

なお、あらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
興味をお持ちの方は本作それ自体を読まれることをオススメ致します。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
千鳥朱子:名古屋地検の検事。夫の没後、郷原と不倫中。
鮎子:朱子の1人娘。
郷原:朱子の不倫相手、病床にある妻・真苗が居る。
真苗:郷原の妻、病床にある。
北沢昌代:参考人であったが……。
奥平:中尾を過失致死で殺害したとされていたが……。
中尾:奥平に殺害された男性。
富士川:何者かに殺害される。
豊松:祥子の父、久仁子の夫。
久仁子:豊松の妻、祥子の母。
祥子:豊松と久仁子の娘。
瑞枝:???


千鳥朱子は名古屋地検の検事である。
夫は既に亡く、舅姑と娘・鮎子と暮らしている。

だが、朱子には秘密があった。
妻のある男性・郷原と不倫の関係にあったのだ。
郷原には妻・真苗がおり病床に臥せっている。
朱子は郷原と別れたくはないが、結婚出来ずにずるずると続くことにも焦りを募らせていた。
真苗の容態はあまり芳しくないようである。
朱子としてはいっそのこと真苗が居なくなってくれれば……と思わなくもない。
しかし、郷原はそんなことは露程も考えていない様子である。

そんなある日、朱子は郷原と飛騨に旅行へ出かけた。
其処で吊り橋に立ち往生する少女と彼女を助けようとする女性を見かけることに。
女性の奮闘で少女は救い出された。
どうやら肝試しに橋を渡っていたところ、怖くて立ち往生してしまったらしい。
少女を助けた女性の勇気を称賛する朱子であったが……。

それから暫くして朱子は彼女と再会する。
彼女の名は北沢昌代、中尾過失致死事件の参考人であった。

中尾過失致死事件の概要は次の通りである。
昌代が自宅で草刈を依頼した奥平青年と喧嘩になった。
其処に通りがかった中尾が仲裁に入り、誤って奥平青年が手にしていた鎌で落命したのだ。
昌代と奥平青年に深い接点はなかったことから、あくまで事故と思われた。
奥平青年は未成年であり事故となれば罪は軽い。
結局、事件は事故として処理されることとなったが……。

それから数ヶ月後、豊松家では久仁子が娘・祥子の素行について頭を悩ませていた。
祥子の異性関係がやたら派手になったのだ。
どうやら、あまり良くない仲間と売春を行っているらしい。
その矢先、祥子が子宮外妊娠で死亡してしまった。

久仁子は祥子の恋人であった奥平から事情を聞かされ愕然とする。
祥子は奥平と交際していたのだが、奥平が中尾の過失致死で弁償金を支払うことになり、その大金を工面する為に売春していたのだ。
祥子を其処まで追い詰めたのは売春組織を指導する富士川なる男だと言う。
久仁子は富士川への恨みを募らせる。

直後、富士川が毒殺されてしまった。
奥平から久仁子が富士川を恨んでいたと聞かされた捜査本部は彼女を取調べ自白へと繋げた。

さて、この事件を担当したのが朱子であった。
朱子は奥平の名を目にするや、中尾殺害事件を思い出し調べ始めた。

すると、中尾と富士川に接点があることが判明する。
富士川が売春組織を仕切っており、中尾がその客だったのだ。
どうやら、中尾が接待の際に富士川から少女を派遣して貰っていたようである。

さらに、奥平と富士川にも接点があることが判明。
瑞枝なる少女が富士川により売春を強要されており自殺していたのだが、この恋人が奥平だったのだ。

朱子が奥平に聴取を行ったところ、奥平は真相を語り出した。
奥平は瑞枝と交際していた。
ところが、瑞枝は富士川に追い詰められ自殺してしまった。
奥平は瑞枝の日記から事情を察したが、それは伏せておくことにした。

そんなある日、奥平は偶然に昌代と出会った。
驚くべきことに昌代は瑞枝の兄の恋人であった。
しかも、瑞枝の兄は妹の死に心を痛め死亡してしまっていた。

此処で、奥平は瑞枝の日記を昌代に見せた。
内容を目にした昌代は烈火の如く怒り、復讐すると言い出した。

昌代が復讐対象としたのは富士川、中尾、豊松の3人だ。
これには日記のある一節が関連している。

富士川により売春を強要されていた瑞枝は中尾の接待で豊松相手の席に呼ばれた。
ところが、豊松は瑞枝を一瞥するなり「そんなことはしない」と引き取らせていたのだ。

これが昌代の何かに触れた。
昌代は富士川よりも中尾よりも豊松を憎んだ。
そのとき豊松が瑞枝の兄に事情を伝えてくれればきっと自殺する筈も無かった、昌代はそう考えたのだ。
実際は豊松と瑞枝の兄には何の接点も無いのだが、昌代はそう考えたのである。

さらに豊松を調べ、祥子の存在を見出すや昌代はさらに豊松へ憎悪を向けた。
同じ年頃の娘が居ながら瑞枝を助けようとしなかったのはおかしいと主張したのだ。
しかも「あいつは抱こうとしなかったことを誇っているに違いない。自分の潔癖さを誇っているに違いない。とんだ偽善者だ」とまで罵ったのだ。
こうして、昌代は豊松へもっとも残酷な復讐を思い立つことに。

其処からは奥平は昌代の言いなりであった。
後に昌代の供述によれば、奥平が昌代から多額の金を掴まされていたことも明らかになっている。

まず、昌代と奥平は中尾を事故に偽装し殺害した。
この実行犯は奥平では無い、昌代である。
昌代は奥平が未成年であることに目を付けた。
奥平の犯行ならば罪が軽いと彼に罪を着るように言い含めたのだ。
さらに、昌代は中尾と密かに男女の仲となり、あの日あの場所へ呼び出していた。
油断していた中尾はあっさりと昌代に殺害された。

続いて奥平に祥子を誘惑させ、売春するように追い落とした。
昌代によれば面白いほど祥子はあっさりと罠に嵌ったのだそうだ。
奥平を純粋に愛してしまった祥子は客を取らされ続けた挙句、子宮外妊娠で死亡してしまった。

そして、富士川殺害だ。
富士川もまた昌代と男女の仲になっていた。
さらに、昌代は奥平を使って久仁子に容疑が向かうように工作した上で富士川を毒殺した。
この際、昌代はアリバイを作っていたが、これも朱子により看破されている。

奥平が崩れたことで、昌代も渋々ながら罪を認めた。
しかし、彼女は復讐を完遂したことを喜ぶ言葉は述べたが、一言も謝罪の言葉は口にしなかった。

真犯人である昌代が逮捕されたことで久仁子は釈放された。
久仁子は夜な夜な町で祥子に似た少女を見つけては、その後を追うようになった。
おそらく祥子を追い求めているのだろう。

ある夜、郷原から朱子に電話が入った。
「真苗が持ち直したんだ、良かったよ」
明るい声で語る郷原にショックを隠せない朱子。
ところが、郷原の言葉は終わらなかった。
「僕は真苗の死を一度たりとも望んじゃいないんだ。何故なら、そんなことがなくとも僕らは一緒に居られるからね。どうだい、これから出て来ないか?」
その意味が何かは分からない。
だが、朱子に郷原の誘いを断る理由は無かった。
朱子は高鳴る胸を抑えつつ、待ち合わせ場所に急ぐのであった―――エンド。

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【その他情報】
夏樹静子先生インタビュー記事が「asahi.com」に掲載!!

夏樹静子先生、読売オンラインにて囲碁について語られる!!

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