2016年03月18日

『どこかでベートーヴェン 第七話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.12』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第七話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.12』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

『このミステリーがすごい!』大賞受賞作家による書き下ろしミステリーブック!中山七里が描く、シリーズ累計81万部突破の大人気・音楽シリーズ最新話「どこかでベートーヴェン」第7話、鍼灸師資格をもつ乾緑郎が描く「鷹野鍼灸院の事件簿」最新話、シリーズ累計41万部突破の「オサキ」シリーズ最新話、シリーズ累計22万部突破「行動心理捜査官・楯岡絵麻」シリーズ最新話など、豪華作家競演の一冊。
(宝島社公式HPより)


<感想>

中山七里先生「岬洋介シリーズ」の最新作『どこかでベートーヴェン』の第7話が発表されました。
長編第3作である『いつまでもショパン』と同様に『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK』に掲載されています。

そんな「岬洋介シリーズ」は「難聴を抱える天才ピアニスト岬洋介が関わった事件を描く」シリーズ作品。
あくまで関わった事件なので、中心視点人物は各作品ごとに別の人物となっており、岬は事態解決やアドバイスなどを行う探偵役の立場となっています。
いつか岬自身が視点人物となる日がやって来るのでしょうか。

なお、今回の『どこかでベートーヴェン』は『いつまでもショパン』の後から始まる物語。
ただし、ある事柄(『いつまでもショパン』での出来事)により一躍有名になった岬を見かけた高校時代の同級生が当時(高校時代)に起こった事件について振り返るとの内容になっています。

そんな7話ですが、やはり前々回(5話)の推理通りか。
犯人は春菜で良さそう。
7話でも棚橋を通じて春菜の父である町長と「イワクラ建設」の不正に触れられていました。
おそらく、岩倉は不正を盾に春菜を脅迫していた可能性があるなぁ……。
其処で春菜が岩倉を殺害したものか。

アリバイについては前々回(5話)でも語っているが、殺害現場あるいは殺害時刻を誤認させるものか。
例えば、途中で下校したと思われていた岩倉が学校内に潜んでおり春菜とトラブルになり殺害された。
あるいは、下校したとされる時間の時点で既に春菜の手で殺害されていればアリバイは成立しません。
いずれにしても死体運搬がネックになって来ますが、それこそ学校前が急な坂であり、当時の状況を考えれば
遺体を放流することも可能な感じだし。
そもそも春菜がジャージを着用していたのも、制服が雨か返り血で濡れていたからだろうし。
春菜のアリバイ自体も岩倉の姿が見えなくなった時間から成立しているものですし割と容易に崩せます。

また、此処に来て予想通り本作のタイトル『どこかでベートーヴェン』が活かされて来るように。
岬の突発性難聴についてベートーヴェンに絡めて触れられました。
続く単行本では岬が如何にしてこれを乗り越えたかも描かれそうです。

そうです、遂に『どこかでベートーヴェン』の単行本化が明らかにされました。
何でも2016年5月刊行予定とのこと、見逃せません。

ちなみに、「岬洋介シリーズ」には長編が『さよならドビュッシー』、『おやすみラフマニノフ』、『いつまでもショパン』の3作(刊行順、作中時系列順)と短編が短編集『さよならドビュッシー前奏曲(文庫化に際し『要介護探偵の事件簿』を改題)』(『さよならドビュッシー』の前日譚を描いたスピンオフ)、『間奏曲(インテルメッツォ)』(『いつまでもショパン』と同時期に起こっていた事件を描くスピンオフ)の2作が存在しています。
記念すべきシリーズ第1作『さよならドビュッシー』は映画化もされています。
書籍版については、すべてネタバレ書評(レビュー)していますね。
興味のある方はネタバレあらすじ後の関連過去記事へどうぞ!!

ちなみに、ネタバレあらすじについては管理人によりかなり改変されています。
本作を楽しんで頂くには直接お読み頂くことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
岬洋介:シリーズ主人公、今回は高校時代が描かれる。
鷹村亮:『どこかでベートーヴェン』の視点人物。音楽科の学生。
岩倉:音楽科の学生の1人。イワクラ建設の息子。
板台:音楽科の学生の1人、バンドを組んでいる。
春菜:鷹村が憧れる同級生。町長の娘。
美加:音楽科の学生の1人。
棚橋:音楽教師。
佐久間:数学教師。
横屋:教師。

・6話はこちら。
『どこかでベートーヴェン 第六話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.11』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

岬が「犯人の自白が必要」と語ってから幾日が過ぎた。
やがて2学期が始まったが、岩倉殺害事件は解決の目途が付かない状態であった。

そんな中、事件前後で明らかに変化した出来事があった。
クラスメートの岬への態度である。

それまで岬の周囲は黄色い悲鳴で埋まっていたが、今では批判の言葉で埋もれていた。
彼ら、彼女たちは岬に対し後ろ指を差し続けた。

急先鋒に立ったのは板台だ。
彼はここぞとばかりに岬を攻撃した。

亮は叫び出したかった。
お前らに岬の何が分かるんだ、と。
お前らに岬を批判する資格があるのか、と。
だが、その言葉がどうしても口を出なかった。

暫く岬にとって針のむしろのような日々が続いた。
もっとも、当の岬はどこ吹く風であり、寧ろ亮がヤキモキする側であったが。

やがて、文化祭を数週間後に控え棚橋が意外な提案を口にした。
クラスの出し物として岬に代表を任せベートーヴェン「悲愴」をソロで演奏するようにと依頼したのだ。

これにクラス中が反発する。
彼らは岬の品位に問題があると揃って声を上げた。

亮は今度こそ爆発しそうになった。
そんな亮の暴発を止めたのは、奇しくも棚橋であった。

棚橋は音楽に求められるのは品位ではなく才覚だと断言した。
その上で、さらに努力が求められると加えた。
その努力を君たちはした上で岬を批判するのかと問うたのだ。

これにはクラス全員が沈黙せざるを得なかった。
亮は気付いた。
事態を憂慮した棚橋が敢えて仕掛けたのだ、と。
だが、これは逆効果であった。
亮と春菜を除くクラス全員が岬へより深い憎悪を抱いたのだ。
やがて、それは爆発することになる。

その日から岬は練習を続けた。
そんなある日、岬は棚橋が「イワクラ建設」の手抜き工事について抗議活動を行っている現場に遭遇する。
棚橋はこの疑惑について岩倉に尋ねたことがあるらしいが……。

そして文化祭当日、岬により「悲愴」が演奏された。
その力強くも物悲しい音色に魅了される聴衆たち。
それはクラスメートも同じであった。

ところが、岬を急変が見舞う。
突然、調子外れの音を繰り返したかと思うとそれが続いたのだ。
常の岬からは到底、考えられないことであった。
演奏を中断した岬は左耳を抑えながら困惑した表情で立ち尽くしていた……。

岬の急変は突発性難聴であった。
それはピアノの神に愛されていた筈の岬にとってあり得ない出来事。
岬はショックから塞ぎ込むようになってしまう。

そんな岬に、クラスメートたちはここぞとばかりに鬱憤をぶつけ始めた。
それは岬が居る、居ないに関わらず続いた。
板台は水を得た魚のように活き活きとしていた。
亮は全員がそれで溜飲を下げていることに気付いた。

遂に亮は爆発した。
板台を押し倒すと彼の指にハサミの刃を添えたのだ。
亮はどの指を落としてやろうかと凄んだ。
そして、岬にとっての難聴が如何に悲劇的な出来事であるかを叫んだ。
亮の剣幕に板台は震え上がって許しを請うた。

その姿にやっと亮は刃を収めた。
果たして板台に何処まで通じたか……。
だが、それでも亮は我慢出来なかったのである―――2016年5月刊行予定の『どこかでベートーヴェン』単行本に続く。

◆「中山七里先生」関連過去記事
【岬洋介シリーズ】
『さよならドビュッシー』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『おやすみラフマニノフ』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『いつまでもショパン』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『いつまでもショパン』第1回(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK』連載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第一話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.6』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第二話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.7』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第三話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.8』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第四話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.9』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第五話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.10』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『どこかでベートーヴェン 第六話』(中山七里著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK vol.11』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『間奏曲(インテルメッツォ)』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい!2013年版』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『要介護探偵の事件簿』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【刑事犬養隼人シリーズ】
『切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人』(中山七里著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

【その他】
『連続殺人鬼カエル男』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『静おばあちゃんにおまかせ』(中山七里著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『残されたセンリツ』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 四つの謎』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『ポセイドンの罰』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 三つの迷宮』収録)ネタバレ書評(レビュー)

【ドラマ版】
土曜ワイド劇場「切り裂きジャックの告白 〜刑事 犬養隼人〜 嘘を見抜く刑事VS甦る連続殺人鬼!?テレビ局を巻き込む劇場型犯罪!どんでん返しの帝王が挑む衝撃のラストとは!?」(4月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「このミステリーがすごい!〜ベストセラー作家からの挑戦状〜 天才小説家×一流映画監督がコラボした、一夜限りの豪華オムニバスドラマ!味わいの異なる4つの謎=各25分の濃密ミステリー!又吉×希林の他では見られないコントも!」(12月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「このミステリーがすごい!2015〜大賞受賞豪華作家陣そろい踏み 新作小説を一挙映像化」(11月30日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「どこかでベートーヴェン 第七話」が掲載された「『このミステリーがすごい!』 大賞作家書き下ろしBOOK vol.12」です!!
『このミステリーがすごい!』 大賞作家書き下ろしBOOK vol.12



「どこかでベートーヴェン 第六話」が掲載された「『このミステリーがすごい!』 大賞作家書き下ろしBOOK vol.11」です!!
『このミステリーがすごい!』 大賞作家書き下ろしBOOK vol.11



「さよならドビュッシー (宝島社文庫)」です!!
さよならドビュッシー (宝島社文庫)



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さよならドビュッシー 下巻



「おやすみラフマニノフ (宝島社文庫)」です!!
おやすみラフマニノフ (宝島社文庫)



「いつまでもショパン (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)」です!!
いつまでもショパン (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)



『間奏曲(インテルメッツォ)』が収録された「このミステリーがすごい! 2013年版」です!!
このミステリーがすごい! 2013年版



「さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)」です!!
さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)



「ビジュアルPHOTOストーリー さよならドビュッシー 橋本愛」です!!
ビジュアルPHOTOストーリー さよならドビュッシー 橋本愛



「【映画パンフレット】 『さよならドビュッシー』 出演:橋本愛 清塚信也」です!!
【映画パンフレット】 『さよならドビュッシー』 出演:橋本愛 清塚信也

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2016年03月09日

『クララ殺し』第5話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRUARY 2016』掲載)

『クララ殺し』第5話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRUARY 2016』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

スキュデリは推理を誤ったのか? マリーの死を受けてドロッセルマイヤーは井森の責任を追及するが……
(東京創元社公式HPより)


<感想>

小林泰三先生の新作長編『クララ殺し』が『ミステリーズ!』にて連載中です。
今回はその第5話。

ラストにて「マリー=くらら」であることがスキュデリの口から語られました。
此処までは前回も予測した範囲。

「クララ=くらら」「マリー=?」ではなく「マリー=くらら」であるとすれば、これまでの構図はかなり異なって来ます。
まず「地球でくらら」が「ホフマン宇宙でマリー」が遺体で発見されたことから被害者は2人と思われていましたが、実際の被害者は1人になります。
さらに「ホフマン宇宙のクララ」が生存している可能性も浮上。

それどころか4話で明かされた「くららのメモ」を考えれば「クララこそが犯人」の可能性も。
だとすると、タイトル『クララ殺し』の意味も「クララが被害者=クララ殺し」ではなく「クララが加害者=クララ殺し」なのかも。

作中でのスキュデリの言葉によれば「マリーの死は誤算」であり「真犯人を論理的に理解しなければ同情や便乗犯が生まれかねないもの」らしい。
これから考え得るのは「マリーこそがクララを殺害しようとし返り討ちにあった可能性」だ。

さらに、ドロッセルマイアーについて新事実が判明。
「ホフマン宇宙のドロッセルマイアー」と「地球世界のドロッセルマイアー」が別人であることが判明。
登場人物一覧に『本人曰く「アーヴァタールはドロッセルマイアー」』と記載し続けた甲斐がありました。

こうなると気になるのは「ホフマン宇宙のドロッセルマイアーは地球の誰か」なのですが「ホフマン宇宙のドロッセルマイアー」がDNA鑑定の件とその結果を知っていたことを考えると「礼津こそがホフマン宇宙のドロッセルマイアーのリンク先」の可能性が高そうか。

さらに、どうやらスキュデリも地球に存在しており井森を見知っている様子。
考えられるのは岡崎徳三郎ぐらいだが……。
こちらで気になるのは前作のようなどんでん返しがあるかどうか。
前作『アリス殺し』では犯人告発後に意外な展開が探偵役を待ち構えていました。
今作にて探偵役に当たるのはスキュデリですが、彼女は大丈夫なのか?
そもそも、今更ながら「スキュデリを信用しても良いものなのだろうか」、「真の探偵役は別にいるのか」も気になります。

ちなみにネタバレあらすじは大幅に改変しています。
どちらかと言えば、かなりライトにしました。
本作はもっとヘヴィかつブラックです。
興味のある方は本作それ自体を読むことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
【地球】
井森:『アリス殺し』から再登場。大学院生。アーヴァタールは蜥蜴のビル。
露天くらら:アーヴァタールはクララらしいが……。
ドロッセルマイアー:工学部教授。本人曰く「アーヴァタールはドロッセルマイアー」。
鼠:車中で焼死していた鼠。くららを襲った車に乗っていた。
諸星:くららの知人。千秋の父。
諸星の家内:諸星の妻。諸星とは別居中。
千秋:諸星の娘。くららの教え子。
新藤礼津:謎の女性。
岡崎徳三郎:謎の男性。

【ホフマン宇宙】
蜥蜴のビル:『アリス殺し』から再登場。相変わらず場を掻き乱すことに。
クララ:ビルが出会った車椅子の少女。
ドロッセルマイアー:判事。
シュタールバウム:クララの父親。
フリッツ:クララの兄。
鼠:クララ殺しを図ったとして処刑された。
スパンツァーニ:ナターナエルの師匠。
ナターナエル:スパンツァーニの弟子。
オリンピア:スパンツァーニが作った自動人形。
コッペリウス:ドロッセルマイアーと犬猿の仲の弁護士。
マリー:クララの友人の1人。クララ宅の自動人形。
ピルリパート:クララの友人の1人。姫。
若ドロッセルマイアー:判事と同姓同名の別人。ピルリパートの恋人。
ゼルペンティーナ:クララの友人の1人。正体は蛇。
トゥルーテ:クララ宅の自動人形。
パンタローン:スキュデリの部下。
スキュデリ:ビルに協力を申し出る。
ロータル:クララの兄……の記憶を植え付けられている。

・前回はこちら。
『クララ殺し』第4話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.74 DECEMBER 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

此処は地球世界、井森の前にはドロッセルマイアーと礼津が居た。
マリーが死体で発見されたことで井森の責任を追及するドロッセルマイアー。
そんなドロッセルマイアーに井森はスキュデリから頼まれた依頼を伝える。
それは「落とし穴の血をDNA鑑定し、くららの物か確認して欲しい」とのものであった。

これを「自分でやれ」と嫌がるドロッセルマイアー。
しかし、井森は時間が無いと彼を説得。
結局、ドロッセルマイアーから依頼を受けた礼津が動くことに。

部屋を去った礼津。
残ったドロッセルマイアーに井森は「スキュデリから頼まれた件は進んでいますか」と尋ねることに。
一瞬、戸惑う様子を見せたドロッセルマイアー。
そんな彼に井森は「車椅子でくららが移動した範囲を調べると約束した筈ですよ」と促す。
これを聞いたドロッセルマイアーは「ああ、その件ならば少し時間がかかっている」と応じるのだが……。

数時間後、ホフマン宇宙。
スキュデリとビルの前にはドロッセルマイアーが居た。
依頼の結果を尋ねるスキュデリにドロッセルマイアーは「落とし穴の血はくららのものだった」と語る。
ところが、スキュデリは依頼はそれだけでは無かったとドロッセルマイアーを問い詰める。
そう、「車椅子でくららが移動した範囲を調べる」との依頼である。

狼狽するドロッセルマイアーにスキュデリは全てが彼女の罠であったことを明かす。
実は「車椅子でくららが移動した範囲を調べる」との依頼は存在していなかった。
にも関わらず「地球世界のドロッセルマイアー」は「スキュデリから聞いた」と認めていた。
しかし「ホフマン宇宙のドロッセルマイアー」はそれを聞いても居なかった。

つまり「地球のドロッセルマイアー」と「ホフマン宇宙のドロッセルマイアー」はリンクしていないのだ。
にも関わらず、2人は互いにリンクしていると言い張っていた。
これが何を意味するか!?
これについて、それぞれが別人であることは認めたドロッセルマイアーだが「単なる悪戯の為に地球のドロッセルマイアーを用意した」と弁明し始めた。

再び地球世界。
井森はドロッセルマイアーには内密に礼津に接触し、彼がドロッセルマイアーを騙る偽物であることを伝え協力を求めた。

これに応じたかに見えた礼津。
しかし、あっさりと裏切りドロッセルマイアーに偽物であることがバレたと教えてしまう。

開き直った偽ドロッセルマイアーは「伝えたいことがある」と例の落とし穴へ井森を連れ出した。
相変わらず落とし穴の底には血に染まった杭が突き立っている。
ドロッセルマイアーはその血液の付着の仕方を指摘。
くららが突き刺さって死亡したのならば、落とし穴の底に血が溜まる筈でどちらかと言えば引き抜かれたように見えないかと語る。
これに頷く井森だが、気付けばドロッセルマイアーに逃げられてしまっていた。
しかも、直後に何者かに殺害されてしまう。

ホフマン宇宙ではビルが井森の死をスキュデリに告げていた。
一方、スキュデリはそんなビルに同情しつつも全てが明らかになったと関係者を呼び集める。

集まった一同を前に謎解きを始めるスキュデリ。
「マリーの死こそ誤算だった」と前置きしつつ、スキュデリはドロッセルマイアーが地球世界に偽物を用意した理由が悪戯以外にある筈と詰め寄る。

これにドロッセルマイアーは彼が唱える「アーヴァタール仮説」を実証する為に必要だったと主張する。
リンクがあると提唱するドロッセルマイアー自身にリンクがないとなれば説得力が欠けるとの理屈だ。

此処でスキュデリは井森の身長を取り上げた。
2メートルほどの大きさだったとするスキュデリに対し「170程度だろう」と一笑に付すドロッセルマイアー。

しかし、これこそスキュデリの狙いであった。
スキュデリはドロッセルマイアーが井森の正確な身長を知っていたことから実際に彼を目撃したことがあると指摘。
つまり、ドロッセルマイアーのリンク先は地球に存在しているのだ。

だとすると、先程のドロッセルマイアーの言葉は嘘になる。
実在する以上、偽物をでっち上げる必要は無い。

続いてスキュデリは「そもそもドロッセルマイアーが誰を騙そうとしていたのか?」について触れる。
ドロッセルマイアーが騙そうとしたのは事件前に彼と接触した人物だ。
地球のドロッセルマイアーが接触したのはくららと井森の2人。

このうち、くららは標的では無い。
何故なら、くらら死亡後もドロッセルマイアーは芝居を続けたからである。

だとすれば、ドロッセルマイアーは井森を騙そうと考えたのだ。
いや、正確には井森を通じていずれ現れる探偵役を騙そうと目論んだ。

何故か?
ドロッセルマイアーはくららが殺害されることを事前に知っていたからである。

そして、スキュデリはクララ殺害時のアリバイが工作されたものだと指摘する。
何故なら「マリー=くらら」だったのだ―――6話に続く。

◆「小林泰三先生」関連過去記事
【書籍関連】
『アリス殺し』(小林泰三著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『クララ殺し』第1話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.71 JUNE 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『クララ殺し』第2話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.72 AUGUST 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『クララ殺し』第3話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.73 OCTOBER 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『クララ殺し』第4話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.74 DECEMBER 2015』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『愛玩』(小林泰三著、新潮社刊『小説新潮 2015年3月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

「ドッキリチューブ(『完全・犯罪』収録)」(小林泰三著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【その他】
【2014年】「啓文堂書店文芸書大賞」が決定!!栄冠は小林泰三先生『アリス殺し』(東京創元社刊)に輝く!!

『クララ殺し』第5話が掲載された「ミステリーズ! vol.75」です!!
ミステリーズ! vol.75



『クララ殺し』第4話が掲載された「ミステリーズ! vol.74」です!!
ミステリーズ! vol.74



『クララ殺し』第3話が掲載された「ミステリーズ! vol.73」です!!
ミステリーズ! vol.73





『クララ殺し』第2話が掲載された「ミステリーズ! vol.72」です!!
ミステリーズ! vol.72





『クララ殺し』第1話が掲載された「ミステリーズ!vol.71」です!!
ミステリーズ!vol.71





『愛玩』が掲載された「小説新潮 2015年 03 月号 [雑誌]」です!!
小説新潮 2015年 03 月号 [雑誌]





「アリス殺し (創元クライム・クラブ)」です!!
アリス殺し (創元クライム・クラブ)





キンドル版「アリス殺し」です!!
アリス殺し



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2016年03月08日

『殺人初心者 民間科学捜査員・桐野真衣』(秦建日子著、文藝春秋社刊)

『殺人初心者 民間科学捜査員・桐野真衣』(秦建日子著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)です!!

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

「アンフェア」著者による、待望の書き下ろし新シリーズ!

婚約破棄され、リストラされて飛び込んだのは民間科学捜査研究所! 入所早々、顔に碁盤目の傷を残す連続殺人が。新シリーズ始動。
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>

『民間科学捜査員・桐野真衣』シリーズ第1弾。
2016年3月時点で、シリーズには他に『冤罪初心者 民間科学捜査員・桐野真衣』があります。
また、『犯罪初心者』は瓦屋根先生によりコミカライズもされています。

本作はキャラ設定と急展開で魅せる印象の作品。
かなりスピーディかつ謎に満ちた展開が待っている。

ただ、本作は「1つ1つ事実を積み重ねて複数の事実から推理を経て新たな事実が導き出される」のではなく「次々と新事実が後から後から明かされていくこと」で物語が進む。
此の点で恣意的と言え、これは結末も同じである。
その為にロジック重視、伏線重視の方は抵抗を感じるかもしれない。

結論として人を選ぶ作品であり、相次ぐ急展開に没頭することが出来れば楽しむことが出来るだろう。
また、どちらかと言えばドラマのシナリオのテイストを色濃く感じる作品と言える気がする。

ちなみにネタバレあらすじはまとめ易いようにかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
桐野真衣:主人公、民間の科学捜査員
ゆかり:警視庁の科学捜査官
飯塚:企業経営者
狭山:飯塚の部下
由海:狭山の妻、義手の女性
嘉川:宅配便の配達員


巷を騒がす連続殺人事件が発生していた。
被害者の若い女性たちが悉く顔を碁盤の目状に切り裂かれていたことから、犯人は何時しか「囲碁部」と呼ばれるように。
この捜査に警視庁の科学捜査官・ゆかりが乗り出す。

一方、桐野真衣は婚約者に捨てられ、勤務先もクビになってしまった。
其処で民間科学研究所の門を叩き、再就職を果たすことに。

その最初の仕事は、狭山の死についての鑑定であった。
狭山は飯塚が経営する会社の社員。
義手の妻・由海と暮らしていたが、謎の縊死を遂げていた。
飯塚によれば狭山には産業スパイの疑いがあったらしい。
この状況から自殺と思われたが……。

疑問を抱いた真衣が調べた結果、死体の状態とロープの締まり具合から死後にロープが巻かれたことが判明。
つまり、狭山の死は自殺に偽装した他殺だったのだ。

だが、真衣が幾ら訴えようとも自殺の結論が覆らない。
真衣は自身の手で調査を開始、狭山に多額の保険金がかけられていたことから妻の由海を疑うのだが。

矢先、飯塚が碁盤目状に顔を切り裂かれて殺害される。
まさか「囲碁部の仕業」なのだろうか?
これを調べた真衣は現場に残されていたダニの種類から由海が現場に居たことを突き止める。

同じ頃、「囲碁部の捜査」はゆかりにより大躍進を遂げていた。
犯人の行動を分析し配達員であることを突き止めたのだ。
其処から浮かび上がったのは嘉川なる男性、踏み込んだところ次の被害者を監禁していた。
やはり、嘉川が「囲碁部」だったのだ。
手を下そうとしていたこともあり、その場で嘉川は射殺された。
こうして「囲碁部」事件は幕を閉じたのだが……。

真衣はゆかりを呼び出して調べた事実をぶつける。
実はゆかりと由海は高校時代に同じ科学部に在籍していた親友同士であった。
しかも、ゆかりのミスで爆発事件を起こしていたのだ。
由海が義手になったのはゆかりが原因であった。
これに罪の意識を抱いたゆかりは由海を守ろうと決めていた。

其処で今回の事件である。
狭山を殺害したのは飯塚であった。
佐山は産業スパイではなく、飯塚の不正を告発しようとして口封じされたのだ。
飯塚は狭山が不正の証拠を握っており、これを由海に預けたと思い込んでいた。
其処であの日、由海を呼び出し殺害しようとした。

由海を見守っていたゆかりはこれに気付き、飯塚を殺害したのであった。
もちろん、囲碁部の犯行に偽装したのもゆかりであった。

しかし、ゆかりの犯行である証拠は何もない。
真衣はゆかりに彼女自身の処遇を委ねるのであった―――エンド。

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