2016年05月08日

『迷い箱』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)

『迷い箱』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

娘の不可解な行動に悩む女性刑事が、我が子の意図に心動かされる「傍聞き」。元受刑者の揺れる気持ちが切ない「迷い箱」。女性の自宅を鎮火中に、消防士のとった行為が意想外な「899」。巧妙な伏線と人間ドラマを見事に融合させた4編。表題作で08年日本推理作家協会賞短編部門受賞!
(双葉社公式HPより)


<感想>

本作『迷い箱』は長岡弘樹先生の短編集『傍聞き』収録の一編です。
短編集『傍聞き』には他に『迷走』『傍聞き』『899』の3編が収録されています。
また表題作である『傍聞き』は2008年の「日本推理作家協会賞 短編部門」受賞作でもあります。

タイトルでもある「迷い箱」とは「捨てることに迷う物を入れる箱」のこと。
作中でも説明されている通り、これに入れることで捨てることが出来る。
このタイトルの意味が読み進めるうちに明らかになる点がポイントです。

ちなみに、ネタバレあらすじはまとめ易いように改変を加えているので、興味のある方は本作それ自体をご覧になるべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
設楽結子:更生保護施設「かすみ荘」の施設長。
碓井章由:「かすみ荘」の入居者、過去に自転車の飲酒運転で人を殺してしまった。
佐藤潤二:「かすみ荘」の入居者、手癖が悪く物を盗む。
飯塚:飯塚製作所の社長。


設楽結子は元受刑者更生保護施設「かすみ荘」の施設長である。
これまでにも幾人もの元受刑者を更生させた結子だが、ある人物を気に掛けていた。

その人物とは「かすみ荘」の入居者の1人・碓井章由。
彼は過去に自転車の飲酒運転で少女を事故死させており、それを強く後悔していた。
もともと碓井は思い詰める気質が強く、1年前の少女の命日には自殺未遂を引き起こしていた。
そして、今年もその命日が迫っていたのだ。
何度となく生きるよう諭して来た結子は、碓井の自殺を懸念していたのである。

そんな碓井に声をかけたのは、同じく「かすみ荘」の入居者・佐藤潤二。
佐藤は窃盗の常習犯で、今もあちこちからいろいろな物を「拾った」と言っては部屋に持ち込んでいる。
今日も何処からかテレビを運び込んでいた。

「テレビを持ち込んだでしょ」
佐藤に対して苦言を呈する結子。
そんな結子に佐藤は「あなたが見たかったんですよ、施設長」と悪びれない。

実は結子は月曜から金曜まで夕方6時半に放送される地元のテレビ番組『この人に聞く』に出演していた。
佐藤はそれを言いたいらしい。

そんな佐藤に溜息を吐きつつ、結子は「ともかく片付けるように」と注意した。
これに碓井が「迷い箱」と呟く。

「捨てるのに迷ったら迷い箱に入れる。すると、5、6日で捨てられるようになる」
突然の言葉に戸惑った結子に、碓井は「迷い箱」について説明したようだ。

そんな碓井に対し、結子の追及を逃れた佐藤は「就職おめでとう」と笑う。
碓井は「飯塚製作所」に就職し、今日から寮住まいになることが決まっていたのだ。
「就職祝い」を用意したと語る佐藤であったが……。

それから数日、結子は寮に移った碓井の様子を見守っていた。
だが、結子の心配とは裏腹に特に碓井に変った様子は見受けられなかった。

出勤時間に間に合うように寮を出ると仕事が終わるまでは職場である。
仕事が終わった後には居酒屋に立ち寄る日々、居酒屋が休みの日には家電量販店を訪れていた。
そして、金曜日はまっすぐ寮に戻っていた。

居酒屋に寄ることは食に興味のある証拠、家電量販店に寄ることは新生活に必要な物を揃えるつもりなのだろう。
また、自室で寛ぐことも悪くはない。

こうして、少女の命日から一週間ほど過ぎただろうか。
もう、安心と考えていた結子を驚かせる報が飛び込んで来た。
なんと、碓井が入水自殺を図ったのだ。
今は入院しているらしい。

(何故、今更!?)
自身の碓井への行動が全くの無駄だったと考えショックを受けた結子は碓井の心境を確かめるべく、彼の行動を再度調べ始めた。

すると、意外なことが分かったのだ。

居酒屋では何も注文せず、時間だけを潰していた。
家電量販店でもぼんやり眺めただけで特に何かを欲した形跡はなかったのだ。

その行動に意味を見出せない結子は飯塚へ相談を持ちかける。
すると、飯塚は「なるほど」と頷いた。
すべては「迷い箱」にあるらしい。

碓井の行動の共通点を考えるように指摘する飯塚。
それはテレビであった。

碓井はテレビを所持していなかった。
居酒屋に寄ったにも関わらず注文しなかったのはテレビを見たかったから。
だから、居酒屋が休みの日には家電量販店へ足を運んだ。
金曜日には寮にテレビが届いたのだろう。
おそらく、佐藤の就職祝いがコレと思われた。

では、其処までして碓井は何を見たのか!?
それこそ、結子が出演した『この人に聞く』だ。

飯塚は自殺を考えていた碓井がたった1つだけ執着したもの、それが結子だったのだと語る。
碓井は「迷い箱」に結子を入れて、5日の間を過ごした。
それは碓井が「生きる」ことについて考えていた時間に他ならない。
それだけ碓井にとって結子の存在は大きかったのだ。
決して結子の行動は無駄ではなかったのである―――エンド。

◆関連過去記事
『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)ネタバレ書評(レビュー)

水曜ミステリー9「マザー・強行犯係の女〜傍聞き〜 伝えたい話を別人の会話から漏れ聞くことで信じやすくなる効果――傍聞き。連続殺人に潜む過去の闇、怨恨、娘の本心…強行犯係・羽角啓子が傍聞きで真実に迫る!」(4月21日放送)ネタバレ批評(レビュー)

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2016年05月07日

『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)

『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

男たちを虜にしながらのし上がってゆく“毒婦”ミユキ。愛と欲望のエンタテインメント!

「侮(あなど)ったら、それが恐ろしい女で」。高校までは、ごく地味。短大時代に潜在能力を開花させる。手練手管と肉体を使い、事務員を振り出しに玉の輿婚をなしとげ、高級クラブのママにまでのし上がった、糸井美幸。彼女の道行きにはいつも黒い噂がつきまとい――。その街では毎夜、男女の愛と欲望が渦巻いていた。ダークネスと悲哀、笑いが弾ける、ノンストップ・エンタテインメント!
(新潮社公式HPより)


<感想>

1人の毒婦・美幸のサクセスストーリーを複数の視点人物から描いた長編作品です。
『中古車販売店の女』、『麻雀荘の女』、『料理教室の女』、『マンションの女』、『パチンコの女』、『柳ケ瀬の女』、『和服の女』、『檀家の女』、『内偵の女』、『スカイツリーの女』の10章からなる。

各章の語り手から見た美幸は何処までも噂の域を出ない存在。
その存在自体を間接的な伝聞でしか知らない視点人物の章(『スカイツリーの女』など)もあれば、直接知って居ながら美幸の行動の真意については憶測を出ない視点人物の章(『料理教室の女』)もある。

いずれにしても、美幸は視点人物にとって「噂の女」となるワケで。
そして、読者もまた視点人物から美幸についての噂を聞かされるうちに知らず知らず「美幸の噂話」に巻き込まれているワケです。
言わば、読者は視点人物から「美幸の噂話」を聞き続けている立場。
だからこそ、タイトルもまた『噂の女』となる。

また、本作は美幸自身ではなく第三者を通じて語られる故に、結ばれて行く彼女の像は行動に比して軽やか。
同時に鮮烈なインパクトを読者に与えることとなる。
これについては社会倫理や上下関係に囚われる各視点人物に対して、常に自由である美幸の立場も大きいだろう。
さぁ、あなたが聞いた「美幸の噂」はどのようなものでしょうか?

なお、あらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
興味をお持ちの方は本作それ自体を読まれることをオススメ致します。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
美幸:謎の女性。
鹿島:刑事、『内偵の女』と『スカイツリーの女』に登場。
稲越:代議士、『スカイツリーの女』に登場。
美里:稲越の秘書、『スカイツリーの女』に登場。


町は美幸の噂話で持ち切りである。
美幸は中古車販売店の事務員を皮切りに、その容姿と才覚でどんどんとのし上がっていく。
その手腕は時に恐ろしく、時に痛快だ。

例えば、料理教室では講師が出入りのスーパーと共謀し材料費の不正を行っていることを突き止めた。
これを抗議しつつ、裏取引を行い利益を得たと専らの噂だ。

また、ある時は数十歳以上の年の差を物ともせず玉の輿に乗った。
遂には夫が死亡し、多額の遺産を手に入れた。

そして、美幸は高級クラブのママになっている。
今は代議士の稲越の愛人として権勢を奮っていた。

人々はそんな美幸を嫌う者も居れば、その自由な生き方に憧れる者も居る。

刑事の鹿島は美幸の噂を聞き付け、その素行を追い彼女の周囲で元夫以外にも2人の人物が不審死を遂げていることを突き止めた。
さらに鹿島は美幸を逮捕しようと動き出す。

一方、稲越の秘書・美里は稲越とその周辺の横暴ぶりに振り回され嫌気がさしていた。
そんな中、飄々と男たちの中を生き抜く美幸に憧れを抱くことに。
矢先、美幸が姿を消した。
同時に稲越が表沙汰に出来ない2億円が消えた。
美里は美幸の仕業だと確信し溜飲を下げるのであった―――エンド。

◆関連過去記事
『オリンピックの身代金』(奥田英朗著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

『邪魔』(奥田英朗著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『ナオミとカナコ』(奥田英朗著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)

水曜ミステリー9「奥田英朗クライムサスペンス 邪魔〜主婦が堕ちた破滅の道 傑作小説初ドラマ化!謎の放火事件!刑事が追う不審な第一発見者…犯人は夫?疑惑におびえる妻の無謀な決断とは!?」(9月2日放送)ネタバレ批評(レビュー)

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『追憶の轍(わだち)』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.69 FEBRUARY 2015』掲載)

『追憶の轍(わだち)』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.69 FEBRUARY 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

ウォーキング中に倒れた友人は、本当に病死だったのか? 疑問を抱いた老人はひとり、探偵行を開始するが……
(公式HPより)


<感想>

『サーチライトと誘蛾灯』にて「第10回ミステリーズ!新人賞」受賞された櫻田智也先生の最新短編。

『サーチライトと誘蛾灯』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.61 OCTOBER 2013』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

全体に寂寥感が溢れる短編です。

タイトル『追憶の轍』、それは自転車を走らせた近野の姿を指すのでしょう。
過去、自転車に乗り商工会の不正を追った近野。
そして、今また近野は自転車に乗り駆け回る―――今度は友の死の真相を追う為に。
その轍は真実に向けて過去と現在とでピッタリと合致する。
だが、その結末もまた過去同様に辛く苦いものだった。
かなり切ないです。

個人的には魞沢シリーズよりもこちらの方が好みだったかな。

ちなみにネタバレあらすじはまとめ易いようにかなり改変を加えています。
本作の本質を楽しむ為には原典を読むことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
近野:主人公。
梅沢:近野の友人。
池田:梅沢のかかりつけ医。
圭子:池田の妻。
孝:池田と圭子の孫。
馬場:「異邦人」とあだ名される孝の家庭教師。

近野は妻を亡くした1人暮らしの老人である。
数年前までは少年野球のコーチをしていたが、今はそれも引退した。
最近では特にやることも無くのんびりと生活している。

そんな近野にはある武勇伝があった。
商工会青年部に所属していた若い頃、商工会の不正に気付き周囲が押し留めるのも聞かず告発したのだ。
自転車を用いあちこち駆け回っての告発は成功し当時の関係者は処分された。
たが、周囲からは白眼視され近野の行動が認められるまでに10年もの月日がかかった。
妻にも大変な苦労をさせたものだが、妻が居たからこそ耐えられた場面もあった。
今思えば近野自身も些か短慮だったが、若い頃に戻ることが出来るとすれば同じことをしただろう。
それだけの熱血漢である。

矢先、近野の友人・梅沢が散歩中に立ち寄っていた四阿で急死した。
死因は心筋梗塞。
解剖の結果もこれを裏付けており、明らかな病死である。

だが、近野はこれに納得出来なかった。
謎の通報者が存在していた為である。

梅沢が発見された四阿は人気の少ない場所にあり、滅多に人が寄りつかない。
だが、匿名の何者かが梅沢が其処に倒れていることを通報したのだ。
通報を受けて救急隊員たちが駆け付けたときには梅沢は死亡していたと言う。

梅沢の死因に疑問を挟む余地はない。
だが、梅沢が心筋梗塞を起こすように仕組まれた可能性はないだろうか。
もしかして、謎の通報者こそがこれを図ったのではないか。
だとすれば、梅沢の仇を討つ必要がある。
近野は未だ事件とも確定していないにも関わらず、若い頃を思い出し血を滾らせた。
こうして、近野は今また当時のように自転車を駆ることに。

自転車に乗り情報収集に励んだところ、意外な情報が得られた。
散歩中であった梅沢は蛍光ベストを着用していたが、これを逆さに着ていたことが分かったのだ。
周囲はこれを梅沢が間違った為と解釈していたが、そんなことはあり得ない。
近野はこれを犯人がわざわざ着せ替えさせたのではないかと推理する。
だとしたら、何故なのか!?

梅沢のかかりつけ医である池田を訪ねた近野。
池田は近野や梅沢と同年代。
そんな池田によれば、梅沢に散歩を勧めたのは彼らしい。

もともと、梅沢は不摂生な生活を送っていた。
これを見咎めた池田が少しでも運動になればと木曜日に限り医院へ碁に誘っていた。
ところが、池田自身が同じ木曜日にダンス教室へ通うようになった。
其処で代わりとして散歩を勧めたのだと言う。
当初こそ渋っていた梅沢だが、急にやる気を見せ始め安心していたそうだ。

其処に池田の妻・圭子が現れた。
圭子は年よりも若く見える近野たちにとってのマドンナである。

此処で近野は梅沢死亡時の池田たちのアリバイを尋ねる。
これに大笑いする池田。

梅沢が散歩をしていたということはその日は木曜日である。
ならば、池田はダンス教室に居たのだ。
ダンス教室は隣町にあり、往復でも1時間以上かかる。
アリバイ成立だ。

圭子はと言えば、自宅で孝の帰宅を待っていたと主張。
孝は池田と圭子の孫だ。
孝の両親は早くに死別しており、今は池田たちが親代わりとなって育てている。
そんな孝は月曜日と木曜日に塾に通っているらしい。

「ほら、異邦人のところだよ」
これまた笑って教える池田。

「異邦人」とは馬場のあだ名である。
馬場は東京から流れて来た人物で、なんでも東大を卒業しているらしい。
だが、些か浮世離れしており周囲からは「異邦人」と呼ばれていた。
孝は馬場から個人教授して貰っていたのだ。

収穫を得られず肩を落とす近野。
そんな近野を見かねたのか、池田は梅沢が使用していた万歩計が現場から消えていたたらしいとの情報を教えてくれた。

何とも奇妙なことになった。
謎の通報者、逆さのベスト、消えた万歩計。
これらが意味するところは何なのだろうか……。

近野は参考意見を求めて「異邦人」こと馬場のもとへ。
すると、馬場はそう言えば……と梅沢の死亡当日に孝が急に欠席したことを思い出す。

これを聞いた近野にある仮説が浮かぶ。
もしかして……。

圭子のもとを訪れた近野は自身の仮説をぶつけることに。
もしかして、あの日に梅沢が四阿に居たのは圭子と密会する為では無かったか。

これに圭子は事実を認める。
圭子と梅沢は毎週木曜日に四阿で密会を重ねていたのである。

そう、池田家では毎週木曜日に池田はダンス教室、孝は馬場のもとへ出かけていた。
すなわち、その間ならば圭子は自由なのだ。

事の発端は梅沢から「散歩の励みにしたいので」と誘われたことにあった。
なんでも、梅沢は以前から圭子に好意を抱いており碁に通い詰めたのもそれが目的らしい。
ところが、池田がダンス教室に通うことになり口実を失いかけた。
だから、当初は散歩を渋ったのだ。

しかし、梅沢は此処で大胆な手に出た。
圭子を先の理由で誘ったのである。
断ろうとした圭子だが、押し切られてしまった。
だから、梅沢はやる気を見せたのだ。

こうして毎週木曜日に四阿で密会を重ねるようになった梅沢と圭子。
これに孝が気付いた。
孝は祖父母を愛しており、何とか圭子を止めたいと考えた。
そして、あの日も四阿へ向かったのである。

あの日、何が起こったのか。
それは詳しくは分からない。

圭子と話していた梅沢が急に倒れたのだと言う。
おそらく梅沢が興奮するようなことが起こったのだろう。
だが、圭子は梅沢との関係を知られることを怖れて通報出来なかった。
その場を去った圭子に代わって通報したのが、こっそり様子を見張っていた孝だ。
孝こそが謎の通報者の正体だったのである。

これで万歩計の謎も解ける。
孝は梅沢と圭子の密会の事実を隠したかった。
ところが四阿で落ちていた万歩計を発見する。
咄嗟には圭子の物か梅沢の物か判別がつかない。
もしも圭子の物だった場合、残しておけば危険である。
其処で持ち去ってしまったのだ。

蛍光ベストを逆さに着込んでいたのは梅沢自身であった。
何しろ、密会しようと言うのだ。
わざわざ目立つワケにはいかない。
だから、密会時は逆さに着ていたのである。

圭子によれば梅沢との関係は決して男女の仲では無かったと言う。
しかし、圭子からはそうでも梅沢からは違っていたのだろう。
だからこそ、梅沢は圭子に固執したのだ。

真実を知った近野は圭子に孝にだけは事情を説明するよう促すと、沈黙を貫くことを決めた。
梅沢の死は病死である。
この事実は覆らないからだ。

自転車に跨り池田家を後にした近野の胸を寂寥が去来する。
またも余計なことをしたのではないか……その想いに苛まれた為だ。
それは商工会を告発し周囲に白眼視されたときに似ていた。
あのときは妻が居た。
だが、今の近野の傍らには彼女はもう居ない―――エンド。

◆関連過去記事
『サーチライトと誘蛾灯』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.61 OCTOBER 2013』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『緑の女』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.67 OCTOBER 2014』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

「第10回ミステリーズ!新人賞」受賞作発表!!第11回も募集中!!

『追憶の轍』が掲載された「ミステリーズ! vol.69」です!!
ミステリーズ! vol.69



『緑の女』が掲載された「ミステリーズ! vol.67」です!!
ミステリーズ! vol.67



『サーチライトと誘蛾灯』が掲載された『ミステリーズ! vol.61』です!!
ミステリーズ! vol.61



こちらはキンドル版「サーチライトと誘蛾灯 (第10回ミステリーズ!新人賞受賞作)」です!!
サーチライトと誘蛾灯 (第10回ミステリーズ!新人賞受賞作)

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