2016年03月19日

金曜ロードSHOW!特別ドラマ企画「さよならドビュッシー ピアニスト探偵 岬洋介 今をときめく豪華キャストで『このミステリーがすごい!』大賞受賞作をSPドラマに!衝撃の結末に誰もが驚愕する!!」(3月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)

金曜ロードSHOW!特別ドラマ企画「さよならドビュッシー ピアニスト探偵 岬洋介 今をときめく豪華キャストで『このミステリーがすごい!』大賞受賞作をSPドラマに!衝撃の結末に誰もが驚愕する!!」(3月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)です!!

<あらすじ>

司法試験を優秀な成績で合格し、将来を嘱望される検事だったが、ある日突然職を辞し、ピアニストへの道を歩み始めた男・岬洋介(東出昌大)。

そんな岬が、鎌倉の閑静な高台に建つ、地元の名士にして大富豪・香月玄太郎(北大路欣也)が家政婦の綴喜みち子(キムラ緑子)と暮らす屋敷に下宿するべく門を叩くことから、物語は始まる。
岬のアーティスト気質で偏屈な性格に手を焼きつつも、内に秘めている岬の才能、人柄を玄太郎はいち早く認め、屋敷に岬を迎え入れることを決める。

香月家の近所に、玄太郎が古くから、家族ぐるみの付き合いをしている、真田という家がある。家具業を生業にして富を築いた、香月家と肩を並べる富豪だ。
玄太郎の幼馴染で、長年秘かに恋心を抱いていた、真田恭子(木の実ナナ)という当主を筆頭に、銀行員の長男・徹也(正名僕蔵)、いい歳をして定職にも就かず漫画家を志望する次男・研三(武田真治)、徹也の嫁・悦子(菊池桃子)、徹也と悦子の娘で、ピアニストを目指している遥(黒島結菜)、遥の従姉妹であり、両親を災害で亡くした片桐ルシア(上白石萌歌)、真田家に長年仕える家政婦の三上紀美(宍戸美和公)が一つ屋根の下で暮らしている。

玄太郎は岬に、孫同然の遥とルシアにピアノの個人レッスンを依頼するが、岬はにべもなく断る。

ある夜、真田家を悲劇が襲う。遥とルシア、恭子が火事に巻き込まれたのだ。
なんとか一命を取り留めたのは、遥だけだった。
火事の起きた夜、遥とルシアの交わした最後の約束。

「いつか遥が、コンサート開いたら、私のために、ドビュッシーの『月の光』、演奏してくれる?」

最愛の従姉妹との約束を叶えるため、火事で大火傷を負った身体を奮い立たせ、遥は、再びピアニストへの道を歩き始める。
そして、遥の傍らには常に、岬の姿があった……。

亡くなった恭子の遺言が発表され、遥は6億円もの遺産を相続する権利を得る。
すると、遥の身の回りで不可解な事件が次々と起こり始める……。
(公式HPより)


では、続きから……(一部、重複アリ)。

その日、真田家を大きな悲劇が襲った。
真田家は当主・恭子を中心に、銀行員の長男・徹也、漫画家志望の次男・研三、徹也の妻・悦子、徹也夫妻の娘でピアニスト志望の遥、遥の従姉妹で両親を失った片桐ルシア、恭子に長年仕えて来たサンダル履きの家政婦・三上紀美で構成されている。

夜のこと、遥はルシアとお泊り会に臨んでいた。
未来について語り合う2人、ルシアは遥に「ドビュッシーの月の光を演奏して欲しい」と語る。

ところが、直後に恭子の過失が原因で失火。
火は瞬く間に周囲を覆い、恭子は逃げ遅れて死亡。
遥とルシアも火に巻かれてしまった。

数日後、意識を取り戻した少女は自身が「遥」と呼ばれていることに気付く。
少女は全身に火傷を負い整形技術によって一命を取り留めていた。
また、ルシアが焼死してしまったことも聞かされた。
少女「遥」は思う、ルシアは私が殺した―――と。

一方、恭子の幼馴染・香月玄太郎のもとに新進気鋭のピアニスト・岬洋介が訪れていた。
岬は鎌倉音楽大学附属高等学校の臨時講師になり住居を探していた。
其処で地元の大富豪であり下宿人を求めていた玄太郎を頼ったのだ。
人を見抜くことにかけては自信のあった玄太郎だが、底を見せない岬を気に入り下宿人として迎え入れることに。

其処へ恭子の訃報が届く。
玄太郎は岬を連れ、恭子に託されていた後見人として真田家へ乗り込むことに。

真田家では遺産相続会議が行われていた。
弁護士から恭子の遺言状が読み上げられた途端、徹也たちは驚きを隠せない。
内容は次のようなものであった。

恭子の遺産は全12億。
そのうち、1千万円を紀美に。
3億円を徹也、同じく3億円を研三。
残る6億円を遥に相続させるものとする。
ただし、研三は起業し自活すること。
また、遥はピアニストとして活動する場合のみ相続を許す。

これを聞いて動揺が走る真田家。

そんな中、悦子の意向で「遥」の復帰にピアノ教師として岬が起用されることとなった。
「遥」は松葉杖を突かなければ満足に出歩けない状態である。
ピアノを弾くには高い壁が立ちはだかることは容易に想像出来た。

だが、岬は「遥」を一目見るなり「重要なのはその人物が何者かではなく、何を成し遂げたかだ」と語り、その覚悟を問う。
そんな岬に「遥」は「どうしても、月の光を弾かなければならない」と訴える。
一途に訴える「遥」の姿を目にした岬は彼女を指導を引き受けることに。

厳しい特訓の日々が続いたが「遥」はそれでも耐え続ける。
ところが、意外な障害が「遥」を待ち受けていた。

ある日のこと、帰宅途中の「遥」が何者かに道路に突き飛ばされたのだ。
明らかに殺意のある行動であったが、通りかかった岬により事無きを得ることに。
岬によれば逃げる犯人の足音を聞いたそうだが。

真田家の遺産を巡る争いなのか?
それとも別の理由があるのか?

矢先、「遥」の努力が認められ「朝比奈ピアノコンクール」への出場が決まった。
さらに熱を入れる「遥」であったが。

その数日後、悦子が神社の石段から謎の転落死を遂げた。
第一発見者である宮司によれば発見直後の悦子にはまだ息があったそうだ。
これを聞いた岬は「悦子の死が他殺ならば、どうして犯人は止めを刺さなかったのか」と疑問を呈する。

事件に鋭い見識を示す岬。
それもその筈、岬は司法試験を優秀な成績で将来を嘱望される検事だったのだ。
ところが、急に検事を辞めピアニストに転身していたのである。
これには理由があったのだが。

一方、悦子の死を受けて「遥」が激しく動揺し始めた。
コンクール出場を拒否し、もうピアノを弾けないと訴えたのだ。
「遥」は自身が火傷を負ったことで、他の出場者に比べてハンデがあると繰り返す。

そんな「遥」を岬は自身の演奏会に誘う。

「遥」は岬の演奏を耳にするなり大きな衝撃を受ける。
それは全く異次元の演奏であった。
聞く者の心を揺さぶり、その心を掴んで離さないのだ。

真の演奏を知った「遥」だが、同時に岬があるハンデを抱えていることに気付く。
岬は難聴を患っていたのである。

音楽の前では人は平等であると語る岬。
「遥」は岬が口にした「重要なのはその人物が何者かではなく、何を成し遂げたかだ」の意味を知った。

こうして「遥」は再びコンクールを目指して練習に打ち込み始めた。

そしてコンクール当日。
「遥」は「アラベスク」と「月の光」を演奏することに。
その状態を考えれば余りに過酷な挑戦であったが、岬は「遥」の覚悟を応援する。

まずは「アラベスク」を演奏し終えた「遥」。
一旦、休憩室に戻った「遥」に岬は事件の真相を告げる。

「遥」襲撃事件の犯人は家政婦の紀美であった。
「遥」襲撃犯が逃げ去る音を聞いていた岬は犯人がサンダル履きであることに気付いた。
真田家でサンダルを履くのは紀美だけだ。
紀美は恭子を尊敬しており「遥」が遺産目当てに焼殺したと思い込み復讐しようとしたのであった。
罪を暴かれた紀美は出頭していた。

では、悦子を殺したのは誰か?
岬が口にした犯人は「遥」であった。

悦子は石段の上で誰かと揉み合いになり転落した。
だが、犯人は悦子の生死を確認せずにその場を立ち去ってしまった。
いや、確認したくとも段差が邪魔して出来なかったのだ。
何故なら、松葉杖を突いていたから。

岬は悦子の死が「遥」の正体に気付いたからだと述べる。
「遥」の正体とは何か!?

それは死亡したのが遥であり、生きていたのがルシアであることだった。

岬は「遥」を指導する上で過去の彼女の演奏をビデオで目にし、遥の小指が今の「遥」よりも短いことに気付いた。
また、その演奏の癖が異なっていることも見抜いた。

岬は、最初から「遥」がルシアであると知っていたのだ。
その上で指導していたのである。

ルシアが目を覚ましたとき、周囲の皆は彼女を遥と呼び「生きていて良かった」と喜んだ。
これを聞いたルシアは絶望してしまった。
何故なら、その言葉は裏を返せば「死んだのがルシアで良かった」となるからだ。
言葉も出ないルシアはもしも真相を知られればどうなるかを怖れた。

死亡したのが遥で、生きているのがルシアだとバレれば……。
其処でルシアは自身を殺し「遥」として生きることにした。

過去、ルシアと遥の間では「遥が月の光を弾く」との約束が交わされていた。
其処でルシアは「遥」となることで、その約束を果たそうとしたのだ。

岬はルシアに、「遥」としてではなくルシアとして弾くように指示する。
遥とルシアの2人で演奏を完成させろ、と。

ルシアはこれを最後のピアノと決めていた。
ピアノの前に座ったルシアは「月の光」を演奏し始めた。

あの日、悦子は「遥」がルシアであることに気付き、これを責め立てた。
もしかして、ルシアが遥に成り済ます為に謀殺したのではないか?
純粋に母を求めたルシアは悦子の誤解を解こうとして歩み寄った。
これに悦子は「人殺し」と罵り、ルシアと距離を取ろうとして転落死を遂げたのだ。
だが、岬はルシアが何者であろうとも拒まなかった。

疲労から指の力を失いかけたルシアは立ち上がりながらも演奏を続けた。
今は亡き遥との約束の為、そして信頼してくれた岬の為に。
ルシアは精一杯弾き続けた。
そして……遂に完走した。

倒れ込むルシアを抱き止める岬。
岬は「素晴らしい演奏だった」とルシアを褒め称える。

この演奏は多くの聴衆の心を打った。
ルシアは優勝した。

重要なのはその人物が何者かではなく、何を成し遂げたか。
ルシアは見事に演奏を成し遂げたのである。

ルシアの罪は遥を騙りルシアを殺してしまったことである。
だが、罪は償いやり直すことが出来る。

ルシアはステージで誓っていた。
また、この場所に戻って来ると。
それまで、さよならドビュッシー―――エンド。

<感想>

ドラマ原作は中山七里先生「岬洋介シリーズ」の第1弾『さよならドビュッシー』(宝島社刊)。

『さよならドビュッシー』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「岬洋介シリーズ」は「難聴を抱える天才ピアニスト岬洋介が関わった事件を描く」シリーズ作品。

シリーズには本作の他に、長編として第2弾『おやすみラフマニノフ』、第3弾『いつまでもショパン』、第4弾『どこかでベートーヴェン』が存在。
第4弾『どこかでベートーヴェン』は2016年3月現在『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK』にて7話まで連載中。
また、2016年5月に単行本として刊行されることが明らかとなっています。

そして短編として、香月玄太郎を主役におき『さよならドビュッシー』の前日譚を描いた短編集『さよならドビュッシー前奏曲(文庫化に際し『要介護探偵の事件簿』を改題)』と『間奏曲(インテルメッツォ)』(『いつまでもショパン』と同時期に起こっていた事件を描くスピンオフ)の2作が存在しています。

ちなみに、本作『さよならドビュッシー』は漫画化や映画化もされています。

早速、ドラマ感想を!!

良かったです!!
映画版と比較しても遜色ない出来で、本作ラストのどんでん返しも見事に再現されていましたね。

それと、今回のあらすじでは地の文でも出来る限りフェアになるように表記を遥と「遥」で使い分けています。
なので「遥」となっているのはルシアのことですね。

また、後のルシアについては原作『いつまでもショパン』にて少しだけ触れられているので興味のある方はチェックすべし!!

ちなみに、ドラマ版で原作からのもっとも大きな変更点は香月家の出来事ではなく真田家の出来事に置き換えられていることか。
これにより、香月玄太郎が生存することに。
こうなると『さよならドビュッシー 前奏曲』の内容を活かした連続ドラマ化もあり得そう。
本作がパイロット版だとしたら、是非連続ドラマ化して欲しいところです!!

◆「中山七里先生」関連過去記事
【岬洋介シリーズ】
『さよならドビュッシー』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『おやすみラフマニノフ』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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『いつまでもショパン』第1回(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK』連載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第一話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.6』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第二話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.7』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第三話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.8』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第四話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.9』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第五話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.10』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第六話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.11』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第七話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.12』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『間奏曲(インテルメッツォ)』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい!2013年版』収録)ネタバレ書評(レビュー)

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【刑事犬養隼人シリーズ】
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【その他】
『連続殺人鬼カエル男』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『静おばあちゃんにおまかせ』(中山七里著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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【ドラマ版】
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「このミステリーがすごい!〜ベストセラー作家からの挑戦状〜 天才小説家×一流映画監督がコラボした、一夜限りの豪華オムニバスドラマ!味わいの異なる4つの謎=各25分の濃密ミステリー!又吉×希林の他では見られないコントも!」(12月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「このミステリーがすごい!2015〜大賞受賞豪華作家陣そろい踏み 新作小説を一挙映像化」(11月30日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「さよならドビュッシー (宝島社文庫)」です!!
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「どこかでベートーヴェン 第六話」が掲載された「『このミステリーがすごい!』 大賞作家書き下ろしBOOK vol.11」です!!
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「さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)」です!!
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ビジュアルPHOTOストーリー さよならドビュッシー 橋本愛



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この記事へのコメント
とても見応えのある作品でした。原作も映画も知らない全く白紙の状態で見たのですが、冒頭の火事の場面で、早くも設定の予想がついてしまい(少女漫画や刑事ドラマを始めとして、よく目にする入れ替わり手法が連想されましたので)、そこをどうやって目新しく見せて貰えるのか、大変期待して見始めて、その期待を裏切られませんでした。
この手の入れ替わりでは、本人の意志による詐称(犯罪)が、些細な油断から、記憶、能力、癖、言葉遣い、アレルギー、といった決定的な要因によって暴かれる――というものを見たり読んだりして来ましたが、この作品の主人公は、図らずも巻き込まれた火災に生き残り、気づけば別人だと伝えられないハンディを負い、周囲の思い込みからピアノを選ぶ以外に生きる選択肢のない状況に否応なく追い込まれ……そうして、死んだのが自分であることを周囲が喜んでいると、改めて思い知らされた衝撃から、決定的に他者の生を――それも、極めて過酷な生を――生き抜こうと決意する……それを、ぎりぎりまで「どうなんだろう? 本当は、どうなんだろう?」と、手に汗握ってはらはら見守るうちに一息に見終えた、そんな感じでした。
全くの「本人の意志」からによる詐称ではない、母親の転落死も事故の要素が強い、無論、冒頭の火事に関しても全くの被害者……運命の悪戯から投げ込まれた悲劇の渦中で、自ら必死に立ち上がり、敢えてピアノという厳しい道に生きる決意を固めて、果敢に立ち向かう少女の姿――そうして、本人の意志とは「ほぼ」無関係に追い込まれた過酷な状況の中で、並ならぬ努力の末に勝利を手にするも、恩師の手で真実が暴かれ、警察の手も迫っている……。
誰に、彼女を裁けるだろうか、誰に、彼女を非難出来るだろうか、誰が、何が、本当に彼女を追い詰めたのか……。
和賀英良を憎み切れない思いに少し似て、より一層に少女を擁護したい思いで一杯になった幕切れでした。

本当に、この制作陣は(原作者もですが)どこまでこの子を追い込んだら気が済むのだろう、と腹が立って来る位の追い込みようだったと思います。クラス内での孤立場面は、殊更に衝撃的でした。普段から、学園物ドラマのいじめ場面は、例え作品的に必要不可欠なものであっても、どうしても好きになれないのですが、このドラマでは、それが大変なハンディを負った級友に対するものであるだけに、ぞっとする程のおぞましさを感じました。
本当に見応えがありました。

ただ、全体を通して、素人の頭でぼんやりと感じた疑問が幾つかありました。
まず、何故、火事の直後に「DNA鑑定」が行われなかったのでしょうか。冒頭で生き残ったのが誰かさえはっきりと判っていれば、彼女はあそこまで辛い生き方を強いられずに済んだのではないのでしょうか。(その代わり、ドラマも生まれない訳ですが)
次に、母親が――しかも幼い頃から娘にピアニストを目指させ、人一倍その「指」に対しては強い関心を抱いている筈の母親が――幾ら動転していたとは言え、小指が短いという決定的な身体的特徴に気づかないまま、というのは、少しおかしい気がします。あれだけ、娘の指を気にしていたのに……。
もし、娘ではないと気づきながらも「娘をピアニストにする」という自らの夢(目的)を実現させる為に、敢えて娘だと信じたい一心で「この子は娘!」だと言い張り、少女の運命を強引にねじ曲げたのが母親なら……もし、母親にとって、生き残ったのは「絶対に自分の娘でなければならなかった訳ではない」何てことだったのであれば……「子ゆえの闇」に周囲も現実も見えなくなった母親が、助かった他人を無理矢理に我が娘だと思い込む、或いは仕立て上げようとする……そういう可能性も、ふと頭を横切りました。それはそれで、更に恐ろしいミステリーになりますよね。
あと、パジャマ交換の伏線を見落としたようなのですが、これはどこかで、別な何かを交換する仲の良さのようなものを、伏線として組み入れてあったのでしょうか? そこが意識になかったので、探偵役の「パジャマを取り換えていたのでは?」との台詞が、やや唐突に思えてしまいました。
全編に流れるクラシックのピアノ曲も、この作品の魅力を支える大切な要素の一つであると思いますが、劇中でドビュッシー以外の作曲家の有名な作品が多く使われていたのが、ちょっと気になりました。主人公以外の生徒や教師が他の作曲家の曲を弾くのも、主人公がリハビリの為に敢えて別の作曲家の曲を弾くのも、十分に自然なことなので、そこは余り気にならない筈なのですが、その「他の作曲家の曲」が「極めて有名で一般にもよく知られている曲」である場合、使い方が難しいように思います。タイトルに名前が掲げてあるからには、もう少しドビュッシー比率の高い扱いであった方が、解り易いかなと思いました。素人の耳にも「あれ? これ、リストやん?」何て、ふと思った途端に、作品世界から現実に引き戻されてしまう瞬間がありましたので……。
それから、原作を知らないこともあってか、どう見ても日本人としか思えない女の子が「ルシア」という名前で呼ばれていることにも妙な違和感がありました。これは、彼女の過去を簡単に説明されただけでは拭い切れない感じで――このドラマに限っては、彼女が海外育ちであるという設定は、別になくても成り立つ気がして(無意識に口をついて出た海外の言葉から、母親に正体を知られることになる、というような展開があるなら別ですが)、少し気になりました。先に活字で目にしていたなら、この違和感は覚えずに済んだかも知れません。これ(名前の扱い)は、活字が実写化される際に鍵となる要素の一つかも知れないなと思いました。

長々と失礼致しました。
Posted by 星沢美保子 at 2016年04月18日 22:18
Re:星沢美保子さん

こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!

改めてご指摘を受けて、過酷な環境に置かれたルシアの再起を描いた作品だと再認識しました。
なるほど、同じ音楽家であり他者の名で生きる『砂の器』和賀英良が浮かぶのも自然かもしれません。

ご疑問の件ですが、DNA鑑定はおそらく事件性が無かった(失火と判明している)為に行われなかったのではないかと考えています。

指の件に関しては……確かに不思議ですね。
仰る通り悦子が無意識のうちに思い込もうとしていたのかもしれません。

パジャマ交換は原作や映画版では描写があったのですが、ドラマ版では省略されていたように思います。

曲についてですが、おそらくメインであるコンクールでのルシアの演奏(「月の光」)を強調する為に他の曲を使ったのかもしれませんね。

ルシアの名ですが「遥」と対照的な存在として敢えて名付けられているような気はします。
とはいえ、確かにこれも気になるところではあります。
Posted by 俺 at 2016年04月20日 01:41
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