2016年05月29日

『どこかでベートーヴェン』(中山七里著、宝島社刊)

『どこかでベートーヴェン』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

天才ピアニスト・岬洋介、最初の事件!

豪雨によって孤立した校舎に取り残された音楽科クラスの面々。
そんな状況のなか、クラスの問題児が何者かに殺された。
17歳、岬洋介の推理と行動力の原点がここに。
“どんでん返しの帝王”が仕掛けるラスト一行の衝撃。

累計100万部突破!「さよならドビュッシー」シリーズ最新作

シリーズ累計100万部突破!! 中山七里の音楽ミステリー、最新刊です!ニュースでかつての級友・岬洋介の名を聞いた鷹村亮は、高校時代に起きた殺人事件のことを思い出す。岐阜県立加茂北高校音楽科の面々は、九月に行われる発表会に向け、夏休みも校内での練習に励んでいた。しかし、豪雨によって土砂崩れが発生し、一同は校内に閉じ込められてしまう。そんななか、校舎を抜け出したクラスの問題児・岩倉が何者かに殺害されるた。警察に疑いをかけられた岬は、自らの嫌疑を晴らすため、素人探偵さながら独自に調査を開始する。岬洋介、はじめての事件!『このミステリーがすごい!』大賞シリーズ。
(宝島社公式HPより)


<感想>

本作は「岬洋介シリーズ」2016年時点の最新作。
最終章を除き『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK』にて連載されていました。
連載分については過去に書評(レビュー)していますね。

この「岬洋介シリーズ」は「難聴を抱える天才ピアニスト岬洋介が関わった事件を描く」シリーズ作品。
あくまで関わった事件なので、中心視点人物は各作品ごとに別の人物となっており、岬は事態解決やアドバイスなどを行う探偵役の立場となっています。
いつか岬自身が視点人物となる日がやって来るのでしょうか。

なお、今回の『どこかでベートーヴェン』は『いつまでもショパン』の後から始まる物語。
ただし、ある事柄(『いつまでもショパン』での出来事)により一躍有名になった岬を見かけた高校時代の同級生が当時(高校時代)に起こった事件について振り返るとの内容になっています。
さらに、岬が抱える突発性難聴についても触れられています。

難聴により音を失った岬、それは音楽に携わる者にとっては死刑宣告に等しいもの。
これを同じく音を失った「楽聖」ことベートーヴェンと絡めて描くことで、岬の絶望と其処からの再起を描いています。

また、高校時代に岬と半年の短い期間とはいえ深い親交を結んだ鷹村。
彼にとって岬は大きな影響を受けた相手であり、強い尊敬を抱いた相手。
しかし、岬と別れてからは遠い空の下で彼の再起を願い続けるしかなかった。
まさに、どこかに居る岬の再起を。

だからこそ、タイトルは『どこかでベートーヴェン』となったのでしょう。
すなわち「岬が諦めることなく、どこかでベートーヴェンのように音楽の道に関わり続けて居て欲しい」―――そんな鷹村の願いが込められたタイトル。
そして、岬は鷹村の願い通り健在でした。
岬は、今も「どこかでベートーヴェン」のように音楽と向き合い続けていたのです。

鷹村がコレを冒頭の時点で確認していることを読者は終盤で知ることになるのですが、冒頭で既に描かれたソレがラストの「ある事実」により「フィニッシング・ストローク(最後の一撃)」として思わぬ形で甦る点は秀逸です。
まさにサプライズでした。
それは、もしかすると実際に同様の存在があの人にも居たのかもしれない……と読者に思わせるほど。

シリーズファンは絶対に読むべし。
「岬洋介エピソードゼロ」にして「シリーズ最大の衝撃」が読者を待つ筈。

ちなみに、「岬洋介シリーズ」には長編が『さよならドビュッシー』、『おやすみラフマニノフ』、『いつまでもショパン』の3作(刊行順、作中時系列順)と短編が短編集『さよならドビュッシー前奏曲(文庫化に際し『要介護探偵の事件簿』を改題)』(『さよならドビュッシー』の前日譚を描いたスピンオフ)、『間奏曲(インテルメッツォ)』(『いつまでもショパン』と同時期に起こっていた事件を描くスピンオフ)の2作が存在しています。
記念すべきシリーズ第1作『さよならドビュッシー』は映画化もされています。
書籍版については、すべてネタバレ書評(レビュー)していますね。
興味のある方はネタバレあらすじ後の関連過去記事へどうぞ!!

ちなみに、ネタバレあらすじについては管理人によりかなり改変されています。
本作を楽しんで頂くには直接お読み頂くことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
岬洋介:シリーズ主人公、今回は高校時代が描かれる。
鷹村亮:『どこかでベートーヴェン』の視点人物。音楽科の学生。
岩倉:音楽科の学生の1人。イワクラ建設の息子。
板台:音楽科の学生の1人、バンドを組んでいる。
春菜:鷹村が憧れる同級生。町長の娘。
美加:音楽科の学生の1人。
棚橋:音楽教師。
佐久間:数学教師。
横屋:教師。

・鷹村は高校時代に鮮烈な印象を残した岬の姿を思わぬところで目にする。
『どこかでベートーヴェン 第一話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.6』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

・鷹村は岬との出会いを振り返る。
『どこかでベートーヴェン 第二話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.7』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

・岬の存在が鷹村とクラスメートを変えて行く。
『どこかでベートーヴェン 第三話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.8』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

・未曾有の集中豪雨が学校を襲う。
『どこかでベートーヴェン 第四話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.9』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

・災害の中、クラスメートの他殺体が発見される。
『どこかでベートーヴェン 第五話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.10』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

・容疑は岬へ向かう。
『どこかでベートーヴェン 第六話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.11』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

・文化祭にて演奏する岬だが……。
『どこかでベートーヴェン 第七話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.12』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

岬を襲った突発性難聴。
それまで岬にコンプレックスを抱いていた板台たちはここぞとばかりに彼を攻撃し始める。
その姿に自分自身のコンプレックスを見出した鷹村は友である岬の為に彼らと戦うことに。

そんな中、意図せずまたも集中豪雨が発生。
学校が陸の孤島となってしまう。

これに岬は「自身への疑いを晴らすときが来た」と宣言。
マネキンを3体ほど用意するや岩倉殺害時の状況を再現した上で下流へと流す。
結果、3体のうち2体のマネキンが事件時と寸分違わずに遺体発見現場へと流れ着く。

つまり、岩倉は現場で殺害されたのではなく校内で殺害されていたのだ。
岬はアリバイが無く、当時ジャージに着替えていたことから春菜を犯人と指摘する。

春菜は岩倉を殺害後に濡れた制服からジャージに着替えたのだ。
動機は春菜の父と岩倉の父が行った不正について脅迫された為であった。
どうやら、岩倉は春菜を言いなりにしようと目論んでいたようだ。
其処を殺害されてしまったのである。

遺体が発見現場に流れ着いたのは意図してのことではなく、あくまで偶然の産物であった。
だが、それが春菜にアリバイを作ったのだ。

二度目の集中豪雨から数日後、春菜は犯行を自首すべく出頭した。

その日、鷹村は岬に呼び出され彼の演奏を耳にする。
岬にとってそれは最後の演奏になるらしい。

実は春菜の犯行を目撃しつつ、恋心からこれを庇っていた鷹村。
岬に罪を謝罪しつつ、音楽を諦めないように訴える。

ところが、さらに数日後のこと。
岬は黙って引っ越してしまった。
鷹村が知った頃には、既に岬は姿を消していた。
棚橋によれば父親の仕事の都合だと言う。

別れを惜しむ鷹村。
しかし、板台たちはコンプレックスから解放されたと大喜びする。

そして現在、鷹村はあれから一度も岬に出会えていない。
だが、岬により音楽の厳しさを知った彼は挫折を経て自身の力が役に立つ仕事を見つけることに成功した。
それも全て岬との出会いが彼に与えた成長の結果であった。
鷹村は岬との出会いを良き想い出として大切にしながら「岬は大丈夫なのだろうか」と常々気にかけていた。

そんなある日、鷹村は岬の報道(『いつまでもショパン』参照)を目にした。
彼が音楽を続けていたと知り安堵する鷹村、同時に岬の健在を確信する。
そう、岬の音楽は……いや、岬の存在は鷹村のように多くの人々を良い方向に変えて行くのだ。
今回もそうだったに違いない、と。

鷹村は岬についてふと多くの人に語りたくなった。
鷹村にとってそれは難しくない。
何故なら、鷹村は小説家として活躍していたのだから。

鷹村の筆名は中山七里。
そして、岬の活躍を描いたタイトルこそ本作『どこかでベートーヴェン』である―――エンド。

◆「中山七里先生」関連過去記事
【岬洋介シリーズ】
『さよならドビュッシー』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『おやすみラフマニノフ』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『いつまでもショパン』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『間奏曲(インテルメッツォ)』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい!2013年版』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『要介護探偵の事件簿』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【刑事犬養隼人シリーズ】
『切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人』(中山七里著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

【その他】
『連続殺人鬼カエル男』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『静おばあちゃんにおまかせ』(中山七里著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『残されたセンリツ』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 四つの謎』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『ポセイドンの罰』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 三つの迷宮』収録)ネタバレ書評(レビュー)

【ドラマ版】
金曜ロードSHOW!特別ドラマ企画「さよならドビュッシー ピアニスト探偵 岬洋介 今をときめく豪華キャストで『このミステリーがすごい!』大賞受賞作をSPドラマに!衝撃の結末に誰もが驚愕する!!」(3月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)

土曜ワイド劇場「切り裂きジャックの告白 〜刑事 犬養隼人〜 嘘を見抜く刑事VS甦る連続殺人鬼!?テレビ局を巻き込む劇場型犯罪!どんでん返しの帝王が挑む衝撃のラストとは!?」(4月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「このミステリーがすごい!〜ベストセラー作家からの挑戦状〜 天才小説家×一流映画監督がコラボした、一夜限りの豪華オムニバスドラマ!味わいの異なる4つの謎=各25分の濃密ミステリー!又吉×希林の他では見られないコントも!」(12月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「このミステリーがすごい!2015〜大賞受賞豪華作家陣そろい踏み 新作小説を一挙映像化」(11月30日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「どこかでベートーヴェン」です!!
どこかでベートーヴェン



「どこかでベートーヴェン 第七話」が掲載された「『このミステリーがすごい!』 大賞作家書き下ろしBOOK vol.12」です!!
『このミステリーがすごい!』 大賞作家書き下ろしBOOK vol.12



「どこかでベートーヴェン 第六話」が掲載された「『このミステリーがすごい!』 大賞作家書き下ろしBOOK vol.11」です!!
『このミステリーがすごい!』 大賞作家書き下ろしBOOK vol.11



「さよならドビュッシー (宝島社文庫)」です!!
さよならドビュッシー (宝島社文庫)



「さよならドビュッシー 【DVD豪華版】(DVD2枚組/初回限定版)」です!!
さよならドビュッシー 【DVD豪華版】(DVD2枚組/初回限定版)



コミカライズされたキンドル版「さよならドビュッシー 上巻」です!!
さよならドビュッシー 上巻



コミカライズされたキンドル版「さよならドビュッシー 下巻」です!!
さよならドビュッシー 下巻



「おやすみラフマニノフ (宝島社文庫)」です!!
おやすみラフマニノフ (宝島社文庫)



「いつまでもショパン (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)」です!!
いつまでもショパン (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)



『間奏曲(インテルメッツォ)』が収録された「このミステリーがすごい! 2013年版」です!!
このミステリーがすごい! 2013年版



「さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)」です!!
さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)



「ビジュアルPHOTOストーリー さよならドビュッシー 橋本愛」です!!
ビジュアルPHOTOストーリー さよならドビュッシー 橋本愛



「【映画パンフレット】 『さよならドビュッシー』 出演:橋本愛 清塚信也」です!!
【映画パンフレット】 『さよならドビュッシー』 出演:橋本愛 清塚信也

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2016年05月24日

『通いの軍隊』(筒井康隆著、新潮社刊『おれに関する噂』収録)

『通いの軍隊』(筒井康隆著、新潮社刊『おれに関する噂』収録)ネタバレ書評(レビュー)です!!

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

テレビが、だしぬけにおれのことを喋りはじめた。続いて新聞が、週刊誌が、おれの噂を書きたてる。あなたを狂気の世界へ誘う11編。

テレビのニュース・アナが、だしぬけにおれのことを喋りはじめた――「森下ツトムさんは今日、タイピストをお茶に誘いましたが、ことわられてしまいました」。続いて、新聞が、週刊誌が、おれの噂を書きたてる。なぜ、平凡なサラリーマンであるおれのことを、マスコミはさわぎたてるのか? 黒い笑いと恐怖にみちた表題作、ほか『怪奇たたみ男』など、あなたを狂気の世界に誘う11編。
(新潮社公式HPより)


<感想>

本作は短編集『おれに関する噂』に収録された一編で「戦場という非日常を舞台にしながら、日常の海外で繰り広げられる同じ日本人同士のビジネス競争」を描いています。
其処には同郷を越えた激しい争いがある。

また「会社員として上司の命令に歯向かえないこと」など「宮仕えの辛さ」を諧謔的に描写しつつ、コレに「自己保身に走りつつ、他者の命を奪うことには躊躇いを抱かないエゴ」を盛り込むことで「直接手を汚さずともそれを助長させる行動を取ること自体が罪である」と言った内容のものに仕上がっています。
何しろ、主人公は武器を供給することで直接は他者の命を奪わずとも間接的に同じことをしているので。

おそらく、主人公自身にとってソレは単なるビジネスに過ぎなかったのでしょう。
ある意味で対岸の火事を眺める様に近いか。
とはいえ、主人公は何時までも対岸の火事を見守る野次馬では居られませんでした。
何故なら、主人公は会社員であり上司の命令には逆らえないから。
こうして、火の粉は主人公自身に降りかかることに。
果たして主人公が体験した「因果応報」とは!?

一方で、主人公にソレを命じた存在……すなわち上司たちはラストでも健在。
彼らは何時までも傍観者として、時に協力者として利益を得つつ身を守っている。
きっと、すぐにでも主人公に続く被害者が用意されるに違いありません。

この様子は現代の上司と部下の関係にも近いかも。
もしかすると、此処までとは言わずともあなたも身に覚えがあるのでは!?
さらに、この関係は主人公の会社だけには留まらないことも描写されています。

これらをコミカルかつ皮肉に描いた本作。
一読して想いに耽るべし。

ネタバレあらすじではまとめ易いようにかなり改変しています。
興味をお持ちの方は本作それ自体をチェックされたし。

<ネタバレあらすじ>

私は日本からガリビアへと出向中の社員、ちなみに私の会社の仕事とは武器を売ることだ。
ガリビアは隣国ガバトと紛争中であり、武器が大量に必要とされていた。
その取引先に選ばれたのが我が社だったのだ。
そして、私は愛する妻と共に現地に駐在することとなった。

そんなある日、現地の高官に呼び出された私は愕然とする事実を知らされる。
なんと、我が社の納入した銃器にに欠陥が存在していたことが分かったのだ。
銃床の止めが甘かった為に連続して発砲出来ないのだ。
こうして500丁もの不良品を販売したことを批判された私は、本社の命令で戦場で商品のアフターケアを行うこととなった。
会社員である私に否やはない。

嫌々ながらも通勤電車に揺られて最前線へと赴けば、敵国からの迫撃砲に曝されることに。
非戦闘員であることを叫びつつ這う這うの体で逃げ出したものの、ガバト側の兵に拘束されてしまう。

しかし、相手の手にする銃を目にして一計を案じる。
その銃こそ例の欠陥品だったのだ。
どうやら、鹵獲された品のようだ。

敢えて一射目を発砲させると、予想通り二射目は弾が出ない。
戸惑う相手から距離を取ると手榴弾で爆殺し逃げ出すことに成功する。

こうして何とかガリビア側に戻ったのだが、今度は夜間の歩哨を行うよう命じられてしまう。
残業することとなった私は手当の額に想いを馳せつつ、任務に勤しんでいたのだが……何時の間にかまたも敵に捕らわれてしまう。

日本からやって来たビジネスマンであることを訴えて助けを求める私。
だが、相手はこれを聞くとニヤリと微笑んだ。
なんと、相手も同じく日本から来た火薬会社のビジネスマンだったのだ。
その目には戦場を「通いの軍隊」として渡り歩いた殺意が漲っていた。
どうやら、逃がしてくれることは無さそうだ―――エンド。

◆関連過去記事
【七瀬三部作】
「家族八景」(筒井康隆著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「七瀬ふたたび」(筒井康隆著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「エディプスの恋人」(筒井康隆著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「おれに関する噂 (新潮文庫)」です!!
おれに関する噂 (新潮文庫)



キンドル版「おれに関する噂(新潮文庫)」です!!
おれに関する噂(新潮文庫)

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2016年05月22日

『クララ殺し』最終話、第6話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.76 APRIL 2016』掲載)

『クララ殺し』最終話、第6話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.76 APRIL 2016』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

ついに指摘された「真犯人」の正体。現実と夢の世界を跨いだ「失踪・殺人」事件の真相とは。堂々の最終回!
(東京創元社公式HPより)


<感想>

小林泰三先生の新作長編『クララ殺し』が『ミステリーズ!』にて連載中です。
今回はその最終話(第6話)。

遂に事件は解決。
タイトル『クララ殺し』の意味は「クララが被害者」ではなく「クララによる殺害」を意味していたようです。

そして、やはり新藤礼都はこのポジションだったのか……。
礼都と言えば『密室・殺人』、『自らの伝言』、『更新世の殺人』に登場し、時に犯人、時に探偵と様々な役割を演じて来ましたが、今回はあの位置に。

一方、同じく『密室・殺人』、『大きな森の小さな密室』、『路上に放置されたパン屑の研究』などに登場するレギュラーキャラ・岡崎徳三郎こそが探偵ポジションに。
ホフマン宇宙のあの人でした。

とはいえ、偽ドロッセルマイアーの正体があの人のアーヴァタールだったのには驚いた。
こうなるとコッペリウスが地球世界の誰だったのかが気になりますね。

また、ラストのアレは「蒸着」と「スナークの合言葉」から『アリス殺し』の世界へ繋がることを意味するものか。
だとすれば、本作『クララ殺し』は『アリス殺し』の前日譚だったことになるなぁ……。

「赤の王」が登場する第三弾(『アリス殺し』後の世界)が登場し、「ホフマン宇宙」すなわち『クララ殺し』へと繋がれば三部作で円環が完成しそうだ。
もちろん、今度は西条とか丸鋸博士とかがゲストだね。

ちなみにネタバレあらすじは大幅に改変しています。
どちらかと言えば、かなりライトにしました。
本作はもっとヘヴィかつブラックです。
興味のある方は本作それ自体を読むことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
【地球】
井森:『アリス殺し』から再登場。大学院生。アーヴァタールは蜥蜴のビル。
露天くらら:アーヴァタールはクララらしいが……。
ドロッセルマイアー:工学部教授。本人曰く「アーヴァタールはドロッセルマイアー」。
鼠:車中で焼死していた鼠。くららを襲った車に乗っていた。
諸星:くららの知人。千秋の父。
諸星の家内:諸星の妻。諸星とは別居中。
千秋:諸星の娘。くららの教え子。
新藤礼都:殺人者。『密室・殺人』、『自らの伝言』、『更新世の殺人』に登場。
岡崎徳三郎:探偵。『密室・殺人』、『大きな森の小さな密室』、『路上に放置されたパン屑の研究』に登場。

【ホフマン宇宙】
蜥蜴のビル:『アリス殺し』から再登場。相変わらず場を掻き乱すことに。
クララ:ビルが出会った車椅子の少女。
ドロッセルマイアー:判事。
シュタールバウム:クララの父親。
フリッツ:クララの兄。
鼠:クララ殺しを図ったとして処刑された。
スパンツァーニ:ナターナエルの師匠。
ナターナエル:スパンツァーニの弟子。
オリンピア:スパンツァーニが作った自動人形。
コッペリウス:ドロッセルマイアーと犬猿の仲の弁護士。
マリー:クララの友人の1人。クララ宅の自動人形。
ピルリパート:クララの友人の1人。姫。
若ドロッセルマイアー:判事と同姓同名の別人。ピルリパートの恋人。
ゼルペンティーナ:クララの友人の1人。正体は蛇。
トゥルーテ:クララ宅の自動人形。
パンタローン:スキュデリの部下。
スキュデリ:ビルに協力を申し出る。
ロータル:クララの兄……の記憶を植え付けられている。

・前回はこちら。
『クララ殺し』第5話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRUARY 2016』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

「ホフマン宇宙」の「マリー」こそ「地球世界」の「くらら」であった。
スキュデリの指摘に動揺するドロッセルマイアー。

一方、スキュデリはこれがどう言った結果に繋がるか語り出す。
そもそも「ホフマン宇宙」で「マリー」、「地球世界」で「くらら」の遺体が発見された。
その上で「くらら」がホフマン宇宙での「クララ」であるとの前提があったからこそ、「クララ」に加えて「マリー」が殺害されたと考えられていたのだ。
だが、「マリー」が「くらら」であれば被害者は1人しかいないことになる。

さらに何やら顔色を変えるドロッセルマイアー。
スキュデリはそんなドロッセルマイアーの狼狽を窺いつつ、次なる攻め手を見せる。
どうして、マリーとドロッセルマイアーがこんな芝居を打つ必要があったかを問題視したのだ。

この成り済ましを成立させるにはドロッセルマイアーの協力は不可欠だ。
当然、ドロッセルマイアーは事情を知っていることになる。

苦虫を噛み潰した表情を浮かべるドロッセルマイアーは渋々と言った様子で「コッペリウスとゲームをしただけだ」と語り出した。
なんと、ドロッセルマイアーはコッペリウスと共謀し、周辺の人物の幻想を調整すると「マリー」と「クララ」を入替えたのだ。
その上で、本人たちがコレに気付いたら協力しどちらが勝つかを楽しんでいたらしい。

その狙いは当たった。
ドロッセルマイアーのもとにマリー(元はクララ)が現れ、立場を奪ったクララへの復讐に協力するよう依頼されたのだ。
その復讐計画に必要だったのが偽のドロッセルマイアー。
依頼を受けた「ホフマン宇宙」のドロッセルマイアーはマリーの要望通り「地球世界」で彼に似た人物を募集し偽のドロッセルマイアーを用意したのである。

其処には井森、いや井森を通じて探偵役を騙す意図があった。
マリーとドロッセルマイアーは「ホフマン宇宙」と「地球世界」のアーヴァタールの容姿が似通う物と井森に思い込ませようとしていたのである。
これにより、「地球世界」の「くらら」が「ホフマン宇宙」の「クララ」であると思い込ませようとしたのだ。

その狙いはアリバイ作りにあった。
くらら(マリー)はクララを騙り、祭の様子を口にすることで祭時点までは生きていたように偽装するつもりだったのだ。
さらに、ホフマン宇宙のクララの死に連動し地球世界で落とし穴で死亡したと偽装した。
くららの本体はマリーなのだから、地球世界で落とし穴に落ちても井森同様にその死自体がリセットされていたのだ。
落とし穴の血痕はくらら自身が残した物だろう。

だが、マリーの思いも寄らぬ展開が待ち構えていた。
クララに返り討ちにあってしまったのだ。
そもそも、被害者がマリー1人ならばクララは何処に居るのか!?

実は、クララもまた真相に気付きドロッセルマイアーの助力を仰いでマリー殺害を目論んだのだ。
募集に応じた偽のドロッセルマイアーこそ、クララのリンク先であった。
クララはドロッセルマイアーの募集を目にし、不審を抱き計画に勘付いたのだ。
其処で偽のドロッセルマイアーとしてマリーの計画を全て知ることとなった。
此の時、クララはマリーの計画を利用し殺害を決意したのだ。

あの日、マリーはクララを殺害しようと近付いたが逆に罠を仕掛けられたことを知った。
クララが待ち構えていたのだ。
クララはマリーに「毒針を刺した、土下座すれば解毒剤を与える」と告げた。
これを信じたマリーはその場で土下座し瓶に入った液体を飲み干した。
ところが、それこそ毒薬だったのだ。
こうして、マリーは絶命してしまった。
同時に地球世界のくららも死亡したのであった。

では、当のクララは何処に消えたのか!?
スキュデリはマリーとクララが入替っていたように、別の誰かとクララが入替っていると告げる。

その人物……いや機械人形こそオリンピアであった。
クララが入替れり可能な人物は限られている。
少なくともクララが成り済ましても問題が生じないのは人形でありゼンマイが切れれば動けなくなるオリンピアしかいない。

しかも、オリンピアはスキュデリの聴取の際にマリーが死亡したと口にしていた。
あの時点ではマリーの遺体が発見されていないにも関わらず!!
すなわち、オリンピアこそクララである動かぬ証拠なのだ。

告発された偽オリンピアことクララ。
本物のオリンピアはゼンマイが切れて地下室に眠っているらしい。

これを聞かされたスパンツァーニが激怒する。
何故なら、クララだと知らなかった彼は偽のオリンピアに調整を施してしまっていたのだ。
もはや、人間に戻ることは出来ないのである。

今度はクララがパニックに陥る番であった。
あくまで一時的なものだった筈のオリンピアとしての生がスパンツァーニによって一生に変えられてしまったのだ。

そんなクララを面白がるドロッセルマイアーとコッペリウス。
2人はクララに近付くと彼女を分解してしまった。
その中からは多数の機械部品が零れ落ちて行く。
再構成を謳うドロッセルマイアーたちは辛うじてクララの形だけを取り繕うのだが……。

そして地球世界。
其処ではクララのアーヴァタールこと「偽ドロッセルマイアー」が急に倒れ込んで入院していた。
意識不明の重体で回復の見込みは無いらしい。
どうやら、クララ本体の異常に連動してしまったようだ。

マリーは死亡し、クララも思わぬ形で罪を償った。
だが、1人だけほぼ無傷の者が居る。
そう、本物のドロッセルマイアーとその地球世界のアーヴァタールに当たる人物だ。
ドロッセルマイアーはスキュデリにより吊し上げられたが、アーヴァタールは全くの無傷である。

そんな中、井森は礼都と出会った。
井森は礼都こそがドロッセルマイアーであると断言する。
これを悪びれもせず認める礼都、その姿は何時の間にかホフマン宇宙の彼と重なっていた。

井森は礼都の罪を問おうとするのだが……礼都は「絶対に捕まえられない」と自信を見せる。
何故なら、罪が無いからだ。
現に直接手を下した井森は生きている。

井森は落とし穴に嵌った以外で合計3回殺されていた。

最初に殺したのは礼都(ドロッセルマイアー)だ。
くらら(マリー)に井森を気絶させるよう依頼されていた為らしい。
だが、まどろっこしいので撲殺してしまったと言う。

2度目に落とし穴にメモを見つけた際に殺したのはくらら(マリー)である。
クララの様子に不審を抱いていたくららは念の為にメモを残したが、成功するかもしれない計画実行前に確認されることを避ける為に井森を殺害した。

3度目にメモを拾った際に殺したのは偽ドロッセルマイアー(クララ)である。
もちろん、メモの内容から真相が露見することを怖れた為だ。

つまり、井森は3人から命を狙われていたことになるワケだが結果として生きている。
だからこそ、礼都らに罪を問えないのだ。

愕然とする井森に高笑いを上げる礼都。
彼女は過去にも罪を犯しながら逃げ果せたのだそうだ(『密室・殺人』、『自らの伝言』を参照)。
それも、殺人であり、1件や2件ではないらしい。

「なるほど、なるほど」

と、此処にタイミングを計ったように岡崎徳三郎がやって来た。
岡崎を目にするなり、呻き声を上げる礼都。
先程までの余裕は何処へやら、一目散に逃げ出そうとする。

だが、これを岡崎が阻止。
岡崎は井森へと向き直るとニヤリと微笑み「此処から先は任せるように」と告げる。
井森は気付いた、彼こそがスキュデリであることに。

過去、礼都は岡崎により犯行を看破され罪に問われたが裁判で無罪に持ち込んでいた。
これは岡崎にとって痛恨事だったと言う。
しかし、礼都は油断から岡崎の前で余罪があることを認めてしまったのだ。
岡崎は礼都の罪を追及して見せると宣言、礼都は顔色を変えて悲鳴を上げる。
礼都にとって岡崎は天敵だったのである。

狼狽し続ける礼都、じわじわと追い詰める岡崎を置いて井森は外へ出た。
と、そんな井森に声を掛けて来る女性が……。
何でも「蒸着」の権利を借りたいらしい。

井森は大切なことを思い出し彼女に語りかける。

「ブージャムは?」
「スナークだった」

こうして井森は世界の境界を越えた―――エンド(『アリス殺し』に続く?)。

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