ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
格差社会の醜さを描いた、ゆるぎない傑作!
ええ、はい。あの事件のことでしょ?――幸せを絵に描いたような家族に、突如として訪れた悲劇。深夜、家に忍び込んだ何者かによって、一家4人が惨殺された。隣人、友人らが語る数多のエピソードを通して浮かび上がる、「事件」と「被害者」。理想の家族に見えた彼らは、一体なぜ殺されたのか。確かな筆致と構成で描かれた傑作。『慟哭』『プリズム』に続く、貫井徳郎第3の衝撃! 解説=大矢博子
(東京創元社公式HPより)
<感想>
人は多面的な存在である。
家族には善良な人物でも、社会的には悪辣な人物も居る。
また逆に社会的に英雄でも、家庭人としては失格な人物も居る。
つまり、ある人にとっては善人でも、ある人にっては悪人だったりするワケです。
そんな多面的な存在である人間をインタビュー形式で描き出したのが本作。
ある者は田向を善良と評し、ある者は酷薄と評する。
ある者は夏原を女神と評し、ある者は悪魔と評する。
世のすべての人から極悪人と称される人物でも善行を為すことがあるかもしれない。
逆に仏とまで呼ばれた人物でも何処かで過ちを犯すかもしれない。
そのとき、その場所に立ち会った人にとっては極悪人も善人に見え、善人も極悪人に見えるかもしれない。
この差異は相手をどれだけ知っているかにも関わって来る。
にも関わらず、我々は表層的な情報だけで相手を判断しようとする。
そして、齟齬を生み、擦れ違いを生み、無理解を生む。
それらはやがて憎悪に繋がるかもしれない。
其処に描き出されるのは「人の愚かな行いの記録」=「愚行録」。
特に田中光子とインタビュアーの関係。
そもそもインタビュアーの意外な正体はサプライズとなるでしょう。
さらに、ラストの光子の言葉が正しければ彼女に虐待死させられた娘は「近親間に生じた娘」となってしまうのでしょうか。
どうやら「虐待の連鎖」もテーマの1つと言えそうか。
また、多くの人物がそれぞれを視点人物としつつ1つのストーリーを紡ぎ出す様子は後の『乱反射』に繋がる片鱗を感じさせる作品です。
・『乱反射』(貫井徳郎著、朝日新聞出版刊)ネタバレ書評(レビュー)
ちなみに、このインタビュアーの意外な正体も含めて『ある少女にまつわる殺人の告白』とかなり近い形式ですね。
とはいえ『愚行録』は2005年から『ミステリーズ!』で連載されており『ある少女にまつわる殺人の告白』の先行作となっています。
・『ある少女にまつわる殺人の告白』(佐藤青南著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
また、貫井先生は『ななつのこ』で知られる加納朋子先生の旦那様でもあります。
ちなみに、ネタバレあらすじはまとめ易いように改変を加えているので、興味のある方は本作それ自体をご覧になるべし!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
田中光子:幼児虐待死事件の犯人
田向:一家惨殺事件の被害者
夏原:田向の妻
宮村:夏原の友人、尾形の元恋人
尾形:宮村の元恋人
インタビュアー:その正体は……
田中光子が逮捕された。
罪状は幼い娘を虐待し殺害したことであったが……。
一方、世間では田向一家4人殺害事件が取り沙汰されていた。
一晩のうちに夫婦とその幼い息子と娘4人が何者かにより惨殺されたのだ。
以下はインタビュアーが取材した記録の要約である。
【田向夫妻の隣人の証言】
夫妻は好感を持てる人物でしたよ、子供たちもとても可愛らしかったし。
残虐な犯人が許せないぐらいで。
【夫である田向の同僚の証言】
田向、あいつは酷薄な奴ですよ。
何しろ、社内の派閥を利用してライバルを蹴落としたほどだし。
他にも学生時代から遊びまわったりとか悪評は絶えなかったようですね。
【田向の妻は旧姓・夏原、そんな彼女を知る友人・宮村の証言】
学生時代の夏原さん?
そうね……私はそうは思わないけど他の人からすると卑怯卑劣な人物でしょうね。
例えば、当時の彼女は学園のアイドルだったの。
それでいつも周囲に取り巻きを侍らせていたわ。
中でも田中光子さんって人が居てね。
夏原さんに何処へでも連れ歩かれていたんだけど、それには理由があったのよ。
実は周囲に比較させて、優越感を得る為だったらしいわ。
他にも、私の恋人である尾形さんを奪っておきながらあっさり捨ててしまったこともあったわね。
まぁ、私は気にしていないけど。
そうそう、他にも夏原さんは田向さんを選ぶまでに多くの男性と愛を育んでた……なんて話は聞きました。
たぶん、いろんな人の恨みを買っていたと思いますよ。
もしかすると、光子さんが殺したのかもしれませんね……。
追記:数日後、宮村は何者かに殺害されてしまった。
どうやら、通り魔による犯行と考えられるようだ。
【宮村と交際していた尾形の証言】
宮村さんの言葉は当てにならないですよ。
彼女は夏原さんにコンプレックスを抱いていましたからね。
僕の件もそうですよ。
僕は夏原さんに誘惑されたから宮村さんと別れたワケではないです。
宮村さんの性格がアレだったから上手く行かなかっただけで。
もちろん、夏原さんには惹かれていましたけどね。
彼女との交際期間は確かに短かったけど後悔はしていません。
仕方が無かったんでしょう。
【田中光子の証言】
あら、お兄ちゃん来てくれたの?
ごめんね、折角私の為に宮村さんを口封じしてくれたのに。
結局、こうして捕まっちゃって。
私たちって兄妹揃って虐待を受け続けて育ったでしょ。
だから、私たちの子供だけは大切に育てようと思っていたんだけどね。
上手く行かないものね。
でも、あの女は殺してやったわ。
私を馬鹿にした夏原とか言うあの女は。
ついでに生意気だったから家に居た他の奴もやっちゃった。
それにしても、まさかあの子があれくらいで死んじゃうなんて。
お蔭で捕まっちゃってさ。
あ〜〜〜あ、お兄ちゃんが宮村さんを殺してまで庇ってくれたのに。
これじゃ、意味ないよね〜〜〜。
そう笑う田中光子、その前に立つインタビュアーこそ彼女の兄その人であった―――エンド。
【貫井徳郎先生関連過去記事】
・「乱反射」(貫井徳郎著、朝日新聞出版刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「慟哭」(貫井徳郎著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「光と影の誘惑」(貫井徳郎著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『憑かれる(「崩れる 結婚にまつわる八つの風景」収録)』(貫井徳郎著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『ドミノ倒し』(貫井徳郎著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.57 FEBRUARY 2013』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『オール・スイリ2012』(文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『灰色の虹』(貫井徳郎著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『悪党たちは千里を走る』(貫井徳郎著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)
・探偵Xからの挑戦状!「殺人は難しい」(貫井徳郎著)本放送(4月21日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・ドラマスペシャル「灰色の虹〜刑事、検事、弁護士…7年目の殺人連鎖!!浮かび上がる全てを奪われた男!?暴かれる姿なき殺人者の驚くべき真実!!全てを奪われた家族の結末とは…」(2012年5月19日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・貫井徳郎先生が描くライセンス藤原さん!!ビジュアルブックシリーズ『女が死んでいる』に注目せよ!!
【関連する記事】
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