ネタバレあります、注意!!
登場人物一覧:
ラウル:ライオン型の獣人、高校生。生徒会長を務める優等生。
アズモ:コウモリ型の獣人、高校生。1週間前から不登校に。
<あらすじ>
此処は人に代わり獣人が闊歩する世界。
その世界の高校生でライオンの獣人であるラウルは退屈を感じていた。
彼は常に完璧を自負していた。
ラウルは学内では優等生で通っている。
生徒会長であり、成績優秀であり、スポーツも万能、人望も厚く、容姿端麗でもある。
まさに「百獣の王」に相応しい風格を備えていたのだ。
また、そうであるべきと彼自身考えていた。
そんなある日、ラウルは教師から不登校児を登校させるよう言い付かる。
不登校児の名はアズモ、オオコウモリらしいが1週間前から急に登校しなくなったのだそうだ。
面倒くさいと思いつつも内申と引き換えとの条件でこれを引き受けたラウル。
形だけでも果たせば良いかと思っていたのだが……。
アズモの自宅は廃ビルであった。
恐る恐る踏み込むとアズモは居た。
投げやりに説得を試みるラウル。
しかし、アズモは応じない。
それどころか、ラウルを揶揄するような言葉を投げつけた。
逆上したラウルはアズモに掴みかかる。
ところが、此処でアズモは「それがお前の本性だ」と冷たく言い放つ。
実はアズモは1週間ほど前にラウルと同じライオン型獣人に両親を惨殺されていたのだ。
以来、生きる気力を失くしてしまったらしい。
「お前も同じなんだろ。さぁ、やれ」
何度となく繰り返すアズモの言葉に錯乱したラウルはその場を逃げ出してしまう。
その夜、ラウルは自室で自身の野性に慄いていた。
あのとき、確かにラウルにはアズモへの殺意が渦巻いていたのだ。
自身が完璧ではないことを知ったラウルは……。
翌日、ラウルは再びアズモを訪ねた。
もはや、教師からの依頼は忘れていた。
ラウルはただひたすらアズモに謝罪した。
そんなラウルにアズモは告げる、「実は怖かったんだ」と。
半ば自暴自棄になっていたアズモ。
しかし、ラウルに掴みかかられたとき「生きたい」と心底思ったのだそうだ。
アズモは「そんな気持ちになれたのはラウルのおかげだ」と笑う。
数日が経過した。
ラウルはアズモのもとを足繁く訪れていた。
学校では誰も本当のラウルを見てくれない。
彼らが見るのは「完璧を演じるラウル」である。
何時しかラウルはアズモに親しみを抱いていた。
ラウルは「逆上がりが出来なかったこと」をアズモに語る。
ラウルはアズモの前では素直になれるのだ。
さらに数日が経過した。
アズモのもとを訪れたラウルは彼が旅支度をしていることに気付く。
アズモによれば旅に出ようと考えているらしい。
もしも、此処でアズモを行かせればラウルは教師の依頼を失敗したことになる。
また、折角得たアズモ自身を失うことでもあった。
だが、ラウルは笑ってアズモの決断を支持した。
不思議なことに其処に何の迷いも無かった。
何しろ、他でもないアズモが決めたことなのだから。
ラウルはアズモを見送った。
何時の日か再会を約しつつ―――エンド。
<感想>
「大人のおとぎ話」とでも呼ぶべき上質の作品と感じました。
ライオンやコウモリなどのイメージに仮託しつつ、人と人との心の交流を見事に漫画化しています。
また、獣人はどちらかと言えば「内面が動物に表現されている」と考えた方が良いかもしれません。
ラウルは出世街道をひた走るエリートを表現し、アズモは両親を殺されてしまった被害者遺族。
アズモの両親を喰らったライオンは挫折を経験したエリートを示しているものか。
つまり、アズモの両親の事件は「完璧を自負しながら挫折を経験したエリートが自暴自棄になり通り魔的な犯行に及んだ」と捉えれば、実際の事件と重なるところも大きいのではないでしょうか。
言わばアズモの言葉は「お前らみたいな奴が両親を殺した」と置き換えることが出来る。
この心からの叫びにラウルは衝撃を受けた。
完璧と考えていた自身の中の闇、それこそ彼が抱える違和感の正体であった。
知らなければ抗えない衝動も、その存在を知ることで抗うことに挑むことが出来る。
ラウルは自身も完璧ではないことを知ると共に、このチャンスを得た。
これにより完璧と思われがちな人間にも弱点があり、悩みがあることを表現しています。
当初、ラウルにとって面倒くさい仕事だった筈のアズモが彼に成長の機会を与えた。
アズモもまた両親を急に失い自暴自棄になっていたが、ラウルとの交流を経て一歩踏み出す勇気を得た。
2人はあの短い時間で互いを高め合う友達となったのではないでしょうか。
だからこそ、ラウルはアズモの成長を喜び見送ることとなった。
それは対等の立場から互いを尊重すればこそ出来ること。
かなり良かったです。
ちなみにあらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
興味をお持ちの方は本作それ自体を読むべし!!
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