ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
テレビが、だしぬけにおれのことを喋りはじめた。続いて新聞が、週刊誌が、おれの噂を書きたてる。あなたを狂気の世界へ誘う11編。
テレビのニュース・アナが、だしぬけにおれのことを喋りはじめた――「森下ツトムさんは今日、タイピストをお茶に誘いましたが、ことわられてしまいました」。続いて、新聞が、週刊誌が、おれの噂を書きたてる。なぜ、平凡なサラリーマンであるおれのことを、マスコミはさわぎたてるのか? 黒い笑いと恐怖にみちた表題作、ほか『怪奇たたみ男』など、あなたを狂気の世界に誘う11編。
(新潮社公式HPより)
<感想>
本作は短編集『おれに関する噂』に収録された一編で「戦場という非日常を舞台にしながら、日常の海外で繰り広げられる同じ日本人同士のビジネス競争」を描いています。
其処には同郷を越えた激しい争いがある。
また「会社員として上司の命令に歯向かえないこと」など「宮仕えの辛さ」を諧謔的に描写しつつ、コレに「自己保身に走りつつ、他者の命を奪うことには躊躇いを抱かないエゴ」を盛り込むことで「直接手を汚さずともそれを助長させる行動を取ること自体が罪である」と言った内容のものに仕上がっています。
何しろ、主人公は武器を供給することで直接は他者の命を奪わずとも間接的に同じことをしているので。
おそらく、主人公自身にとってソレは単なるビジネスに過ぎなかったのでしょう。
ある意味で対岸の火事を眺める様に近いか。
とはいえ、主人公は何時までも対岸の火事を見守る野次馬では居られませんでした。
何故なら、主人公は会社員であり上司の命令には逆らえないから。
こうして、火の粉は主人公自身に降りかかることに。
果たして主人公が体験した「因果応報」とは!?
一方で、主人公にソレを命じた存在……すなわち上司たちはラストでも健在。
彼らは何時までも傍観者として、時に協力者として利益を得つつ身を守っている。
きっと、すぐにでも主人公に続く被害者が用意されるに違いありません。
この様子は現代の上司と部下の関係にも近いかも。
もしかすると、此処までとは言わずともあなたも身に覚えがあるのでは!?
さらに、この関係は主人公の会社だけには留まらないことも描写されています。
これらをコミカルかつ皮肉に描いた本作。
一読して想いに耽るべし。
ネタバレあらすじではまとめ易いようにかなり改変しています。
興味をお持ちの方は本作それ自体をチェックされたし。
<ネタバレあらすじ>
私は日本からガリビアへと出向中の社員、ちなみに私の会社の仕事とは武器を売ることだ。
ガリビアは隣国ガバトと紛争中であり、武器が大量に必要とされていた。
その取引先に選ばれたのが我が社だったのだ。
そして、私は愛する妻と共に現地に駐在することとなった。
そんなある日、現地の高官に呼び出された私は愕然とする事実を知らされる。
なんと、我が社の納入した銃器にに欠陥が存在していたことが分かったのだ。
銃床の止めが甘かった為に連続して発砲出来ないのだ。
こうして500丁もの不良品を販売したことを批判された私は、本社の命令で戦場で商品のアフターケアを行うこととなった。
会社員である私に否やはない。
嫌々ながらも通勤電車に揺られて最前線へと赴けば、敵国からの迫撃砲に曝されることに。
非戦闘員であることを叫びつつ這う這うの体で逃げ出したものの、ガバト側の兵に拘束されてしまう。
しかし、相手の手にする銃を目にして一計を案じる。
その銃こそ例の欠陥品だったのだ。
どうやら、鹵獲された品のようだ。
敢えて一射目を発砲させると、予想通り二射目は弾が出ない。
戸惑う相手から距離を取ると手榴弾で爆殺し逃げ出すことに成功する。
こうして何とかガリビア側に戻ったのだが、今度は夜間の歩哨を行うよう命じられてしまう。
残業することとなった私は手当の額に想いを馳せつつ、任務に勤しんでいたのだが……何時の間にかまたも敵に捕らわれてしまう。
日本からやって来たビジネスマンであることを訴えて助けを求める私。
だが、相手はこれを聞くとニヤリと微笑んだ。
なんと、相手も同じく日本から来た火薬会社のビジネスマンだったのだ。
その目には戦場を「通いの軍隊」として渡り歩いた殺意が漲っていた。
どうやら、逃がしてくれることは無さそうだ―――エンド。
◆関連過去記事
【七瀬三部作】
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・「七瀬ふたたび」(筒井康隆著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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